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解説記事2021年05月17日 ニュース特集 売上の過大計上で課徴金納付も有価証券報告書の虚偽記載に該当せず(2021年5月17日号・№882)

ニュース特集
課徴金納付は経営判断として不合理といえず
売上の過大計上で課徴金納付も有価証券報告書の虚偽記載に該当せず


 売上の過大計上等の虚偽記載により株価が下がったとして株主から損害賠償を求められた事件で東京地方裁判所(江原健志裁判長)は、各取引の会計処理は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものであり、有価証券報告書等の記載が虚偽の記載に当たると認めることはできないと判断し、株主の請求を棄却した(令和2年7月6日判決)。被告会社は有価証券報告書等の虚偽記載により課徴金を納付しているが、東京証券取引所から特設注意市場銘柄の指定を受けるなどしていたことも考慮すれば、早期に問題を収束させるために経営判断として受け入れたとしても不合理であるとはいえないとしている。
 今回の虚偽記載に対する損害賠償請求事件は、会社が自社の会計処理に疑義が生じたために第三者委員会を設置し、その後に過年度の有価証券報告書等の訂正を行うという典型的なパターンに加え、会社が虚偽記載により課徴金納付を行ったものであるが、判決は株主にとって厳しい結果となっている。

有価証券報告書等を訂正し、東証からは特設注意市場銘柄に指定

 本件は、当時東証マザーズに上場していた被告会社(エナリス)の虚偽記載により株価が下がったとして株主である原告らが被告会社及び同社の役員らに損害賠償請求を求めた事件である。有価証券報告書等に虚偽記載があったか否かが大きな争点となっている。
 被告会社は、自社の会計処理に疑義が生じた取引等を調査するため、外部の専門家から構成される第三者委員会を設置。第三者委員会は複数の取引について行った各会計処理について、売上高を計上すべきでなかったとする調査報告書を被告会社に提出した。被告会社は調査結果を踏まえ決算を訂正することとし、有価証券報告書及び四半期報告書を訂正した。その後、東京証券取引所からは特設注意市場銘柄の指定を受け、上場契約違約金2,400万円の支払いを求められ、証券取引等監視委員会からは売上の過大計上等による虚偽記載で2億5,848万円の課徴金納付命令が発出され、納付した。
被告会社は虚偽記載を認めて課徴金を納付
 原告の株主らは、被告会社は有価証券報告書等の訂正を行うとともに課徴金納付命令発出の勧告における虚偽記載の事実を認め、課徴金の納付に応じているなど、不適切な会計処理を行ったために有価証券報告書等に虚偽記載があったなどと主張(表1参照)。被告会社は、原告らに対し金融商品取引法21条の2第1項に基づく損害賠償責任を負うとしている。

【表1】当事者の主な主張

原告(株主) 被告(会社)
・被告会社が調査報告書を前提として有価証券報告書等の訂正を行うとともに、調査報告書の内容の公表を行っていること、証券取引等監視委員会に対する報告において調査報告書とほぼ同様の事実関係を認めていること、課徴金納付命令発出の勧告における虚偽記載の事実を認め、課徴金の納付に応じていることから、有価証券報告書等には虚偽記載があったと推認される。




・被告会社は有価証券報告書等に多数の真実と異なる記載をして提出しており、売上高において約10%から15%までの、純利益において70%から110%までの修正をするほどの虚偽の記載が金商法21条の2第1項等の「重要な事項についての虚偽の記載」に該当することは明らかである。
・有価証券報告書等における財務諸表の記載が訂正された場合であっても、訂正前の記載が「虚偽の記載」に該当するかどうかは、訂正前の記載が公正なる会計慣行に反しているかどうかによって判断される。被告会社としては、調査報告書における指摘が極めて保守的であり、訂正前の有価証券報告書等の記載も公正なる会計慣行に違反するものではないと考えていたものの、早期に取引先からの信頼を回復して取引関係を維持するとともに、一連の風評による市場の信頼の回復を図り、上場廃止を回避することが最優先の課題であったことから、経営判断として有価証券報告書等を訂正し、課徴金の納付に応じたにすぎない。
・有価証券報告書等における訂正の内容は、各取引に関する会計評価的な要素が極めて強いものであり、また、訂正前の記載は上場廃止基準に該当することや倒産のおそれがあることを隠蔽する効果を有するものではないから、投資者の投資判断に大きな影響を与えるものとはいえず、「重要な事項」についての虚偽記載には該当しない。

調査結果は第三者委員会としての極めて保守的な見解

 裁判所は、金融商品取引法第21条の2第1項の虚偽の記載に当たるかどうかは、本件取引に係る会計処理が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従わないものであるかどうかが問題になるとしたうえで、各取引に係る会計処理について検討を行っている。
 例えば、ディーゼル発電取引では、原告らが対価の回収性が高いと見込まれる取引とは評価することはできないとするが、発電機を売却し、その物品受領書の交付を受けた日付けで売上に計上しているのであるから、当該売買取引は実現主義の原則の要件である商品等の販売又は役務の給付の完了と対価の成立をいずれも満たしたものと考えることができるとし(表2参照)、有価証券報告書等の記載が虚偽の記載に当たると認めることはできないとの判断を示した。

【表2】主な取引の会計処理に対する第三者委員会及び裁判所の判断

第三者委員会 裁判所
ディーゼル発電取引関係
T社の取引先審査を行っておらず、10億円以上の取引にもかかわらず取締役会に上程されていない。また、発電機の受渡しの実体がなく、受領書を形式的に取得しているのみであり、T社が売買代金の支払原資をどのように確保するかが不明瞭であったことなど、当該取引は、売買契約の成立の時点において対価の回収可能性が高いと見込まれる取引とは評価することはできず、売上の実現主義の下での収益認識の一つと解される「対価の成立」を満たしていると評価することはできない。 被告会社はT社に対して発電機18台等を合計10億5,000万円で売却し、その物品受領書の交付を受けた平成25年12月13日付けでその売上を計上しているのであるから、この売買取引については、実現主義の原則の要件である商品等の販売又は役務の給付の完了の対価の成立をいずれも満たしたものと考えることができる。
H発電所取引関係
K社は最終的に被告が手配する資金を原資に別会社で購入するまで形式的に介在したにすぎないため、被告会社のK社に対する発電設備の売却は、実体の伴わない取引であると評価せざるを得ない。したがって当該取引は売上高及び売上原価を相殺し、差額を負債計上すべきである。 被告会社は、K社との間で発電設備を6億9,920万円で被告会社がK社に売り渡す旨の売買契約を締結し、発電設備を受領した旨の受領書の交付をK社から受けているのであるから、この取引は実現主義の原則の要件である商品等の販売又は役務の給付の完了と対価の成立をいずれも満たしたものと考えることができる。
太陽光発電システム機器販売取引関係
被告会社がM社に対して部材を売却した取引として売上の計上を行い、D社に被告会社が発注した設備工事に伴う部材の購入取引として仕入の計上を行っている。しかし、当初被告会社が保有していた部材がM社とD社との取引を通じて結果として被告会社がD社に対して発注した工事に用いられており、被告会社が購入することになるため、個別の取引と解釈して売上及び仕入を計上するのではなく、一連の取引として解釈すべきである。一連の取引として解釈するならば、有償支給に準ずる取引とするとともに、ここから発生する未実現利益を控除する必要がある。 被告会社は、M社に対し、部材を売り渡し、部材を受領した旨の受領書の交付をM社から受けているのであるから、この取引も実現主義の原則の要件である商品等の販売又は役務の給付の完了と対価の成立をいずれも満たしたものと考えることができる。

 加えて、第三者委員会の調査結果は極めて保守的な見解を示したもの解され、当該調査結果をもって判断が左右されるものではないとしている。
早期に問題を収束させるための経営判断
 また、裁判所は、被告会社が有価証券報告書等の訂正を行うとともに調査報告書の内容の公表を行っていることや、課徴金納付命令の発令の勧告における虚偽の記載の事実を認め、課徴金の納付に応じていることに対しては、被告会社が東京証券取引所から特設注意市場銘柄の指定を受けるなどしていたことも考慮すれば、早期に問題を収束させるために経営判断としてこれらを受け入れたとする被告会社の主張が一概に不合理とはいうことができないとした。
虚偽記載への損害賠償の典型的パターンも
 金融商品取引法21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)による損害賠償請求は、株主にとっては一定の要件さえ満たせば民事責任の追及が行いやすい制度である。しかし、今回の虚偽記載に対する損害賠償請求事件は、会社が自社の会計処理に疑義が生じたために第三者委員会を設置し、その後の過年度の有価証券報告書等の訂正を行うという典型的なパターンに加え、会社が虚偽記載により課徴金納付を行ったものであるが、株主の請求が認められないという厳しい結果となっており注目される。

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