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解説記事2019年12月09日 特別解説 経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報(2019年12月9日号・№814)

特別解説
経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報


はじめに
 平成から令和時代になり、我が国の監査においては、監査上の主要な検討事項(KAM)の先行適用が本年度からいよいよ開始される。これまでの欧州の事例を見る限り、非流動資産の減損や税効果、引当金や収益認識等の会計上の見積りの監査に関する項目が監査報告書にKAMとして記述されるケースが非常に多い。KAMは、企業が財務諸表において開示した情報を参照しつつ、監査人の観点から監査上の主要な検討事項を監査報告書に記載するものであるため、その実効性を担保するには、「経営者が会計方針を適用する過程で行った判断」及び「見積りの不確実性の発生要因」が財務諸表の注記として開示されることが必要になると考えられる。今回はこのような背景の下で、重要性が高まっていると考えられる、経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報について、IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・公表した日本企業(以下、「IFRS任意適用日本企業」という。)の開示を紹介することとしたい。

今回調査対象とした企業
 今回調査対象としたのは、2019年3月期までにIFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・開示したIFRS任意適用日本企業の192社である。

IAS第1号の規定
 IAS第1号「財務諸表の表示」の第117項では、企業は重要な会計方針を開示しなければならないとされており、重要な会計方針は次のものから構成されるとされている。(a)財務諸表を作成する際に使用した測定基礎 (b)財務諸表の理解に関連性のある使用したその他の会計方針。企業が財務諸表を作成する際に使用した「測定基礎」とは、取得原価、現在価値、正味実現可能価額、公正価値又は回収可能価額のことを指しており、企業が財務諸表を作成する基礎が利用者の分析に大きく影響を与えるために、この情報を利用者に知らせることは重要であるとされている(第118項)。また、経営者は企業の会計方針を適用する過程で、見積りを伴う判断のほか、財務諸表に認識(=計上)する金額に大きく影響する可能性のある様々な判断を行うことから、企業は、重要な会計方針又は他の注記とともに、経営者が当該企業の会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に計上されている金額に最も重要な影響を与えているものを開示しなければならない(第122項)。資産及び負債の中には、その帳簿価額を算定する際に、不確実な将来の事象が報告期間の末日において当該資産又は負債に与える影響の見積りが必要となるものがある。例えば、有形固定資産の各種類の回収可能価額、技術的陳腐化が棚卸資産に与える影響、進行中の係争の将来の結果に左右される引当金、及び年金債務などの長期従業員給付債務等、直近に観察された市場価格が存在しない場合には、測定のために将来志向の見積りが必要となるものがあり、これらの見積りには、キャッシュ・フロー又は割引率に対するリスク調整、給与の将来の変動及び他のコストに影響を与える価格の将来の変動などの項目に関する仮定が必要となる(第126項)。このため企業は、報告期間の末日における、将来に関して行う仮定及び見積りの不確実性の他の主要な発生要因のうち、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じる重要なリスクがあるものに関する情報(その内容と、期末日現在の簿価)の開示も要求されている(第125項)。第125項に従って開示される仮定及びその他の見積りの不確実性の発生要因は、経営者の最も困難な、主観的又は複雑な判断が必要となる見積りに関連するものであるといえる。

財務諸表を作成する際に使用した測定基礎
 IFRS任意適用日本企業は、基本的に取得原価に基づいて財務諸表を作成しており、一部の項目(金融商品、あるいは特定の金融商品等)について公正価値を利用している、というパターンがほとんどであった。金融商品や特定の金融商品等には、デリバティブ金融資産、純利益を通じて公正価値で測定する(FVTPL)金融資産やその他の包括利益を通じて公正価値で測定する(FVTOCI)金融資産が含まれている。「金融商品」、あるいは「特定の金融商品等」以外で、公正価値により評価しているという具体的な記述があった項目は、表1のとおりであった。

 金融商品に加え、年金資産(制度資産)として金融商品を運用している企業が、確定給付制度資産・負債を公正価値により評価している項目として挙げているものと考えられる。
 また、表1のその他(8件)の内訳は、表2のとおりであった。

 2018年12月期(3月決算企業の場合には2019年3月期)よりIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用が開始されて契約コストの資産化が要求されたことに伴い、見積りを要する項目として、「契約コストの回収可能性」が新たに出てきている。

見積り及び判断の使用
 見積り及び判断を使用した項目として多く記載されていたものを列挙すると、表3のとおりとなった。なお、各社の開示においては、それぞれの項目についての開示の最後に、関連する重要な会計方針の注記箇所が記載・参照されている。

 非金融資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、確定給付制度債務の測定、金融商品の公正価値測定、及び引当金の認識と測定が、「見積り及び判断を使用した項目」のトップ5であった。また、20件には届かなかったものの一定数の開示があった項目としては、のれんや無形資産の評価、営業債権等の回収可能性、非上場株式の評価、資産除去債務、リース関連、条件付対価の評価等があった。

見積り及び判断を使用したその他の項目
 これまでに紹介した見積り及び判断を使用した項目は、ある程度共通性のあるものであったが、ここでは、各社固有の「見積り及び判断を使用した項目」を列挙してみたい(表4参照)。

 各社において、様々な項目が「見積り及び判断を使用した項目」として識別され、開示されていることがわかる。最近は、「一定の期間にわたり履行義務を充足する契約における見積総費用」や「履行義務の充足に係る進捗度の測定」「契約コストの減損」及び「ポイントプログラムの認識」など、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が適用されたことに伴って新たに必要となる、収益認識に関連する見積りが目に付く。これらの項目は今後も増加していくことが予想される。

ヤマハが行った「重要な会計上の判断と見積り」の開示
 「重要な会計上の判断と見積り」において詳細な情報を開示したヤマハの四半期報告書(2020年3月期第一四半期)を題材として、開示の内容を紹介することとしたい。
 ヤマハは、2020年3月期第一四半期の四半期報告書において、次のような開示を行った。

4. 重要な会計上の見積り及び判断
 当社グループは、要約四半期連結財務諸表の作成において、会計方針の適用、資産及び負債、収益及び費用の測定等に関する見積り及び仮定を含んでおります。これらの見積り及び仮定は、過去の実績及び報告期間の末日において合理的と考えられる様々な要因等を勘案した経営者の最善の判断に基づいております。しかしながら、その性質上、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
 見積り及びその基礎となる仮定は継続して見直しており、これらの見積りの見直しによる影響は、当該見積りを見直した期間及び将来の期間において認識しております。当社グループの要約四半期連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える判断、見積り及び仮定を行った項目は以下のとおりであります。

・子会社の範囲(注記「3.重要な会計方針(1)連結の基礎」)
 連結の対象となる子会社に該当するか否かは、当社グループが当該会社を支配しているか否かによって判断しております。

・非金融資産の減損(注記「3.重要な会計方針(9)非金融資産の減損」)
 当社グループは、有形固定資産、のれん及び無形資産について、注記「3.重要な会計方針」に従って、減損テストを実施しております。減損テストにおける回収可能価額の算定において、将来のキャッシュ・フロー、割引率等について仮定を設定しております。これらの仮定については、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、要約四半期連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

・引当金の認識及び測定(注記「3.重要な会計方針(10)引当金」)
 引当金は、将来において債務の決済に要すると見込まれる支出の期末日における最善の見積りに基づいて測定しております。将来において債務の決済に要すると見込まれる支出額は、将来の起こりうる結果を総合的に勘案して算定しております。これら引当金の測定において使用される仮定は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、引当金の測定額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。

・退職給付制度債務の測定(注記「3.重要な会計方針(11)従業員給付」)
 確定給付企業年金制度については、確定給付制度債務と制度資産の公正価値の純額を負債又は資産として認識しております。確定給付制度債務は、年金数理計算により算定しており、年金数理計算の前提条件には、割引率、退職率、死亡率、昇給率等の見積りが含まれております。これらの前提条件は金利変動の市場動向等、入手可能なあらゆる情報を総合的に判断して決定しております。これら年金数理計算の前提条件は将来の不確実な経済環境あるいは社会情勢の変動等によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、確定給付制度債務の測定額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。

・繰延税金資産の回収可能性(注記「3.重要な会計方針(16)法人所得税」)
 繰延税金資産は、将来減算一時差異等を使用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で認識しております。課税所得が生じる可能性の判断においては、事業計画に基づきその発生時期及び金額を見積っております。このような見積りは、経営者による最善の見積りにより行っておりますが、将来の不確実な経済条件の変動等の結果によって実際の結果と異なる可能性があります。

終わりに
 令和元年10月30日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」を公表した(以下、「公開草案」という。)。令和2年1月10日まで意見を募集するとしている。
 これは、IAS第1号第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても注記情報として開示を求めることを検討するような要望が寄せられたことに対応したものである。
 公開草案では、会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別すること、識別する項目は通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債とすることを提案している。
 また、公開草案では、識別した項目について、公開草案に基づいて識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することを求めるとともに、次の事項を注記することを提案している。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額
(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

 ここで、「財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」の例としては、以下のものが挙げられている(これらはあくまでも例示であり、注記する事項は開示目的に照らして判断されることになる。)。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(2)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3)翌年度の財務諸表に与える影響

 そして公開草案では、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することを提案している(公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。)。
 今までの例から考えると、意見募集と寄せられたコメントを踏まえた審議を経て、本公開草案は、令和2年3月末日までに最終の基準書として確定する可能性が高いものと考えられる。

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