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解説記事2021年07月05日 SCOPE 最高裁、国に前件判決を前提とした財産評価等を義務付けず(2021年7月5日号・№889)

遺産分割成立後の更正の請求めぐり国逆転勝訴
最高裁、国に前件判決を前提とした財産評価等を義務付けず


 相続財産(株式)の評価に係る更正処分が判決で取り消された後、遺産分割協議の成立後に前件判決で認定された評価額に基づく更正請求が認められるかが争われた事案で、最高裁は令和3年6月24日、国の逆転勝訴判決を言い渡した。
 最高裁は、東京高裁の「取消判決の拘束力(行訴法33条1項)により、前件判決の認定額によるべき」との東京高裁の判断を否定し、「取消判決の拘束力によっても行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではない」と判示。更正の除斥期間が経過した後に、前件判決の認定額等を用いて税額等を計算すべき義務は課税庁にはないとの考えを示し、国の主張がほぼ認められた形となった。

取消判決の拘束力は行政庁に法令上の根拠欠く行動を義務付けられず

 本件の事実関係はのとおり。前件判決は、財産評価基本通達の改正(大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準を25%以上から50%以上に改正)の契機となった注目判決である。

【表】事実関係

・納税者は、遺産分割未了のため法定相続分(7分の1)により、相続財産のX社株式を1株11,185円として相続税の申告をした。
・課税当局は、X社(大会社で、株式保有割合25.9%)は財産評価基本通達が規定する株式保有特定会社であるから、純資産価額方式等により1株19,002円として評価すべきとして更正処分を行った。
・裁判所は、株式保有割合25%以上であれば一律に純資産価額方式等により評価すべき旨を規定した評価通達は不合理である旨判示した上で、X社は株式保有特定会社に該当せず類似業種比準方式により評価すべきと指摘。裁判所が認定したX社の評価額は1株4,653円であり、算出される相続税額が申告税額を下回ったため、更正処分のうち申告税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した(前件判決)。
・財産評価基本通達における株式保有特定会社に関する判定基準の一部が改正(平成25年5月公表)。
・その後、遺産分割調停の成立により、納税者は、X社株式の7分の6を取得。(相続分が減少した)納税者以外の他の相続人は、相続税法32条1号に基づく更正の請求を行う一方、納税者はX社株式を1株4,653円と評価するなどした更正の請求を行った。
・課税当局は、他の相続人に対する減額更正を行うとともに、納税者に対しては相続税法35項3項に基づく増額更正(X社株式を当初申告額の1株11,185円と評価)を行い、納税者の更正の請求に対しては、申告における株式の評価の誤りは相続税法32条1号に基づく更正の請求によっては是正し得ないなどとして更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。

 原判決(東京高裁)は、東京地裁と同様に、「相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価の誤りがあったこと等)を主張することはできないものと解される」として、納税者の主張を認めなかったものの、「税務署長は、本件更正処分等をするに当たり、取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、前件判決における上記株式の価額や評価方法を基礎として税額等を計算しなければならない」と判示し、実質的に納税者が勝訴していた(本誌836号参照)。
除斥期間経過後は当初申告額を是正できず
 これに対し最高裁は、まず相続税法32条1号及び同法35条3項1号の解釈を示した上で、「相続税法32条1号の規定による更正の請求においては、上記後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから、上記のとおり一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず、課税庁も、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は、当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当である」とし、相続税法35条3項1号の規定による更正においても同様であると判示。
 そして、取消判決の拘束力については、「(取消判決の)拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではないから、その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られる」と、原判決と異なる判断を示した。
 その上で、「相続税法55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において、個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で、その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合には、当該判決により増額更正処分の一部取消しがされた後の税額が上記申告における個々の財産の価額を基礎として算定されたものである以上、課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後においては、当該判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をする法令上の権限を有していないものといわざるを得ない」(下線は編集部)として、当初申告額は是正できないとの考え方を示した。
 この考えを前提に最高裁は、「上記の場合においては、当該判決の個々の財産の価額や評価方法に関する判断部分について拘束力が生ずるか否かを論ずるまでもなく、課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に(中略)、当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはないものというべきである」との結論を下している。

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