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解説記事2021年05月31日 SCOPE 控訴人ら評価書の「第3の価額」は受け入れられず(2021年5月31日号・№884)

東京高裁、差戻し審で課税処分を容認
控訴人ら評価書の「第3の価額」は受け入れられず


 東京高裁第24民事部(中山孝雄裁判長)は令和3年5月20日、法人に対する株式の譲渡が低額譲渡に該当するかどうか(時価は、取引価額であり配当還元価額でもある1株当たり75円なのか、それとも、類似業種比準方式により算定した1株当たり2,505円なのか)を争点とし、最高裁から東京高裁に差し戻しされていた事案について、控訴人(納税者)らの控訴を棄却し、課税処分を容認する判決を言い渡した。差戻し控訴審では、最高裁判決により審理の対象が『時価』とされており、控訴人らは、第三者の評価書に基づく第3の価額(1株当たり668円)を提示したが、第3の価額に係る主張は斥けられた(本誌828号40頁、833号20頁、835号12頁、870号8頁、873号13頁等参照)。

譲渡株式の時価について審理を尽くさせるため高裁に差戻し

 本件は、法人に対する株式の譲渡につき、控訴人(納税者)らが当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡代金額と同額として所得税の申告をしたところ、当該代金額が所得税法59条1項2号に定める著しく低い価額の対価に当たるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから、控訴人らがこれらの各処分の取消しを求めていた事案である。本件では、当該株式の当該譲渡の時における価額が争点となった。A社の代表取締役であった被相続人甲は、自身の有していたA社の株式のうち72万5,000株(本件株式)をB社に対して譲渡(本件株式譲渡)した。そして、死亡した甲の相続人である控訴人らは、甲の所得税につき、本件株式譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡対価と同じ1株当たり75円(配当還元方式により算定した価額に相当する金額)、合計5,437万5,000円として、所得税法125条1項による申告書を提出した。これに対し所轄税務署長は、本件株式譲渡の譲渡対価はその時における本件株式の価額である1株当たり2,990円(類似業種比準方式により算定した価額)、合計21億6,775万円であり、その価額の2分の1に満たないから、本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるとして、控訴人らに各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。被控訴人らの異議申立てを受け東京国税局長は、上記各更正処分における本件株式の価額算定に当たり類似業種の選定に誤りがあり、その価額は1株当たり2,505円、合計18億1,612万5,000円であるとして、上記の各更正処分及び各賦課決定処分の一部を取り消す旨の決定をしたが、本件は最高裁まで争われることとなった。
 最高裁は令和2年3月24日、「原審(差戻し前の東京高裁)の判断には、所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法がある。」と判示、原判決中の上告人敗訴部分を破棄し、「本件株式譲渡の時における本件株式の価額等について、更に審理を尽くさせるため、」事案を東京高裁に差し戻した。

主位的には「取引価額」、予備的には評価書に基づく第3の価額を時価と主張

 審理の対象が『時価』に限定された中で控訴人らは、「本件取引は利害関係のない第三者間の売買であり時価による売買であること」を主張した。具体的には、①取引の当事者である被相続人とB社との利害は、法的にも経済的にも明らかに相反していた、②本件株式譲渡は相続税の軽減目的でなされた取引ではない、③本件譲渡価格でしか売買は通常成立しえない、④過去の売買実例と同額である、⑤B社にとっての時価と同一となるべき、と主張。さらに控訴人らは、「予備的」と位置付けながらも、「種々の経済性」を考慮した価額として、第三者評価に基づく1株当たり668円を提示した。
 これに対し東京高裁は、「取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の計算をする上で、当該株式のその譲渡の時における価額を算定するに当たり、評価通達188の(1)~(4)の定めを適用する場合には、各規定中に『株式取得後』とあるのを『株式譲渡前』と、『取得した株式』とあるのを『譲渡した株式』と、それぞれ読み替え、各規定中のそれぞれの議決権の数を、当該株式の譲渡直前の議決権の数と読み替えるのが相当であって、かかる読替えをした上で評価通達188の(1)~(4)を適用する限りにおいて、それらの評価通達も所得税法59条1項が定める譲渡所得に対する課税の趣旨に合致し、一般的な合理性を有することになる。」と判示し、控訴人らの主張はいずれも斥けられた。

東京高裁、経営者からの譲渡に対して配当還元法の考慮割合が高すぎると指摘

 また、東京高裁は、控訴人らが差戻し控訴審で提示した評価書に基づく「第3の価額(1株当たり668円)」についても「控訴人ら評価書では、本件株式の価額を1株当たり668円と評価している事実は認められるものの、評価通達に定められた評価方法が上記の一般的な合理性を有することは、説示したとおりであり、控訴人らの主張を踏まえても、評価通達の評価方法によっては本件株式の客観的交換価値を適正に算定することができない特別な事情があるとは認められず、他にこの特別な事情があることを基礎づけるに足りる具体的な事実があるとも認められない。そうすると、上記の評価書によっては、評価通達に定められた評価方法による価額が『その時における価額』(時価)として適正なものであることを覆すことはできないというべきである。」と判示し、斥けた。その理由として、配当還元法の考慮割合が68.25%と極端に高くなっていること(譲渡人が実質的な創業者・代表取締役・経営一族の中心人物であるのに、少数株主に対して例外的に適用すべき配当還元法の割合が高いこと)への疑念を解消することができない等を挙げている。
 控訴人らサイドからすれば、「譲渡所得課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。」と判示した最高裁判決と併せ、差戻し控訴審は取りつく島が見つけにくい判決と言えそうだ。

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