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解説記事2019年12月09日 未公開判決事例紹介 マンション販売事業者の仕入税額控除問題(1)(2019年12月9日号・№814)

未公開判決事例紹介
マンション販売事業者の仕入税額控除問題(1)
東京地裁、共通課税仕入れに該当

 読者からの反響が大きかった本誌808号(2019.10.21)8頁で紹介した税務訴訟の判決全文について、仮名処理した上で2回に分けて紹介する。

○販売用の居住用マンションに係る消費税の仕入税額控除の用途区分などが争われた消費税更正処分等取消請求事件。不動産の買取再販売を主な事業とする株式会社である原告(納税者)は、個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れの時点における事業者の最終的な目的によって行うべきであるなどと主張したが、東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は、本件各課税仕入れは共通課税仕入れに該当するというべきであるなどとし、原告の請求を棄却する判決を下した(令和元年10月11日、棄却)。

主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


事実及び理由
第1 請求
1 第1事件

(1)N税務署長が原告に対し平成29年7月31日付けでした原告の平成25年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成25年12月課税期間」という。)分の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分(以下「平成25年12月課税期間更正処分」という。)のうち、消費税の還付金の額に相当する税額4152万7959円及び地方消費税の還付金の額に相当する税額1038万1989円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(2)N税務署長が原告に対し平成29年7月31日付けでした原告の平成26年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成26年12月課税期間」という。)分の消費税等の更正処分(以下「平成26年12月課税期間更正処分」という。)のうち、消費税の還付金の額に相当する税額9120万5943円及び地方消費税の還付金の額に相当する税額2449万9345円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(3)N税務署長が原告に対し平成29年7月31日付けでした原告の平成27年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成27年12月課税期間」といい、平成25年12月課税期間、平成26年12月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)分の消費税等の更正処分(以下「平成27年12月課税期間更正処分」といい、平成25年12月課税期間更正処分、平成26年12月課税期間更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)のうち、消費税の還付金の額に相当する税額7849万7202円及び地方消費税の還付金の額に相当する税額2117万2577円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 第2事件
(1)N税務署長が原告に対し平成28年12月27日付けでした原告の課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請の却下処分を取り消す。
(2)N税務署長は、原告に対し、原告が平成28年11月15日付けでした課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請を承認せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は、中古不動産の買取再販売を主な事業とする原告が、次の各請求をする事案である。
(1)第1事件
 原告が、本件各課税期間の消費税等について、販売目的で行った課税仕入れである建物の購入のうち、購入時にその全部又は一部が住宅用として賃貸されている建物(以下「本件各建物」といい、このような建物一般を「住宅用賃貸部分を含む建物」という。)に係るもの(以下「本件各課税仕入れ」といい、このような課税仕入れ一般を「本件課税仕入れ」という。)につき、消費税法30条2項1号イ所定の「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に区分されることを前提として、同条1項の課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額(控除対象仕入税額)を計算し、算出した納付すべき税額に基づき確定申告(以下「本件各確定申告」という。)をしたところ、N税務署長から、本件各課税仕入れは、同条2項1号ロ所定の「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」(共通課税仕入れ)に区分されるとして、本件各更正処分及びこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を受けたことから、これらの取消しを求める事案である。
(2)第2事件
 原告が、仮に、本件課税仕入れが共通課税仕入れに区分される場合、控除対象仕入税額の計算に当たり、本件課税仕入れに係る消費税額に乗ずべき消費税法30条3項の課税売上割合に準ずる割合として、後記3(4)アの本件割合は合理的に算定されたものであると主張して、N税務署長に対してその適用承認申請(以下「本件承認申請」という。)をしたところ、N税務署長から、本件承認申請を却下する旨の処分(以下「本件却下処分」という。)を受けたことから、その取消しを求めるとともに、本件割合の適用承認の義務付けを求める事案である。
2 関連法令等の定め
 本件に関連する法令等の定めは、別紙2のとおりである(なお、同別紙における略語は、本文においても用いることがある。)。
3 前提事実(証拠の引用等のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告
 原告は、平成2年5月2日に設立された、不動産の買取再販売を主な事業とする株式会社である(甲3・4頁、乙2)。
(2)本件各課税仕入れ
 ア 原告は、本件各課税期間において、事業として、本件各建物(前記1(1)のとおり、いずれも購入時にその全部又は一部が住宅用として賃貸されている建物である。)を購入した(甲4の1~3)。
   原告の本件各課税期間ごとの本件各建物の購入価額(本件各課税仕入れの額。なお、同時に購入される敷地の購入価額を含まない。)は、次のとおりである(甲4の1~4の3)。
(ア)平成25年12月課税期間(79物件)24億7343万1009円
  (消費税等を含む金額は、25億9710万2535円)
(イ)平成26年12月課税期間(90物件)38億6764万5987円
  (消費税等を含む金額は、41億5706万1487円)
(ウ)平成27年12月課税期間(175物件)64億5225万4987円
  (消費税等を含む金額は、69億6843万5309円)
 イ 原告による本件各建物の購入は、いずれも賃借権の負担付売買によるもので、買主である原告は、本件各建物の所有権を取得すると同時に、賃貸人としての地位を承継し(以下、かかる賃貸借契約に基づく貸付けを「本件各住宅貸付け」という。)、本件各建物につき、引渡日以降の賃貸料を収受していた。
 ウ 原告は、本件各建物の購入について、使用する会計システム上、本件各建物を取得した日付で棚卸資産である「販売用不動産(建物)」として入力し、その際、税区分について「課税売上げにのみ要する課税仕入れ」として入力していた。
(3)本件各確定申告
 原告は、本件各課税期間の消費税について、別表1~3記載の各「確定申告」欄のとおり、本件各確定申告をした(甲8の1~3)。
 このとき、控除対象仕入税額については、いずれも個別対応方式によった上で、本件各課税仕入れは「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分されることを前提として計算された(甲8の1~3、弁論の全趣旨)。
(4)本件承認申請及び本件却下処分
 ア 原告は、平成28年11月15日、N税務署長に対し、原告の共通課税仕入れのうち、本件課税仕入れ(住宅用賃貸部分を含む建物の購入に係るもの)に係る控除対象仕入税額の計算における消費税法30条3項の課税売上割合に準ずる割合については、当該割合を適用する各課税期間に譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物の譲渡対価の額(課税売上げ)及び当該譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物の仕入日(当該割合を適用する各課税期間より前のものも含む。)から譲渡日までに生じた事業用貸付けに係る対価の額(課税売上げ)及び住宅用貸付けに係る対価の額(非課税売上げ)の合計額のうち、当該合計額から当該譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物の住宅用貸付けに係る対価の額(非課税売上げ)を除いた額の占める割合(以下「本件割合」という。)によって計算するものとして、本件割合についての適用承認の申請(本件承認申請)をした(甲10)。
 イ N税務署長は、同年12月27日、本件承認申請を却下し(本件却下処分)、原告に通知した(甲13)。
(5)本件各更正処分及び本件各賦課決定処分
 N税務署長は、平成29年7月31日、本件各課税仕入れは共通課税仕入れに区分されるべきであるとしたうえで、別表1~3記載の各「更正処分」欄のとおり、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした(甲4の1~3)。
(6)本件訴訟に至る経緯
 ア 本件却下処分について
  原告は、平成29年4月4日、本件却下処分を不服として再調査請求をしたが、再調査審理庁は、同年6月26日、同請求を棄却する旨の決定をした(弁論の全趣旨)。
  原告は、同年7月28日、本件却下処分を不服として審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成30年7月9日、同審査請求を棄却する旨の裁決をした(弁論の全趣旨)。
 イ 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分について
  原告は、平成29年9月1日、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として審査請求をしたが(別表1~3記載の各「審査請求」欄参照)、国税不服審判所長は、平成30年7月9日、同審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲45)。
 ウ 本件訴訟の提起
  原告は、平成29年12月27日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
4 被告が主張する本件各更正処分に係る税額等
 本件において被告が主張する本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に係る税額の算出根拠等は、別紙3記載のとおりである。
 なお、本件において、原告の本件各課税期間における課税売上高は5億円を超えており、本件各課税期間における控除対象仕入税額が、個別対応方式によって計算されることについては、争いがない。
5 争点
(1)住宅用賃貸部分を含む建物の購入が控除対象仕入税額の計算において共通課税仕入れに区分されるとした本件各更正処分は適法であるか。(争点1)
(2)本件各更正処分が適法である場合、本件各確定申告における申告額が過少であったことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるか。(争点2)
(3)本件割合は、原告が営む事業の種類又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類に応じ合理的に算定されるものであるか。(争点3)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(住宅用賃貸部分を含む建物の購入が控除対象仕入税額の計算において共通課税仕入れに区分されるとした本件各更正処分は適法であるか)について
(被告の主張)

(1)個別対応方式における用途区分の判定について
 ア 個別対応方式は課税仕入れについて用途区分を要するところ、消費税法30条2項1号は、用途区分について「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」、「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(括弧内省略)にのみ要するもの」及び「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」と規定し、いずれも「要したもの」とは規定していない。そして、仕入税額控除は、仕入れを行った日において、それが課税仕入れに該当するか否かを判断し、課税仕入れに該当する場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間において、課税資産の譲渡等に対応する部分を控除するものであることからすれば、課税資産の譲渡等に対応する部分の具体的な算出方法である用途区分も、当該課税仕入れを行った日の状況に基づき、その取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきである。
 イ これに対して、原告は、個別対応方式における用途区分の判定は課税仕入れの最終的ないし主たる目的によって行うべきである旨主張し、これについて、課税の累積排除という仕入税額控除の趣旨を指摘する。しかし、個別対応方式における共通仕入控除税額は、共通課税仕入れに係る消費税額に各課税期間の課税売上割合を乗じて計算した金額に限られるものであり、控除されない金額すなわち非課税売上げに対応する部分として算定された金額について、課税の累積排除を考慮する必要がないことは、消費税法がもとより予定するところであって、課税仕入れの用途区分が当該課税仕入れの最終的ないし主たる目的により判断されるものではない。
(2)本件各課税仕入れは共通課税仕入れに該当すること
 ア 原告は、本件各建物について、仕入れを行った日に棚卸資産として計上し、また、平均して7か月程度で譲渡していたことが認められる。これらによると、原告は、本件各建物について転売を意図して仕入れたものと認められるから、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等に要するものであるということができる。
   一方、本件各建物は、仕入れを行った日において、いずれもその全部又は一部が住宅貸付け(本件各住宅貸付け)の対象とされており、本件各課税仕入れは賃借権付売買によるものであった。また、原告は、売主から本件各住宅貸付けにおける賃貸人としての権利義務を承継し、同日以降の賃貸料を現に収受し、当該賃貸料を原告の会計システムに「不動産賃貸収入」として入力しており、原告の決算説明資料でも「投資用不動産保有期間中の賃貸収入は安定収入として経営基盤を下支え」するものと説明されていた。これらのことからすると、原告は、仕入れを行った日において、賃貸料を収受することをも意図した上で、本件各課税仕入れをしたものと認められる。したがって、本件各課税仕入れは、仕入れを行った日において非課税取引である住宅貸付けにも要するものであり、その他の資産の譲渡等に要するものでもあるということができる。
   したがって、本件各課税仕入れは、仕入れを行った日の状況に基づいて客観的に判断すれば、課税資産の譲渡等に要するとともにその他の資産の譲渡等に要するものでもあるから、共通課税仕入れに該当する。
 イ 原告は、平成元年2月発行の「消費税一問一答集」(国税庁・部内限り。以下「平成元年発行一問一答集」という。)の「問434 『課税資産の譲渡等にのみ要する』ことの意味」の記載を踏まえ、消費税法の立法者は、課税仕入れの対価が「最終的に」課税資産の譲渡等のコストを構成するような課税仕入れをもって「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとの解釈を示していたといえると主張する。しかしながら、原告は、本件各住宅貸付けを行い、これに係る対価の額を収受しているのであるから、本件各課税仕入れに係る支払対価は、本件各住宅貸付けに係る原価をも構成しているのであって、原告の主張には理由がない。
   また、原告は、平成元年9月発行の「回答実例 消費税質疑応答集」(前国税庁消費税課の職員が編者となっている。以下「平成元年発行質疑応答集」という。)において、販売目的で取得した土地を資材置場として利用している場合の造成費の用途区分については、最終的な目的が販売であることを理由として「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると判断されていると主張する。しかしながら、当該事例は、造成費の支出が行われた日には、その造成が行われた土地は、将来これを宅地として販売することのみが予定され、その後、一時的に資材置場としての使用が開始されたという事例であり、これを前提として、用途区分の判定は、飽くまで課税仕入れが行われた日の状況によって行われるものであり、その後の後発的事象(一時的に資材置場として使用を開始したこと)は、上記の用途区分の判定結果を覆すものではないという趣旨を説明したものであり、原告の主張には理由がない。
(3)原告が本件各課税仕入れと同種又は関連すると指摘する事例について
 原告は、税務当局は、別紙4に記載された複数の事例において、従前から、事業者の課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮していないと主張する。しかし、原告が指摘する事例は、いずれも、税務当局が、事業者の課税仕入れの最終的な目的によって個別対応方式における用途区分の判定を行う取扱いを従前から採用していることを示すものではなく、用途区分の判定に係る原告の主張する解釈を根拠付けるものではない。
 ア 分譲マンション購入費用事例について
  分譲マンション購入費用事例は、事業者が分譲用マンションを買い取り、その後当該分譲用マンションを分譲するまでの間、その一部を一時期賃貸することとした事例であり、本件とは、用途区分の判定時期である課税仕入れの日における対象となる物件の性質(住宅の賃貸の用に供されている部分の有無)が異なることから、原告の主張は前提を誤るものである。
 イ 賃貸中マンション購入費用事例について
  賃貸中マンション購入費用事例については、そもそも当該事例の存否が確認できず、また、仮にそのような質疑回答がされているとしても、結果的に誤ったと思われる個別事案が一つあることを意味するにすぎず、これをもって、その後に行われる課税処分で同様の判断又は処理をすべきことにはならない。
 ウ 土地購入仲介手数料事例について
  土地購入仲介手数料事例については、当該土地の所有権の取得が区分所有となる建物の販売(課税売上げ)と土地の販売(非課税売上げ)の両方に要するものとして、当該土地の所有権の取得に係る仲介手数料が共通課税仕入れに該当する旨の回答がされたものであって、当該土地につき、取得時に賃貸に供されており、賃貸収入があったとしても、このことは上記仲介手数料の用途区分の判定に影響を与えるものではなく、ましてや、事業者の課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行った事例などということはできないことから、原告の主張する解釈の根拠となるものではない。
 エ ガス管移設工事費事例について
  ガス管移設工事費事例における他受工事補償金は、都市ガス供給業者が、下水道事業者又は地下鉄事業者等の求めに応じてガス管を移設する場合に、当該ガス管の移設工事のための費用の補てんとして交付を受けるもの(不課税取引)であって、事業者(都市ガス供給業者)がガス管の移設工事を行ったことに対する対価として交付されるものではなく、ガス管の移設工事のための費用の支出を行うことにより事業者において生じた経済的損害を補てんするために交付されるものである。したがって、同事例における他受工事補償金は、事業者が課税仕入れを経た上でその獲得を意図する不動産の転売益や賃料収入とは異なる性質のもので、用途区分の判定において考慮されないのは、課税仕入れの性質からして当然の帰結であることから、同事例は、原告の主張する解釈の根拠となるものではない。
 オ 株式委託売買手数料事例について
  株式委託売買手数料事例における株式取引の委託売買手数料は、一般的に、証券会社に株式などの売買を委託した投資家が、売買が成立した際に当該証券会社に対して支払う手数料であり、当該証券会社から役務の提供を受けたことに対して支払われるものにほかならず、本件各課税仕入れと同列に論じられるものではない。また、配当金の収受は、本件各住宅貸付けに係る賃貸料の収受とは異なり、株式の購入時に確実に予定されているものともいえないのであって、この点においても事案を異にするものであり、いずれにしても原告の主張する解釈の根拠となるものではない。
(4)租税平等主義違反について
 ア ある納税者が課税要件を充足するにもかかわらず、その充足がないものとして課税処分等が行われた場合には、当該課税処分等が租税平等主義に反して違法と評価される可能性があるが、課税要件を充足する納税者について課税処分等が行われることは、租税平等主義の観点に照らして、何ら違法と評価されるべきものではない。
 イ 本件各課税仕入れは個別対応方式における用途区分において共通課税仕入れに該当し、消費税法30条2項1号の課税要件を充足するものであるから、本件各更正処分に何ら租税平等主義に反する違法がないことは明らかである。また、仮に平成23年4月に原告に対して実施された税務調査において、個別対応方式における用途区分についての指摘がされなかったとしても、そのことをもって、税務当局が本件課税仕入れにつき、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると判断していたということはできない。
(5)信義則違反について
 土地購入仲介手数料事例及び株式委託売買手数料事例は、原告が主張するような個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮しないという取扱いを示したものではなく、また、住宅用賃貸部分を含む建物の仕入れを対象とした事例でもないことから、本件課税仕入れの用途区分の判定を示したものではない。
 したがって、本件は、そもそも、信義則が適用されるための大前提である「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示した」との要件を満たさないことから、その余について判断するまでもなく、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存するとは到底認められず、本件各更正処分は信義則に反する違法処分でない。
(原告の主張)
(1)個別対応方式における用途区分の判定は課税仕入れの最終的な目的によって行うべきであること
 ア 個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れの時点における事業者の目的によって行うべきであるところ、課税の累積排除という仕入税額控除の趣旨からすれば、事業者の目的が課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方を含む場合には、事業者がその課税仕入れを行った最終的ないし主たる目的がいずれの取引を行うことにあるのかによって判定すべきであり、事業者が課税資産の譲渡等を最終的ないし主たる目的として行った課税仕入れについては、仮に付随的な目的としてその他の資産の譲渡等が含まれていたとしても、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると解すべきである。
   これをいい換えると、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、直接、間接を問わず、また、現実に譲渡等を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストを構成することが予定されている課税仕入れをいうのであり、より簡潔にいうと、課税仕入れの時点において当該課税仕入れの対価の額が課税資産の譲渡等の原価を最終的に構成することが予定されている課税仕入れをいうものと解すべきである。
 イ 消費税法30条2項1号の用途区分の定めが、同条1項の「課税標準額に対する消費税額」に関する定めに比して非常に簡素であること、用途区分の判定は原則として課税仕入れの時点において行うこととされていること、個別対応方式による仕入税額控除は、昭和62年に国会に提出されて廃案となった売上税法案34条の仕組みをほとんどそのまま踏襲しているにもかかわらず、用途区分については、同法案で「政令で定めるところにより」とされていたのが削除されていることからすると、個別対応方式における用途区分の判定は、一定の割切りをもって捉えた事業者の課税仕入れの目的に基づき行うことが予定されているといえ、ここでいう目的とは、仕入税額控除による課税の累積排除の重要性からすると、事業者の課税仕入れの最終的な目的と解するのが合理的である。
   平成元年発行一問一答集の「問434 『課税資産の譲渡等にのみ要する』ことの意味」における記載を踏まえると、消費税法の立法者は、課税仕入れの対価が「最終的に」課税資産の譲渡等のコストを構成するような課税仕入れをもって「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとの解釈を示していたといえるところ、課税仕入れの時点である課税仕入れの対価が最終的に課税資産の譲渡等のコストを構成することになるか否かは、事業者がその課税仕入れを行った最終的な目的によって判断せざるを得ないから、個別対応方式における用途区分の判定は事業者の課税仕入れの最終的な目的によって行うべきであるという解釈が導き出されることになる。このような解釈は、平成元年発行質疑応答集において、販売目的で取得した土地を資材置場として利用している場合の造成費の用途区分について「販売の目的で取得した土地に行った造成費用ですから、一時的に自社の資材置場として使用しているとしても、『非課税資産の譲渡等にのみ要するもの』となります。」と記載され、「最終的な」という文言は用いられていないものの、最終的な目的が販売であることを理由として「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると判定していること、この解説を受けて作成されたと考えられる、平成2年4月発行の「消費税法取扱通達逐条解説」において「(注)販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる。」と記載され、この説明が現在の消費税法基本通達11-2-15の解説にも引き継がれていることからも明らかである。
 ウ 仮に、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方を目的とする課税仕入れは共通課税仕入れに該当すると解するのが原則であるとしても、課税の累積排除という仕入税額控除の趣旨からすると、当該課税仕入れが課税資産の譲渡等を不可欠の目的とする場合であって、その他の資産の譲渡等の目的が付随的なものかどうか、当該課税仕入れに係る資産又は役務を用いた資産の譲渡等による売上げ全体に占める非課税売上げの割合、その他諸般の事情を考慮し、当該課税仕入れを「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ」と実質的に同視することができるときは、当該課税仕入れは「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することが認められるというべきである。このことは、消費税基本通達11-2-19の趣旨にも合致する。
(2)本件各課税仕入れの最終的な目的は本件各建物の再販売であり、賃貸料の収受はこれに含まれないこと
 ア 賃貸料の収受は本件各課税仕入れの目的に含まれないこと
  原告は、不動産の買取再販売事業を主要な目的とする会社であるところ、本件各建物は、買取再販売のために購入されたもので、賃貸するために購入されたものではない。このことは、原告が、賃貸目的で購入した建物は固定資産に計上して減価償却をしているのに対し、本件各建物については棚卸資産に計上して減価償却をしていないことからも明らかである。
  本件各課税仕入れによって、本件各住宅貸付けにおける賃貸人の地位は法律上当然に原告に承継されており、原告は、賃貸料の収受を認識しながら本件各課税仕入れを行い、実際に賃貸料を収受している。しかしながら、それは飽くまで賃貸人の地位を法律上当然に承継したことに伴う結果にすぎず、これを理由に、原告が賃貸料の収受を意図しており、本件各住宅貸付けが本件各課税仕入れの目的であるというのはおよそ無理があるといわざるを得ない。原告にとってみれば、販売目的で不動産を取得するに当たって、当該不動産が賃貸収入の発生しない住宅用不動産であるか、賃貸収入の発生する投資用不動産であるかは重要でなく、当該不動産の転売によってどれだけの利益を得ることができるかが決定的に重要なのであり、このような経営上の判断を経て取得した不動産の中に、たまたま投資用不動産が含まれている場合があるというのにすぎない。
  被告の主張によると、現に賃貸されている不動産をそのまま取得した場合、常に賃料収入を得ることを意図し、又は目的として当該不動産を取得したと認定されることになるが、例えば、原告が販売用建物を取得した時点で既に転売先との売買契約が締結されているような場合において、転売先への売却完了までに収受する賃料はたまたま収受するものであることは明らかであって、上記認定が常識に照らして不合理であることは明らかである。
 イ 仮に賃貸料の収受が本件各課税仕入れの目的に含まれるとしても、付随的なものにすぎないこと
  本件では、①原告は本件各建物を棚卸資産として計上していること、②原告は、棚卸資産として計上した建物は、できる限り短期間で販売することを事業方針としており、本件各課税期間以前に販売した各建物に関する平均事業期間は7か月以下であること、③本件各住宅貸付けにおける賃貸人の地位は法律上当然に原告が承継せざるを得ないものであり、本件各課税仕入れは、本件各住宅貸付けそれ自体を意図し、又は目的として行われたものではないこと、④本件各建物のうち原告が実際に販売した建物から生じた売上げ全体に占める住宅貸付けに係る売上げの割合はほぼ10%にも満たないことからすれば、仮に本件各課税仕入れの目的に、販売目的だけでなく、本件各住宅貸付けの目的が含まれると考えるとしても、その最終的ないし主たる目的は課税資産の譲渡等である本件各建物の販売であり、本件各住宅貸付けは、飽くまで付随的なものにすぎないことが明らかである。
  また、本件各課税仕入れの最終的ないし主たる目的は本件各建物の販売である以上、本件各建物は棚卸資産として認められ、減価償却をすることはできないのであるから、本件各課税仕入れの対価の額は、最終的に本件各建物の販売の原価を構成することが予定されているといえる。
  したがって、仮に本件各課税仕入れの目的に本件各住宅貸付けの目的が含まれていると考えるとしても、本件各課税仕入れは「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ」に該当するといえ、又は、仮に共通課税仕入れに該当するとしても、「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ」と実質的に同視することができるというべきである。
(3)税務当局は、複数の事例において、個別対応方式における用途区分の判定を課税仕入れの最終的な目的によって行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮していないこと
 税務当局は、消費税基本通達11-2-12、11-2-15において、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの目的により行うことを明らかにしているほか、別紙4に記載された複数の事例において、従前から、事業者の課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮していないのであって、このような取扱いは、消費税法の立法者の意思に沿うものである。このような取扱いに反し、本件各課税仕入れを共通課税仕入れとすることは認められない。
 ア 分譲マンション購入費用事例について
  本件各課税仕入れと同種の課税仕入れである分譲マンション購入費用事例について、国税庁は、平成7年、最終的な目的が販売目的であることに基づき、用途区分を判定する取扱いを各国税局に周知しており、このような取扱いは、国税庁の取扱事例等のデータベース上に、税務当局の職員において閲覧することが可能な状態で保存され、現在まで引き継がれている。
  なお、同事例は、事業者が分譲用マンションを取得する時点において、分譲するまでの間、その一部を一時期賃貸することが予定されていた事案であることは明らかである。
 イ 賃貸中マンション購入費用事例について
  本件課税仕入れである賃貸中マンション購入費用事例について、東京国税局は、平成9年頃、マンション購入に伴い収受する非課税売上げの賃料につき、副次的な対価であるとして、用途区分の判定において一切考慮しない取扱いをしている。このような取扱いは、東京国税局内の取扱事例等のデータベース上に、税務当局の職員において閲覧することが可能な状態で保存されており、現在まで引き継がれていると思料される。
  なお、本件課税仕入れについて税務当局が共通課税仕入れに該当すると判定したのは、国税不服審判所平成24年1月19日裁決(甲29。以下「平成24年裁決」という。)が初めてであると思料される。また、不動産関連事業の会社や税理士等を対象として平成31年3月13日に開催されたセミナーの参加者に対するアンケート結果等によると、本件課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することについて、税務当局の税務調査での対応は区々になっているといえる。
 ウ 土地購入仲介手数料事例について
  国税庁のウェブサイトには、土地購入仲介手数料事例について、副次的に収受する土地の賃料を考慮せず、土地の販売及び建物の販売という事業者の最終的な目的のみを考慮して用途区分の判定をする旨の取扱いが掲載されているところ、このような取扱いは、平成10年発行一問一答にもほぼ同内容で記載されており、課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価を考慮しない取扱いが従前から採用されている。
 エ ガス管移設工事費事例について
  平成10年発行一問一答には、ガス管移設工事費事例について、ガス管移設のための課税仕入れの用途区分の判定において、副次的に収受する他受工事補償金を考慮せず、ガスの供給という最終的な目的のみを考慮して用途区分を判定する取扱いが掲載されている。
 オ 株式委託売買手数料事例について
  国税庁のウェブサイトには、株式委託売買手数料事例について、副次的に収受し得る配当金を考慮せず、株式の売却という最終的な目的のみを考慮して用途区分を判定する取扱いが掲載されているところ、このような取扱いは、平成10年発行一問一答にもほぼ同内容で記載されており、課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価を考慮しない取扱いが従前から採用されている。
(4)本件各課税仕入れを共通課税仕入れに該当すると判定することは租税平等主義に反すること
 ア 各種の租税法律関係において、国民は平等に取り扱われなければならず、合理的な理由の存しない限り、課税の上で同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは状況に応じて異なって、それぞれ取り扱われるべきである。また、租税行政庁が、納税者に有利な解釈・適用を広く一般的に行い、それを是正する措置を採っていない場合に、合理的な理由がないにもかかわらず特定の納税者を不利益に扱うことは、たとえ当該解釈・適用が行政先例法として成立していないとしても、平等取扱原則に反して許されない。
 イ 前記(3)アの分譲マンション購入費用事例、前記(3)イの賃貸中マンション購入費用事例は、税務当局において現在まで引き継がれ、一部の納税者については、その後も本件各課税仕入れと同種の課税仕入れや本件課税仕入れにつき「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとの処理が容認されていたことは明らかであって、このことは、近時の税務調査において、担当調査官は共通課税仕入れとして処理されていないことを理由に否認の対象となる旨指摘したものの、その上司の調査官がその必要はないとして否認されなかった事案があることなどからも認められる。また、前記(3)イのとおり、本件課税仕入れについて税務当局が共通課税仕入れに該当すると判定したのは、平成24年裁決が初めてであると思料され、その後、本件課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することについて、税務当局の税務調査での対応は区々になっているといえる。
  さらに、原告は、平成23年4月にN税務署による税務調査を受け、このとき消費税等については、その還付が多額であることなどを理由に過去3期分が対象とされ、個別対応方式における用途区分についても調査されたが、指摘されたのは本件とは無関係の用途区分の誤りだけであり、本件課税仕入れの用途区分についての指摘はされなかった。
 ウ 以上のとおり、税務当局は、納税者に対する事前の周知等の是正措置を講じることもなく、突如として、これまで容認してきた本件課税仕入れの用途区分に関する消費税法の解釈又は適用を変更し、本件課税仕入れは共通課税仕入れに該当するとして課税処分を進めている。税務当局が、原告以外の一部の納税者との関係では、本件課税仕入れにつき「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとの処理を容認していたことは明らかであって、本件各課税仕入れが共通課税仕入れに該当すると判定して本件各更正処分をすることは、租税平等主義に反する。
  また、税務当局は、土地購入仲介手数料事例、ガス管移設工事費事例、株式委託売買手数料事例といった複数の事例において、課税仕入れの最終的な目的によって用途区分の判定を行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮していないところ、このような用途区分の判定方法は本件各課税仕入れについても妥当すべきものであり、この観点からも、本件各更正処分は租税平等主義に反する。
(5)本件各課税仕入れを共通課税仕入れに該当すると判定することは信義則に違反すること
 税務当局は、土地購入仲介手数料事例、株式委託売買手数料事例において、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行い、課税仕入れに伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮しない取扱いをウェブサイト上の解説で公的見解として表示しており、原告はこれを信頼して、本件各課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するものと判定して税務申告をしてきたものである。それにもかかわらず、税務当局は、上記表示に反して本件各更正処分を行い、これによって原告は経済的不利益を受けたのであり、本件各確定申告について、原告に帰責事由がないことは明らかである。
 これに加えて、本件課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するものとする取扱いは、現在でも国税庁の取扱事例等のデータベース上で引き継がれており、税務当局の間でも本件課税仕入れの用途区分に関する取扱いは区々であることからすると、本件において、租税法規の適用における納税者間の平等、公平の要請を犠牲にしてもなお、本件各更正処分に係る課税を免れしめて原告の信頼を保護しなければ正義に反するといえる特別の事情があるというべきである。
 したがって、仮に本件各課税仕入れが共通課税仕入れに該当するとしても、本件各更正処分は信義則に反する違法な処分として取り消されるべきである。
2 争点2(本件各更正処分が適法である場合、本件各確定申告における申告額が過少であったことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるといえるか)について
(原告の主張)

(1)前記1(原告の主張)(3)アのとおり、国税庁は、平成7年に、分譲マンション購入費用事例において、取得目的が将来的に分譲することにあれば、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとして差支えない旨回答し、また、国税庁作成による「消費税一問一答(平成6年版)」には、「販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置き場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる」と記載されていたことからすれば、国税庁は、従前、個別対応方式における用途区分については、事業者の課税仕入れの最終的な目的により判定することを明らかにしていたということができる(甲18の1・2、22の2参照)。
 このことに加え、貸賃中マンション購入費用事例や、国税庁が、従前、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の意義について、「直接、間接を問わず、また、現実に譲渡を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等をいう」との解釈を明らかにしていたところ、当該解釈に従うと、販売目的で建物を購入するに当たり、販売するまでの間、これを住宅用として賃貸する予定があったとしても、当該建物の購入はその対価の額が最終的に課税資産の譲渡等である販売のコストに入るような課税仕入れに当たることなどからすると、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行う取扱いは、従前、税務当局の課税実務において広く認められていたものである。
 したがって、本件各更正処分は、税務当局が従前認めていた上記取扱いを突如として変更して行ったものであり、近年になって本件と同様の事案で更正処分を受けた者が原告以外にも多数存在することは、税務当局が従前認めていた上記取扱いを近年になって変更したことの証左である。
(2)これらのことからすれば、仮に本件各更正処分が適法であるとしても、原告が本件各課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分していたことは無理からぬところであり、本件における原告の過少申告は、税務当局が従前認めていた課税上の取扱いを突如変更したことにより生じたという点で、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、原告に過少申告加算税を賦課することは不当ないし酷であるというべきである。
  したがって、仮に本件各更正処分が適法であるとしても、原告による過少申告には「正当な理由」があるから、本件各賦課決定処分は取り消されるべきである。
(被告の主張)
 分譲マンション購入費用事例及び賃貸中マンション購入費用事例は、本件各課税仕入れと同種の課税仕入れや本件課税仕入れについて「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分する取扱いが従前より認められてきたことを示すものではなく、土地購入仲介手数料事例、ガス管移設工事費事例、株式委託売買手数料事例は、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的によって行い、課税仕入に伴い副次的に収受する対価をその判定において考慮しない取扱いを採用していることを示すものではない。したがって、これらをもって、原告が主張する取扱いを税務当局が突如として変更したとはいえない。
 むしろ、本件と争点を同一とする国税不服審判所平成17年11月10日裁決(乙14の1)、同平成22年11月8日裁決(乙14の2)、平成24年裁決における、当該用途区分についての処分行政庁の主張は、本件各更正処分の更正の理由と同内容であり、本件課税仕入れに対する用途区分に係る税務当局の解釈が、突如変更されたような事実はない。
 したがって、原告による過少申告に「正当な理由」があるとは認められない。
3 争点3(本件割合は、原告が営む事業の種類又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類に応じ合理的に算定されるものであるか)について
(原告の主張)

(1)消費税法30条3項1号の「合理的に算定される」課税売上割合に準ずる割合について
 個別対応方式においては、仕入れの時点において将来の課税資産の譲渡等に対応すると認められる課税仕入れに係る消費税額についてのみ仕入税額控除が認められているところ、共通課税仕入れに係る控除対象仕入税額については、共通課税仕入れに係る消費税額のうち将来の課税資産の譲渡等に対応する部分を正確に画することができないことから、課税技術上、課税売上割合を用いて計算することとしている。そして、ある共通課税仕入れに係る消費税額のうち将来の課税資産の譲渡等に対応する部分を課税売上割合よりも合理的に算定できる割合がある場合には、これを用いることを認めるべきであるところ、消費税法30条3項は、当該割合を課税売上割合に準ずる割合として、課税売上割合に代えて用いることを認めるものである。
 そうすると、事業者が、課税売上割合に準ずる割合として承認を受けようとする割合が「当該事業者の営む事業の種類又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類に応じ合理的に算定されるものである」か否かは、単に当該割合自体が合理的に算定されるものか否かの問題ではなく、当該割合が、当該事業者の事業の種類又は同割合を適用しようとする共通課税仕入れの種類に応じて、その共通課税仕入れに係る消費税額のうち将来の課税資産の譲渡等に対応する部分を課税売上割合よりも合理的に算定できる割合であるか否か、いい換えると、当該割合が、その共通課税仕入れに係る消費税額のうち将来の課税資産の譲渡等に対応する部分を課税売上割合よりも正確ないし適切に算定できる割合であるか否かによって判断することになる。
(2)本件割合について
 ア まず、原告の不動産買取再販売事業は、建物とその敷地を併せて購入し、これらを併せて販売するものであるところ、建物とその敷地の双方の購入に関係する費用(例えば、販売用不動産購入時の仲介手数料や登記費用等のほか販売費及び一般管理費)は、土地及び建物の双方の販売に関する費用を構成するのに対し、住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入代金は、建物の販売等に関する費用ではあるが、非課税取引である土地の販売等に関する費用を構成するものではない。そうすると、住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入に係る控除対象仕入税額を計算するに当たって、非課税取引である土地の販売による売上げを反映した課税売上割合を適用することは、原告の不動産買取再販売事業の実態を反映しないものであって、著しく不合理である。他方で、それ以外の建物及びその敷地の双方の購入に係る控除対象仕入税額については、課税売上割合を適用することに不都合はない。
   したがって、住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入に係る控除対象仕入税額についてのみ課税売上割合に準ずる割合を適用することとし、その他の共通課税仕入れに係る控除対象仕入税額に課税売上割合を適用することには合理性が認められる。
 イ 次に、住宅用賃貸部分を含む販売用建物によって得られる売上げには、①同建物の転売による売上げ、②同建物の一部について事業用賃貸による売上げ、③同建物の全部又は一部の住宅用賃貸による売上げがあるところ、課税売上割合に準ずる割合については、本来は、当該課税期間中に購入した住宅用賃貸部分を含む販売用建物から得られる上記①~③の各売上高の合計額(上記②③については、購入してから転売するまでの間の総額)を用いることが最も望ましいといえる。しかしながら、原告は、特定の課税期間中に購入した住宅用賃貸部分を含む販売用建物を当該課税期間中に全て転売することができるわけではなく、また、全ての転売が完了する時期等も当該課税期間の終了時点では不明であることから、このような方法によることは不可能である。他方で、当該課税期間中に転売した住宅用賃貸部分を含む販売用建物から得られた上記①~③の各売上高は、住宅用賃貸部分を含む販売用建物から得られる上記①~③の各売上げの最も直近の状況を反映したものであるから、これらを用いて、当該課税期間中に購入した住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入に係る消費税額についての課税売上割合に準ずる割合を算出することは、非常に合理的かつ実際的といえる。なお、原告の平成25年から平成28年までの各課税期間において、本件割合(上記①~③の各売上高の合計額に占める上記①②の合計額の割合)はいずれも9割前後であるのに対し、課税売上割合はいずれも4割前後であり、住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入に係る控除対象仕入税額については、本件割合の方が、課税売上割合よりも合理的に算定できることは明らかである。
   また、本件割合を承認することにより課税上の弊害が発生することはなく、仮に本件割合が承認された後にこれを用いることを不適当とする特別の事情が生じた場合には、税務署長はこれを取り消すことができるのであるから(消費税法施行令47条3項)、事後的に生じた弊害発生に対処することも可能である。
 ウ 以上を踏まえて、原告は、本件課税仕入れに係る控除対象仕入税額の計算における消費税法30条3項の課税売上割合に準ずる割合について、本件割合によって計算するものとする本件承認申請をしたものであり、本件割合は、原告の不動産買取再販売事業に係る費用の種類の一つである住宅用賃貸部分を含む販売用建物の購入代金の性質等に応じて合理的に算定されるものであるから、消費税法30条3項1号の要件を充足する。
(3)被告の主張に対する反論
 ア 被告は、消費税法30条3項1号にいう「合理的に算定される」課税売上割合に準ずる割合とは、当該課税期間の状況を示す数値を用いた計算方法によるものである必要があると主張するところ、確かに、同条6項において、課税売上割合は、これを適用しようとする課税期間における課税売上高と非課税売上高によって計算するものとされている。
 イ しかしながら、消費税法は、税負担の累積を防止するために、課税仕入れに係る消費税額のうち課税資産の譲渡等のために必要となるものについて、課税資産の譲渡等に係る消費税額から控除するものとしているところ、共通課税仕入れに係る消費税額については、課税資産の譲渡等のために必要となる部分を正確に画することが難しいことから、便宜上、上記方法により計算される課税売上割合によって控除対象仕入税額に算入すべき消費税額を計算することとしているにすぎない。したがって、課税売上割合がその割合を適用しようとする課税期間における課税売上高と非課税売上高によって計算されるからといって、課税売上割合に準ずる割合について、常にこれを適用しようとする課税期間の状況を示す数値のみにより算定しなければならないとする合理的な理由は何ら存在せず、消費税法30条3項1号にも規定されていない要件を充足しなければならないとすることは、租税法律主義に明確に反する。
   また、課税実務においては、ある課税期間にたまたま土地の譲渡があったことによって課税売上割合が減少する場合には、当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合又は当該土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合のいずれか低い割合を課税売上割合に準ずる割合として承認する取扱いが認められているところ、このことからしても、課税売上割合に準ずる割合はこれを適用しようとする課税期間の状況を示す数値により算定すべきであるとの被告の主張は、課税実務を否定するに等しい自己矛盾の主張であって、理由がない。
 ウ ところで、本件割合以外の課税売上割合に準ずる割合の現実的な算定方法としては、実際の販売の有無にかかわらず、各課税期間において住宅用賃貸部分を含む販売用建物から生み出された上記(2)イ①~③の各売上げに基づき、上記(2)イ①~③の各売上高の合計額に占める上記(2)イ①②の合計額の割合(売上げ全体に占める課税売上げの割合)を算定する方法が考えられ、このような方法は、被告の主張に沿うものといえる。
   しかしなから、原告が購入した住宅用賃貸部分を含む販売用建物から将来的に生み出される可能性のある売上げ全体に占める課税売上げの割合を算定するに当たっては、課税期間単位の割合のように各課税期間における売上げを機械的に用いて算定するよりも、賃貸のみならず、販売による売上げを生み出した住宅用賃貸部分を含む販売用建物に関する売上げを用いて算定する方が、その状況をより適切に反映することができるため、合理的といえる。なお、原告の平成25年から平成28年までの各課税期間について、このような課税期間単位の割合を計算すると、各課税期間における本件割合とほぼ同じ9割前後であるところ、このことは、原告のように住宅用賃貸部分を含む販売用建物を購入し、できる限り短期間で販売するという事業を複数年にわたり継続する場合、双方の割合にほとんど差が生じないことを示しており、このことからしても、本件割合がこれを適用しようとする課税期間の状況を示す数値により算定されていないことをもって、「合理的に算定される」ものでないなどといえないことは明らかである。
 エ 仮に、被告が主張するように、課税売上割合に準ずる割合は、これを適用しようとする課税仕入れを行った日の属する課税期間の状況を示す数値により原則として算定すべきであると解するとしても、その例外が一切認められないと解することはできないのであって、本件割合は、消費税法30条3項1号の「合理的に算定される」との要件を充足する。
(被告の主張)
(1)消費税法30条3項1号の「合理的に算定される」課税売上割合に準ずる割合について
 課税売上割合は、課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうち、課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合によって算出されるものであるところ(消費税法30条6項、消費税法施行令48条)、課税売上割合の計算は、事業者のその課税期間中の国内における売上げの全てを基準として行われるものであることから、課税売上割合により計算した控除の対象となる金額が、事業者の事業の実態を適正に反映しない場合がある。そこで、消費税法30条3項において、課税対象となる売上げの額と非課税となる売上げの額の合計額のうちに課税対象となる売上げの額の占める割合を示すもの(課税売上割合に準ずる割合)として、事業の種類又は費用の種類に応じて合理的に算定される割合がある場合には、当該割合を課税売上割合に代えて用いることを認めている。
 そして、共通課税仕入れについては、当該課税期間中の課税対象となる売上げの額と非課税となる売上げの額の合計額のうちに前者の占める割合(課税売上割合)に応じて、控除対象仕入税額が算出されるという仕組みとなっており、課税売上割合が課税期間の状況を示す数値(金額)により算定するものとされていること(消費税法30条2項、6項)からすれば、課税売上割合に代えて用いられる課税売上割合に準ずる割合(同条3項)についても、その課税仕入れを行った日の属する課税期間の状況を示す数値(金額)により算定される必要がある。
 以上によると、消費税法30条3項1号にいう「合理的に算定される」課税売上割合に準ずる割合とは、少なくとも①その事業者の営む事業の種類又は費用の種類に応じて算出されるものであること、②課税売上割合の計算方法に準じた方法により算定されるもの(当該課税期間の状況を示す数値を用いた計算方法によるもの)であることのいずれも満たす割合である必要がある。
(2)本件割合について
 本件割合には、適用される課税期間において収受する各住宅用賃貸部分を含む建物の貸付けに係る対価の額の一部が含まれておらず、その一方で、当該課税期間より前の課税期間において収受する貸付けに係る対価の額の一部が含まれている。したがって、本件割合は、住宅用賃貸部分を含む建物に係る売上げの額の当該課税期間における状況を示す数値(金額)に基づき算定されるものとはいえず、本件割合は、消費税法30条3項1号の要件を充足する「合理的に算定される」ものとは認められない。

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