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解説記事2021年10月11日 特別解説 IFRS第16号「リース」の適用とCovid-19に関連する費用の表示方法~ESMAが公表する執行決定事例集~(2021年10月11日号・№901)

特別解説
IFRS第16号「リース」の適用とCovid-19に関連する費用の表示方法
~ESMAが公表する執行決定事例集~

はじめに

 欧州証券市場監督機構(European Securities and Markets Authority。以下「ESMA」という。)は、欧州金融市場の機能を改善するために証券法規と規制の分野で活動し、欧州各国の金融規制当局間で投資家保護及び協力を強化することを目的とした欧州連合の専門機関である。その活動の一環としてESMAは、国際財務報告基準(IFRS)の適切な適用に関する関連する情報を財務諸表の発行者及び利用者に提供する目的で、欧州各国の執行者(規制当局等)による財務諸表に関する執行決定の機密データベースを開発・運用しており、そこからの抜粋をホームページに公表している。後述のに記したように、事例集は第25巻まで公表されており、このうち、2015年11月に公表された第18巻までは、日本公認会計士協会が和訳を行っている。事例集の原文と和訳ファイルは、日本公認会計士協会のホームページから入手できる。ESMAによる執行決定事例集の全体的な説明や第24巻までで公表された事例の紹介は、本誌No.817(2020年1月6日号)及びNo.849(2020年9月14日号)を参照いただくとして、本稿では、2021年7月15日に公表された直近の事例集(第25巻)の概要と、掲載されている事例のうち、IFRS第16号「リース」と新型コロナウイルス感染症(Covid-19)にかかる費用の表示に関するものを紹介したい。
 なお、本稿で紹介する事例はいずれも、ESMAのホームページに公表されている英文を筆者が和訳したものである。

これまでにESMAが公表した執行決定事例集

 これまでにESMAが公表した25巻の執行決定事例集について、公表時期と含まれる事例の件数とを一覧にするとのとおりである。

事例集第25巻に収録されている事例

 直近に公表された事例集第25巻に収録されている10件の事例の表題と、関連するIFRSの基準書を一覧にして示すと、次のとおりである。
① 予想信用損失の測定(IFRS第9号「金融商品」)
② IFRS第16号の初度適用におけるリースの認識(IFRS第16号「リース」)
③ リース資産の減価償却と解体費用(IFRS第16号「リース」)
④ ファイナンスリース債権の減損(IFRS第9号「金融商品」及びIFRS第7号「金融商品:開示」)
⑤ Covid-19に関連する費用の表示(IAS第1号「財務諸表の表示」)
⑥ 貸借対照表における流動/非流動負債の表示(IAS第1号「財務諸表の表示」及びIAS第34号「期中財務報告」)
⑦ 純負債の調整(IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」)
⑧ 財務リスクの開示(IAS第1号「財務諸表の表示」及びIFRS第7号「金融商品:開示」)
⑨ 購入した信用減損資産(POCI)の測定(IFRS第9号「金融商品」)
⑩ 損益を通じて公正価値で指定された金融負債に関連する信用リスクの変化の影響の開示(IFRS第9号「金融商品」)

具体的な執行決定事例

 具体的な執行決定事例は、冒頭に表題と対象となる決算期末日、論点のカテゴリー及び関連する基準書が明示された後、本文は、「発行者(財務諸表の作成者)の会計処理に関する説明」、「執行決定(the enforcement decision)」及び「執行決定の根拠」の3部構成となっている。本稿では、リース及び新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に関連する以下の4件の事例を紹介することとしたい。

1.IFRS第16号の初度適用におけるリースの認識
2.リース資産の減価償却と解体費用
3.ファイナンスリース債権の減損
4.Covid-19に関連する費用の表示

① IFRS第16号の初度適用におけるリースの認識
会計期間末日:2019年6月30日
対象領域:リースの構成要素、実質的にすべての経済的便益を得る権利と特定された資産の使用を指図する権利
関連する基準書又は要求事項:IFRS第16号「リース」
(発行者の会計処理に関する説明)
 発行者は、風力発電所の開発、建設、運営に関するいくつかのプロジェクトを有している。この目的のために、発行者は風力発電所が配置されている土地の区画を30年間リースする。賃貸借契約には、土地のエリアやその一般的な特徴(場所、境界、プラントなど)と、風力タービンが設置されている場所に関する情報が含まれる場合がある。
 風力タービンが設置されると、契約期間中の風力タービンの交換又は移転の可能性は非常に低くなる。さらにほとんどの契約には、土地の所有者が、発行者による建設が行われていない土地の一部を、借主の業務に干渉しない範囲で他の活動に使用することを認める条項が含まれている。
 発行者は、土地の所有者が土地の一部を使用して農業や牧場などの他の活動を行うことを許可する条項の存在が、以下のことを著しく制限すると考えた。
(i)土地に関連する経済的便益を得ること 
(ii)資産を支配すること
 したがって発行者は、契約にはリースが含まれておらず、したがってIFRS第16号に定められた要求事項に準拠しないと結論付けた。
(執行決定)
 執行者は、契約にIFRS第16号の適用範囲内のリース要素が含まれているかどうかに関する発行者の評価に同意しなかった。したがって執行者は、発行者がこれらの取引にIFRS第16号を適用することを要求した。
(執行決定の根拠)
 IFRS第16号のB9項によれば、リースの定義を満たすために顧客は次の両方を有していなければならない。
(i)特定された資産の使用からの経済的便益のほとんどすべてを得る権利
(ii)特定された資産の使用を指図する権利

 さらに、IFRS第16号のB13項は、資産は通常は契約に明記されることによって特定されるが、資産が顧客に利用可能とされる時点で黙示的に定められることによって特定される場合もあると述べている。さらにB20項では、資産の稼働能力部分は、物理的に別個のものである場合には、特定された資産であることを認めている。
 執行者は、風力タービンによって独占的に占有されている土地の部分からなる、物理的に異なる資産の特定された部分があることに留意した(ブレードが占めるスペースを含む)。この点で執行者は、契約内の情報、又は建設段階の開始時にそれを定義することによって、風力発電タービンの正確な位置を決定するのは発行者(借主)であることに留意した。
 さらに、土地所有者(賃貸人)が風力発電機によって占有されていない土地の部分(例えば農業目的の土地)で他の経済活動を行うことが契約上認められている一方で、風力タービンが占有している部分の土地は他の目的に使用することができないため、借主の支配下にあることに留意した。
 特定された資産から経済的便益を得る権利及び資産の使用を指図する権利に関して執行者は、風力タービンが配置されている土地の一部は、風力エネルギーを生成する目的でのみ使用されることに留意した。したがって土地のこの部分に関して、発行者は、風力タービンがその場所を維持している期間中にかかるすべての経済的便益を得る権利を有する。
 最後に、風車の正確な位置の決定や風車の日常の運用など、契約期間中の資産の使用に関連するすべての重要な決定を行うのは発行者である。発行者は、機器の維持又は効率を高めるために発行者が必要と考えるその他の活動を修理、保証、又は実行するために、借地に無制限にアクセスできる。発行者は、土地所有者の事前の同意なしに資産を稼働させる権利を有する。さらに土地所有者には、発行者の業務上の指示に異議を唱えたり、変更したりする権利はない。

② リース資産の減価償却と解体費用
会計期間末日:2018年12月31日
対象領域:資産除去債務の認識とそれらのコストの減価償却が行われる期間、特定された資産の使用の指図
関連する基準書又は要求事項:IFRS第16号「リース」
(発行者の会計処理に関する説明)
 発行者は、移動体通信セクターで事業を行っており、土地を賃借するための賃貸借契約を締結した。これには、賃貸契約の終了時に発行者が賃貸スペースに設置する有形固定資産(電気通信機器など)を撤去する義務が含まれる。
 発行者は、IFRS第16号の第24項(d)に従って、資産除去債務のコストを認識し、使用権資産に含まれるコストを資産計上することを決定した。IAS第16号「有形固定資産」の第16項(c)に従ってそれらを会計処理し、解体される有形固定資産の各項目でコストを資産計上することにより、財政状態計算書の表示に影響が及ぶ。
 発行者は、資産除去債務の減価償却期間として電気通信ライセンスの耐用年数を使用したが、個々の電気通信サイトが解体される日付を予測できないため、借地の見積期間や電気通信機器の耐用年数を使用しなかった。
(執行決定)
 執行者は、IFRS第16号の第24項(d)に従い、通信機器の撤去及び使用権資産の一部としての借地の回復のコストを認識するという、発行者が適用した会計処理を受け入れた。
 ただし執行者は、資産除去債務のコストに関する発行者の耐用年数の決定(つまり、電気通信ライセンスの耐用年数にわたる減価償却)に同意しなかった。執行者は発行者に対し、資産除去債務のコストを表す資産の減価償却に適用される会計処理を修正し、代わりに使用権資産のリース期間を使用するように要求した。執行者はまた、原資産のリース期間である資産除去債務のコストの減価償却期間と将来の連結財務諸表における資産除去債務引当金の割引期間の両方に、整合した期間を適用する必要があることを指摘した。
(執行決定の根拠)
 IFRS第16号の第24項(d)によれば、使用権資産のコストは、リースの契約条件で要求されている原資産の解体及び除去、原資産の敷地の原状回復の際に借手に生じるコストの見積りから構成される。
 資産除去債務に使用される減価償却期間に関して執行者は、発行者はIFRS第16号の第18項に従って決定されたリース期間を減価償却期間として使用すべきであると結論付けた。
 理論的根拠は、次の要素によって実証された。
a)解体義務は、賃貸借契約の条件によって予見される。
b)資産除去債務のコストは、他の特定の通信機器ではなく、借地に関連して発生する。つまり発行者は、解体の義務を負うことなく、通信機器を交換することができる。
c)借地権が終了した場合、発行者は土地を元の状態に戻す義務がある。
d)資産除去債務のコストの減価償却期間は、原資産である土地のリース期間と足並みを揃える必要があり、リースの合理的に一定の期間と一致する必要がある。

③ ファイナンスリース債権の減損
会計期間末日:2018年12月31日
対象領域:ファイナンスリース、予想信用損失、信用リスクエクスポージャーの開示
関連する基準書又は要求事項:IFRS第9号「金融商品」、IFRS第7号「金融商品:開示」
(発行者の会計処理に関する説明)
 発行者は金融機関である。国際金融リースサービス(「国際リース」)に関連する事業セグメントの1つは、発行者の総資産合計及び税引前利益のかなりの割合を占めている。これは、ファイナンスリース債権が、償却原価での貸付金と前払金の合計及び2018年の総資産の重要な部分を占めるのと同様である。
 発行者は会計方針で、「問題のポートフォリオの過去のデフォルト率に基づく単純化されたモデルを使用して、国際リースレベルでのエクスポージャーの予想信用損失を決定する」と説明している。この情報に基づいて発行者は、IFRS第9号の5.5.15(b)項で認められているように、全期間の予想信用損失に等しい金額でリース金融債権の予想信用損失引当金を測定するという会計方針の選択を行ったと理解できる。
 しかし、段階ごとの減損の対象となる顧客からの貸付金及び債権の内訳を示す明細表では、ファイナンスリースに関連する債権の予想信用損失引当金が、単純化されたモデルに基づくのではなく、一般的なアプローチに基づいて測定されたことが示されていた(すべてステージごとに分類された。)。
 要求に応じて、発行者は、ファイナンスリース債権の予想信用損失引当金を測定するために、単純化されたアプローチと一般的なアプローチの両方を使用していることを確認した。実際には、特定の企業(「国際リース」セグメントで事業を行う直接又は間接の子会社)は、一般的なアプローチを使用して引当金を計算するが、他の企業は、単純化されたアプローチを使用していた。2018年12月31日現在、発行者のファイナンスリース債権の87%が一般的なアプローチの対象であり、13%が単純化されたアプローチの対象となっていた。
(執行決定)
 執行者は、2つの異なるアプローチ(単純化されたアプローチと一般的なアプローチ)に基づいてファイナンスリース債権に関連する予想信用損失引当金を測定する際に、発行者が従う会計処理に同意しなかった。執行者は、発行者に予想信用損失を測定する方法を選択し、それをすべてのファイナンスリース債権に整合的に適用するように要求した。
 これらの取引の重要性を考慮して、執行者は一般的なアプローチが最も適切であると考えた。
 最後に、執行者は、単純化されたアプローチの適用及び、リース債権に対する信用リスクエクスポージャーの分析に関連する会計方針の開示を改善するように発行者に要求した。
(執行決定の根拠)
 IFRS第9号の5.5.15(b)項によれば、企業は会計方針として損失評価引当金を全期間の予想信用損失に等しい金額で測定することを選択している場合、常に、IFRS第16号の範囲に含まれる取引から生じたリース債権の全期間の予想信用損失に等しい金額で損失引当金を測定しなければならない。この会計方針は、こうしたリース債権のすべてに適用しなければならないが、ファイナンスリース債権とオペレーティング・リース債権に区別して適用することができる。

④ Covid-19に関連する費用の表示
会計期間末日:2018年6月30日
対象領域:非反復的な費用の表示、期中財務諸表
関連する基準書又は要求事項:IAS第1号「財務諸表の表示」
(発行者の会計処理に関する説明)
 発行者は、従業員の特別賞与、清掃、消毒、その他の従業員の保護措置を含む物流費など、営業利益の約4分の1を占める経費を非経常項目として分類した。
 発行者によると、Covid-19関連の費用及び賞与は、その性質、頻度、又は重要性の観点から発行者の通常の活動に関連しない事象又は取引から生じるため、非経常的な収入又は費用の定義を満たしているということであった。
(執行決定)
 執行者は、発行者が非経常的項目として指定したCovid-19関連費用の表示に同意しなかった。これは、IAS第1号の第17項、第45項、及び第46項で要求される公正で整合性があり、かつ関連性のある表示を提供しなかったためである。執行者は発行者に対し、その性質に応じて、売上原価、販売費及び諸経費の範囲内で、これらの費用を主要財務諸表に表示することを要求した。
(執行決定の根拠)
 IAS第1号の第17項(b)は、情報(会計方針を含む)を目的適合性と信頼性があり、比較可能で理解可能な情報を提供する方法で表示することを企業に要求する。
 さらにIAS第1号の第46項は、企業が財務諸表の表示を変更するのは、変更後の表示がもたらす情報の方が、財務諸表の利用者にとって信頼性があり目的適合性のより高い情報を提供し、かつ変更後の構成が継続する可能性が高いことにより、比較可能性が損なわれない場合のみであると定めている。
 執行者は、発行者によるCovid-19関連項目の表示は、以下の理由によりIAS第1号の表示要件に準拠していないと考えた。
a)発行者の財務諸表におけるCovid-19の影響が信頼性をもって決定されているかどうかが明確でなかった。Covid-19は、損益計算書の複数の項目に影響を与えたため、費用とその一部を1行に分離してそれらを経常利益から除外することは適切ではなかった。
b)Covid-19に関連するものとしていくつかの費用を分類するために、発行者によって提供された説明は説得力がなかった。例えば、特定の従業員賞与は、発行者によってCovid-19関連として分類されたが、これらのコストは発行者の活動と効率の向上に関係するものであった。
c)Covid-19の影響が1期間に限定され、将来の報告期間における発行者の業績に影響を与えないかどうかが定かではなかった。したがって、これらの費用を非経常的として分類することは適切ではなかった。

終わりに

 抽象的な表現が多いIFRSの基準書を読み解いて実務に適用するにあたり、ESMAが公表しているケース・スタディは様々な示唆を与え、判断を行う際の参考となる。最近は事例集の公表が年1回のペースとスローダウンしてきているが、今後とも本稿で紹介を続けていきたいと考えている。

参考
日本公認会計士協会ホームページ IFRSケース・スタディ
本誌No.818(2020年1月6日号)欧州におけるIFRSの適用事例~ESMAが公表する執行決定事例集~
本誌No.849(2020年9月14日号)欧州におけるIFRS第15号及び第16号の適用事例~ESMAが公表する執行決定事例集~

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