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解説記事2021年11月22日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その2)(2021年11月22日号・№907)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その2)

はじめに

 前回の後段に引き続き、本稿では、IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容について取り上げることとしたい。
 IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容のうち、件数が50件以上(調査対象とした企業は223社)のものを一覧にして再度示すと、のとおりである。

 本稿では、の5番目の「非上場株式の公正価値評価」以降の項目について触れることとする。

⑤ 非上場株式の公正価値評価
 日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は、公正価値評価の対象とされる。

【開示例】 2021年3月期 キッコーマン

 日本基準では非上場株式については取得原価を基礎として計上し、必要により発行会社の財政状態の悪化に応じて減損処理を行っておりました。IFRSではこれらの非上場株式について、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産として指定しており、公正価値で測定された変動額をその他の包括利益として認識しております。

⑥ 収益認識基準の変更
 わが国では、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる。これに対してIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないとされており、企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならない。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時(又は獲得するにつれて)であるとされている(第31項)。これにより、日本基準とIFRSとの間で収益認識のタイミングに差異が生じることになる。
 なお、2022年3月期から、我が国においては、IFRS第15号を下敷きにして開発された「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針が強制適用されることから、今後は調整表における収益認識基準の変更に関する開示内容にどのような変化が出てくるか注目して見守りたい。本稿では、事例を3件紹介する。

【開示例】 2021年3月期 日本航空

 日本基準においては、顧客へ付与したマイレージの利用による将来の費用負担額を「販売費及び一般管理費」として計上しておりました。IFRSではマイレージプログラムを将来引き渡される物品又はサービスとして個別に認識し、マイレージと交換される特典の履行義務に配分された取引価格を収益から繰延べ、顧客のマイレージ利用に従い収益を認識しております。また、日本基準では一時点で収益認識していた取引の一部について、IFRSでは役務提供の進捗に応じて一定期間にわたり収益認識しております。

【開示例】 2021年3月期 東レ

 日本基準では代理人として関与した取引について、「売上高」及び「売上原価」を総額で表示しておりましたが、IFRSでは純額で表示しております。また、日本基準では出荷基準により収益認識していた物品販売取引について、IFRSでは物品の引渡し時点で収益認識するように変更しております。

【開示例】 2021年3月期 IHI

・日本基準では出荷基準により認識していた一部の物品販売取引について、物品の引渡時点で収益認識するように変更したため、「営業債権及びその他の債権」及び「棚卸資産」を調整しています。
・日本基準では、主として工事請負契約の一定の契約形態に基づく取引について工事進行基準を適用していましたが、IFRSでは、契約の法形態に拘らず、財又はサービスに対する支配が一定の期間にわたって顧客に移転する取引については一定の期間にわたって収益を認識しています。また、日本基準では契約に基づく請求等の対価獲得時に収益を認識していた一部の長期メンテナンス工事について、IFRSでは履行義務を充足した時点で収益を認識しています。
・日本基準では、顧客が検収済みの工事等に係る収益を全額認識し、将来見込まれる工事費用を営業債務として計上していましたが、IFRSでは、履行義務が残る工事について、対応する収益の認識を留保するとともに、当該履行義務に対応する取引価格を主に「契約負債」に計上しています。
・日本基準では、一部のリベート等を「販売費及び一般管理費」に、契約納期遅延に係る費用を「営業外費用」にそれぞれ表示していましたが、IFRSでは顧客に対する対価の支払いとして「売上収益」から控除して表示しています。また、顧客に対する対価の前払いについて、IFRSでは「その他非流動資産」に計上し、取崩時に「売上収益」を減額しています。
・当社が参画しているエンジンプログラムに関する収益認識について、日本基準の移行日時点では、当社のメインパートナーが販売した翌月に送付される売上通知書の受領をもって収益を計上していましたが、2020年3月より販売された月に収益を計上することに変更しました。一方でIFRSでは、移行日時点より販売された月に収益を計上しています。このため、前連結会計年度の日本基準では13か月分の収益を計上しているのに対して、同年度のIFRSでは12か月分の収益を計上しています。

⑦ 減価償却方法の変更
 日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。

【開示例】 2021年3月期 野村総合研究所

 日本基準では有形固定資産(リース資産を除く)の減価償却方法について定率法(ただし、2016年4月1日以降に取得した建物付属設備及び構築物は定額法)を採用していました。IFRSでは定額法を採用しています。

⑧ 繰延税金資産の回収可能性の再検討
 わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、IFRS適用にあたって差異が生じることになる。

【開示例】 2021年3月期 ビジネスブレイン太田昭和

 IFRSの適用に伴い、すべての繰延税金資産の回収可能性を再検討しております。

⑨ 使用権資産とリース負債を計上
 2019年12月期から強制適用が開始されたIFRS第16号「リース」は、リースの開始日において、ファイナンス・リースやオペレーティング・リースの区分を問わず、リース資産の借手に対して使用権資産とリース負債とを認識することを求めている(第22項)。使用権資産は取得原価で測定され、次のものから構成される(第23項、第24項)。
(a)リース負債の当初測定の金額
(b)開始日以前に支払ったリース料から受け取ったリース・インセンティブを控除したもの
(c)借手に発生した当初直接コスト
(d)リースの契約条件で要求されている原資産の解体及び除去、原資産の敷地の原状回復又は原資産の原状回復の際に借手に生じるコストの見積り。
 また、リースの借手は、開始日において、リース負債を同日現在で支払われていないリース料の現在価値で測定しなければならないとされている(第26項)。
 わが国の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び同適用指針では、所有権が移転されるファイナンス・リース取引を除くリース取引(所有権移転外ファイナンス・リース及びオペレーティング・リース)の借手については賃借料等を費用処理するとされており、使用権資産やリース負債を計上することは求められていない。また、我が国の会計基準とIFRS第16号との間には、使用権資産やリース負債の認識のほかに、リース契約に該当するかどうかの判断等についても相違点が存在する。

【開示例】 2021年3月期 レノバ

 IFRSでは短期リース及び少額資産のリースを除き、原則として全てのリース契約について使用権資産及びリース負債(流動及び非流動)を認識しており、使用権資産は減価償却を実施しています。日本基準では一部を開業費として処理していたものの、大部分はリースとしてオペレーティング・リース又はファイナンス・リースに区分して処理しており、ファイナンス・リースに係る資産及び負債はそれぞれ、有形固定資産、その他流動負債又はその他固定負債として計上していました。(以下略)

⑩ 未実現利益の消去に係る税効果の処理方法
 わが国の会計基準において、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、当該未実現利益の実現に対応させて取り崩すこととされている。この売却元で発生した税金は確定した金額であるため、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額である。なお、売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、税率の変更による見直しは行わないことになる(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第13項)。これに対して、IFRSでは繰延税金資産及び負債は、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率(及び税法)に基づいて、資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される税率で算定しなければならない(IAS第12号「法人所得税」第47項)とされているため、日本基準とIFRSの間には差異が存在する。

【開示例】 2021年3月期 日本航空

 日本基準では、未実現利益の消去に伴う税効果について、売却会社の実効税率を用いて計算しておりますが、IFRSでは購入会社の実効税率を用いて計算しております。

⑪ 一部の有形固定資産についてみなし原価としての公正価値の使用
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。免除規定の1つとして、企業は、IFRS移行日現在で、ある有形固定資産項目を公正価値で測定し、その公正価値を当該日現在のみなし原価として使用することを選択することができ、初度適用企業は、IFRS移行日現在又はそれ以前における、ある有形固定資産項目の従前の会計原則に従った再評価が、再評価日の時点で次のいずれかとおおむね同等であった場合には、それを再評価日現在のみなし原価として使用することを選択することができる(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D5項、D6項)。(a)公正価値 (b)IFRSによる原価又は償却後原価を、例えば、一般物価指数又は個別物価指数の変動を反映するように調整したもの。また、企業は、有形固定資産のほか、投資不動産や一定の要件を満たした無形資産に対してもこの免除規定を適用することができる。
 わが国の会計基準には、このような規定はない。

【開示例】 2021年3月期 SCSK

 IFRS適用にあたってIFRS第1号にあるみなし原価の免除規定を適用し、一部の有形固定資産について移行日現在の公正価値をみなし原価としております。移行日においてみなし原価を使用した有形固定資産の従前の帳簿価額は44,116百万円、公正価値は31,409百万円です。上記の結果、移行日における有形固定資産が12,706百万円減少しております。

⑫ 連結範囲の変更
 連結の範囲については、日本基準(連結財務諸表に関する会計基準)、IFRS(IFRS第10号「連結財務諸表」)ともに、支配力基準に基づいて子会社の連結の要否を判定する規定となっているが、日本基準では重要性が乏しい一部の連結子会社については連結せず、持分法を適用したり、取得原価評価としたりする例が見られる。また、日本基準では、非営利の事業体は連結対象から除外されている。

【開示例】 2021年3月期 三井化学

 日本基準では重要性が乏しいため持分法を適用していた一部の子会社について、IFRSでは連結範囲に含めております。また、日本基準では持分法適用関連会社としていた千葉ケミカル製造有限責任事業組合等4社を、IFRSではジョイント・オペレーションとして認識しております。

⑬ 資本性金融商品の売却損益等のノンリサイクリング処理
 日本基準では、資本性金融商品(株式)の売却損益は、投資有価証券売却損益等として営業外損益、最終的には当期の損益に含めて処理するが、IFRSでは、IFRS第9号「金融商品」の5.7.5項は、売買目的保有でない資本性金融商品への投資の公正価値の変動を、その他の包括利益(OCI)に表示するという取消不能な選択を行うことを企業に認めている。この選択は、金融商品ごと(すなわち株式ごと)に行われるが、その他の包括利益に表示された金額を事後的に純損益に振り替えてはならない(リサイクリングをすることができない)とされていることから(IFRS第9号「金融商品」B5.7.1)、日本基準とIFRSとの間で差異が生じることになる。

【開示例】 2021年3月期 三井化学

 日本基準では純損益として認識していた一部の資本性金融商品の売却損益、減損損失並びに当該損益に係る法人税等について、IFRSでは一部の資本性金融商品をその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産として指定したことにより純損益による認識は行わず、「その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産」として認識しております。

終わりに

 我が国の企業に対してIFRSの任意適用が認められてからすでに10年が経過し、その間、我が国の会計基準とIFRSとの間の収斂(コンバージェンス)を図る作業は着実に進展してきた。そして、2022年3月期からは、いよいよIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を下敷きとして開発された「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針の強制適用が開始される。
 しかしながら、のれんやリサイクリング、開発費の資産化といった、IFRSと我が国の会計基準との間の差異が残っている項目はまだまだ多い。そして、賦課金やリース(使用権資産とリース負債の計上)など、IFRSの新たな会計基準や解釈指針も続々と開発・適用開始されている。本稿で取り上げた、IFRSを初度適用する会社が作成する差異調整表上に開示される項目は、少しずつ顔ぶれが変わりながらも、今後もずっと残っていくことであろう。

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