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解説記事2021年10月04日 SCOPE 課税処分当日の根抵当権設定、詐害行為として取消し(2021年10月4日号・№900)

みずほ・三井住友銀行を提訴した国税側が勝訴
課税処分当日の根抵当権設定、詐害行為として取消し


 免税店を運営する宝田無線電機(株)(以下、宝田無線)が、外国人旅行者らに金工芸品を販売したように見せかけ不正に消費税の還付を受けたとして争われていた裁判では、令和3年9月2日、納税者側が控訴審でも敗訴したところだが、本件を巡っては、宝田無線に融資をしていた銀行2行が課税処分当日に根抵当権を設定したことが、国税側が十分に租税を徴収できなくなることを知りながら財産を減少させた「詐害行為」に当たるとして、国税側からの詐害行為取消訴訟に発展したことでも注目されていた(本誌840号40頁)。
 東京地裁民事26部(小田真治裁判長)は、令和3年9月8日、詐害行為取消権(民法424、国通法42)に基づき根抵当権設定契約の取消し及び根抵当権設定登記等の抹消登記手続を求めた国側の請求を認め、国側勝訴の判決を下した。

「租税債権に優先して債権回収を図ること」債権保全として相当性を欠く

 みずほ銀行と三井住友銀行は、平成28年3月に消費税等の還付請求権を担保として宝田無線に対して約50億円を融資したが、同年9月に宝田無線への税務調査が開始し消費税等の還付の保留などがあったことを受け、平成29年3月に「還付金が50億円に満たない場合には平成29年8月に宝田無線の本社ビル等に根抵当権を設定する」旨の条項を追加し、同年6月30日の課税処分当日に根抵当権設定契約の締結、登記を行った。
 租税債権は、すべての公課その他の債権に優先するという大原則があるが(国徴法8)、法定納期限以前に設定された質権及び抵当権は国税に優先する(国徴法15、16)。本件では、法定納期限等である課税処分当日(通知書を発した日)に根抵当権が設定されたため、抵当権が国税に優先することになり、国税当局は、差し押さえの際に徴収税額が約7億円減少したとして、根抵当権の設定が「詐害行為」に当たるとして同行らに対し訴訟を提起した。
 民法424条で定められている詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知りつつ、財産を減少させる行為(詐害行為)をしたときに、債権者が責任財産の維持を図るためにその行為の取消しを裁判所に請求しうる制度。詐害行為取消権が認められるための主な要件は次のとおりとなっている。
① 被保全債権の詐害行為前の成立
② 詐害行為時に(詐害行為によって)債務者が無資力であること(詐害行為)
③ 債務者の詐害の意思
④ 受益者の債権者を害することの認識

別件税務訴訟が継続中でも、租税債権は存在
 本件では、①被保全債権の存否、②本件各根抵当権設定契約の詐害行為該当性、③本件各根抵当権設定契約の詐害行為該当性に関する被告らの認識の有無という3つの争点の順で、上記要件に該当するかの検討が行われた。
 争点①に関しては、「別件税務訴訟が係属中であるから本件各租税債権の存在は立証されていない」との被告みずほ銀行らの主張に対して、東京地裁は「行政処分は、(略)適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解するのが相当」「本件各課税処分につき、重大かつ明白な違法と評価される事情は認められず、本件各課税処分は完全にその効力を有する」などとして、根抵当権設定時における本件各租税債権の存在を認めた。
 争点②の詐害行為該当性については、被告みずほ銀行が「被告らと宝田無線との間では、新コミットメントライン契約が締結された同年3月31日時点で、本件各根抵当権契約の締結が実質的に合意されていた」として、この時点での詐害行為該当性を判断すべきと主張したが、東京地裁は、各認定事実から、「本件担保供与条項の内容として約定日(平成29年8月)に先立ち根抵当権を設定することは想定されていなかった」「本件各根抵当権設定契約の締結は、平成29年6月30日時点での新たな合意に基づきなされたもの」と判断した。
 続いて東京地裁は、債務者の無資力について「宝田無線は、本件各根抵当権設定契約を締結した時点で既に無資力であった」と認定した上で、各認定事実から、「宝田無線は、残余の財産では債権者に対して十分な弁済をすることができなくなることを認識しながら、本件各根抵当権設定契約を締結した」として、本件各租税債権に優先して債権回収を図ることを主たる目的として本件各根抵当権設定契約を締結したことは債権保全の手段・方法として相当性を欠くとの判断を下した。
 争点3の「受益者の認識」については、被告らは「①被告らの宝田無線に対する貸付義務が停止したことに伴い、債権保全措置として本件各根抵当権設定契約を締結したにすぎず、本件各租税債権に優先して貸付債権の回収を図る意図は有していなかった、②本件各根抵当権設定契約を締結した時点において、宝田無線が十分な資力を有するものと認識していた」などと主張したが、東京地裁は、認定事実から「被告らは、本件各租税債権に優先して債権回収を図ることを主たる目的として本件各根抵当権設定契約を締結した」と認定し、また、被告らが根抵当権設定当時に宝田無線の財務状況に関する書類を作成し、同社の信用格付けを破綻懸念先に変更したことなどを指摘、「被告らは、本件各根抵当権設定契約を締結した時点で、宝田無線が無資力であることを認識していた」との判断を下した。
 税金の徴収と銀行の債権回収を巡る対立で、国税当局が大手銀行を訴えるのは極めて異例。「正当な債権保全措置」との主張が認められなかった銀行側にとって厳しい結果となったが、控訴はされていない模様。

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