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解説記事2021年10月11日 未公開判決事例紹介 相続人への預け金処理で税理士法人に損害賠償責任(2021年10月11日号・№901)

未公開判決事例紹介
相続人への預け金処理で税理士法人に損害賠償責任
東京高裁、説明義務に違反する債務不履行あり

 本誌880号40頁で紹介した税理士損害賠償請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○東京高裁は令和3年4月14日、相続税の税務手続を受任した税理士法人(被控訴人)に対して「説明義務に違反する債務不履行があった」旨判示し、損害賠償を命じる判決を言い渡した(令和2年(ネ)第2612号)(確定)。本件では、被相続人甲の生前に甲から相続人A(控訴人)らへの670万円の資金移動があり、この金額をAへの預け金として被相続人の財産に取り込んで相続税申告をしたことが問題となったものである。

主  文

1 原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は、控訴人に対し、26万4846円を支払え。
(2)控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを20分し、その3を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
3 この判決は、主文第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

(略称は原判決の例による。)
第1 控訴の趣旨
1
 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、170万8900円を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨

 控訴人は、平成25年1月19日に死亡した甲(亡甲)の相続人のうちの一人である。控訴人は、他の相続人らと共に、税理士法人である被控訴人に対し、亡甲を被相続人とする相続税の税務手続を委任した。
 控訴人は、上記委任に基づいて被控訴人が行った税務手続に際して、被控訴人担当税理士の控訴人への説明が不十分であったために、相続により取得した財産を真実の額よりも多く申告することになったなどと主張して、被控訴人に対し、不法行為又は債務不履行による損害賠償として、過分に支払った相続税等の損害合計170万8900円の支払を求めた。
 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が請求の認容を求めて控訴した。
2 当事者の主張等
 前提事実、争点及び当事者の主張の要旨は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)2頁2行目の「は、同年」を「(以下「控訴人ら4名」という。)は、同年8月頃」に改め、3行目の末尾に「(乙1)」を加える。
(2)2頁6行目の末尾に行を改めて以下のとおり加える。
 「(5)控訴人ら4名は、平成25年10月21日、K税務署に対し、亡甲の遺産は全部未分割、相続税課税対象財産は1億6266万4797円(Bへの預け金670万円を含む。)、その法定相続分(各4分の1)を各自の取得財産とする(ただし、端数処理の関係で、以下のとおり、円単位の差異がある。)こととし、取得財産の価額及び申告納税額を以下のとおりとする相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を提出し(以下「本件申告」という。)、各申告納税額を納付した。(甲14、弁論の全趣旨)
取得財産の価額 各人の合計 1億6266万4797円
C   4066万6201円
B   4066万6200円
控訴人 4066万6199円
D   4066万6197円
申告納税額 各人の合計 909万5100円
C   229万1600円
B   229万1600円
控訴人 227万5800円
D   223万6100円」
(3)2頁10行目の末尾に行を改めて以下のとおり加える。
  「ア 債務不履行又は不法行為の成否
 (ア)虚偽申告」
(4)2頁11行目の「相続時には」から12行目の「670万円を」までを「Bへの預け金670万円は、真実はE(Bの夫。以下「E」という。)への贈与であり、相続時には遺産として存在していなかったことを承知の上で、これを」に改める。
(5)2頁26行目の末尾に行を改めて以下のとおり加える。
  「(イ)説明義務違反
 被控訴人は、亡甲の相続税の申告において、Bへの預け金が相続時には遺産として存在していないものの、同人の課税リスク回避のために、相続税の対象となる財産として申告することを認識していたのであるから、そのことを控訴人にも説明する義務があったにもかかわらず、これを怠り、控訴人にその旨の説明をすることなく、控訴人から預け金670万円を相続税の対象となる財産として申告する合意をとりつけ、その旨の本件申告書を作成し、控訴人に本件申告をさせた。これは、控訴人に対する不法行為又は債務不履行に当たる。
 イ 損害」
(6)3頁4行目の末尾に行を改めて以下のとおり加える。
  「ア 債務不履行又は不法行為の成否」
(7)3頁20行目の末尾に行を改めて以下のとおり加える。
 「 また、Bの申出によって預け金670万円が相続税の対象となる財産に含まれることは確定したのであるから、預け金を計上しなかった場合のことについて、控訴人に説明する義務はない。
 イ 損害」
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求は、26万4846円の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 認定事実
 前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)亡甲死亡後、控訴人ら4名の間で遺産分割協議がまとまらず、相続税の申告期限が迫ってきたことから、控訴人ら4名は、平成25年8月頃、被控訴人に委任して、遺産分割未了として、法定相続分での相続税の申告を共同ですることとした。(前提事実(3)、弁論の全趣旨)
(2)被控訴人の調査の過程で、亡甲からBないしその夫であるEに対する合計670万円の預金の移動(①平成23年7月27日に300万円、②同年9月12日に200万円、③平成24年3月9日に170万円)の事実が明らかになった。被控訴人担当税理士は、①につき「B様(リフォーム代)」、②につき「E様(家賃)」、③につき「車買換」と記載された預金移動表を作成して、Bに対し、その使途を確認した。(甲1、6~8)
(3)Bは、被控訴人担当税理士に対し、上記預金の移動について、①はE名義の同人らの自宅を亡甲との同居用に改修する費用として300万円を受け取ったもの、②は亡甲との同居にかかる費用(自宅の賃料相当額)として受け取ったもの、③は夫名義の車を亡甲の通院用の車に買い替える費用として170万円を受け取ったものであり、いずれも費消したと説明した。被控訴人担当税理士は、Bに対し、これらの金員について、亡甲から贈与されたものであれば贈与税の期限後申告をする必要があり、無申告加算税と延滞税の納付が必要となること、亡甲から預かったものであれば、亡甲の財産であるがBの名義になっている財産(名義財産)として、相続税の課税対象に計上する必要があること、亡甲自身が特定の用途のために費消したものとして、贈与税、相続税の申告をいずれもしなかった場合には、税務署から贈与、場合によっては脱税との指摘を受け、過少申告加算税等が賦課されるリスクがあることを説明した。これを受けて、Bは、贈与を受けたとの認識も670万円を預かっているとの認識もなかったが、夫の名前を出すことと加算税等の課税リスクを回避するために、670万円を自己への預け金として相続税課税対象財産に含めて申告することとし、被控訴人担当税理士から相続税申告の準備のために作成を求められた確認書に、名義財産として預け金670万円がある旨を記入した。(甲1~4、9)
(4)被控訴人担当者は、平成25年9月26日、被控訴人事務所を訪問した控訴人に対し、Bが預け金670万円を相続税の課税対象財産として申告したことを説明した。もっとも、被控訴人担当者は、その際、控訴人に対し、Bへの預け金の具体的内容や、Bが加算税等の課税リスクを回避するためにそれを相続税の課税対象財産として計上することとしたものであることは説明しなかった。また、その際提示された財産目録には、「その他の財産の内訳書」に「預け金B」、相続税評価額「670万円」との記載があったが、預金移動表には上記(2)の記載がされたままであった。(甲1、8、乙2、前提事実(4))
(5)その後、被控訴人担当税理士は、亡甲のBに対する670万円の預け金を課税対象財産として計上した財産目録を作成し、控訴人ら4名の確認を得た上で本件申告書を作成し、控訴人ら4名は、平成26年10月21日、本件申告書によって、亡甲を被相続人とする相続税の申告(本件申告)をした。本件申告書では、上記預け金を含む課税対象財産合計1億6266万4797円を控訴人ら4名が法定相続分の割合で取得したことを前提に、相続税の納付税額が計算されていた。(甲1、甲14、前提事実(5))
  相続人ら4名は、その頃、本件申告書記載の相続税を納付した。(争いがない。)
(6)控訴人は、その後、他の相続人らに対し、遺産分割調停を申し立てた。控訴人は、本件申告書に記載されていた亡甲のBへの預け金670万円が存在するものと考えていたが、その調停期日において、Bから、上記預け金670万円は既に費消して存在しないと聞かされた。(弁論の全趣旨)
(7)控訴人は、Bに対して預け金670万円の4分の1相当額の返還を求める不当利得返還請求訴訟(甲府地方裁判所平成29年(ワ)第438号)を提起したところ、Bは、亡甲から670万円を預かったことを否認し、争った。そして、平成30年6月21日、請求棄却の判決がされた。控訴人は、これに対して控訴したが(当庁平成30年(ネ)第3263号。以下、第一審及び控訴審を「前件訴訟」という。)、平成31年4月18日、控訴棄却の判決がされた。(甲4、5)
2 虚偽申告について
 上記1(3)のとおり、被控訴人は、Bの申出に基づき、預け金670万円を相続税の課税対象財産として計上したものであるが、仮に、これが事実に反するものであったとしても、そのこと自体によって、控訴人の何らかの権利利益が侵害されたということはできない。よって、本件申告それ自体について、被控訴人に被控訴人に対する不法行為ないし債務不履行が成立するとは認められない。
3 説明義務違反について
(1)相続税の課税対象となる財産は、原則として、相続又は遺贈により取得した財産(相続税法2条1項。本来の相続財産)及び相続税法の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産(相続税法3条、4条。みなし相続財産)からなる。
  上記1(3)の認定事実によれば、被控訴人担当税理士は、亡甲からB又はEに移動した預金670万円はBが亡甲から特定の用途に用いるために受け取ったもので、既にリフォーム代等に費消され、Bにおいて相続時に預かり保有しているものではないこと、670万円の計上は、もっぱらBの課税リスク回避のためであることを認識していたものと認められる。そうすると、被控訴人担当税理士は、Bが申告を申し出た預け金670万円が本来の相続財産に該当しないこと、少なくともその可能性が高いことを認識し、又は容易に認識することができたと考えられる。
  そして、控訴人ら4名は、上記1(1)のとおり、遺産分割協議がまとまらず、遺産分割未了の状態で相続税の申告をすることになったものであるところ、そのような場合には、未分割財産は各共同相続人が民法(904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分の割合に従ってその財産を取得したものとして課税価格を計算することになる(相続税法55条)のであり、実際、本件申告においても、預け金670万円は控訴人ら4名が法定相続分で取得したものとして申告されているから、上記預け金を課税対象財産として計上するか否かは、Bのみならず相続人全員が利害関係を有する事項である。
  また、本件委任契約において、被控訴人は、業務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの方法を選択する必要があるときは、控訴人に説明し、承諾を得ることが規定されている(乙1の第5条)。
  これらの事情からすれば、相続税申告に関する税務手続を受任した被控訴人には、預け金670万円を相続税の課税対象財産に計上して申告をすることにつき、控訴人ら4名全員に上記の事情を説明して、その意思を確認すべき義務があったというべきである。
  被控訴人は、課税対象財産として計上するか否かは相続人の申出によって確定するものであるとして、Bの申出により預け金670万円を計上することが確定した以上、控訴人に説明してその意思を確認する必要はないと主張する。しかし、Bは、相続人のうちの一人にすぎない。本来の相続財産ではない上記670万円を課税対象財産として申告する結果、Bのみでなく、相続人全員について、納付すべき相続税額が高くなるのであるから、Bの意思を確認するだけでは足りず、相続人全員に説明をした上でその意思を確認することが必要であったというべきである。
(2)ところが、被控訴人担当者は、上記の事情を控訴人に説明せず、本件申告前の説明の際に控訴人に提示された預金移動表の記載も修正されていなかった(上記1(4)、甲8)。そのため、控訴人は、Bが申告した預け金670万円が実際にはリフォーム代等に費消されて存在しないことを認識しないまま、これを課税対象財産に計上した本件申告書を税務署に提出することに同意したものである。
  したがって、被控訴人には、説明義務に違反する債務不履行があったと認められる。
4 損害
(1)控訴人は、Bへの預け金670万円の4分の1が取得財産に計上されたことによって、227万5800円の相続税を申告、納付した(前提事実(5))。預け金670万円を計上しなかったとすると、取得財産の価額の合計は1億5596万4797円となり、控訴人の納付すべき相続税額は202万4400円となる(甲15、弁論の全趣旨)。これと実際に納付した額との差額は、25万1400円である。
  仮に、控訴人が被控訴人から預け金に関する事情について説明を受けていたとすれば、それを課税対象財産として申告することにそのまま同意することはなかったと考えられるから、Bにおいて申告内容を再考し、相続税ではなく贈与税として申告するとか、相続税の課税対象財産として計上するとしても、それによって控訴人が負担する相続税額の増加分についてBが補填するといった何らかの対処がされることとなるか、又は、控訴人において、共同申告を止めて、個別に申告することになったものと推認される。したがって、上記差額は、被控訴人の説明が十分でなかったために控訴人が本件申告をし、その結果、多く負担することになった相続税額であり、被控訴人の説明義務違反によって生じた損害と認められる。
(2)また、控訴人は、被控訴人に対し、本件委任契約に基づく税理士報酬として36万7500円を支払っているところ(乙6、弁論の全趣旨)、同報酬額は預け金670万円を含んだ取得財産の価額及び生前贈与加算額を基準に計算された報酬額である(乙6)。預け金670万円を除外した取得財産の価額及び生前贈与加算額を基準に同様の方法で報酬額を計算すると、控訴人の報酬負担額は以下のとおり35万4054円(1円未満四捨五入)となる。これと実際に支払った報酬額との差額は、1万3446円である。
(取得財産の価額1億5596万4797円+生前贈与加算額271万5000円)×1%=1億5867万9797円×1%=158万6798円
紹介値引き15%  △23万8020円
差し引き     134万8778円
消費税5%      6万7439円
報酬額      141万6217円
控訴人負担額4分の1 35万4054円
  上記支払報酬額との差額1万3446円は、上記(2)と同様に、被控訴人の説明義務違反によって生じた損害と認められる。
(3)控訴人は、被控訴人の説明義務違反のために、Bに対して前件訴訟を提起せざるを得なくなったとして、同訴訟の関連費用9万円を損害として主張する。
  しかし、控訴人は、遺産分割調停において、預け金670万円は既に費消して存在しないと聞いていた(上記1(6))のであるから、前件訴訟を提起する前に、B又は被控訴人に上記670万円が本件申告書に計上された趣旨を確認するのが通常であり、それをしていれば、670万円の預け金が存在する事実はないことが明らかになったはずである。にもかかわらず、前件訴訟提起前に被控訴人がその確認をしたことはうかがわれない。したがって、前件訴訟に要した費用は、被控訴人の債務不履行によって生じたものとはいえない。
  また、控訴人は、慰謝料100万円を損害として主張するが、被控訴人の説明義務違反によって、上記(1)、(2)の財産的損害の賠償によっても回復できないほどの精神的苦痛を被ったと認めるに足りる証拠はない。
  したがって、前件訴訟の関連費用及び慰謝料は、被控訴人の債務不履行によって生じた損害とは認められない。
(4)よって、被控訴人は、債務不履行に基づき、上記(1)及び(2)の合計26万4846円の損害賠償債務を負う。
5 なお、控訴人は、選択的に不法行為に基づく損害賠償請求もしているが、説明義務違反が不法行為に当たるとしても、上記認定の損害額を超える額の損害は認められない。
第4 結論
 以上によれば、債務不履行に基づく被控訴人の請求は、26万4846円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は一部失当であって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとする。

東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官 村上正敏
裁判官 板野俊哉
裁判官 中俣千珠

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