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解説記事2021年09月06日 ニュース特集 「著作権の提供」に対するCFC税制の適用リスク(2021年9月6日号・№896)

ニュース特集
サンリオ一審判決では判断示されず、“広範な解釈”が既成事実化も
「著作権の提供」に対するCFC税制の適用リスク


 既報のとおり、国が株式会社サンリオの香港子会社に対してCFC税制による課税を行った事件について、東京地裁は令和3年2月26日、課税処分を認める判決を下したが、この判決をきっかけに、企業や実務家の間で「著作権の提供」に対するCFC税制の適用リスクが高まることへの懸念が広がっている。判決では、サンリオの香港子会社の主たる事業が「著作権の提供」に当たるのか否かについて一切判断を示さなかったからだ。その結果、この事件において国が「著作権の提供」の範囲を非常に広く解釈して課税を行ったということが既成事実化し、今後、同様の課税が一般的に行われるようになるおそれもある。こうした中、企業や実務家からは、国が裁判で主張した解釈が正しいのか否かということについて明確な答えを望む声が上がっている。

「提供」の範囲を、「譲渡」「貸与」「使用許諾」「等」まで拡大

 サンリオ(原告)の香港子会社がCFC税制の適用除外要件(事業基準)を満たすか否かが争われた裁判で東京地裁は、原告が確定申告書に適用除外記載書面を添付しなかった事実を捉え、適用除外規定の適用を受けることはできないとして原告の請求を棄却しており、香港子会社の主たる事業が「著作権の提供」に該当するか否かという注目の争点については判断を示さなかった(本誌878号40頁参照)。これを受け企業や実務家の間で懸念が広がっているのが、この事件で国が「著作権の提供」の範囲を非常に広く解釈して課税を行ったということの“既成事実化”だ。
 「著作権の提供」の解釈に関する国の主張は次のとおり(判決より引用)。

事業基準における「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の提供」とは、著作権法上の著作権並びに出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものに位置づけられる各種権利について、譲渡、貸与、使用許諾等をすることにより、他人の用に供すること、他人が利用できる状態にすることをいうと解するのが相当である。

 国は、香港子会社の主たる事業が租税特別措置法66条の6第2項3号イ(事業基準)に規定する「著作権の提供」に当たるか否かについて、「著作権の提供」の範囲を非常に広く解釈し、香港子会社の主たる事業が「著作権の提供」に当たると主張している。この解釈は、「提供」の範囲を、「譲渡」「貸与」「使用許諾」「等」まで拡大したものである。

「貸与」や「使用許諾」という用語は租税関係法規に存在せず

 しかし、租税特別措置法においては、資産に関する行為について、「資産の運用、保有、譲渡、貸付けその他の行為」というように、「運用」「保有」「譲渡」「貸付け」と「その他の行為」を区別して捉えることが事実上のルールとなっていると言える。
 この「資産の運用、保有、譲渡、貸付けその他の行為」という文言は、現行租税特別措置法中、12か所にあり、本訴で問題となった同法66条の6第6項7号でも用いられている。一方、上記の国の主張で使われた「貸与」や「使用許諾」という用語が租税関係法規で用いられている例はない。
 「著作権」についても、例えば法人税法施行令5条(収益事業の範囲)1項33号は「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の譲渡又は提供」と規定しており、「著作権」の「譲渡」と「提供」は異なるものとされている。
 原告も、租税特別措置法66条の6第2項3号イの「提供」は「譲渡」と「使用許諾」であると主張しているが、この「提供」には「譲渡」が含まれるのか、また、「貸与」や「使用許諾」は「貸付け」と同義と捉えてよいのか、さらに、「等」がどのようなものを指すのかはいずれも不明である。
 このような状況の中、「著作権の提供」の範囲が非常に広いものとなるおそれがある。

僅かでも「著作権の提供」があれば「事業」と捉えられてしまう可能性

 もう一つの問題は、国が「主たる事業」の中の「事業」の範囲を非常に広く解釈していることだ。これに伴い、「主たる事業」の範囲も非常に広いものとなるおそれがある。
 国の主張は次のとおりとなっている。

「事業」とは、企業による個々の経済的行為を指すのではなく、企業全体を通じて有機的な一体としての経済活動を意味すると解され、その関連する業務も含まれ、ある業務が当該「事業」に含まれるか否かは、当該「事業」とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するか否かによって判断されるべきである。

 このように、租税特別措置法66条の6第2項3号イに規定する「主たる事業」の中の「事業」を、「企業全体を通じて有機的な一体としての経済活動を意味する」、あるいは「関連する業務も含まれ〔る〕」と考えると、僅かでも「著作権の提供」があれば、それに関連するものの全体が「著作権の提供」の「事業」と捉えられてしまうおそれがある。
 租税特別措置法では「関連する」という文言が数多く使われているが、「関連する」という文言は、問題となっている事柄そのものを含まないため、例えば同法66条の6第6項1号ロにおいて「事業(自ら採取した化石燃料に密接に関連する事業を含む。)」とされているように、いずれも「……に関連する……を含む」との規定振りとなっている。
 しかし、租税特別措置法66条の6第2項3号イに規定する「主たる事業」には、「関連する」という文言は用いられていない。このため、国が主張するように租税特別措置法66条の6第2項3号イに規定する「事業」に「関連する業務も含まれ〔る〕」と解釈すること対し専門家から疑問の声も聞かれる。
 また、上記のとおり国は、「当該「事業」とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するか否かによって判断されるべき」と主張しているが、その判断を納税者、国のいずれが行うのかによって結論が異なる可能性がある。

専門家からは「従来の解釈とは異なる」との指摘

 国が主張した上記解釈に対しては、専門家から「従来の国の解釈と明らかに異なる」との指摘もなされている。
 裸用船と定期用船・航海用船は、いずれも「船舶の貸付け」を行うものという点では何ら変わらないものの、裸用船のみが租税特別措置法66条の6第2項3号イの「船舶の貸付け」に該当し、定期用船・航海用船は同号イの「船舶の貸付け」には該当しない(措通66の6−15)とされていることが示すように、従来、同号イの事業基準の定めは非常に限定的に解釈されてきた。これは、事業基準とは、それを充たさないものについてその他の基準による適用除外の判定を行うことを入り口で排除して課税を行うという厳しい基準であるためだと考えられる。専門家からは、事業基準は他の適用除外基準とは異なり「抑制的に」使用するべきとの意見が聞かれる。
 しかし、サンリオ事件で国が主張した解釈は、上述のとおり、「著作権の提供」と「主たる事業」のいずれについても、その範囲が非常に広くなる可能性があるものとなっている。この解釈に対し、CFC税制の創設当時の事業基準の解釈とは明らかに異なるとの指摘が出るのは必然とも言えよう。
 CFC税制の創設当時、大蔵省主税局の職員が執筆した『タックス・ヘイブン対策税制の解説』(清文社)には次の記述がある。

ただ単に軽課税国に所在するという理由だけで正常な事業活動を営むものまでも本税制の対象とするのは適当ではない、と考えられた。(129頁)

 突き詰めれば、サンリオ事件で最も注目されるのは、サンリオの香港子会社が「正常な事業活動を営むもの」ではなかったと言えるのかということであるとの見方もできる。仮に「正常な事業活動を営むもの」ではなかったということになれば、同様の課税を受ける事例が他にも出てくる可能性は十分にある。

日本企業によるコンテンツビジネスの海外展開の障害となるおそれ

 CFC税制において事業基準を広く解釈するということになれば、今後日本企業がコンテンツビジネスを海外展開する上で大きな障害となるおそれがある。
 みずほ銀行、サンリオと、外国子会社合算税制による課税事件の納税者敗訴判決が続いたことも手伝って、企業や実務家からは、国税当局が従来の「著作権の提供」の解釈を変更して課税を強化するという流れになりかねないとの懸念とともに、サンリオ事件で国が主張した解釈が正しいのか否か、明確な答えを望む声が上がっている。

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