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解説記事2021年09月20日 未公開判決事例紹介 コインパーキング事業者に土地賃貸した場合の事業税(2021年9月20日号・№898)

未公開判決事例紹介
コインパーキング事業者に土地賃貸した場合の事業税
東京地裁、駐車場業に該当せず課税処分取消し

 本誌875号40頁で紹介した事業税賦課処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○コインパーキング事業者に土地を賃貸した個人への個人事業税課税の是非が争われた事件。東京地裁は令和3年3月10日、原告が「駐車場業」を行う者であると認めることはできないと判断し、東京都の個人事業税賦課決定処分を取り消した(令和元年(行ウ)第450号)。なお、東京高裁も原審の東京地裁を支持する判決を8月26日に下している(本誌896号7頁参照)。東京都は土地を駐車場用地として貸し付けている場合も「駐車場業」に含まれると主張していたが上告を断念した(今号40頁参照)。同様の課税実務を行う道府県も多いとされるだけに今後の課税実務への影響が注目される。

主  文

1 処分行政庁が、原告に対し、平成30年11月1日付けでした平成28年分個人事業税賦課決定処分及び平成29年分個人事業税賦課決定処分並びに令和元年8月1日付けでした平成30年分個人事業税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、所有する土地を訴外A産業株式会社(以下「訴外A社」という。)に貸し付けて同社の運営する駐車場用地として使用させている原告が、平成28年分から平成30年分までの所得税及び復興特別所得税につき、上記土地の賃料収入を不動産所得として確定申告をしたところ、処分行政庁から、原告は個人事業税の課税対象となる「駐車場業」を行う者に該当するとして、平成28年分から平成30年分までの各個人事業税賦課決定処分を受けたことから、原告は訴外A社に上記土地を貸し付けているにすぎず、駐車場業を行っていないなどと主張して、上記各個人事業税賦課決定処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
(1)地方税法

ア 地方税法72条の2第3項は、個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第1種事業、第2種事業及び第3種事業に対し、所得を課税標準として、事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する旨規定し、同条7項は、事務所又は事業所を設けないで行うこれらの事業については、その事業を行う者の住所又は居所のうちその事業と最も関係の深いものをもって、その事務所又は事業所とみなして、事業税を課する旨規定する。
  なお、地方税法734条1項により、東京都の特別区の存する区域においては、東京都が事業税を課するものとされている。
イ 地方税法72条の2第8項は、第1種事業として、「不動産貸付業」(4号)、「倉庫業(物品の寄託を受け、これを保管する業を含む。)」(12号)、「駐車場業」(13号)等を掲げている。
ウ 地方税法72条の50第1項本文は、個人の行う事業に対し事業税を課する場合には、当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得のうち所得税法26条及び27条に規定する不動産所得及び事業所得について当該個人が税務官署に申告し、若しくは修正申告し、又は税務官署が更正し、若しくは決定した課税標準を基準として、事業税を課するものとする旨規定する。
(2)地方税法の施行に関する取扱について(道府県税関係)(平成22年4月1日付総税都第16号(全部改正)総務大臣通知。乙1。以下「国取扱通知」という。)
ア 国取扱通知によれば事業を行う個人とは、「当該事業の収支の結果を自己に帰属せしめている…個人をいうものである」とされている(第3章第1節第1の1の5)。
イ 国取扱通知は、駐車場業を「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する事業」と定義した上、「建築物である駐車場を除き、駐車台数が10台以上である場合には、駐車場業と認定すべき」と定めている(第3章第1節第2の2の1(6))。
ウ 国取扱通知は、不動産貸付業を「継続して、対価の取得を目的として、不動産の貸付け(地上権又は永小作権の設定によるものを含む。)を行う事業」と定義している(第3章第1節第2の2の1(3))。
(3)個人事業税課税事務提要(平成24年8月1日付24主課課第153号主税局長通達。乙4、26。以下「都事務提要」という。)
ア 事業の一般的意義について
 都事務提要は、「事業とは、一般に営利又は対価の収得を目的として、自己の危険と計算において独立的に反復継続して行われる経済行為と解される。しかし、事業の意義については地方税法上特段これを定義する規定が設けられていないため、ある経済行為が事業に該当するかどうかの判断は、最終的には法意及び社会通念に照らして行うこととなる」とした上で、「このことは所得税における事業の判断に当たっても同様な事情にあり、多くの判例も、所得税法上の事業に該当するかどうかは社会通念の上にたった法自身の解釈にまつべきものと判示するとともに、判断に当たっては反復継続性、営利性又は対価性、独立性及び社会的客観性を総合的に勘案して行うべき」としている。
イ 駐車場業について
 都事務提要は、駐車場業を「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する事業」と定義した上、その認定基準として、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為で、次に掲げる基準に該当する場合は駐車場業に該当する旨定めている。
(ア)建築物である駐車場
(イ)寄託を受けて保管行為を行う駐車場
(ウ)(ア)(イ)以外で、駐車台数が10台以上である駐車場
 さらに、都事務提要は、留意事項(以下「本件留意事項」という。)として、「賃貸人が駐車設備を何ら施さず、更地を一括して貸し付けている場合で、賃借人が自ら駐車場所として使用している場合又は賃借人が当該土地を用いて駐車場事業を営んでいる場合には、当該土地の貸付けは、駐車場所の提供とみなし認定すべき」とした上、ただし書において、以下の点が認められる場合には、当該貸付けは、非住宅土地の貸付けとして認定すべきものである旨定めている。
(ア)賃借人が当該土地上に建築物を設け、当該建築物内において駐車場を運営している場合
(イ)賃借人が行う駐車場の運営について、賃貸人の関与が一切認められない場合
ウ 不動産貸付業について
 都事務提要は、不動産貸付業を「継続して、対価の取得を目的として、不動産の貸付け(地上権又は永小作権の設定によるものを含む。)を行う事業」と定義した上、その認定基準として、住宅用以外の土地の貸付けについては、原則として、貸付契約件数が10件以上であるものが不動産貸付業に該当する旨定めている。
2 前提事実(当事者間に争いがないか掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告及び関係者等について

ア 原告は、平成14年10月8日、原告の母が所有していた長崎市△△町49番1及び49番2の各土地(以下、併せて「本件土地」という。なお、49番2の土地は、平成24年2月29日、49番1の土地に合筆された。)を相続により取得した。(乙2の1、弁論の全趣旨)
  本件土地上には、当時、有限会社B(以下「訴外B社」という。)が所有する旧料亭B社の建物(以下「B社建物」という。)があった。(甲11、弁論の全趣旨)
イ 訴外B社は、平成14年10月8日当時、原告の母と第三者が持分各2分の1を有していた会社であるが、原告は、原告の母の持分を相続により取得し、その後、上記第三者の持分を買い取った。(弁論の全趣旨)
ウ 訴外A社(所在地・長崎市□□町□番□号)は、建設資材販売、空調設備設置工事等のほか、「○○○24」という名称のコインパーキング式の時間貸駐車場の運営等を主な業務とする株式会社である。(甲17、乙11)
(2)本件土地の賃貸借契約等について
ア 原告は、平成21年頃、自身が代表者となった訴外B社の名義で、訴外A社に対し、B社建物の解体工事とともに、本件土地のアスファルト舗装工事を依頼し、訴外B社は、訴外A社に対し、同年3月頃、代金714万円(解体工事代金556万5000円及びアスファルト舗装工事代金157万5000円の合計額)を支払った。(甲11、弁論の全趣旨)
  訴外B社は、これを機に、遅くとも同年5月頃までに、訴外A社との間で、駐車場経営を目的とする本件土地の賃貸借契約を締結し、本件土地を訴外A社の運営する駐車場用地として使用させるようになった。(甲11、17、乙5の1、22、弁論の全趣旨)
イ 原告は、平成27年3月12日、上記アの賃貸借契約の貸主を訴外B社から原告に切り替える形で、訴外A社と「駐車場用地一時賃貸借契約書」を取り交わし、本件土地を、以下の約定で賃貸するとの賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した上、同年4月1日以降も引き続き訴外A社に駐車場用地として使用させた。(乙3、弁論の全趣旨)
(ア)賃貸借の目的(1条)
 ① 駐車場の経営
 ② 上記目的のための無人時間貸駐車場用機器・飲料等の自動販売機・看板及び電灯の設置
(イ)期間(2条)
  平成27年4月1日から平成30年3月31日までの3年間
  ただし、期間満了の3か月前までに一方から他方に対し契約を更新しない旨の書面による意思表示がない限り、自動的に同一条件で1年間更新される。
(ウ)賃料(3条)
  訴外A社は、1か月37万8000円(消費税相当額を含む。)を、毎月末日までに、翌月分の賃料を原告の指定する口座に送金して支払う。
(エ)苦情等(4条)
  本件土地における駐車場の経営に関し発生する、利用者・近隣住民等からの苦情は、全て訴外A社の責任において処理する。
(オ)契約完了時の措置(9条)
  本件賃貸借契約が終了したときは、訴外A社は直ちに本件土地上に設置した設備、又はその他の物件を撤去した上で、速やかに原告に対し本件土地を明け渡すものとする。本件賃貸借契約終了後、明渡しが実行されないときは、原告は訴外A社が本件土地上に残置した設備機器・付属物を撤去し、処分することができる。原告は撤去に要する相当な金額の費用を訴外A社に請求することができる。
ウ 原告は、平成27年3月31日、訴外B社から、前記アで敷設した本件土地上のアスファルト舗装を、「舗装施設」として、29万5890円で買い受けた。(甲12)
エ 原告と訴外A社は、本件賃貸借契約を更新し、訴外A社は、平成30年4月1日以降も本件土地を駐車場用地として使用している。(弁論の全趣旨)
(3)本件土地上の駐車場の運営状況等について
ア 本件土地は、訴外A社が、約350万円の費用を負担して、ライン引きや車止めの設置等を行った上で、遅くとも平成21年5月頃から、コインパーキング式の時間貸駐車場「○○○24パーキング△△町」(以下「本件駐車場」という。)として使用しており、本件駐車場の駐車台数は10台以上である。(甲17、乙5の1、5の2、6の3、22)
イ 本件駐車場の清掃や集金業務、メンテナンス、クレーム処理等の管理業務は、いずれも訴外A社が行っている。(乙11、弁論の全趣旨)
ウ 本件駐車場の稼働状況には変動があるため、収益にも変動があるが、訴外A社は、原告に対し、毎月約定の賃料37万8000円を支払っている。(甲17、乙3、7の1~8の2)
(4)本件訴訟に至る経緯等について
ア 原告は、平成29年2月14日、S税務署長に対し、平成28年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書B並びに平成28年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)を提出した。
  上記青色申告決算書においては、不動産所得の収入金額として、本件土地の賃貸料月額37万8000円(年額453万6000円)が計上され、不動産所得の必要経費として、減価償却資産を「アスファルト敷」(取得価額29万5890円)とする減価償却費5万9178円等が控除されている。(乙7の1、7の2)
イ 原告は、平成30年2月26日、S税務署長に対し、平成29年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書B並びに平成29年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)を提出した。
  上記青色申告決算書においても、不動産所得の収入金額として、本件土地の賃貸料月額37万8000円(年額453万6000円)が計上され、不動産所得の必要経費として、減価償却資産を「アスファルト敷」(取得価額29万5890円)とする減価償却費5万9178円等が控除されている。(乙8の1、8の2)
ウ 処分行政庁は、平成28年及び平成29年において、原告が「駐車場業」を行う者に該当すると認め、原告に対し、平成30年11月1日付けで、平成28年分の事業所得等に係る個人事業税の賦課決定処分及び平成29年分の事業所得等に係る個人事業税の賦課決定処分(以下、併せて「平成28・29年分賦課処分」という。)をした。(甲1、2、10の2)
エ 原告は、平成28・29年分賦課処分につき、原告は訴外A社に本件土地を貸し付けているにすぎず、駐車場業を行っていないなどと主張して、平成30年11月12日付けで、東京都知事に対し、平成28・29年分賦課処分の各取消しを求める審査請求をした。(甲4)
オ 原告は、平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告においても、前記ア及びイと同様に、本件土地の賃貸料月額37万8000円(年額453万6000円)等を計上した不動産所得を申告した。(甲1~3、乙7の1~8の2、弁論の全趣旨)
カ 処分行政庁は、平成30年においても、原告が「駐車場業」を行う者に該当すると認め、原告に対し、令和元年8月1日付けで、平成30年分の事業所得等に係る個人事業税の賦課決定処分(以下「平成30年分賦課処分」といい、平成28・29年分賦課処分と併せて「本件各処分」という。)をした。(甲3、弁論の全趣旨)
キ 東京都知事は、東京都行政不服審査会への諮問及びその答申を経て、令和元年8月22日付けで、原告に対し、前記エの審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲8の1~10の2)
ク 原告は、令和元年9月5日、本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
3 争点
(1)本案前の争点は、原告が、平成30年分賦課処分に関して、審査請求に対する裁決を経ていないことにつき、「正当な理由がある」と認められるか否かである。
(2)本案の争点は、本件各処分の適法性であり、具体的には、原告が「駐車場業」(地方税法72条の2第3項13号)を行う者に該当すると認められるか否かである。
4 争点に対する当事者の主張
(1)本案前の争点(原告が、平成30年分賦課処分に関して、審査請求に対する裁決を経ていないことにつき、「正当な理由がある」と認められるか否か)について
(被告の主張)

 個人事業税の賦課決定処分については、いわゆる審査請求前置主義が採用されている(地方税法19条の12)ところ、平成30年分賦課処分については、審査請求がされておらず、行政事件訴訟法8条2項各号に該当する事情も認められないから、平成30年分賦課処分の取消しを求める訴えは、審査請求前置の要件を欠き、不適法である。
 個人事業税の賦課決定処分は、基準年ごとに独立して行われる行政処分であり、他の基準年に係る賦課決定処分との間に実質的な同一性は認められないし、基準年ごとに前提となる事実関係等も異なるのであって、平成30年分賦課処分について審査請求をしていれば、平成28・29年分賦課処分に係る審査請求への対応とは対応が変わっていた余地がないとはいえないから、審査請求を前置しないことについての「正当な理由」があるとは認められない。
(原告の主張)
 平成30年分賦課処分は、課税金額並びに課税の根拠とする事実及び理由が平成28・29年分賦課処分と同一であり、仮に平成30年分賦課処分につき審査請求をしたとしても、審査の結論及び理由は、平成28・29年分賦課処分に対する審査請求と全く同一のものとならざるを得ない。したがって、平成30年分賦課処分について、原告が審査請求を経ずに取消訴訟を提起したことは、「裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」(行政事件訴訟法8条2項3号)に該当し、適法である。
(2)本案の争点(本件各処分の適法性)について
(被告の主張)

ア 駐車場業に係る個人事業税が、自動車を駐車させるということに着目し、これを課税客体とする税目であることからすれば、都事務提要が、「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」の有無を駐車場業の判定基準の一つとして挙げ、また、その客観的指標として、駐車台数等を挙げていることは合理的であるというべきである。したがって、都事務提要は、事業性の判定基準として妥当性を有するものというべきである。
原告は、本件土地にアスファルト舗装を施した上で駐車場用地として訴外A社に貸し付け、その対価として、月額37万8000円の賃料を受けているから、「対価の取得を目的として自動車の駐車のための場所を提供する行為」をしていたことは明らかであり、また、本件駐車場の駐車台数は10台以上であるから、都事務提要の認定基準に照らせば、原告が駐車場業を行っているのは明らかである。
イ 原告は、本件駐車場を営んでいるのは訴外A社であって、原告は訴外A社に本件土地を貸し付けているにすぎない旨主張するが、土地所有者によるコインパーキング式の時間貸駐車場の経営手法としては、自己経営方式(土地所有者が精算機等の専用機器を設置し、駐車場の管理運営を行う手法。ただし、実際の専用機器の設置や駐車場の管理運営については、これを専門に行う企画運営会社に委託して行うのが一般的である。)と土地賃貸方式(土地所有者は企画運営会社に駐車場用地を貸し付け、企画運営会社が専用機器の設置と駐車場の管理運営を行う手法)があり、どちらの経営手法についてもメリット・デメリットが存在し、企画運営会社も複数あり、企画運営会社が提示する経営条件や各社の倒産リスクも区々であるところ、原告は経営手法として土地賃貸方式を、企画運営会社として訴外A社をそれぞれ選択しており、このような判断は、正に駐車場経営者としての責任に基づいて行われたものであるから、原告による当該行為は、単なる土地の貸付けと評価できないことは明白である。
  また、原告は、国取扱通知の駐車場業の定義における「対価の取得」及び「自動車の駐車のための場所を提供する(行為)」の相手方が、自動車を直接駐車する者に限定される旨主張するが、国取扱通知はそのような限定を加えていないし、そのように解すると、個人による駐車場経営のうち、自己経営方式による場合は個人事業税が課税される一方で、土地賃貸方式による場合は個人事業税が課税されないことになり、課税上の不均衡が生じる。
なお、本件土地はアスファルト舗装されているところ、アスファルト舗装は本件駐車場のために設けられた「駐車設備」に該当するか、該当しないとしても、アスファルト舗装された本件土地は「更地」ではないため、本件は本件留意事項の適用場面ではない。仮に本件土地の貸付けが更地の貸付けに該当したとしても、本件留意事項のただし書は、土地ではなく建築物を資本として経営する立体式駐車場等における課税運用上の留意事項を定めたものであって、ただし書(ア)及び(イ)の両方に該当する場合に限り適用されるものであるから、立体式駐車場等の建築物を設けていない本件は本件留意事項のただし書の適用場面ではないし、仮に本件留意事項のただし書が適用されるとしても、原告はアスファルト舗装の維持管理を通じて本件駐車場の運営に関与しているといえる。
(原告の主張)
ア 原告は、訴外A社が「自動車の駐車のための場所を提供する事業」を営むための土地を貸し付けて定額の賃料を受領しているにすぎず、原告自身は、本件土地に自動車を駐車する者から対価の取得をしていないし、本件土地に自動車を駐車する者に対して駐車のための場所を提供しているわけでもない。本件駐車場を営んでいるのは訴外A社であって、原告は駐車場業を行っているものではない。
  国取扱通知の駐車場業の定義においては、「対価の取得」の相手方、「自動車の駐車のための場所を提供する(行為)」を受ける相手方が明示されていないが、その相手方が「自動車の駐車」をする者であることは文意から見て明らかであるところ、処分行政庁は、租税法定主義に反して、これを不当に拡大解釈しており、本件各処分は違法である。
イ 処分行政庁は、都事務提要を根拠に本件各処分をしたものであるが、土地の賃借人が当該土地を用いて駐車場業を営んでいる場合に、当該土地の貸付けを駐車場所の提供とみなす旨規定している本件留意事項は、国取扱通知を不当に拡大解釈するものであり、租税法定主義に反する。また、本件留意事項のただし書(ア)の例外規定も、賃借人が「建築物」を設けている場合に限定し、訴外A社のように駐車場のための「施設」や「構築物」を設けている場合を含めていない点で狭きに失する。
  仮に本件留意事項を前提とするとしても、原告は、駐車設備を何ら施さず、建築物等のない更地である本件土地を訴外A社に貸し付けて定額の賃料を受領しているにすぎず、訴外A社による本件駐車場の運営について一切関与していないため、本件留意事項のただし書(イ)によれば、駐車場業を行う者であると認定することはできない。なお、本件土地のアスファルト舗装は、主として水はけを良くするためにしたものであるし、訴外A社の便宜のためにしたものであるとしても、本件賃貸借契約の賃料算定の要素の一つになっていることはあるものの、これをもって本件駐車場の運営についての関与とはいえない。
  また、被告は、自己経営方式と土地賃貸方式の不均衡についても主張するが、自ら資本を投下して駐車場を運営するのと土地を貸し付けて賃料を受領するのとでは、土地利用の権原や経営責任等の法的性格、経営のリスクを負うか否かという点で全く異なるのであって、土地の利用方法が駐車場というだけで一くくりにして課税するのは不当である。原告は、土地賃貸方式という経営手法を選択して駐車場の経営をしているという意識は全くなく、本件土地を駐車場用地として使いたいという訴外A社に対し、相応の賃料をもって本件土地を貸し付けたにすぎない。
第3 当裁判所の判断
1 本案前の争点(原告が、平成30年分賦課処分に関して、審査請求に対する裁決を経ていないことにつき、「正当な理由がある」と認められるか否か)について

(1)個人事業税の賦課決定処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができないが(地方税法19条の12、19条1号、行政事件訴訟法8条1項ただし書)、裁決を経ないことにつき正当な理由があるときは、裁決を経ないで、上記処分の取消しの訴えを提起することができる(行政事件訴訟法8条2項3号)。
  地方税法を始めとする個別法が、一定の処分について、当該処分の取消しの訴えを提起するにつき、審査請求前置を要求しているのは、主として、司法審査に先立ち、行政庁等に、当該処分につき、反省、見直しの機会を与えることにより、紛争の自主的解決を図るとともに、行政庁等の専門性、技術性をいかした迅速、的確な紛争解決を期待する趣旨と解される。
  そうすると、個別法において審査請求前置が定められているにもかかわらず、審査請求に対する裁決を経ることなく取消しの訴えを提起することに正当な理由があるとして許容されるためには、司法審査に先立ち、不服申立手続を経由させることにつき合理的な理由がない場合、すなわち、不服の内容に対する行政庁等の判断が既に表明されており、かつ客観的にみてその変更の余地がないと考えられるため、改めて審査請求をして行政庁等の判断を求めることがもはや無意味であるということができるほどの確実性をもって裁決の内容が予測されるような場合に限られるというべきである。
(2)これを本件についてみると、前記前提事実、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、平成28年から平成30年までの間を通じて、原告と訴外A社との本件賃貸借契約の内容や本件土地の使用状況等に変更はなく、訴外A社は本件土地上で本件駐車場を運営し、原告は訴外A社から毎月37万8000円の賃料を受領していたことが認められる。そして、前記前提事実のとおり、原告は、本件土地を訴外A社に賃貸しているが、駐車場業を行うものではない旨主張して、平成28・29年分賦課処分の各取消しを求める審査請求をし、東京都知事は、東京都行政不服審査会への諮問及びその答申を経て、これらをいずれも棄却する旨の裁決をしているところ、平成30年分賦課処分についても、原告の不服の内容は同様であり、争点は、上記の事実関係の下で、原告が駐車場業を営んでいると認められるかどうかに尽きるといえる。また、平成28年から平成30年までの間、本件と関連する部分につき、地方税法のほか、国取扱通知や都事務提要に変更はない(甲6の2、10の2、乙4、弁論の全趣旨)。
  以上によれば、平成28・29年分賦課処分と平成30年分賦課処分については、原告が駐車場業を営んでいると認められるかどうかという争点は共通であり、その前提となる事実関係及び関係法令等も同様であり、平成28・29年分賦課処分について、原告の不服の内容に対する東京都知事の判断が既に表明されており、客観的にみてその変更の余地がないと考えられるのであるから、本件では、平成30年分賦課処分について、原告が審査請求に対する裁決を経ていないことにつき正当な理由があるというべきである。
よって、本案前の争点に関する被告の主張には理由がない。
2 本案の争点(本件各処分の適法性)について
(1)地方税法の解釈について

 地方税法72条の2第3項は、個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第1種事業、第2種事業及び第3種事業に対し、所得を課税標準として、その個人に課する旨規定し、同条8項は、第1種事業として、「駐車場業」(13号)等を掲げている。
 同条は、法人の行う事業に対する事業税と異なり、個人については、その生活関係が複雑である上、所得の源泉も多種多様であるため、個人の行う事業といってもその認定に当たって混乱を生ずるおそれがあるなどの理由から、課税客体となる事業を具体的に列挙しているものとされる(乙10)。もっとも、地方税法は、「駐車場業」の内容のほか、「事業」自体の意義についても、一般的な定義規定を置いておらず、社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。
 ところで、憲法は、国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条)、それゆえ、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。そして、このような租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第90号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333頁、最高裁平成19年(行ヒ)第105号同22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁、最高裁平成26年(行ヒ)第190号同27年7月17日第二小法廷判決・集民250号29頁参照)。
(2)「駐車場業」の意義等について
 上記(1)を前提に、まず、個人事業税の対象となる「事業」の意義について検討すると、事業とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)。
 そして、「駐車場」とは、自動車の駐車のための施設をいうものと解すべきであるから(駐車場法2条1号、2号参照)、「駐車場業」とは、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行うものであることを要するというべきである。
(3)認定事実
 前記前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
ア コインパーキング式の時間貸駐車場による土地活用の手法について
  土地所有者がコインパーキング式の時間貸駐車場により土地を活用する手法としては、自己経営方式と土地賃貸方式があるとされる。
  このうち、自己経営方式は、一般に、土地所有者が駐車場用機器の設置等を行い、集客や集金等の管理業務は、土地所有者の委託を受けた企画運営会社と呼ばれる業者が行う方式であり、土地所有者としては、稼働率が上がればその分収入も増える反面、初期投資に費用を要する、収入が安定しないなどのデメリットがある。
  他方、土地賃貸方式は、一般に、土地所有者が企画運営会社に土地を一括で貸し付けて、企画運営会社が自身の責任で駐車場用機器の設置等を行うとともに、集客や集金等の管理業務も行う方式であり、土地所有者としては、初期費用を要することなく、稼働率にかかわらず安定した賃料収入を得ることができる反面、自己経営方式と比べて収入が低くなりがちであり、稼働率が高くても収入が増えることはないなどのデメリットがある。
  コインパーキング式の時間貸駐車場は、個人ではシステムの導入が難しいため、土地賃貸方式が一般的であるとされる。(乙12~16)
イ 訴外A社の業態について
  訴外A社は、「○○○24」という名称のコインパーキング式の時間貸駐車場を運営する会社であるが、土地所有者との関係では、自己経営方式と土地賃貸方式の両方の手法を取り扱っており、いずれの場合にも、訴外A社が清掃や集金業務等の管理業務を行うが、土地賃貸方式においては、毎月定額の安定収入が得られることをうたっている。(乙11)
(4)検討
ア 前記前提事実、前記認定事実、証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、東京都S区に居住していること、②訴外A社は、「○○○24」という名称のコインパーキング式の時間貸駐車場の運営等を主な業務とする長崎市所在の株式会社であること、③本件土地は長崎市にあること、④本件土地は、アスファルト舗装がされた状態で、当初は訴外B社から訴外A社に貸し付けられており、訴外A社が、約350万円の費用を負担して、ライン引きや車止めの設置等を行った上で、遅くとも平成21年5月頃から、「○○○24パーキング△△町」の名称でコインパーキング式の時間貸駐車場(本件駐車場)を営んでいること、⑤原告は、平成27年3月12日、訴外B社と訴外A社との賃貸借契約の貸主を切り替える形で、訴外A社が第三者を利用者とする駐車場を経営することを目的として本件賃貸借契約を締結し、訴外A社に本件土地を引き続き駐車場用地として使用させたこと、⑥本件賃貸借契約の期間は3年間であるが、更新拒絶をしない限り自動的に更新されることとされており、平成30年4月1日以降も更新されていること、⑦本件賃貸借契約終了時には、訴外A社が設置した設備等を撤去した上で、本件土地を明け渡すものとされていること、⑧本件駐車場では、訴外A社が訴外A社の責任において利用者を募集し、駐車場利用契約を締結して料金を徴収していること、⑨本件駐車場の清掃、メンテナンス、クレーム処理等の管理業務は、いずれも訴外A社が行っていること、⑩本件駐車場の稼働状況には変動があるため、収益にも変動があるが、訴外A社は、原告に対し、毎月約定の賃料37万8000円を支払っていることがそれぞれ認められる。
  これらの事実によれば、訴外A社は、訴外B社ないし原告から賃借した本件土地に駐車場用機器等を設置してコインパーキング式の時間貸駐車場とし、これに訴外A社の営むコインパーキング式の時間貸駐車場の名称である「○○○24」の名を冠して、利用者の募集、集金や清掃等の管理業務を全て行い、本件駐車場の収支の結果を自己に帰属せしめているのであるから、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行っていることは明らかである。
  他方、原告については、訴外A社に対し、訴外A社自身が駐車場として使用するためにではなく、訴外A社の責任において募集した第三者に対して駐車場として利用させることを前提として本件土地を貸し付けたこと、訴外A社と本件駐車場の利用者との間の駐車場利用契約や、本件駐車場の管理業務に関与していないこと、本件駐車場の稼働状況にかかわらず、訴外A社から毎月約定の賃料37万8000円を受け取っていることなどがそれぞれ認められるのであって、これらの事実に照らすと、原告は、単に、訴外A社に対して、訴外A社の駐車場事業の用に供するための場所として、本件土地を定額の賃料で貸し付けているにすぎないのであるから、原告自身が、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行っているものと評価することはできない。したがって、原告は、「駐車場業」を行う者であるとは認められない。
イ これに対して、被告は土地所有者による駐車場の経営手法としての自己経営方式と土地賃貸方式の均衡について指摘し、土地賃貸方式の場合にも個人事業税を課すべき旨主張する。
  しかしながら、租税法律主義の原則や、課税客体となる事業を具体的に列挙した地方税法72条の2の趣旨(前記(1)参照)からすれば、課税庁は、恣意的に拡張解釈や類推解釈等を行って課税要件の該当性を肯定して課税することは許されないというべきであるところ、土地所有者が、①自らあるいは企画運営会社に委託して、土地所有者の責任で駐車場用機器の設置等を行うとともに、集客や集金等の管理業務を行い、稼働状況の変動によるリスクを負って駐車場を経営するような典型的な自己経営方式の場合には、土地所有者は、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行っているものと評価できるのに対し、②企画運営会社に駐車場事業の用に供するための土地を貸し付けて、駐車場事業の運営には関与せず、定額の賃料を受け取るにすぎないような典型的な土地賃貸方式の場合には、土地所有者は、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行っているものとは評価し難いといわざるを得ず、自己経営方式と土地賃貸方式の不均衡を根拠として、土地所有者が駐車場業を営んでいるとは評価できないような場合にまで「駐車場業」を拡張解釈することは相当ではない。したがって、被告の上記主張は採用できない。
ウ また、被告は、都事務提要を挙げ、原告が「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」をしていたことは明らかである旨主張する。
  しかしながら、仮に都事務提要の認定基準が事業性の判定基準として妥当性を有するものと認められるとしても、都事務提要の認定基準の文理からしても、駐車場事業の一般的な理解からしても、「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」とは、通常は、「自動車の駐車のための場所を提供する行為」の相手方ないしこれと同視し得る者が、「自動車の駐車」をし、「自動車の駐車」の「対価」を支払う場合をいうものと解するのが合理的であり、他方、最終的に自動車の駐車のために使われることを想定して場所を提供している場合であっても、企画運営会社に駐車場事業の用に供するための土地を貸し付けて、同事業の運営には関与せず、定額の賃料を受け取るにすぎないような典型的な土地賃貸方式の場合には、企画運営会社は「自動車の駐車のため」に「場所を提供」されているものではなく、「自動車の駐車」の「対価」を支払っているものでもないから、上記認定基準のいう「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」には当たらないと解すべきである。
エ なお、被告は、他の道府県に対する照会結果(乙23~25の45)を提出し、回答のあった45道府県のうち42道府県が、「駐車場業」の認定を、土地の直接の借主が駐車している場合に限定していない旨主張する。しかしながら、上記照会の問1(「駐車場の認定の際に、土地を貸し付ける相手方を限定していますか。すなわち、土地の貸主が地方税法72条の2第8項13号における駐車場を貸し付けていると認定する場合は、土地の直接の借主が駐車している場合に限定していますか。」)は、質問の趣旨が必ずしも一義的に理解できるものとはいい難く、ホームページにおいて駐車場用地の一括貸付けの場合に駐車場業ではなく不動産貸付業に該当し得る旨説明している埼玉県、石川県及び熊本県(甲18参照)も「限定してはいない」と回答していることや(乙25の11、25の16、25の41)、「限定してはいない」と回答している道府県であっても、必ずしも借主が駐車しているかどうかでは判断していない旨の注意書きを付して回答している県もあること(乙25の10、25の40、25の45)に照らしても、上記照会結果をもって、42道府県が被告と同様の理解の下に課税をしているものとは解し難い。
(5)まとめ
 以上によれば、原告が第1種事業である「駐車場業」を行う者であると認めることはできず、これを前提としてされた本件各処分は、いずれも違法な処分として取消しを免れない。
第4 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 市原義孝
裁判官 中野晴行
裁判官 邊見育子

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