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解説記事2021年10月25日 未公開判決事例紹介 マンション販売事業者のもう1つの控訴審判決(2)(2021年10月25日号・№903)

未公開判決事例紹介
マンション販売事業者のもう1つの控訴審判決(2)
東京高裁、消費税の仕入税額控除で国が逆転勝訴

 本誌893号4頁で紹介した消費税更正処分等取消請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で前号と今号の2回に分けて紹介する。なお、原審の判決は本誌850号に掲載。

第3 当裁判所の判断
1
 当裁判所は、①本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分されるべきものであり(争点(1))、②本件各更正処分は平等取扱原則に違反するものではなく(争点(2))、③本件各確定申告において消費税の申告額が過少であったことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえない(争点(3))から、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であって、被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その理由は、以下のとおりである。
2 認定事実
 被控訴人の事業の内容等並びに平成24年3月期から平成26年3月期までの各課税期間(直近3課税期間)及び本件各課税期間における本件事業の展開状況は、以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第3(以下「原判決第3」という。)の1(3)アないしウに記載のとおりであるから、これを引用する(以下、補正後の同1(2)アないしウの認定事実を「認定事実ア」のようにいう。)。
(1)原判決14頁17行目を次のとおり改める。
 「(1)前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すると、後記(2)アないしウの各事実が認められる。
 (2)認定事実」
(2)原判決16頁18行目の「甲70」を「甲106」に改める。
(3)原判決17頁8行目以下の表のうち平成24年3月期の販売収入の金額欄の「270百万」を「223百万」に、同頁15行目の「2.17%」を「2.62%」に、同頁17行目の「4.41%」を「4.56%」に、同頁19行目の「6.90%」を「8.23%」に、同頁20行目の「13.02%」を「13.46%」にそれぞれ改める。
3 争点(1)(本件各課税仕入れの用途区分)について
(1)用途区分の判定基準について

ア 消費税は、消費一般に広く公平に税負担を求めるという観点から、土地の譲渡及び貸付けや住宅の貸付けなどの一部の取引を除き、ほとんど全ての国内における取引を課税の対象とするものであるが、課税対象となる取引はいわゆる最終消費者に物品やサービスが購入される前の生産や流通等の各段階に及ぶため、消費税の納税義務者は、これらの各段階において取引を行う各事業者とされ(消費税法5条)、最終消費者は、これらの事業者が生産や流通等の各段階で物品やサービスの価格に順次転嫁されていった消費税等の額を最終的に負担することになる。そこで、消費税額については、納税義務者である事業者が国内において課税仕入れを行った場合、生産や流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することのないように、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を控除することとされている(同法30条1項)。
  上記の仕入税額控除の趣旨からすれば、税負担の累積が生じない課税仕入れに係る消費税額は控除の必要がないことになるが、課税期間における売上高が5億円以下で、かつ、当該課税期間における課税売上割合が95パーセント以上である場合には、課税仕入れに対応する売上げに係る取引がその他の資産の譲渡等に当たるか否かを問うことなく、当該課税期間中の課税仕入れに係る消費税額の全額の控除が認められており(同条2項、6項)、その理由は、納税義務者である事業者の納税上の事務負担への配慮等の観点に基づくものとされている(乙9、10)。
  他方、当該課税期間における課税売上高が5億円を超える場合又は当該課税期間における課税売上割合が95パーセントに満たない場合には、同条2項1号に規定する個別対応方式又は同項2号に規定する一括比例配分方式のいずれかの方法により控除対象仕入税額を計算するものとされている。これは、課税売上高が5億円を超える大規模な事業者であって高い事務処理能力が期待できる場合には、事業者の納税上の事務負担に配慮した特例を認める必要がなく、また、売上げに係る取引の大部分が課税資産の譲渡等に当たるといえない場合には、多額の益税が生じて納税義務者間の公平を害することがあり得るから、これらの場合には課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れの税額だけが仕入税額控除の対象となり、その他の資産の譲渡等に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象とならないという仕入税額控除の原則的な考え方に従って控除対象仕入税額を計算することとされたものと解される。
  そして、個別対応方式は、事業者が当該課税期間中に国内において行った課税仕入れを、①課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税対応課税仕入れ)、②その他の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税対応課税仕入れ)、③課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(共通対応課税仕入れ)の3つに区分し、そのうち、①の課税対応課税仕入れに係る消費税額の全額と、③の共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額の合計額を控除対象仕入税額とする方式である(同条2項1号)。上記にいう課税売上割合とは、事業者が当該課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該事業者が当該課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合として政令で定めるところにより計算した割合をいうとされているところ(同条6項)、当該課税期間中の共通対応課税仕入れに対応する資産の譲渡等による売上げ全体のうち課税資産の譲渡等による売上げの占める割合(以下「共通対応課税仕入課税売上割合」という。)は、当該事業者の当該課税期間中の資産の譲渡等の対価の額全体のうちに課税資産の譲渡等の対価の額全体の占める割合(課税売上割合)に近似するのが通例と考えられ、しかも、共通対応課税仕入れに係る消費税額の合計額に課税売上割合を乗ずるという簡便な方法により共通対応課税仕入控除税額の計算をすることができる点で、事業者の事務処理上の負担を軽減することが可能となるものということができ、また、当該課税仕入れの行われた課税期間の課税売上割合に事業者の事業状況が適切に反映されず、共通対応課税仕入課税売上割合が課税売上割合に近似していない場合も想定して、当該事業について課税売上割合よりも合理的な割合の算出が可能である場合には所轄税務署長の承認を得た上でその割合を適用することが認められており(同条3項)、具体的には、個別対応方式による場合において、共通対応課税仕入控除税額の計算の基礎となる課税売上割合に準ずる割合(当該割合がその事業者の営む事業の種類の異なるごと又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類の異なるごとに区分して算出したものである場合には、当該区分して算出したそれぞれの割合)で、①当該割合が当該事業者の営む事業の種類又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類に応じ合理的に算定されるものであること(同項1号)及び②当該割合を用いて共通対応課税仕入控除税額を計算することにつき、その納税地を所轄する税務署長の承認を受けたものであること(同項2号)の要件の全てに該当するものがあるときは、当該事業者の上記②の承認を受けた日の属する課税期間以後の課税期間については、共通対応課税仕入控除税額は、課税売上割合に代えてその承認を受けた課税売上割合に準ずる割合を用いて計算した金額とするものとされている(同項柱書き)。上記②の承認を受けて課税売上割合に準ずる割合の適用を受けるためには、事業者による申請が必要であり、申請をするか否かは事業者の意思に委ねられており、同条2項1号ロ所定の課税売上割合よりも合理的な割合の算出が可能な場合であっても同条3項の申請をせず、同条2項1号ロ所定の課税売上割合を用いて計算することを選択することもできるものとされている。
  消費税に係る税負担の累積の排除をどのように実現するかについては立法政策に委ねられているところ、消費税法30条の定める仕入税額控除制度の仕組みは、以上のような同制度の具体的な構造や内容等に照らせば、納税義務者である事業者が同条1項ないし3項の規定する各算出方法を個別の事案に即して適切に使い分けることにより、その事務負担にも配慮しつつ、具体的な事業状況に即した税負担の累積の排除を適正かつ公正に実現することを可能にする合理的なものであるということができる。
イ そして、上記アのとおり、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合には、課税仕入れを課税対応課税仕入れ、非課税対応課税仕入れ又は共通対応課税仕入れのいずれかに区分する必要があるところ、①このような個別対応方式の計算方法は、前示のとおり、課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れの税額だけが仕入税額控除の対象となり、その他の資産の譲渡等に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象とならないという仕入税額控除の原則的な考え方に従って控除対象仕入税額を計算することとされたものと解されること、②消費税法30条2項1号が、課税対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」、非課税対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下この号において「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの」、共通対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」と規定し、いずれも「要したもの」ではなく「要するもの」と規定され、かつ、前二者は「にのみ」と限定的に規定されており、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間が仕入税額控除の対象期間とされていることなどからすると、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちのどのような取引に要するものであるかを客観的に判断するのが相当と解されること、③共通対応課税仕入控除税額においても、課税売上割合自体、共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例のものとして採用されたものであり、当該課税仕入れの行われた課税期間の課税売上割合に事業者の事業状況が適切に反映されず、共通対応課税仕入課税売上割合が課税売上割合に近似していない場合も想定して、当該事業者について課税売上割合よりも合理的な割合の算出が可能である場合には所轄税務署長の承認を得た上でその割合を適用することが認められており、これらによって税負担の累積の排除を適正かつ公平に実現できる仕組みが設けられていることなどに照らすと、同条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である。
ウ これに対し、被控訴人は、消費税法30条2項1号の課税対応課税仕入れ及び非課税対応課税仕入れに共通して用いられている「にのみ要するもの」という文言は、「その資産の譲渡等を行わないのであればそもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかった」という条件関係を意味するものと解され、そうすると、用途区分の判定については、その対象となる課税仕入れ等が、課税資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には課税対応課税仕入れに、その他の資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には非課税対応課税仕入れに、その双方と条件関係を満たす場合には共通対応課税仕入れに、それぞれ区分されるものと解するのが相当である旨を主張する(前記第22の引用に係る原判決別紙3の1(原告の主張の要旨)(1)及び(2))。
  しかしながら、単に「その資産の譲渡等を行わないのであればそもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかった」という条件関係があれば同条2項1号の定める課税対応課税仕入れに該当するという法文の文言と異なる解釈を認めるとすると、将来一部に非課税対応課税仕入れを生ずる取引が客観的に見込まれる場合も課税対応課税仕入れに区分されることになり、課税対応課税仕入れに区分される取引が相当広汎に認められることになるが、前記イのとおり、①個別対応方式の計算方法が、課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れの税額だけが仕入税額控除の対象となり、その他の資産の譲渡等に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象とならないという仕入税額控除の原則的な考え方に従って控除対象仕入税額を計算することとされたものであること、②消費税法30条2項1号が、課税対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と規定していること、③共通対応課税仕入控除税額において用いられる課税売上割合自体が共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例のものとして採用されたものであり、当該課税仕入れの行われた課税期間の課税売上割合に事業者の事業状況が適切に反映されず共通対応課税仕入課税売上割合と近似しない場合も想定して、当該事業者について課税売上割合よりも合理的な割合として課税売上割合に準ずる割合の算出が可能である場合には所轄税務署長の承認を得た上でその割合を適用することが認められており、これらによって税負担の累積の排除を適正かつ公平に実現できる仕組みが設けられていること等に照らすと、被控訴人の主張に係る解釈及びその適用の結果は以上のような消費税法30条2項の規定の文言及び趣旨並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みと整合しないものであって相当とは解し難いものといわざるを得ない。
  したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
エ また、被控訴人は、(ア)①消費税法30条の文言及び課税売上割合に準ずる割合の趣旨並びに平成29年最高裁判決に照らせば、消費税法30条3項の規定があるからといって、用途区分の判定は将来課税又は売上げを生ずる取引が客観的に見込まれているか否かのみを基準として行うのが消費税の仕組みであるとはいえず、②M社及び別同業他社に対する承認申請却下処分の事例等に表れた本件各課税期間の当時における課税庁の解釈及びその執行並びに課税庁が公表していた課税売上割合に準ずる割合に関する解釈等((a)消費税法基本通達11−5−8(1)の定めの内容、(b)消費税法基本通達11−5−7から読み取れる指標、(c)「たまたま土地の譲渡があった場合」の取扱い、(d)M社当初承認申請却下処分に関する税務専門の出版物等の解説)に照らせば、本件各課税期間の当時において、本件準ずる割合及びその算定方法をもってしては、被控訴人が消費税法30条3項に基づく課税庁の承認を得ることはおよそ不可能であった、③本件ギャップのような問題を課税売上割合に準ずる割合の適用の承認によって解決することはおよそ不可能であり、このように課税売上割合に準ずる割合の適用の承認によって解決することがおよそ不可能であってそのような解決がおよそ消費税法上も予定されていない問題が存在すること自体、消費税法が税負担の累積排除の不全の解消を専ら課税売上割合に準ずる割合の適用に依拠していないことの証左であり、また、被控訴人が本件準ずる割合の申請を行ったのは、飽くまで本件訴訟における被控訴人の立場を主位的には維持しつつ、被控訴人にとって無用な租税負担に係る経済的損失を最小限に食い止めるための他の有効な選択肢が存在しない中での予備的なものであり、課税庁がこれを承認したのは、本件各課税期間のはるか後において突知として立場を変遷させたことによるもので、M社に係る別件訴訟及び本件訴訟の訴訟追行上の政策的考慮以外にはおよそ想定できないものである、(イ)税負担の累積の排除は、消費税の計算の基本であり本質的な要素であるから、消費税制度の立法趣旨を踏まえた法解釈が求められるところ、仮に控訴人が主張する用途区分の判定基準に基づいて本件各課税仕入れの用途区分を共通対応課税仕入れに区分するとすれば、本件各課税仕入れの64%ないし66%を無視することになり、被控訴人の下で創出された付加価値を超えて消費税が課税され、税負担の累積を考慮する必要があることが明らかな部分についてまで控除を否認する点で、仕入税額控除の原則的な考え方に反するものであり、このような事態が生ずるのは、消費税の計算の基本であり本質的な要素でもある税負担の累積の排除という消費税法の目的や適正配分の観点を無視し、用途区分について、客観的に見込まれているか否かという極めて形式的かつ画一的ないし一般的かつ抽象的な判断基準で判断し、本件各課税仕入れの用途区分を共通対応課税仕入れに区分するからである、(ウ)①消費税法基本通達11−1−12によれば、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」は「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等」をいうものとされており、「行うために」との表現を素直に解すれば、行為の目的を意味すると解するほかなく、課税仕入れの目的というものを忠実に解釈しようとすれば、他の収入の得られる過程や位置付け、他の収入が得られることが課税仕入れ等やこれに対応する取引に及ぼす影響、全体の収入のうちに他の収入の見込額が占める割合などの事業者の経済活動に関する個別事情を踏まえて判断するのが相当である、②消費税法30条2項1号の文言は、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」であり、課税仕入れが「課税資産の譲渡等」のみならず「その他の資産の譲渡等」にも要すると積極的に認められることが要件とされており、課税対応仕入れに該当しない課税仕入れがすべからく共通対応課税仕入れに該当するとは規定されていない、(エ)令和2年度の税制改正により、販売用の居住用収益不動産の取得に係る消費税額の仕入税額控除の仕組みが改正され、本件訴訟の争点は既に消滅したので、本件訴訟における判断が今後の課税実務に影響を与えることはないから、本件の事案については個別事案に応じた適正・妥当な解決が図られるべきである旨を主張する(前記第23(被控訴人の主張)(1))。
オ しかしながら、前記エ(ア)の点に関しては、①消費税法30条2項の規定の文言及び趣旨並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みを総合すれば、消費税法30条2項1号の定める課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されると解するのが相当であり、上記の解釈は消費税法30条3項に課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を用いて計算することを認める旨の規定があることのみを根拠とするものではないことは、前記イにおいて説示したとおりであり(上記の解釈は、所論のように後続問題と位置付ける後者の割合の存在のみから先決問題と位置付ける用途区分に係る特定の解釈を当然に導き出しているものではないから、平成29年最高裁判決との抵触の問題を生ずる余地はなく、また、内国法人に係る特定外国子会社等の行う地域統括業務の租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項及び4項所定の事業該当性に関する平成29年最高裁判決は、本件とは事案及び適用法令や法理の内容等を異にするものであり、控訴人の主張の根拠となり得るものではない。)。また、②M社及び別同業他社に対する承認申請却下処分の事例等に表れた本件各課税期間の当時における課税庁の解釈及びその執行並びに課税庁が公表していた課税売上割合に準ずる割合に関する解釈等は、消費税法30条2項1号の定める課税対応課税仕入れにつき同号の文言及び趣旨等に即して当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみを意味すると解することの妨げとなり得るものではなく(M社が、平成28年に申請した課税売上割合に準ずる割合の算定方法とは異なる算定方法の承認を平成30年に改めて申請したところ、所轄税務署長から当該申請を承認されたことは、前記(前提事実(8)エ)のとおりであり、また、(a)消費税法基本通達11−5−8は、課税売上割合に準ずる割合の適用に当たって、その事業者が行う事業の全部について同一の割合を適用する必要はないとし、その例示として同(1)ないし(3)の方法を掲げているにとどまり(乙24)、収益不動産の販売に関する事業の種類が収益不動産販売事業しかなく当該事業に係る費用も棚卸資産である収益不動産物件の購入費用しかない場合に、課税売上割合に準ずる割合の適用が認められないとする趣旨のものとは解されず、(b)消費税法基本通達11−5−7も、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの性質に応ずる合理的な基準」による課税売上割合に準ずる割合の算定要素の例示として、「使用人の数又は従事日数の割合、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合」といった客観的な指標の要素を「その他」の留保を付して列挙したものにとどまり、現に被控訴人が平成31年3月28日に承認申請した建物売上高と賃料収入を算定要素とする91.58パーセントの本件準ずる割合及びその算定方法がK税務署長によって承認されていること(前提事実(8)オ)からもうかがわれるように、本件事業につき上記の例示以外の指標を算定要素とする合理的な基準により課税売上割合に準ずる割合を算出することを否定する趣旨のものとは解されず(上記の算定方法が同通達に反するとはいえず、上記の承認が消費税法30条3項に違反するものと認めるに足りる証拠もない。)、(c)課税庁は、「たまたま土地の譲渡があった場合」につき、土地の譲渡が単発的なものであり、かつ、当該土地の譲渡がなかったとした場合には事業の実態に変動がないと認められる場合には(たまたま(偶発的に)発生した土地の譲渡が、消費税法30条3項で規定する課税売上割合に準ずる割合の算出方法を採り得ない事情にあることを前提として)、便宜的に当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合と前課税期間の課税売上割合とのいずれか低い割合を課税売上割合に準ずる割合として承認しても差し支えないとしているところ(甲74)、その理由として、上記のような場合は「課税売上割合により仕入控除税額の計算を行うことは事業の実態を反映したものと言えず、不合理であると考えられること」が掲げられていることに照らすと、上記の「たまたま土地の譲渡があった場合」の便宜的な取扱いに関する課税庁の運用も、当該課税期間において課税売上割合により仕入控除税額の計算を行うことが本件事業の実態を反映したものにならない場合に、本件事業につき課税売上割合に準ずる割合を合理的な基準により算出することを否定する趣旨のものとは解されず、(d)M社当初承認申請却下処分を受けて公表された出版物等(甲82ないし85)において、土地を除いて計算した「課税売上割合に準ずる割合」の適用承認申請を行っても課税当局に承認される可能性は極めて低いとなどとする見解や、課税売上割合に準ずる割合は同一種類の費用のうち特定の費用にのみ適用することは認められないなどとする見解が示されたとしても、前者の見解は課税庁の関与に係るものとは認められず、これをもって、前示のとおり消費税法30条2項1号の定める課税対応課税仕入れが同号の文言及び趣旨等に即して当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生じる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみを意味すると解すべきであることが否定されるものではなく、また、後者の見解も、これをもって、上記(a)のとおり収益不動産の販売に関する事業の種類が収益不動産販売事業しかなく当該事業に係る費用も棚卸資産である収益不動産物件の購入費用しかない場合に課税売上割合に準ずる割合の適用が認められることが否定されるものではない。)、③前記イ及び上記②において説示したところによれば、被控訴人が主張する本件ギャップの問題が課税売上割合に準ずる割合の適用によって解決することがおよそ不可能なものであるとはいえず(前示のとおり、被控訴人は、本件各課税期間において課税売上割合に準ずる割合の適用の承認申請を行っておらず、後記4及び5において説示するところも併せ鑑みれば、被控訴人が本件各課税期間に係る本件事業につき課税売上割合に準ずる割合を合理的な基準により算出した上で課税売上割合に準ずる割合の適用の承認申請を行った場合に、それが承認される余地がなかったと断ずることはできないというべきである。)、本件全証拠によっても、課税庁がM社や被控訴人の申請に係る課税売上割合に準ずる割合を承認したことが、消費税基本通達に反し消費税法30条3項に違反する違法なものであってM社に係る別件訴訟及び本件訴訟の訴訟追行上の政策的考慮によるものであるとは認められないというべきである。
  次に、前記エ(イ)の点に関しては、税負担の累積の排除は消費税の計算の基本的かつ本質的な要素であり、消費税法の規定の解釈に当たっては税負担の累積の排除を含む消費税制度の立法趣旨を踏まえた解釈が求められるものといえるが、本件各課税仕入れの用途区分を共通対応課税仕入れに区分し、課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した額を本件各課税仕入れに係る消費税額とする結果(被控訴人の主張によれば本件各課税仕入れの6割以上が仕入税額控除の対象から除外される結果)、被控訴人の下で創出された付加価値を超えて消費税が課税されることになるのは、本件事業についてより合理的な消費税額の算定を可能とする制度として消費税法自体が設けている課税売上割合に準ずる割合(同法30条3項)の適用に必要な申請の手続を被控訴人が執らなかったことに起因するものであって(現に、被控訴人の申請に係る平成29年度における本件準ずる割合(95パーセントに満たない91.58パーセント)については、課税売上割合よりも合理的な割合として、その算定方法を含めて所轄税務署長の承認が得られている(前提事実(8)オ)。)、このような場合について消費税法は納税義務者の選択に従って課税売上割合に準ずる割合の適用によって対応することを予定しているものといえるから、消費税法が制度的に予定する手続を納税義務者が執らない場合に、将来課税売上げを生ずる取引に加えて非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入れについて、同法30条2項の文言及び趣旨等並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みにおいて予定されている範囲を超えて、これを殊更に課税対応課税仕入れに区分するという所論の解釈は、税負担の累積の排除の観点を踏まえても、消費税制度の立法趣旨に沿った消費税法の規定の解釈として相当とは解し難いものといわざるを得ない。
  また、前記エ(ウ)の点に関しては、①消費税法基本通達11−1−12は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等」をいうものと定めているところ、「行うためにのみ」との表現に加え、同通達の例示の内容((1)そのまま他に譲渡される課税資産、(2)家財資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等、(3)課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等)に照らすと、課税仕入れの目的が将来課税売上げを生ずる取引のためであれば同時に非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれても「課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等」に当たるとの解釈を許容するものとは解し難く、所論のように、(a)他の収入の得られる過程や位置付け、(b)他の収入が得られることが課税仕入れ等やこれに対応する取引に及ぼす影響、(c)全体の収入のうちに他の収入の見込額が占める割合などの事業者の経済活動に関する個別事情を踏まえて、当該課税仕入れが課税対応課税仕入れ、非課税対応課税仕入れ又は共通対応課税仕入れのいずれの区分に該当するかを判断するとしても(当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれるか否かを判断するに当たっても、事業者の経済活動に関する諸要素を総合して判断すること自体は否定されない。)、事業者の取引の客観的な内容や性質等を捨象して専らその目的のみに依拠してこれらのいずれの区分に当たるかを判断するのは相当とは解されず、②被控訴人の指摘に係る消費税法30条2項1号の文言に関しても、前記イのとおり、課税対応課税仕入れとは、同号の文言及び趣旨等に即して、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいうものと解される以上、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引に加えて非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入れについては、共通対応課税仕入れに区分するのが相当である(課税対応課税仕入れと共通対応課税仕入れの区分について同項の文言及び趣旨等並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みに即しして上記の解釈を採ることが、本件を含む個別事案における経済実態とのかい離による税負担の累積により同法の目的を達成し得なくなるものとは解されないというべきである。)。
  そして、前記エ(エ)の点に関しては、令和2年度の税制改正後(令和2年法律第8号による改正後)の消費税法の規定は、本件各課税期間に適用されるものではない上、その改正の内容が課税対応課税仕入れと共通対応課税仕入れの区分等に関する消費税法30条2項及び3項の解釈に影響を与えるものとはいえないから、本件各課税期間の後に上記の改正がされたことによって前記イの判断が左右されるものとはいえない。
  以上によれば、被控訴人の前記エ(ア)ないし(エ)の主張はいずれも採用することができない。
(2)本件各課税仕入れの用途区分について
ア 本件ビジネスモデルにおいては、本件各課税仕入れについて、本件各仕入日において、将来、住宅の貸付けによる賃料収入という非課税売上げが見込まれるとともに、本件各マンションの売却による課税売上げも見込まれるから(前提事実(1)及び(2)、認定事実アないしウ)、本件各課税仕入れは、消費税法30条2項1号に規定する課税対応課税仕入れ及び非課税対応課税仕入れのいずれにも該当せず、共通対応課税仕入れに該当するものと解するのが相当である。
イ これに対し、被控訴人は、本件各課税仕入れは、本件各マンションの販売を専らの主眼として行われたもので、本件各マンションの賃貸は、専らその販売の手段(つまりバリューアップ)として行われたものであり、そうすると、消費税法上の税負担の累積の排除という趣旨から被控訴人に課されるべき消費税額は、本件各マンションの建物部分の販売の対価と仕入れの対価の差額、すなわち被控訴人の下で創出された付加価値に相当する額に対する消費税額であるべきことは明らかである旨を主張する(前記第23(被控訴人の主張)(2))。
  しかしながら、本件各課税仕入れは、仮に本件各マンションの販売を主眼として行われたもので、本件各マンションの賃貸はその販売の手段として行われたものであるとしても、現にその賃貸によって相当額の賃料収入が得られ、その中に非課税売上げに区分される賃料収入が相当程度において認められ、将来課税売上げを生ずる取引に加えて非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入れであると認められる以上(本件準ずる割合の計算式によると、平成30年3月期の建物売上高は54億9443万1487円、賃料収入のうち課税売上げに当たる売上高は2億8591万2322円、賃料収入のうち非課税売上げに当たる売上高は5億3091万4497円になっていて、課税売上割合に準ずる割合は91.58パーセントになっており(乙26の2)、仮にこれらの賃料収入に係るものも含めて本件各課税仕入れが全て課税対応課税仕入れに区分されるとすれば、前記(1)アのとおり、売上げに係る取引の大部分が課税資産の譲渡等に当たるといえない場合には多額の益税が生じて納税義務者間の公平を害することがあり得るとして、当該課税期間における課税売上割合が95パーセントに満たない場合には同条2項1号に規定する個別対応方式又は同項2号に規定する一括比例配分方式のいずれかの方法により控除対象仕入税額を計算するものとされていること及びその趣旨に沿わない結果になるものというべきである。)、前示の個別対応方式が定められた趣旨(売上げに係る取引の大部分が課税資産の譲渡等に当たるといえない場合には、課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れの税額だけが仕入税額控除の対象となり、その他の資産の譲渡等に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象とならないという仕入税額控除の原則的な考え方に従って控除対象仕入税額を計算することとされたものと解されることは、前記(1)ア及びイのとおりである。)等に照らし、前記(1)において説示した用途区分の基準に従って、共通対応課税仕入れに区分するのが相当である。
  したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
4 争点(2)(平等取扱原則違反の有無)について
(1)本件各課税仕入れが共通対応課税仕入れに該当することは、前記3のとおりであり、被控訴人は、本件各課税仕入れにつき、本件各課税期間において課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を用いて共通対応課税仕入控除税額を計算することの承認申請を行わず、所轄税務署長から消費税法30条3項2号の承認を受けていないから、本件各課税仕入れに係る共通対応課税仕入控除税額の計算に当たっては、同条2項1号ロに基づいて被控訴人の本件各課税期間における課税売上割合を用いて消費税額の算定がされることになる。そして、本件各更正処分は、上記の算定方法に従って消費税法30条2項1号に基づいて共通対応課税仕入控除税額を算出したものであり、原判決別紙4の課税の根拠及び計算の詳細を含め、消費税法所定の課税要件を充足するものであるから適法であり、当該各処分が平等取扱原則に反して違法となるものとは解されないというべきである。
(2)ア これに対し、被控訴人は、①税務当局の現在の対応は一貫性を欠いており(転売用マンションに係る課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して消費税等の申告をした納税者の中には、(a)被控訴人と同様に当該用途区分を一律に否認された者がいる一方、(b)転売までの期間の長短等で否認の範囲が限定された者や、(c)被控訴人とは逆に当該用途区分を一律に是認された者も存在する(甲6、28等)ほか、②税務当局は、転売用マンションに係る課税仕入れの用途区分につき、従前は課税対応課税仕入れに区分するとの取扱いをしていたがこれを変更するなど、税務当局の対応は過去と比較しても一貫性を欠いており((a)国税庁は、「買い取った分譲用マンションを分譲が完了するまで一時期賃貸した」との事例における用途区分につき、平成6年11月に実施した「全国国税局消費税課長・統括国税調査官会議」における意見聴取を経た上で、平成7年2月16日付けで全国の国税局及び税務署に対し、課税対応課税仕入れに区分して差し支えない旨を通知し(平成7年分譲マンション事例)、(b)東京国税局は、平成9年、「賃借人が居住しているマンションを転売目的でそのままの状態で購入した」との事例における用途区分につき、照会元の下級行政機関に対し、「本件の場合は…マンションを転売目的で取得したことが明らかである」から課税対応課税仕入れ等に区分される旨回答していた(平成9年賃貸マンション事例)が、(c)平成17年を境に取扱いを変更し、同年11月5日、国税庁職員が執筆する「こんなときどうする 消費税Q&A」と題する加除式の文献に「現住建造物を転売目的で購入した場合の仕入税額控除」と題する設例(事実関係は平成9年賃貸マンション事例と同様である。)を追加し、同設例における課税仕入れは「建物の転売という課税売上と住宅の家賃という非課税売上げのための課税仕入れ」であるから共通対応課税仕入れに区分されるとの見解(従前と正反対の見解)を示し(甲31、乙12)、(d)上記の設例が追加された僅か5日後(平成17年11月10日)には、国税不服審判所においても、転売用マンションに係る課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分するのが相当であるとの判断を初めて示し(乙11の1)、その後も同種の裁決を引き続き行った。)、このように税務当局の対応が一貫性を欠く状況の下において、被控訴人を他の納税者よりも不利益に扱う本件各更正処分を行ったから、当該各処分は平等取扱原則に反して違法である旨を主張する(前記第22の引用に係る原判決別紙3の2(原告の主張の要旨))。
 イ しかしながら、①M社及び別同業他社に対する各承認申請却下処分の事例(前提事実(8)ア及びイのとおり、上記各却下処分は、課税売上割合に準ずる割合の承認の可否によって処分が決せられている以上、本件各課税仕入れが共通対応課税仕入れに該当することを前提とするものでといえる。)に加え、オフィスビル及び居住契約付マンション(住宅用)の物件を購入してバリューアップ後に転売する業者が平成26年5月19日付けで作成したとされる資料(甲79)には、被控訴人が本件各確定申告を行った当時において、居住契約のある建物の課税仕入れ(まだ居住契約はないが将来居住契約を締結する予定のものを含む。)につき、将来売却予定(課税収入)であるが一部賃貸の用に供している(非課税収入)ため、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ(共通対応課税仕入れ)として消費税法上処理していたと記載されていること(前提事実(8)ウ)などに照らしても、税務当局は、本件各更正処分の当時において、本件ビジネスモデルと同様のビジネスモデルにつき、本件各課税仕入れと同様に共通対応課税仕入れに該当するとの立場を一貫して採っていたことが推認されるということができる。これに対し、被控訴人が指摘する税理士の陳述書(甲6)に記載されているセミナーの参加者等から得られた情報や、被控訴人代理人作成の令和元年5月13日付け報告書(甲28)で引用されている平成31年3月13日開催のセミナーのアンケート結果については、セミナー参加者等及びアンケート回答者の事業内容の詳細などが明らかでなく、これらの証拠をもって直ちに本件各更正処分が一貫性を欠くもので平等取扱原則に反し違法であると認めるには足りないというべきである。
   また、②(a)平成17年11月5日刊行の国税庁職員の執筆に係る「こんなときどうする 消費税Q&A」と題する文献(乙12)中の「現住建造物を転売目的で購入した場合の仕入税額控除」と題する設例では、「事業者の最終的な目的は中古マシションの転売ということであっても、転売までの間非課税売上げである住宅家賃が発生することも事実であり、中古マンションの購入に係る消費税は、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものに該当することになります。」との明確な見解が示されており、(b)平成23年11月1日刊行の「東京税理士界」Volume No.658(乙14)でも、上記「こんなときどうする 消費税Q&A」の記述を引用して、「派生的かつ附随的とはいえ、物件の取得により確実に発生する非課税収入は、たとえ販売目的による取得であったとしても、課税仕入れの区分上無視することはできない。」と記載され、(c)同月10日刊行の「消費税トラブルの傾向と対策〔税理士損害賠償事故対策版〕」(乙15)にも、「賃貸中の中古マンションを転売目的で取得し、課税売上げ対応分に区分して個別対応方式を適用したケース」のトラブルの対策について、「販売用の建物を取得する場合の課税仕入れの用途区分であるが、本事例のように居住用の現住建造物を取得する場合には、原則として共通して要するものに区分することになる。」と記載され、(d)平成25年11月5日刊行の「消費税〔個別対応方式・一括比例配分方式〕有利選択の実務」(乙16)にも、入居者のいる賃貸マンションを転売目的で取得した場合の取得費の用途区分につき、直ちに転売できる場合はともかく、実際に転売するまで一定の期間を要する場合、転売までに入居者から賃貸料収入がもたらされることになるとして、「取得の意図が転売目的であっても、課税売上のみならず非課税売上をももたらすことから、取得費の用途区分については、課税売上と非課税売上の双方に共通して要するものに分類すべきということになるものと考えられる」と記載されていることに加え、(e)上記①のとおり、被控訴人が本件各確定申告を行った当時において、オフィスビル及び居住契約付マンション(住宅用)の物件を購入してバリューアップ後に転売する業者が、既に居住契約のある建物の課税仕入れにつき、共通対応課税仕入れとして消費税法上処理していたことが認められることなどに照らすと、被控訴人が本件各確定申告を行った当時における税務当局の対応がその時点で通常参照の対象となる過去の相当期間の事例や公表された解釈等と比較して一貫性を欠いていたということはできない(なお、被控訴人の指摘に係る事例のうち、(ⅰ)平成7年分譲マンション事例(甲18、19)は、「譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除」との照会事項に対し、「仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し(中略)、将来的には全て分譲することとしているものについては法30条2項1号イの課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない。」としたものであるが、「課税仕入れの時点では課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当することは明らかである」とされており、課税仕入れの時点で当該マンションを賃貸の用に供することが予定されていたかどうかは明らかではなく、当該事例をもって直ちに被控訴人の主張する解釈に沿うものと解することは困難であり、(ⅱ)平成9年賃貸マンション事例(甲21)は、当初から転売目的(1棟ごとに居抜きで転売するか又は賃貸借契約解除後に1戸ずつ転売する目的)でマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除の運用について、「法人の処理及び販売活動等から、マンションを転売目的で購入したことが明らかであることから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当し、仕入れ税額控除が認められる。」としたものであり、前記の平成17年11月5日刊行の国税庁職員の執筆に係る「こんなときどうする 消費税Q&A」と題する文献に記載された見解に必ずしも沿うものとはいえないことがうかがわれるものの、平成9年(平成17年の上記文献の公刊の約10年前)の当時におけるもので、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され、かつ、一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、上記(a)ないし(d)のとおり平成17年の上記文献の公刊以降に同文献の見解が一般的通用性を有する規範として課税庁において是認されたものとして一般に周知される中で、本件各確定申告が行われた当時に至るまでの十数年の間に、課税庁によってその見解が変更されたことをうかがわせる公刊の文献等が現れたことを認めるに足りる証拠は存しない。)。
   以上によれば、被控訴人の前記アの主張は採用することができない。
5 争点(3)(国税通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無)について
(1)ア 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり、主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算税に比して少ないものである。
   国税通則法65条4項は、修正申告書の提出又は更正に基づく納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが、過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁等参照)。
 イ これを本件についてみると、被控訴人は、本件各課税期間の消費税等について、個別対応方式で控除対象仕入税額を計算することを選択した上で、本件各課税仕入れの用途区分につき、建物の販売(課税資産の譲渡等)のみならず、住宅の貸付け(その他の資産の譲渡等)をも目的とするものであるから、共通対応課税仕入れに区分すべきであるにもかかわらず、課税対応課税仕入れに区分すべきであるとして、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除し、原判決別表1−1から1−3までの各「確定申告」欄記載のとおりの確定申告(本件各確定申告)を行ったものであるところ、①前記4(2)イ②(a)ないし(d)のとおり、平成17年11月5日刊行の国税庁職員の執筆に係る「こんなときどうする 消費税Q&A」と題する文献及びこれを踏まえた平成23年11月1日刊行の「東京税理士界」のVolume No.658や、同月10日刊行の「消費税トラブルの傾向と対策〔税理士損害賠償事故対策版〕」及び平成25年11月5日刊行の「消費税〔個別対応方式・一括比例配分方式〕有利選択の実務」等の文献において、事業者の最終的な目的は中古マンションの販売ということであっても、転売までの間に非課税売上げである住宅家賃が発生する場合には、中古マンションの購入に係る消費税は課税売上げと非課税売上げに共通して要するものに該当する旨の見解が示されていること、②被控訴人が本件各確定申告を行った当時において、オフィスビル及び居住契約付マンション(住宅用)の物件を購入してバリューアップ後に転売する業者が、既に居住契約のある建物の課税仕入れにつき、共通対応課税仕入れとして消費税法上処理していたことが認められること(前記4(2)イ①)、③本件と同様に販売目的による居住用の建物の取得費についての課税仕入れの区分が争点となった平成17年11月10日裁決、平成22年11月8日裁決及び平成24年1月19日裁決(乙11の1ないし3。公刊の裁決事例集に掲載されているもの)並びに平成25年6月26日のさいたま地方裁判所の判決(甲10。公刊の税務訴訟資料に掲載されているもの)の各事例において、当該各事案の所轄行政庁及び被控訴人が、当該各課税仕入れが共通対応課税仕入れに当たるとする本件処分と同旨の主張をし、その主張が採用されていたことが認められることなどに照らすと、被控訴人が本件課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を本件各課税期間に係る課税標準額に対する消費税額から控除して本件各確定申告を行ったことについて、真に被控訴人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお被控訴人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認め難いものというべきであり(前記4(2)イ②において説示したところに照らせば、被控訴人の指摘に係る平成9年賃貸マンション事例の存在を踏まえても、上記の判断が左右されるものとは解し難いといわざるを得ず、また、被控訴人の指摘に係る平成7年分譲マンション事例をもって直ちに被控訴人の主張する解釈に沿うものと解することは困難であることも、前記4(2)イ②において説示したとおりである。)、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえないから、本件各賦課決定処分は適法である。
(2)ア これに対し、被控訴人は、税務当局は、転売用マンションに係る課税仕入れの用途区分という租税法規の解釈上微妙な点を含む問題について、平成17年を境に課税上の取扱いを変更しているが、変更後の取扱いを国民の間に定着させるための措置は何ら講じていないから、被控訴人が従前の取扱いに従って本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分したことについて、その責めに帰することのできない客観的な事情があることは明らかであって、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお被控訴人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというべきである旨を主張する(前記第22の引用に係る原判決別紙3の3(原告の主張の要旨))。
 イ しかしながら、①上記(1)イ①及び前記4(2)イ②(a)ないし(d)において摘示した各文献等の存在及び内容、②被控訴人が本件各確定申告を行った当時において、オフィスビル及び居住契約付マンション(住宅用)の物件を購入してバリューアップ後に転売する業者が、既に居住契約のある建物の課税仕入れにつき、共通対応課税仕入れとして消費税法上処理していたこと(前記(1)イ②、前記4(2)イ①)、③本件と同様に販売目的による居住用の建物の取得費について課税仕入れの区分が争点となった事案につき、公刊物に掲載された平成17年、平成22年及び平成24年の各裁決例並びに平成25年の裁判例において、当該各事案の所轄行政庁及び控訴人が、当該各課税仕入れが共通対応課税仕入れに当たるとする本件処分と同旨の主張をし、その主張が採用されていたこと(前記(1)イ③)などに照らすと、これらの文献や事例等に表れた平成17年以降の課税庁の取扱いは、被控訴人が本件各確定申告を行った当時、被控訴人と同様に中古マンション等を購入してこれを転売する事業を行う業者の間において相当程度周知されていたものということができ(前記4(2)イ②において説示したところに照らせば、被控訴人の指摘に係る平成9年賃貸マンション事例の存在を踏まえても、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない以上、被控訴人の主張に係る平成17年の前後における課税庁の取扱いの差異の有無については、本件全証拠によっても明らかではないといわざるを得ない。また、被控訴人の指摘に係る平成7年分譲マンション事例をもって直ちに被控訴人の主張する解釈に沿うものと解することが困難であることも、前記4(2)イ②において説示したとおりである。)、平成15年から不動産投資事業に本格的に参入し、平成27年以降は東京証券取引市場第1部に上場している被控訴人(前提事実(1))も、上記の周知の対象とされた転売事業を行う業者に含まれるものというべきであるから、被控訴人の指摘に係る諸点を踏まえても、上記の課税庁の取扱いと異なり、被控訴人が本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除して本件各確定申告を行ったことにつき、被控訴人に真に責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお被控訴人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認め難いものといわざるを得ない。
   以上によれば、被控訴人の前記アの主張は採用することができない。
6 結論
 以上によれば、本件各処分はいずれも適法であり、被控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これらをいずれも認容した原判決は取消しを免れず、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官 岩井伸晃
裁判官 西森政一
裁判官 糸井淳一

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