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解説記事2021年10月11日 ニュース特集 議決権行使書面の行使期限を巡る注目判決(2021年10月11日号・№901)

ニュース特集
法令違反も瑕疵の程度は重大といえず
議決権行使書面の行使期限を巡る注目判決


 東証1部上場会社(被告)の定時株主総会における取締役選任議案等を可決する各決議には招集通知の発送日の期間制限違反等の瑕疵があり、招集手続又は決議方法に法令違反等があるとして、同社の株主(原告)が株主総会決議を取り消すよう求めた事件で、東京地方裁判所(朝倉佳秀裁判長)は令和3年4月8日、原告の請求を棄却する判決を下した。東京地裁は、議決権行使書面の行使期限に関する法令違反があるとしたものの、瑕疵の程度は重大でないとの判断を示し、原告の株主総会決議の取消請求を裁量で棄却した。
 会社法では、議決権行使書面の行使期限は株主総会の日時の直前の営業時間の終了時とされている。しかし、取締役会が「特定の時」を行使期限と定めた場合には、株主総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に15日間を置くことが必要になるとされており、今回の事件では裁判所がこの点について会社法違反と指摘したものだ。判決では裁判所の裁量で原告の請求は棄却されたものの、招集通知及び議決権行使書面の発送時期を株主総会の2週間前とぎりぎりのタイミングで行う会社も少なからず散見される。本事件は引き続き控訴審で争われているため確定したものではないが、今後の実務を行う上では留意したい判決といえよう。

株主による株主総会決議取消請求

 今回の事件は東証1部上場会社の乾汽船の定時株主総会を巡るものだ。本件は、定時株主総会における取締役選任議案等の各議案には無効な委任状に基づく議決権行使や、招集通知の発送日の期間制限違反等の瑕疵があり、招集手続又は決議方法に法令違反等があるとして、同社の株主であるアルファレオホールディングス合同会社(アルファレオ社)が株主総会決議を取り消すよう求めたものである。原告であるアルファレオ社は令和元年6月総会及び令和2年6月総会の各決議を取り消すよう求めており、令和元年6月総会の決議方法については総会日時までに未到達の委任状に基づく議決権行使がされたこと、一部の株主によるオブザーバー出席の容認という違法な措置をとったことなどが決議方法の瑕疵に当たるとし、令和2年6月総会の決議には招集通知の発送日に関する法令違反又は著しい不公正があること、令和2年招集通知等のスチュワードシップ・コードの受入れに関して虚偽記載があり招集通知の法令違反等があるとしている。
 なお、乾汽船は令和2年9月24日、証券代行業務を委託していた会社が議決権行使書面の集計処理について不適切な集計処理を行っていたことを公表している(6頁参照)。

裁判所、議決権行使書面の行使期限に法令違反と判断も

 裁判では多くの点で争われているが、一番の注目点は招集通知の発送日ないし議決権行使書面に関する法令違反の有無だ。
 会社法上、株主総会の2週間前までに招集通知を発しなければならないとされているため(会社法299条1項)、株主総会の日と招集通知の発送日との間は14日間を置く必要がある。一方、議決権行使書面の行使期限については、原則として株主総会の日時の直前の営業時間の終了時とされているが(会社法311条1項、同施行規則69条)、取締役会は招集の決定に際し、「特定の時」を議決権行使書面の行使期限として定めることができるとされている。ただし、同期限は株主総会以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以後の時に限られることになる(会社法298条1項5号、同施行規則63条3号ロ)。
 以上の点を整理すると、会社が株主総会招集通知と議決権行使書面を同時に発送し、株主総会の前日の「特定の時」を議決権行使書面の行使期限として定めた場合、会社法の規定に違反しないためには、株主総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に15日間を置くことが必要になる。したがってこの場合には、株主総会の16日前に招集通知を発送しなければならない。
行使期限は前日5時も営業時間は5時20分
 本件についてみると、令和2年招集通知及び議決権行使書面は令和2年6月4日に発送され、6月19日午前10時から株主総会が開催されるとされていたため、令和2年総会と招集通知等の発送日との間に14日間あった。その一方で議決権行使書面の行使期限は令和2年総会の前日である6月18日午後5時と設定されていた(図表1参照)。

 ここで問題となったのは乾汽船の営業時間だ。この点、裁判所は、同社のホームページ等に記載された営業時間は午前9時から午後5時20分とされているため、同社の「営業時間の終了時」(会社法施行規則69条)は「午後5時20分」と認められ、それよりも早い午後5時を議決権行使書面の行使期限としたことは「特定の時」(会社法施行規則63条3号ロ)を定めたものであると指摘。この場合、議決権行使書面の発送日と総会日との間に15日間を設けなかった令和2年同会の招集手続は議決権行使書面の行使期限に関する規定に違反するものとの判断を示した。
裁判所の裁量で請求を棄却
 しかし、裁判所は、令和2年総会の招集手続の瑕疵は株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり看過することはできないとするものの、特定の時を定めなかった場合の議決権の行使期限は、被告の営業時間の終了時である午後5時20分であって、本件の行使期限から20分間伸長されるにすぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また、午後5時をもって営業時間の終了とすることが我が国のビジネス慣習上広く見られることに照らし、瑕疵の程度は重大でないと判断し、書面による議決権行使の行使期間に関する法令違反の瑕疵を理由とする令和2年総会決議の取消請求は裁量で棄却している。
不適切集計処理がなくても決議に影響なし
 今回の裁判では、不適切な集計処理により本来期限内に到達していたはずの議決権行使書面が算入されずに決議されたとして決議方法に法令違反があるか否かも争われている。
 この点、原告による決議取消事由の主張は総会決議の日から3か月が経過してから追加されたものであるため、会社法831条1項の期間経過後に新たな取消事由を追加するものであって許されないとした。
 なお、裁判所は、仮に取消事由が追加されたとしても、不適切集計処理を行ったのは証券代行業務を委託していた会社であって、被告が株主総会時に不適切集計処理を知っていたとは認められず、また、不適切集計処理によって算入されなかった議決権数は638個であり、その総議決権数(24万6,819個)に占める割合は0.25%であると指摘。不適切集計処理によって決議の結果に影響はなかったとした。

議決権行使書面の不適切な集計問題
 乾汽船が証券代行業務を委託していたみずほ信託銀行及び同銀行が議決権行使書面集計業務を含む証券代行業務に関する事務を委託していた日本株主データサービスは、株主総会の繁忙期における議決権行使書面について、その郵送受付分を本来の配達日(郵便局が発行する交付証に記載された日付)の前日に受け取り事務処理を進める対応をとっていた。また、日本株主データサービスが議決権行使書面を集計する際には、実際の持込日ではなく、交付証の日付に基づき集計していたことにより、交付証の日付が議決権行使期限後である場合には実際の持込みの時点が議決権行使期限前であっても議決権行使書面の集計作業の対象外としていたことが明らかとなっている。

 そのほか、本件の主な争点に対する裁判所の判断は図表2及び図表3のとおりとなっている(すべて原告の請求を棄却)。

【図表2】令和元年総会決議に関する主な争点と裁判所の判断

(委任状による議決権行使に関する瑕疵の有無)

原告の主張
・被告は、令和元年総会の開催時には届いていなかった委任状を届いているものとして集計したこと及び白紙委任状による委任が成立していないにもかかわらずこれを有効なものとして集計した。
裁判所の判断
・被告は、株主による委任状提出状況を随時確認するため委任状受領日一覧表を作成し記載していたこと、同表の委任状受領日の欄には株主が提出した委任状の受領日が令和元年6月7日から20日までの間であった旨の記載があることが認められる。したがって、令和元年総会決議において委任状に基づき代理行使された議決権はすべて令和元年総会の前日までに被告に到着した委任状に基づいて行使されたものと認められる。
・会社法又は他の法令等において白紙委任状の効力を否定する定めはなく、直ちに白紙委任状を一律に無効と解する根拠とはならない。

(投票用紙による議決権行使の有効性)

原告の主張
・投票用紙には、各議案について賛否の意思表示がない場合には賛成の意思表示があったものとして取り扱う旨の記載があるが、本来賛否の意思が示されていない書面は無効と解すべきである。
裁判所の判断
・株主総会における表決の方式については法令上特段の規定は存在せず、出席者の意思を算定し得る方法であればいずれの方法によっても差し支えないところ、投票用紙上に賛否の表示がない場合の取扱い方針をあらかじめ明記した場合には、株主は投票用紙への賛否の記載がない場合の取扱いを事前に理解して投票を行うことになるのであるから、このような取扱いは出席株主の意思を算定し得る合理的な手法であるといえる。

(一部の株主のオブザーバー出席を理由とする決議方法の瑕疵の有無)

原告の主張
・委任状を提出した一部の株主が総会当日にオブザーバー出席したことが、株主平等原則、白紙委任状の悪用の典型例に当たる。
裁判所の判断
・オブザーバー出席した株主は、出席株主からは区切られた会場後方のスペースに座ることが許されたにすぎず、発言や決議に影響を与えうる言動が許可されていなかったのであるから、そのような取扱いをすることが株主平等原則に違反するとはいえない。

【図表3】令和2年総会決議に関する主な争点と裁判所の判断

(招集通知の発送日ないし議決権行使書面に関する法令違反の有無)

原告の主張
・招集通知が法定の発送期限より1日遅れた結果、全株主が議決権行使をするための検討時間が減少したとして、瑕疵の程度が重大である。
裁判所の判断
・議決権行使書面の発送日と総会日との間に15日間を設けなかった令和2年総会の招集手続は、議決権行使書面の行使期限に関する規定に違反するものというべきである。
・招集手続の瑕疵は、株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり、看過することはできないが、他方で、特定の時を定めなかった場合の議決権の行使期限は、被告の営業時間の終了時である午後5時20分であって、本件の行使期限(午後5時)から20分伸長されるにすぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また、午後5時をもって営業時間の終了とすることが我が国のビジネス慣習上広くみられることに照らし、瑕疵の程度が重大でないと認められる。

(スチュワードシップ・コードの受入れ等に関する令和2年招集通知等の虚偽記載を理由とする招集手続の瑕疵の有無)

原告の主張
・原告は一般事業会社であり、いわゆる投資顧問会社ではないから、スチュワードシップ・コードを受け入れる立場にはなく、実際に受け入れていない。したがって、令和2年招集通知等における原告がスチュワードシップ・コードを受け入れた旨の記載や対話の責任を負っていることを前提とした記載はいずれも虚偽であり、情報提供要請承認決議には招集手続に法令違反等がある。
裁判所の判断
・原告はスチュワードシップ・コードの受入れを表明したことがないことが認められるから、令和2年招集通知等における記載は事実に反する記載であったというべきである。もっとも、被告はホームページ上に招集通知の一部訂正の文書を掲示したこと、総会当日の会場において議長が情報提供要請承認議案(被告取締役会が原告に対する情報提供要請を行うことを承認する議案)の詳細を説明したことに照らせば、当該記載に関する瑕疵は治癒されたというべきであり、この点に関する招集手続の法令違反は認めることはできない。

(特別利害関係人による議決権行使によって著しく不当な決議がされたか否か)

原告の主張
・令和2年招集通知等に添付された従業員文書において要望されている事項は、単に原告の素性に係る情報を知りたい、不安を解消したい等の個人的な利益を追求しているものであるから、特別利害関係人に当たり、本件情報提供要請承認決議は、そのような特別利害関係人が議決権を行使することによってされた著しく不当な決議である。
裁判所の判断
・情報提供要請承認決議は、原告に対し、その会社概要、被告株式の保有目的、被告株式の今後の保有、売却等の方針、被告の企業価値を向上させるための施策等に関する質問状を送付することに関し、株主総会の承認を得ることを主な内容とするものであって、このような情報提供要請及びそれに対する原告の回答によって、被告の株主が議決権を行使する際に参照される情報が増えるのであるから、株主全体の利益につながり得るものである。従業員文書を提出した株主及び同文書への賛同者に、原告に関する情報を得たい、不安を解消したい等の考えがあったとしても、それら自体は単なる内心の動機にすぎず、従業員株主及びその賛同者が、他の株主と共通しない利害を有するとは認められないから、特別の利害関係を有する者ということはできない。

 例えば、原告は受任者欄空欄の白紙委任状を有効とした場合には、経営者による悪用のおそれや、自己株式の議決権停止との矛盾、書面投票制度の骨抜き等を指摘し、そのような問題のある白紙委任状は一般的に無効と解すべきであると主張しているが、裁判所は、会社法又は他の法令等において白紙委任状の効力を否定する定めはなく、白紙委任状に原告の主張する問題がある程度存在するとしても直ちに白紙委任状を一律に無効と解する根拠とはならないとの判断を示した。また、投票用紙には各議案について賛否の意思表示がない場合には賛成の意思表示があったものとして取り扱う旨の記載があるものの、本来賛否の意思が示されていない書面は無効と解すべきであると原告は主張するが、株主総会における表決の方式については法令上特段の規定は存在せず、投票用紙上に賛否の表示がない場合の取扱い方針をあらかじめ明記した場合には、株主は投票用紙への賛否の記載がない場合の取扱いを事前に理解して投票を行うことになるのであるから、このような取扱いは出席株主の意思を算定し得る合理的な手法であるといえるとした。
 原告がスチュワードシップ・コードを受け入れていないにも関わらず、その旨の記載などがあったことについては、裁判所は被告がホームページ上に招集通知の一部訂正の文書を掲示したことや、総会当日に議長が説明したことに照らせば招集手続の法令違反は認めることはできないとした。

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