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解説記事2019年11月25日 SCOPE 検証 非上場株式の低額譲渡訴訟における上告受理申立理由(2019年11月25日号・№812)

譲渡人の譲渡直前の状態に基づいて判断すべき
検証 非上場株式の低額譲渡訴訟における上告受理申立理由


 非上場会社の株式評価をめぐり、①配当還元方式で算定した価額での譲渡が低額譲渡課税を受け、当該所得税更正処分等の取消しを求める事案、②配当還元方式で算定した価額での譲渡(低額譲渡課税)が関与税理士の誤った助言・指導によるものとした税理士賠償事案がそれぞれ上告(受理申立)を行っている。両事案は同じ事実関係の下で、本件株式譲渡人甲の相続人が分裂し、①相続人の大半は課税処分の取消しを、②相続人の一人が税理士賠償を求めたものである(本誌723号13頁、790号4頁参照)。
 控訴審で敗訴した①国及び②税理士賠償を求めた相続人、それぞれの上告受理申立理由を検証する。

譲渡所得課税は所有者に帰属する増加益の清算

 ①の所得税更正処分等取消請求事案については、東京高裁が平成30年7月19日、「株式取得後の議決権割合で判定する旨を定めていることが文理上明らかな評価通達188の(2)から(4)についてまで、明文の定めもなく、上記譲渡所得課税の趣旨によって読み替えることは、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない。」などと判示して課税処分を取り消した。
 ②の税理士賠償請求事案については、東京高裁が令和元年8月28日、上記①事案の高裁判決を受け、「税理士としての善管注意義務違反があったとか、不法行為を基礎づける過失(注意義務違反)があったということもできない。」とする一審判決を引用し、賠償請求を斥けた。
 ①事案の上告人(国)と②事案の上告人(甲の相続人の一人)は、本件譲渡が低額譲渡であることを共通して主張する。
 国は平成30年10月3日、上告受理申立て理由書を最高裁判所あてに提出、また、②事案の上告人も令和元年10月31日に上告受理申立て理由書を最高裁判所あてに提出した。いずれの上告受理申立て理由書も、「本件株式に係る所得税法59条1項の『その時における価額』は、本件株式譲渡直前に甲が本件株式を有している状態に基づいて判断すべきこと」を中心に前頁上告人の主張①のとおり主張する。

上告人の主張①(譲渡直前に譲渡人が保有する状態に基づいて判定されるべきこと)

 譲渡所得課税は資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、法59条1項は、低額譲渡等の場合であってもその資産につき、既に生じている増加益は、移転当時の資産の時価に照らして具体的に把握できることから、上記と同じくこの増加益を課税の対象とすることを認めたものである。したがって、法59条1項の「その時における価額」は、当該資産の譲渡直前に譲渡人が当該資産を有している状態に基づいて算定すべきことが明らかであり、このことは本件株式のように取引相場のない株式を譲渡した場合でも同様である。そして、本件株式の「その時における価額」は、所得税基本通達59−6、同通達23~ 35共-9(4)ニにより同通達59− 6(1)ないし(4)を条件として、評価通達178から189− 7までの例により算定した価額となり、本件株式が評価通達188の株式に該当する場合に限り、配当還元方式により算定することとなる。同通達188の(1)ないし(4)は、同族株主等のいる会社であるか否かといった株主区分による判定を行うものであるところ、上記のとおり、いずれの要件も、当該株式を譲渡する直前において譲渡人が保有する状態に基づいて判定されるべきことは、譲渡所得課税の上記趣旨に照らして当然といえる。

原判決は通達のごく一部の文言に拘泥

 このほか、上告受理申立て理由書では、評価通達の文言を根拠に本件株式の「その時における価額」を本件譲渡後の事情に基づいて評価・判断した原判決の誤り、及び原判決の判断は、最高裁判所の判例及び高等裁判所の判例と相反する判断であり、法令の解釈に関する重要な事項に誤りがあることを以下のとおり主張する。

上告人の主張②(原判決の誤り・判例、実務との相反)

 原判決は、通達のごく一部の文言に拘泥して法の本来の趣旨を逸脱した解釈をするものであり、法令解釈の手法として誤りであるばかりか、法の本来の趣旨を信頼した納税者の予見可能性を害する解釈であって、租税法律主義との関係でも重大な問題がある。
 原判決のように譲受人側の事情に基づいて「その時における価額」を算定するとなると、少数株主が多数株主に株式を譲渡した場合等に著しく不合理な結果となる上、実務上定着した取扱いにも反するものであって、課税実務に与える悪影響は重大である。

税賠事案では事案を俯瞰する新たな主張も

 課税処分取消請求事案から1年遅れて上告受理申立理由書を提出した税賠事案の上告人は、上記の国の主張をなぞったうえで、事案を俯瞰する上告人の知人税理士からの意見書も併せて提出している。
 本事案は、上記①②ばかりでなく、相続税における課税処分でも争われ、一審で国が敗訴して確定した。意見書は、相続税事案も含めた3つの事案を、株式譲渡人の相続での主導権争い(経営権争い)であると俯瞰する。本事案で低額譲渡として課税処分を受けた株式の配当還元価格での譲渡や、相続での配当還元価格での評価を併せて、税賠事案の上告人が相続人間の主導権争いにおいて排除されたものであり、当該会社は甲の妻である上告人の継母が代表者として引き継ぐことになった。すなわち、甲の相続人は、経営権とは無縁の少数株主ではなく、本件は、経営権の主導権争いとして原則的評価方法で評価すべき事案であったとするものである。
 2つの事案ともに最高裁は上告審として受理するか否かの決定を行っていない。したがって被上告人(甲の相続人の大半・関与税理士)からの反論書も提出されていない状況にある。上告受理となれば、被上告人がどのような反論を展開するのか、注目される。

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