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解説記事2021年05月17日 特別解説 投資法人が作成・公表する有価証券報告書(2021年5月17日号・№882)

特別解説
投資法人が作成・公表する有価証券報告書

はじめに

 東京証券取引所の日経平均株価は、29,000円を超える高水準で2021年度を迎えたが、2021年3月31日時点で、株式時価総額が高い企業をランキングすると、上位300社のうち、投資法人が9社ランクインした(表1を参照。)。

 株式時価総額が我が国の上場投資法人の中で最上位の日本ビルファンド投資法人の株式時価総額は、東京ガスや中部電力、りそなホールディングスといった企業と肩を並べる水準である。
 本稿では、投資法人とはどのような法人かを、一般事業会社との相違点を明らかにしながら簡単に説明した後、これらの投資法人の特徴や発行する有価証券報告書(現在、上場投資法人の中で時価総額が最も高い、日本ビルファンド投資法人の2020年12月期の有価証券報告書を題材とする。)の内容を見ていくこととしたい。

投資法人の有価証券報告書の構成

 上場している投資法人が作成・公表している有価証券報告書の見出しを示すと表2のとおりである。

投資法人の目的と基本的な性格

 もっとも株式時価総額が高い日本ビル投資法人が作成・提出した2020年12月期の有価証券報告書の記載を引用すると、次の通りである。

 本投資法人は、投信法に基づき、資産を主として特定資産に対する投資として運用することを目的及び基本的性格として設立された法人であり、本投資法人からその資産の運用を委託された資産運用会社(日本ビルファンドマネジメント株式会社)がこれを運用するものです。
 本投資法人の特色は、主として東京都心部、東京周辺都市部及び地方都市部に立地する主たる用途がオフィスである建物及びその敷地から構成される不動産並びにかかる不動産を裏付けとする有価証券及び信託の受益権その他の資産に投資をすることによって、中長期的な観点から、本投資法人に属する資産(運用資産)の着実な成長と安定した収益の確保を目指して運用を行うことです。本投資法人は、投資主の請求による投資口の払戻しが認められないクローズド・エンド型です。なお、本投資法人は、資産の運用以外の行為を営業として行うことができません(投信法第63条第1項)。

投資法人の仕組みと統治機構

 投資法人は、基本的に自ら業務を行うことはなく、すべての業務を外部に委託する。すなわち、資産運用会社に加えて、資産保管会社、一般事務受託者(会計事務、納税事務)及び特定関係法人等が関係者として周囲に存在することになる。
 また、投資法人の統治機構は、執行役員が1名以上、監督役員は4名以内(ただし、執行役員の数に1を加えた数以上)とされている。そして、日本ビルファンド投資法人の機関は、投資主により構成される投資主総会、執行役員1名、監督役員3名並びにすべての執行役員及び監督役員を構成員とする役員会に加えて、会計監査人(有限責任あずさ監査法人)により構成されている。

投資法人の運用体制

 投資法人は、投信法に基づき、資産を主として特定資産に対する投資として運用することを目的及び基本的性格として設立された法人であることから、投資法人の運用体制については、有価証券報告書上も多くのページが割かれ、詳細な記載が行われている(資産運用会社の業務運営の組織体系、資産運用会社の業務分掌体制及び投資運用の意思決定機構等)。

投資方針

 これまでに記述してきた投資法人の仕組みや運用体制等は、法令に定められている事項でもあり、各社ごとの差はほとんど見られないが、投資方針はまさに、各投資法人のカラーがはっきりと表れる領域である。記載項目は、「投資方針」「投資対象」「分配方針」及び「投資制限」からなり、日本ビルファンド投資法人の投資対象物件は、「主として東京都心部、東京周辺都市部及び地方都市部に立地する主たる用途がオフィスである建物及びその敷地から構成される不動産並びにかかる不動産を裏付けとする有価証券及び信託の受益権その他の資産に投資します。」と記載されている。
 なお、投資法人の大きな特徴として、通常の事業会社に比べて利益の分配率が極めて高いことが挙げられる。一定割合以上の利益分配を行うと法人税が課税されない恩典(投資法人の課税の特例)の存在もあり、日本ビルファンド投資法人の分配方針には、「分配金額は、配当可能利益の100分の90に相当する金額を超えて分配するものとして、本投資法人が決定する金額とします(ただし、分配可能金額を上限とします)。」と記載されている。

投資リスク

 個別性が強い、不動産を中心とした投資には様々なリスクがつきものである。日本ビルファンド投資法人の有価証券報告書には、下記のような多数のリスクに関して約20ページにわたって、幅広い記載がなされている。

(1)一般的なリスク(6項目)
(2)商品設計及び関係者に関するリスク(13項目)
(3)不動産に関するリスク(28項目)
(4)信託受益権に関するリスク(3項目)
(5)税制等に関するリスク(9項目)
(6)自然災害、感染症の拡大等に関するリスク
(7)投資リスクに対するリスク管理体制について
(8)重要事象等に関するリスク

手数料及び税金

 投資法人はすべての業務を外部に委託するため、管理報酬(手数料)の支払額が大きい。有価証券報告書では、サービスの類型別に、報酬や手数料の算出方法が詳細に記載されている。また、投資法人は、税金の支払いによる資金流出を避けるために様々な税務上の恩典を利用していることから、課税上の取扱いが変更になると大きな影響を受けることになる。有価証券報告書には、課税上の取扱いも詳細に記載されている。

運用状況

 日本ビルファンド投資法人の場合、投資の状況は、不動産の現物が全体の47%、信託受益権が41%、預金・その他資産が12%という配分になっている。また、資産総額に対する負債総額の比率は44.3%、純資産総額の比率が55.7%と、非常に健全な水準を保っていると言える。全体的な投資状況を示した図表に続いて、「その他投資資産の主要なもの」として、投資不動産物件及び信託不動産の価格と投資比率が一覧表で示されている。日本ビル投資法人の場合、ポートフォリオ合計で74棟のビルを保有しており、貸借対照表計上額の合計が1,054,141百万円、不動産鑑定評価額(時価)の合計が1,338,120百万円で、差し引き283,979百万円の含み益となっている。
 投資物件の総括表に続いて、各物件(ビルディング)についての詳細な説明となる。
 日本ビルファンド投資法人の有価証券報告書では、約40ページにわたって投資物件の説明が記載されている。
 その後、エンジニアリングレポート(建物状況調査報告書)における数値(長期修繕更新費用の見積合計額や地震リスク分析における予想最大損失率(PML)等)が示され、運用資産への資本的支出や主要テナントに関する情報が記載された後、今度は信託受益権に関する情報となる。日本ビルファンド投資法人は、2020年12月31日現在で、31件の信託受益権を保有している。
 「第一部 ファンド情報」の最後に運用実績(純資産や投資口価格の推移、分配の推移、及び自己資本利益率(収益率)の推移)が記載された後、「第二部 投資法人の詳細情報」へと続く。

投資法人の詳細情報

 このパートは、事業会社の有価証券報告書でいえば、「提出会社の状況」に相当する部分である。投資法人の有価証券報告書では、投資法人の沿革と役員の状況が記載された後、「管理及び運営」として、資産管理等の概要(資産の評価、保管等)、投資法人の存続期間や計算期間、増減資に関する制限や解散、規約の変更等に関する説明がなされている。
 さらに、関係法人との契約の更改等、利害関係人との取引制限、投資主、投資法人債権者の権利についての説明が続いている。
 次の「第4 関係法人の状況」として、日本ビルファンド投資法人の有価証券報告書では、資産運用会社である日本ビルファンドマネジメント(株)の概況(名称、資本金の額及び事業の内容、運用体制、大株主の状況、役員の状況、事業の内容及び営業の概況)が記載されている。
 さらに、「その他の関係法人の概況」として、資産保管会社及び一般事務受託者である三井住友信託銀行(株)、一般事務受託者である税理士法人令和会計社とPwC税理士法人、特定関係法人であり、オフィスマネジメント業務受託者、調査補佐業務受託者、物件移管業務受託者、新規テナント一般媒介業者及び開発業務受託者である三井不動産(株)及びオフィスマネジメント業務再受託者、統括・調整業務受託者、物件移管業務再受託者、既存テナント一般媒介業者及び調査業務受託者である(株)NBFオフィスマネジメントの概況(名称、資本金の額、事業の内容、関係業務の概要及び資本関係)が記載されている。

第5 投資法人の経理状況

 このパートが、通常の事業会社の有価証券報告書では「第5 経理の状況」に相当する部分であり、一般事業会社の場合には、有価証券報告書の過半をこのパートが占めるケースがほとんどであると思われるが、投資法人の場合には、全体の2割弱を占めるに過ぎない。ちなみに、日本ビルファンド投資法人の場合には、2020年12月期の有価証券報告書の合計205ページのうち、「投資法人の経理状況」は、35ページである。
 投資法人が連結財務諸表を作成するという事態は通常は想定されないため、投資法人の経理状況には、個別財務諸表(貸借対照表、損益計算書、投資主資本等変動計算書、金銭の分配に係る計算書及びキャッシュ・フロー計算書)と注記表、附属明細表が掲載される。
 さらに見逃せないのが、最後に掲載されている個別物件の収益状況であろう(監査法人による監査を受けていない「参考情報」という位置付け。)。これは、各物件の不動産賃貸事業収入、不動産賃貸事業費用、及び諸経費等が掲載されている表で、物件ごとの不動産賃貸事業損益や賃貸NOI(ネット・オペレーティング・インカム。不動産賃貸事業損益に減価償却費を加算したもの)等を把握することができる。

終わりに

 本稿では、東京証券取引所に上場しているとはいえ、普段注目を浴びることが少ない投資法人(J-REIT)や、投資法人が公表している有価証券報告書をテーマとして取り上げた。REITは(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)の略であり、東京証券取引所は、今から約20年前の2001年3月1日に不動産投資信託(J-REIT)市場を開設し、同年9月10日に、本稿でも取り上げた日本ビルファンド投資法人と、ジャパンリアルエステイト投資法人が第1号として上場した。そして、現在、東京証券取引所には、62銘柄の投資法人が上場している。
 日本取引所グループのホームページによると、REIT(不動産投信)とは、たくさんの投資家から資金を集めて「不動産」を購入し、そこから生じる賃料や売却益を投資家に配当(正確には分配)する商品であるとされており、次のようなメリットがあるとされている。

・証券取引所に上場しているため、事業会社が発行する株式と同様に、全国の証券会社を通じて東証で売買ができること(証券会社によってはネット取引も可)。
・不動産の専門家が複数の案件に投資して運用するため、リスク分散の効果があること。
・分配金の原資は、多数の物件からの賃料等であり、安定した分配金や、相対的に高い利回りが期待できること。
・10万円前後から投資が可能であり、実物不動産への投資とは違い、比較的手の届く金額で投資ができること。

 一方、REITに投資する際の留意事項としては、以下の点が挙げられている。

・市場で取引されるため価格変動リスクがあり、購入価格を下回る可能性もあること。
・不動産賃貸市場や金利環境等、その他、様々な経済情勢等の影響を受けて、不動産投信の価格が下落したり、分配金が減少したりする可能性があること。
・個別の不動産において地震、火災などによる費用増加、法制度や税制の変化等によっても影響を受けたり、投資法人の倒産などにより損失を被ったりする可能性があること。
・取引所が定める上場廃止基準に該当する場合、上場廃止になることがあること。
・売買には手数料等がかかること。また売却の際に譲渡益がある場合及び分配金を受取る場合には税金がかかること。

 また、東京証券取引所は、東証REIT指数を算出して公表している。東証REIT指数は、東証市場に上場するREIT全銘柄を対象とした「時価総額加重型」の株価指数であり、基準日である2003年3月31日の時価総額を1,000とした場合に、現在の時価総額がどの程度かを表している(算出開始日:2003年4月1日)。
 これまで、J-REITの投資口価格は事業会社の株式に比べると安定的に推移してきており、分配金によるインカムゲインも含めて、J-REITの投資主は、比較的高水準の利回りを達成してきたものと思われる。昨今はコロナウイルス感染症の蔓延を契機とした「ステイホーム」や「テレワーク」の流れにより、都心部のオフィスビルの空室率が上昇傾向にあるとの報道もあるが、一方で物流業界の活況や物流施設のひっ迫といった状況もあり、不動産投資やそれらを裏付けにしたJ-REITの投資口価格は大崩れすることなく、全体としては堅調に推移するものと予想されている。将来的には、一般事業会社を押しのけて、株式時価総額の上位に食い込んでくる投資法人が現在以上に増えるかもしれない。

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