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解説記事2021年08月02日 SCOPE 自ら出資により開発した事業からの配当でも簿価切下げリスク(2021年8月2日号・№892)

米国等での子会社設立で顕在化
自ら出資により開発した事業からの配当でも簿価切下げリスク


 令和2年度税制改正では、子会社から配当を非課税で受け取るとともに、配当により時価が下落した子会社株式を譲渡して譲渡損失を創出させるという節税スキームを封じ込めるため、法人が「持分割合50%超」にある子会社から「簿価の10%を上回る配当」を受ける場合、その配当の起因となった株式の簿価を切り下げる措置が導入されたところだ。
 この措置は、「利益剰余金が溜まっている状態で会社を買ってきてその利益を配当として吐き出す」という事案を念頭に置いたものだが、同措置を条文の規定通り機械的に適用すると、日本法人が自らの出資によって一から開発した事業からの利益を配当として受領する事案までもが同措置の対象になるという明らかに不合理な結果が生じる恐れがあるので要注意だ。これに対し企業側からは、制度の見直しを求める声も上がっている。

本来は「利益剰余金が溜まっている会社を買収し配当させる」ケースを想定

 令和2年度税制改正では、法人が子会社株式を取得した後、子会社から配当を非課税(益金不算入)で受け取るとともに、配当により時価が下落した子会社株式を譲渡して譲渡損失を創出させるという節税スキームを封じる措置が導入されたところだ。具体的には、法人が「持分割合50%超」の子会社から「簿価の10%を上回る配当」を受ける場合、その配当の起因となった株式の簿価を、「配当のうち益金不算入額となる金額」だけ切り下げる。ただし、租税回避を意図しない法人への影響を緩和するため、いくつかの適用除外要件(後述)が設けられている。
 このように同措置では、「持分割合50%超」と「簿価の10%を上回る配当」を満たす配当は、適用除外要件に該当しない限り、常に同措置の対象になるという仕組みがとられている。その結果、同措置を条文の規定通り機械的に適用すると、「利益剰余金が溜まっている状態で会社を買ってきてその利益を配当として吐き出す」という同措置が念頭に置いている事案以外の事案までもが同措置の対象になってしまうのではないかとの懸念が生じている。
 以下、設例で説明しよう。

内国株主割合要件及び特定支配日利益剰余金額要件に抵触

 次頁の設例において、法人税法施行令の規定を機械的に当てはめると、X社設立から10年以内は(=「支配関係発生から10年が経過」という同措置の適用除外要件(法令119条の3⑦三)を満たすまでは)、本件配当について同措置が適用され、日本法人が有するX社株式の簿価は切り下がってしまう。

<設例>

・日本法人がA国に100%子会社(X社)を設立。
・X社は純粋持株会社で、X社は100%子会社として事業会社(Y社)を設立し、Y社が事業を営んでいる。
・Y社から利益の配当がある度、X社は受領した配当全額を直ちに日本法人に配当(本件配当)してい
る(米国等、A国法上、前期末の剰余金を基礎とした配当規制が存在しないものとする)。

 その理由として、まず本設例では、同措置の適用除外要件の一つである内国株主割合要件(法令119条の3⑦一)を満たすことができないということがある。内国株主割合要件とは、「子会社(内国法人に限る)が設立されてから支配関係が生じるまでの間、90%以上の株式を内国法人・居住者によって保有されている」場合には同措置の適用対象外とするというものだが、X社は外国法人であるため、「内国法人に限る」というカッコ書きの部分に抵触する。
 また、本設例は下記の「特定支配日利益剰余金額要件」(法令119条の3⑦二)にも抵触することになる。

<法令119条の3⑦二>

 特定支配日が当該対象配当等の額を受ける日の属する当該他の法人の事業年度開始の日前である場合に
おいて、イに掲げる金額からロに掲げる金額を減算した金額がハに掲げる金額以上であること
イ 当該他の法人の当該対象配当等の額に係る決議日等前に最後に終了した事業年度の貸借対照表に計上
されている利益剰余金の額
ロ イに規定する事業年度終了の日の翌日から当該対象配当等の額を受ける時までの間に当該他の法人の
株主等が当該他の法人から受ける配当等の額の合計額
ハ 当該他の法人の特定支配日前に最後に終了した事業年度(当該特定支配日の属する事業年度が当該他
の法人の設立の日の属する事業年度である場合には、その設立の時)の貸借対照表に計上されている利
益剰余金の額(当該他の法人の当該特定支配日の属する事業年度開始の日以後に当該他の法人の株主等
が当該他の法人から受けた配当等の額(当該配当等の額に係る基準時が当該特定支配日前であるものに
限る。)がある場合には、当該配当等の額に対応して減少した当該他の法人の利益剰余金の額の合計額
を減算した金額)

 X社の設立時(特定支配関係発生時)と各期末の利益剰余金(同要件において参照される前期末の利益剰余金)は常に0となり(上記の通り、Y社からの配当を直ちに配当しており、期末に溜まっている利益がないため)、特定支配日利益剰余金額要件を満たすことはできない。
 しかし、上記設例は、「利益剰余金が溜まっている状態で会社を買ってきてその利益を配当として吐き出す」という同措置が念頭に置いている事案ではなく、日本法人が自らの出資によって一から開発した事業からの利益を配当として受領しているに過ぎない。こうした中、企業側からは、このような事案にまで条文を機械的に当てはめて同措置が適用されるとすれば明らかに不合理であり、このような事案は同税制の対象にならないと考えるべきであるとの声や、制度の見直しを求める声が上がっている。

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