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解説記事2021年09月06日 特別解説 収益認識に関する会計基準(早期適用企業が行った開示例)(2021年9月6日号・№896)

特別解説
収益認識に関する会計基準(早期適用企業が行った開示例)

はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、2018年3月30日に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、以下の企業会計基準及びその適用指針を公表した。
・企業会計基準第29号
 「収益認識に関する会計基準」(以下「2018年会計基準」という。)
・企業会計基準適用指針第30号
 「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「2018年適用指針」という。また、「2018年会計基準」と「2018年適用指針」を合わせて「2018年会計基準等」という。)。
 2018年会計基準においては、注記について、2018年会計基準を早期適用する場合の必要最低限の注記(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみ定め、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が強制適用される時点(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、注記事項の定めを検討することとしていた。これを受けてASBJではさらに2年間にわたって審議を継続し、2020年3月31日に、改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を公表した(以下「改正会計基準等」という。)。
 なお、改正会計基準等は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされ、早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準等を適用することができるとされた。
 本稿では、我が国における改正収益認識会計基準等の強制適用に先立ち、早期適用した会社が2021年3月期の有価証券報告書において行った開示を紹介することとしたい。これまでに適用してきた会計基準との差異を際立たせるため、早期適用の事例として紹介する各社は、いずれも、国際財務報告基準(IFRS)を任意適用する企業ではなく、日本の会計基準を適用する企業を選んでいる。

改正会計基準が要求する開示

 改正会計基準等では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記することとされた。
(1)企業の主要な事業における主な履行義務の内容
(2)企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
 また、改正会計基準等では、開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、次の項目を示すこととされた。
(1)収益の分解情報
(2)収益を理解するための基礎となる情報
 ① 契約及び履行義務に関する情報
 ② 取引価格の算定に関する情報
 ③ 履行義務への配分額の算定に関する情報
 ④ 履行義務の充足時点に関する情報
 ⑤ 本会計基準の適用における重要な判断
(3)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
 ① 契約資産及び契約負債の残高等
 ② 残存履行義務に配分した取引価格
 以後では、重要な会計方針及び収益認識に関する注記について、実際の開示例を紹介することとしたい。

早期適用企業(日本の会計基準を適用する企業)が行った開示例

 「はじめに」にも記載した通り、収益認識に関する会計基準等の注記は、まず2018年会計基準において、同会計基準を早期適用する場合の必要最低限の注記(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみを定め、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が強制適用される時点(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、フルセットの注記事項を開発するという2段階の開発アプローチがとられた。 
 そのため、本稿で紹介する事例には、改正会計基準等を早期適用してフルセットの開示を行った企業(2021年3月期決算の企業)と、2018年会計基準等を早期適用して注記を行った企業の両方が含まれている。本稿では、改正会計基準等に基づく2021年3月期の企業の開示を優先的に取り上げてはいるが、2018年会計基準を早期適用した企業の履行義務の内容や収益を認識する通常の時点に関する注記の中にも充実した興味深い事例が少なからず見られることから、それらも合わせて紹介している。
(1)2018年会計基準等に基づく開示 主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点に関する開示

(オープンハウス 業種:不動産業 2020年9月期)
 当社グループの主要な事業における主な履行義務の内容及び収益を認識する通常の時点は以下の通りであります。
(1)戸建関連事業
 ① 戸建住宅及び宅地の販売

 一戸建住宅及び宅地の販売は、用地の仕入から造成、企画、設計、施工までを自社一貫体制にて行った戸建住宅(土地付き建物)及び宅地を一般消費者へ販売する事業であり、顧客との不動産売買契約に基づき当該物件の引き渡しを行う義務を負っております。
 当該履行義務は物件が引き渡される一時点で充足されるものであり、当該引渡時点において収益を計上しております。
 ② 注文住宅の請負
 注文住宅の請負は、規格型注文住宅及び自由設計注文住宅の建築工事を請け負う事業であり、顧客(一般消費者及び法人)との建物請負工事契約に基づき、建築工事を行う義務を負っております。
 当該建物請負工事契約においては、当社グループの義務の履行により資産(仕掛品)が創出され又は増価し、資産の創出又は増加につれて顧客が当該資産を支配することから、当該履行義務は一定期間にわたり充足される履行義務であり、契約期間にわたる工事の進捗に応じて充足されるため、工事の進捗度に応じて収益を計上しております。また、進捗度の測定は、発生原価が履行義務の充足における企業の進捗度に寄与及び概ね比例していると考えられることから、発生原価に基づくインプット法によっております。
 ただし、建物請負工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識しております。
 ③ 不動産仲介手数料
 不動産の仲介は、不動産の売買の際に、買主と売主の間に立ち、売買契約を成立させる事業であり、顧客との媒介契約に基づき取引条件の交渉・調整等の契約成立に向けての業務、重要事項説明書の交付・説明、契約書の作成・交付及び契約の履行手続への関与等の一連の業務に関する義務を負っております。
 当該履行義務は媒介契約により成立した不動産売買契約に関する物件が引き渡される一時点で充足されるものであり、当該引渡時点において収益を計上しております。
(2)マンション事業
 マンションの分譲販売

 マンションの分譲販売は、用地の仕入から施工までを行ったマンションの各分譲住戸を主に一般消費者へ販売する事業であり、顧客との不動産販売契約に基づき当該物件の引渡しを行う義務を負っております。
 当該履行義務は物件が引き渡される一時点で充足されるものであり、当該引渡時点において収益を計上しております。
(3)収益不動産事業
 収益不動産の販売

 収益不動産の販売は、賃貸マンション、中古オフィスビル等を取得し、リーシング並びにリノベーション等により資産価値を高めた後、投資用不動産として個人及び事業会社等に販売する事業であり、顧客との不動産売買契約に基づき当該物件の引き渡しを行う義務を負っております。
 当該履行義務は物件が引き渡される一時点で充足されるものであり、当該引渡時点において収益を計上しております。

 戸建て、マンション、収益用不動産の販売等、不動産を幅広く取り扱っている企業にとっては参考になる部分が多い事例ではないかと考えられる。
 次に、保険業を中心に事業を営んでいるアドバンスクリエイトが行った開示を紹介する。

(アドバンスクリエイト 業種:保険業 2020年9月期)
 当社グループは、保険代理店事業、ASP事業、メディア事業、メディアレップ事業及び再保険事業を展開しております。各事業における主な履行義務の内容及び収益を認識する通常の時点は以下のとおりであります。
 保険代理店事業においては、保険会社との保険代理店委託契約に基づき、保険契約の締結の媒介及び付帯業務を行っております。通常、保険契約が有効となった時点で主な履行義務が充足されることから、当該履行義務を充足した時点で、顧客との契約から見込まれる将来代理店手数料の金額を収益として認識しております。
 ASP事業においては、クラウドサービスの販売を行っております。ライセンスの販売による収益は、顧客において使用可能となった時点で計上しております。クラウドサービスの提供による収益は、顧客との契約における履行義務の充足に伴い、一定期間にわたり収益を認識しております。
 メディア事業においては、主に保険選びサイト「保険市場」を媒体としたWebプロモーションその他広告業務の提供を行っております。通常、成果物の納品又は役務の提供により主な履行義務が充足されることから、当該履行義務を充足した時点で収益を認識しております。
 再保険事業においては、当社が保険代理店として獲得した保険契約について、保険会社各社から再保険としてAdvance Create Reinsurance Incorporatedに出再いただき、その保険リスクの一部を引き受けております。通常、保険会社各社との契約における履行義務の充足に伴い、一定期間にわたり収益を認識しております。

(2)会計方針の変更 収益認識会計基準適用による主な変更点に関する開示
(ヤオコー 業種:小売業 2021年3月期)

 ヤオコーは、埼玉県を中心にスーパーマーケットを展開しているが、収益認識会計基準を早期適用するとともに、質量ともに充実した開示を行っていた。

① 代理人取引に係る収益認識
 消化仕入にかかる収益について、従来は、顧客から受け取る対価の総額で収益を認識しておりましたが、顧客への財又はサービスの提供における役割(本人または代理人)を判断した結果、総額から仕入先に対する支払額を差し引いた純額で収益を認識する方法に変更しております。なお、当該収益を営業収入に計上しております。
② 自社ポイント制度に係る収益認識
 当社は、ヤオコーカードによるカスタマー・ロイヤルティ・プログラムを提供しており、会員の購入金額に応じてポイントを付与し、500ポイントごとに500円分のお買い物券を発行しております。従来は、付与したポイントの利用に備えるため、将来利用されると見込まれる額をポイント引当金として計上し、ポイント引当金繰入額を売上高から控除しておりましたが、付与したポイントを履行義務として識別し、将来の失効見込み等を考慮して算定された独立販売価格を基礎として取引価格の配分を行う方法に変更しております。
③ 商品券に係る収益認識
 当社が発行している商品券の未使用分について、従来は、一定期間経過後に収益に計上するとともに、将来の使用に備えるため、商品券回収損引当金を計上しておりましたが、顧客が権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識する方法に変更しております。なお、当該収益は、従来の営業外収益に計上する方法から、営業収入に計上する方法に変更しております。

(NOK 業種:輸送用機器 2021年3月期)
 有償支給は我が国の製造業において幅広く見られる慣行であり、収益認識会計基準の新規適用により今後はどのように取扱いが変わるのか注目されていた。NOKの事例は、参考となる有用な事例と思われる。

 収益認識に関する会計基準を適用したことにより、従来通関時若しくは販売代金(対価)の回収期間にわたり収益認識しておりました製品販売の一部について、当該製品の支配が顧客に移転した一時点で収益を認識する方法に変更しております。
 また、顧客への製品の販売における当社の役割が代理人に該当する取引について、従来顧客から受け取る対価の総額を収益として認識しておりましたが、当該対価の総額から第三者に対する支払額を差し引いた純額を収益として認識する方法に変更しております。
 さらに、買戻し契約に該当する有償支給取引については、金融取引として有償支給先に残存する支給品について棚卸資産を引き続き認識するとともに、有償支給先に残存する支給品の期末棚卸高相当額について「有償支給取引に係る負債」を認識しております。有償受給取引については、従来有償支給元への売り戻し時に売上高と売上原価を計上しておりましたが、加工代相当額のみを純額で収益として認識する方法に変更しております。

(3)改正会計基準が要求する開示 収益の分解情報、収益を理解するための基礎となる情報、及び当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報に関する開示
 メカニカルシールや特殊バルブ等を製造・販売するイーグル工業は、セグメント情報と同様の要領で、収益の分解情報を作成していた。

(イーグル工業 業種:機械 2021年3月期)
1. 顧客との契約から生じる収益を分解した情報

 顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係並びに当連結会計年度末において存在する顧客との契約から翌連結会計年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報
 契約負債は、主に顧客からの前受金に関するものであり、収益を認識する際に充当され残高が減少いたします。当連結会計年度の期首における残高は424百万円であります。
 当連結会計年度に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額は、317百万円であります。

(ヤオコー)
1. 収益の分解情報

 当社グループは、スーパーマーケット事業を営む単一セグメントであり、主要な顧客との契約から生じる収益を分解した情報は、以下のとおりであります。

2. 収益を理解する基礎となる情報
 当社の販売(売上高)は、主にスーパーマーケット各店における食品や日用品等の商品売上からなります。これらの収益は、商品を顧客に引き渡した時点で履行義務が充足されると判断し、当該時点で収益を認識しております。代金は、商品引渡し時点を中心に、概ね1か月以内に受領しております。
 その他(営業収入)は、主に仕入先に代わり商品供給を行うことによる配送代行収入、当社グループの店舗及びショッピングセンターへのテナント誘致に伴う不動産賃貸収入等からなります。これらの収益は、利用に応じて履行義務が充足されると判断し、サービスを提供した時点で収益を認識しております。代金は、取引先との契約に基づき、概ね1か月以内に回収しております。

3. 当連結会計年度及び翌連結会計年度以降の金額を理解するための情報
(1)契約負債の残高
 顧客との契約から生じた契約負債の期首残高及び期末残高は、以下のとおりであります。

 連結貸借対照表上、契約負債は「その他の流動負債」に計上しております。契約負債は、当社が付与したポイント及び発行した商品券のうち、期末時点において履行義務を充足していない残高であります。 
 当連結会計年度において認識した収益のうち、期首の契約負債残高に含まれていたものは、1,924百万円であります。
(2)残存履行義務に配分した取引価格
 2021年3月31日現在、商品券に係る残存履行義務に配分した取引価格の総額は549百万円であります。当社は、当該残存履行義務について、商品券が使用されるにつれて今後1年から10年の間で収益を認識することを見込んでいます。
 なお、当初の予想期間が1年以内の契約であるものについては、実務上の便法を適用し、記載を省略しております。

終わりに

 21世紀に入ってから企業結合、金融商品、リース等、様々な種類の企業取引に係る会計基準を世界的に収斂させる動きが続き、我が国の会計基準も毎年のように大きな変化を遂げてきた。今回の収益認識に関する会計基準の適用は、それらの変化の総仕上げともいえるものであろう。複雑な金融商品を保有していたり、企業結合を実施したりするような企業はごく一握りの大企業だけ、ということも言えようが、収益認識と無関係な企業はほぼ皆無であろう。収益認識に関する会計基準が適用されることによる影響やその裾野の広さは、金融商品や企業結合等とは比べ物にならないと思われる。
 これまでわが国は、収益認識に関する包括的な会計基準が存在しないとずっと言われてきたが、今年度から、世界的な会計基準とも整合的な新会計基準が全ての企業に適用されることとなった。経理部門に限らず、営業部門等も含めて現場の負担は大きいであろうが、本稿でも紹介したような早期適用事例に学びつつ、円滑な適用が進むことを期待したい。

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