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解説記事2021年07月12日 ニュース特集 特集第一弾 D課税ステートメント「第1の柱」の全容(2021年7月12日号・№890)

ニュース特集
合意(条約)発効7年後のレビュー結果次第で売上閾値半減、対象企業増加も
特集第一弾
D課税ステートメント「第1の柱」の全容


 OECDは7月1日、デジタル課税に関するステートメントを公表した。
 ステートメントには第1の柱・第2の柱、両方についての内容が含まれるが、当初は議論の中心となっていた第1の柱については、閾値の一つである「全世界売上高」が200億€(約2.6兆円)と高く設定されたことから、対象企業は大幅に絞られることになりそうだ。一方、かつては第1の柱の“脇役”と目されていた第2の柱の影響を受ける企業は相当数に上る見込みとなっている。
 ただし、ステートメントでは、第1の柱について、対象企業が少なく利益配分が不十分であるとの不満を隠さない途上国等に配慮し、「合意(条約)発効7年後」にレビューを行い、円滑な制度の実施を条件に、売上閾値を200億€から一気に半分(100億€=1.3兆円)に引き下げることとしている。そうなった場合、新たに対象となる日本企業が増加することが予想される点、要注意だ。
 本稿では、まずステートメントのうち「第1の柱」に関する部分について、ステートメントには書かれていない本誌独自取材に基づく情報を含め詳報する。

対象(スコープ)

売上200億€かつ売上高税引前利益率10%超、業種判定は原則なし

 第1の柱を巡る議論において最も注目を集めていたのが「スコープ(対象)」だ。
 スコープについては、当初は「消費者向けビジネス」や「自動化されたデジタルサービス」を対象にするとの議論もあったところ。しかし、フタを開ければ、業種による判定は原則として行わず、「全世界売上高が200億€(約2.6兆円)かつ売上高税引前利益率10%超」との閾値を満たす多国籍企業を対象とすることとされた。これは4月の米国財務省案をベースとしたものであり、米国の意向が強く反映された格好となっている。
 ただし、青写真で示されていた通り、現地に根付いた事業を行っている採掘業、規制業種である金融業は除外される。一方、スコープに入るかどうか注目を集めていた製薬業についてはステートメントに特段の言及がない。これまでは処方医薬を対象に含めるべきか議論もあったが、閾値を超えれば製薬業も対象になると見られる。また、青写真の段階では、条約上、課税権の配分ルールが既に明確な航空等の国際運輸業は除外されていたが、ステートメントでは除外されていない。もっとも、昨今のコロナ禍による同業界の低収益ぶりからすれば、実際に対象になる可能性は低いと見られる。
 なお、売上高の閾値に関する米国の当初提案は200億$だったが、OECDにおける“機能通貨”はかねてより€とされてきた。200億€との決着は、$に比べ円換算では閾値が上がっていることからしても、日本企業にとっては朗報と言えよう。

閾値の基準年にCbCRの「複数年度の平均」案が採用される可能性は

 このように閾値が高く設定された結果、ひとまず第1の柱の対象となる日本企業は限定される。しかし、ステートメントでは、対象企業が少なく利益配分が不十分であるとの不満を隠さない途上国等に配慮し、「合意(条約)発効7年後」にレビューを行い、円滑な制度の実施(利益Aに係る税の安定性を含む)を条件として、売上閾値を200億€から一気に「100億€(1.3兆円)」に引き下げることとしている点、要注意だ。これが実現した場合、対象となる日本企業が増加することが予想される。
 もっとも、閾値の「基準年」をどう設定するかはまだ結論が出ていない。この点、CbCR(国別報告事項)の作成義務の有無は、直前事業年度の売上高が7億5,000万€に達しているか否かで判定されるが、年度間のボラティリティへの対応から、2020年レビューでは「複数年度の平均」とする案を採用することも検討されている。その結果はまだ明らかになっていないが、CbCRで「複数年度の平均」案が採用されれば、第1の柱における閾値の「基準年」の考え方にも影響を与える可能性がある。

ネクサス

「消費者向けビジネス」も物理的拠点の有無問わずネクサス認定

 ネクサス(課税根拠)については、対象となる多国籍企業グループが市場国で少なくとも100万€(1.3億円)の売上を計上している場合に認定されることとなった。ただし、小国にも配慮し、GDPが400億€(5.2兆円)未満の国は25万€(3,250万円)の売上でネクサスが認定される。
 ステートメントでは、これらは「特定目的ネクサス・ルール」という新たな用語で呼ばれ、利益Aの配分先の法域を決定する目的でのみ適用されるとしている。裏を返せば、新たにPE的なものが市場国で認定され、当該市場国に利益Aが配分されるとしても、付加価値税(VAT)や関税の計算には影響させない、ということであろう。
 青写真の段階では、「消費者向けビジネス」についていわゆるプラス・ファクターを設ける案が浮上していた。つまり、「消費者向けビジネス」については例えば市場国において物理的拠点があることをネクサス認定の前提にするなど、「自動化されたデジタルサービス」に比べネクサスが認定されにくい仕組みが想定されていたとも言える。この仕組みについて一部の日本企業からは歓迎する声が聞かれたが、米欧の企業は制度の複雑化を懸念していた。結果として、今回のステートメントにプラス・ファクターに関する記述はない。業種によって取扱いに差をつける案は採用されにくいと考えられる。

配分割合

青写真に盛り込まれていた対象業種による差別化はなくなる方向

 市場国にとって大きな関心事となっていたのが配分割合だ。ステートメントでは、売上の10%を超える残余利益のうち20.30%をネクサスを有する市場国に配分することとされた。配分キーは「売上」を基礎とする。直近のG7の段階では、残余利益の少なくとも20%を市場国に配分するとしていたが、ステートメントでは「20.30%」というレンジが明らかにされた。市場国の中には、そもそも残余利益ではなく多国籍企業グループの利益全体を配分対象にすべきと主張する法域もあり、先進国との間で綱引きが行われていることが見て取れる。
 青写真の段階では、デジタル化の度合いが高い企業については通常利益率を低くする、または残余利益の市場国への配分割合を高くすることなどが議論されていたが、ステートメントにはこれらについての記載がない。対象を業種で判定する案を採用しないことからすれば、このような差別化は考えにくい。
 このほか、ネクサスが認定されない国の行き場のない取り分はどこに配分されるのかという問題がある。例えば市場国A、B、Cがあり、Cだけ売上高が僅少であるためネクサスが認定されなかったとする。この場合、本来はCに配分されるはずだった残余利益は、A及びBに山分けされるのか(スロー・イン)、あるいは単に配分されずに終わるのか(スロー・バック)、という論点である。企業サイドからすると、前者の“山分け論”は納得し難い。当該残余利益と何ら関係のないAやBがCの取り分を得ることはタナボタに他ならず、計算が複雑になるからだ。この点についても、今後制度の詳細が明らかになるであろう。

レベニュー・ソーシング

「階層アプローチ」は消滅も、中間財の市場判定という新たな問題が浮上

 売上の計上地は、「財または役務」が「使用または消費」された最終市場法域とされ、今後、特定の取引の類型に係る詳細なソース・ルールが策定されることになった。本ルールを適用する際、多国籍企業グループは、自らの事実及び状況に基づき、信頼できる手法を採用しなければならない。
 この短い説明から読み取れることは少ないが、青写真段階で提唱されていた「階層アプローチ」という文言はステートメントには見られない。当該アプローチは、OECDが定めた階層に基づき、最終市場法域を第1順位の指標から順番にテストしていくものであり、その硬直性が企業サイドから強く批判されていた。
 これを受けOECDでは、例えば独立販社を経由した取引について、当該販社の所在法域を売上計上地として認めることも含め、水面下では柔軟な取り扱いに理解を見せていたが、対象事業に関する米国の新提案で新たな課題が浮上した。すなわち、米国提案によれば、「消費者向けビジネス」や「自動化されたデジタルサービス」といった業種による区分がなくなるため、理論上は部品等の中間財を販売するB to B事業も対象となるところ、当該部品の最終市場法域をどのように判定するのかという問題だ。米国提案に付随するこうした問題への対処が求められる中、ステートメントではレベニュー・ソーシングについて明確な方向性を出し切れていない。企業サイドからすると、この論点は実務的に極めて重要であり、制度の詳細に注目が集まっている。企業からは、そもそも売上や利益率が閾値に満たない場合は一切の作業が免除されるという建付けが最も簡素、かつ明瞭との声が上がっている。

課税ベースの特定、セグメンテーション

セグメントが単体で利益Aの対象ならセグメンテーションの対象

 利益又は損失は財務会計上の数値を参照し、決定することとなった。調整項目数は少ない(small number)とされているが、具体的な調整項目の記載はない。青写真段階では、税務と近似させるため、会計上の数値から配当収益、株式に係る利益又は損失、持分法投資損益を除外するとされていたところ。特に争いのある分野でもないことから、青写真における方向性が維持されるものと見られる。
 セグメンテーションは、財務会計上開示されているセグメントを基礎に、当該セグメントが単体で利益Aの対象となる場合には、例外的に必要とされることとなった。アマゾンの利益率がグループ全体では10%を割り込む中で、高収益のクラウド部門を切り出し、課税対象とするための案といってよい。そもそもGAFAが対象とならないデジタル課税は考えられず、想定内と言える。
 なお、損失は繰越が認められる。繰越年限については、青写真段階でも明確な提案はなく、今回のステートメントにおいても言及がない。それに加え、青写真段階でそのメリット・デメリットが論じられていた利益不足(profit shortfall)、すなわち利益が売上の10%に満たない場合のその満たない額の繰越の是非についても、ステートメントでは言及がない。

利益B

利益Bの作業延期確定に企業からは安堵の声

 利益Bに関連するところでは、国内における基礎的なマーケティング及び販売活動に対する独立企業原則の適用が簡素化・合理化され、キャパシティの低い国々のニーズに特に焦点を当てることになった。この作業は2022年末までに完結させる。
 これは利益Bの作業の延期に他ならない。ステートメントには、現地販社に対する「固定リターン」等の表現もない。企業からは、移転価格税制の簡素化は重要だが、デジタル課税の中心的課題は利益Aであり、利益Bにも手を広げるのは欲張りすぎだの意見があったところ。こちらについては新聞等では全く報道がなされていないが、企業の実務担当者からすると注目ポイントの1つであり、数少ないgood newsとして安堵の声が広がっている。

利益A、B
 利益Aはグローバルの利益(又は事業ラインの利益)のうち通常利益を超える部分を一定の算式に基づきみなし残余利益として抽出し、それを各市場国に売上比で配分するもの。利益Bは、ベースラインのマーケティング及び販売活動を行う市場国の販売会社等に一定の固定比率によって利益の最低保証を行うものである。利益Aは既存の移転価格税制の枠外、利益Bは枠内の措置と言える。

二重課税の調整、マーケティング及び販売利益セーフハーバー(MDSH)

税額控除方式が残ったことに企業からは不満の声

 市場国に配分された利益に係る二重課税は、所得免除方式又は税額控除方式により救済される。企業は、(外国)税額控除方式では、控除限度額の存在により二重課税調整が不十分となる恐れがあること、さらには、計算が複雑になることから、(国外)所得免除方式のみ受け入れ可能と主張してきたが、税額控除方式がいまだ残っており、ステートメントに対し、早くも不満がくすぶっている。
 租税債務を負う事業体(又は事業体群)は、残余利益を得る事業体となる。青写真の段階では、(1)活動テスト、(2)利益率テスト、(3)市場関連性優先テスト、(4)プロラタ配分の4つのステップで租税債務を負う事業体(群)を特定することとされ、定性的な判断が伴う(1)や(3)は税の安定性を損なうと批判があったところだが、ステートメントでは判定ステップについての記述が一切ない。まだOECDにおいても検討が深まっていない分野と見られる。
 多国籍企業グループの残余利益が市場国において既に課税されている場合、MDSH(Marketing and distribution profits safe harbour、42頁参照)が発動され、市場国に配分される残余利益に制限がかかる。MDSHは米国企業の提案によるものとされ、青写真の段階から記載があるが、内容面での進展はステートメントからは伺い知れない。MDSHの制度設計に関する議論は今後も続くことになろう。
 日本企業からは、定式的・機械的な利益配分を目的とする利益Aの中に、このような複雑な制度を入れる必要があるのかとの疑問の声が聞かれる。ひとたび利益配分がなされれば、その後の二重課税調整が不調となるリスクも生じるため、リスクを最小化したいということであろう。

税の安定性、一国主義的措置、税務行政

DSTは完全廃止を明記、インドの平衡税廃止への期待高まる

 税の安定性の観点からは、利益Aの対象となる多国籍企業グループは、二重課税の防止のため、利益Aに関係するすべての問題(移転価格及び事業所得等)について、義務的・拘束的な紛争の予防・解決メカニズムの恩恵を受けられることとなった。問題が利益Aに関係するか否かについての争いも、紛争の予防・解決メカニズムを大きく遅延させることなく、義務的・拘束的な方法で解決される。ただし、途上国(BEPS行動14のピア・レビューの繰延が可能となっている法域やMAP(相互協議)紛争が無い又は低水準の法域)に対しては、利益Aに関連する問題について「選択的な」拘束的紛争解決メカニズムとすることを考慮する。ステートメントで仲裁という文言がないことは想定内だが、途上国については「選択的」な紛争解決とされていることに対し、企業からは「実効性に疑問も残る」との声も聞かれる。
 新たな国際課税ルールの適用と、全ての企業に対するすべてのデジタルサービス税(DST)及びその他の関連する類似の税制措置の廃止の間で適切な調整を行う。日本企業としては、インドの平衡税を「他の関連する類似の税制措置」として捉えたいところだ。また、日本におけるDSTも当然不要となる。「全ての企業に対する」との文言には米国の執念が見て取れる。利益Aの対象企業は世界の上位100社とも言われるが、その裏返しとして、利益Aが適用されないそれ以外の企業についてはDSTが引き続き残るのか、という論点がある。ステートメントからは、DSTはいかなる場合でも完全廃止、というメッセージが見て取れる。ただし、「適切な調整(appropriate coordination)」という微妙な言い回しに、議論の難しさが現れているとも言える。
 なお、税務コンプライアンスは申告義務を含め合理化され、多国籍企業グループは単一の事業体を通じてプロセスを管理できる。ただし、ここは後回しの論点とされているようだ。

今後の予定、適用関係

アイルランドが合意見送り、利益Aは2023年から適用開始へ

 当該ステートメントには139の法域から構成される包摂的枠組(IF)のうち130の法域が合意した。中国・インドを含むG20加盟国は全て合意する一方、アイルランド、ハンガリー、ケニア、ナイジェリア、ペルー、スリランカ等は合意を見送った。制度の詳細及び残された課題については本年10月末までに最終化する。10月15・16日のG20財務大臣会合を経て、10月31・31日のG20首脳会合で最終的に支持を得るステップとなることが予想される。
 利益Aの施行に向け多国間条約を策定し、2022年に署名のため開放する。利益Aは2023年から適用となる。米国がBEPSの多国間協定に参加しておらず、個別の勧告はバイラテラルの条約で対応する方針をとっているため、結局はBEPS勧告の実施と同様、米国の議会が署名するかが問題となろう。

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