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解説記事2021年11月15日 SCOPE 東京地裁 結果的に売上除外等がなくとも無予告要件を充足(2021年11月15日号・№906)

法令上、課税庁に無予告理由の説明義務なし
東京地裁 結果的に売上除外等がなくとも無予告要件を充足


 無予告調査に基づき法人税及び消費税等の更正処分を受けた原告(法人)が、本件無予告調査は無予告要件を満たさず、また、無予告理由を説明しなかったことには国税通則法74条の10に反する違法があるなどとして、本件各更正処分の取消しを求めた事案で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は令和3年10月6日、原告の請求を棄却した。

処分行政庁による「売上除外・還流」の想定は不合理と言えず

 平成23年改正後の国税通則法の規定によれば、税務調査は原則として事前通知が必要であり(国通法74条の9)、無予告調査はその例外として定められている(国通法74条の10)。したがって、法的要件を満たさない限り無予告調査は実施できない(参照)。

【表】国税通則法の規定(一部抜粋)

第74条の9
 税務署長等は、国税庁等又は税関の当該職員に納税義務者に対し実地の調査を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。(以下略)
第74条の10
 前条第1項の規定にかかわらず税務署長等が調査の相手方である(略)納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1 項の規定による通知を要しない。

 本件において無予告調査が行われた背景には、①売上の一部が原告代表者名義の預金口座(本件預金口座)に受け入れられていながら、法人税確定申告書の「預貯金等の内訳書」に記載されていなかったことから、売上除外が行われたのではないか、②原告の原告代表者に対する借入金残高の増加額が原告代表者の給与収入等の年額よりも多額であったことから、原告代表者から原告への売上還流が行われていたのではないか、との処分行政庁による想定があった。
 本件では、まず無予告要件を満たしているかどうかが争われた(争点1)。
 東京地裁は、通則法74条の10について、同条の規定を引用した上で、「課税庁保有情報に鑑み、事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合には、無予告要件を満たすものというべきである」との解釈を示した(「(国税の調査)等関係通達」5−9(3)の内容と同様)。
 原告は、上記①の事情については、「以前、法人名義での預金口座を開設することができなかったため、便宜上、本件預金口座を使用し続けているだけ」、②の事情については「単に、近年の原告の売上げが逓減しているため、原告代表者が自己の収入や貯蓄を原告に対する貸付けという形で原告の事業に投じてきたことによるもの」などと主張したが、これに対し東京地裁は、原告が指摘する事情は必ずしも外部からは明らかではないとして、「上記①及び②の諸事情は中小企業一般に広くみられるものとはいえず」「所轄税務署長が、原告が本件預金口座を利用した売上除外及び除外売上金の還流を行っていることを想定したことは不合理なものということはできない」との判断を下した。
 そして、「一般に、原告のような家族経営の中小企業では、帳簿書類等の改ざんを防ぐための内部統制が不十分であることが多いことなども踏まえると、仮に、事前通知をした場合には、原告において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される」とした上で、「本件無予告調査は無予告要件を満たしており、本件無予告調査を行ったことに通則法74条の10に反する違法はない。」と結論付けた。
 なお、本件の場合、結果として、売上除外及び売上除外金の還流はないことが明らかになったが、東京地裁は「無予告要件の有無は無予告調査に際して税務署長等が保有している情報に鑑みて判断されるべきものであるから、結果として本件無予告調査の際に想定されていた売上除外や除外売上金の還流が認められなかったとしても、そのことは無予告要件を満たすか否かの判断を左右しない」として、この点を問題視した原告の主張を斥けた。
無予告調査への過度な反発には高いリスク
 本件では、税務職員が臨場の際に「無予告要件を満たしている」とする一方で、無予告理由については「説明することができない」としたところ、税理士はこれに納得できず、無予告理由の説明義務の有無についても争われた(争点2)。この点について東京地裁は、「通則法74条の10の文言上、無予告調査がされた場合に、税務署長等に対し、税務調査の過程で、無予告理由を調査の相手方である納税義務者に説明すべき義務を負わせるものとは解されない」として、通則法74条の10に反する違法はないとの判断を下した。
 国税庁HPの「税務調査手続きに関するFAQ(一般納税者向け)問21」においても同様の記載があり、無予告理由の説明を求めても回答が得られないことは明らかといえる。とはいえ、税理士等にしてみれば、無予告の理由がわからなければ無予告要件を満たしているのか確認できないという不満を抱くのも無理はないところだろう。
 ただし、無予告調査への過度な反発はリスクが高い。無予告調査に反発し帳簿等を提示しなかったことで仕入税額控除の要件を満たさないと判断され、38億円もの課税処分を受けた事案は現在も係争中だ(本誌848号)。無予告調査を受けたときは、無予告要件を満たしているのか、冷静に確認することが重要になる。上記通達5−7には「単に不特定多数の取引先との間において現金決済による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない場合に該当するとはいえない」との記載もある。税理士としては、適正な無予告調査であるのか問いただす姿勢を示すべきだろう。

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