カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年11月29日 解説 経団連提言「国際的な意見発信と国内の基準開発を担うサステナビリティ基準委員会(仮称)の創設を求める」(2021年11月29日号・№908)

解説
経団連提言「国際的な意見発信と国内の基準開発を担うサステナビリティ基準委員会(仮称)の創設を求める」
 経団連経済基盤本部 浅野岳紀


 経団連は、11月16日に、提言「国際的な意見発信と国内の基準開発を担うサステナビリティ基準委員会(仮称)の設立を求める」を公表した。本稿では、提言公表に至った背景を含めて、提言の内容を解説する。

はじめに

 経団連が提唱する「サステイナブルな資本主義」のため、企業は、グローバルなサステナビリティ課題の解決を行うべく、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた社会変容に果敢に取り組む必要がある。そのためには、官民を挙げた巨額の投資が欠かせず、金融・資本市場を通じて民間資金を持続可能な社会の実現に結び付ける「サステナブル・ファイナンス」の推進が喫緊の課題となる。
 健全な市場機能の発揮や投資家との建設的な対話を通じて、「サステナブル・ファイナンス」を有効に機能させるには、企業によるサステナビリティ情報開示を充実させることが不可欠の要素であり、その制度整備を行うことが必要である。
 この点、本年6月25日の「G7財務大臣・中央銀行総裁会議」の共同声明では、サステナビリティ情報開示(気候変動関連開示)を国際的に進めるために、次のように(脚注1)、①IFRS財団において国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設置して国際的に統一された基準作りを行うこと、②各国において規制的な枠組みを作ることを要請した。

① 頑健なガバナンス及び公的監視の下で、TCFDの枠組み及びサステナビリティ基準設定主体の作業を基礎とし、これらの主体と幅広いステークホルダーを緊密に巻き込んでベストプラクティスを形成するとともに収斂を加速させて、このベースラインとなる基準を策定する、国際財務報告基準財団(※)の作業プログラムを歓迎する。我々は、COP26までの国際サステナビリティ基準審議会の設立につながる最終提案に関する更なる協議を慫慂する。(※)IFRS財団を指す。
② 一貫した、市場参加者の意思決定に有用な情報を提供し、かつ、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組に基づく、義務的な気候関連財務開示へ、国内の規制枠組みに沿う形で向かうことを支持する。

 このように、サステナビリティ情報開示の充実に向けた制度整備として、①ISSBによる国際的な基準作りと、②各国内での情報開示制度の枠組み作りに焦点が当てられることとなり、わが国でもその政策対応を行うことが重要な課題となっている。

1.国際的な意見発信の必要性

 サステナビリティ基準の分野では、TCFD提言、SASBスタンダード、国際統合報告フレームワークをはじめとして、国際基準が乱立しており、投資家・企業から、開示内容の整理・統合を求める声が強い。こうしたことから、国際会計基準(IFRS)を開発するIFRS財団が、国際的に統一された基準作りに向けて、ISSBの設置に乗り出した。これまで、IFRS財団の定款変更改訂やISSBの議長・副議長の公募手続き等の設立準備を進めてきた。
 そして、IFRS財団は、COP26において、ISSBの設立を正式に発表した(本年11月3日)。併せて、ISSBがVRF(Value Reporting Foundation:IIRCとSASBが統合した組織)及びCDSB(Climate Disclosure Standards Board)と2022年6月までに完全な統合を行うことも表明された。また、ISSBの議長オフィスをフランクフルトに置く一方で、モントリオール・サンフランシスコ・ロンドンにも拠点を置くこと、アジア・オセアニア地域については、東京と北京に拠点を設置することにつき議論を継続することも明らかにされた(脚注2)。
 今後、ISSBは、来年6月を目途に国際的に統一された気候変動開示基準を公表すべく、作業を加速させる見込みである。ISSBの設立表明の際に、気候変動開示基準のプロトタイプが公表されており、それをもとにISSBで検討を行い、来年早々にも気候変動開示基準の公開草案が公表される予定である。また、気候変動以外のサステナビリティ基準の策定に向けたアジェンダ協議の実施も予定されている。
 こうしたなか、各国ごとに異なる産業構造やエネルギー政策等を適切に踏まえた国際基準の開発を促すためには、ISSBに対して、我が国から、基準開発への積極的な貢献と強力な意見発信を行う必要性がある。そこで、経団連の提言では、「わが国の市場関係者の意見を聴取して、オールジャパンとしての意見集約、発信を担う体制整備が急務である」と主張した。

2.高品質な国内基準の開発

 サステナビリティ要素の投資判断としての重要性を鑑みて、サステナビリティ情報開示の制度化・法制化の動きが加速している。
 EUでは、本年4月に、欧州委員会(EC)が、現行の非財務報告指令(NFRD)の改正案として、企業サステナビリティ報告指令案(CSRD)を公表した。これは、全ての大企業及び上場企業に対して広範なサステナビリティ情報開示を要求する内容であり、2023年度より適用開始となる。その開示要件は、欧州財務諮問グループ(EFRAG)が、2022年半ばまでに基準を策定する予定としている。
 米国は、バイデン政権の下で、気候変動開示に積極的な姿勢を取っている。バイデン政権は、上場企業に対し、気候関連リスクと温室効果ガスの開示を求めることを公約しており、本年7月に、米国証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が、SECのスタッフに対して、気候リスク開示の義務化に関するルールの提案を本年末までに策定するよう指示を行った。
 わが国は、TCFD提言(脚注3)をはじめとする気候変動関連開示の自主的な充実に努めてきたが、こうした取組みに加え、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の法的開示の取扱いについて、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループで議論が行われている。本年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで示された通り、上場企業等が一定のサステナビリティ情報開示を行うことは、金融・資本市場の強い要請であり、その開示内容は、国内外の投資家のニーズ、急速に変化する国際動向、企業の実務負担等を的確に反映することが必要である。
 そこで、経団連の提言では、「民間の専門家の叡智を結集し、国際的な整合性がとれた、高品質な国内のサステナビリティ基準を機動的に開発する体制を整備すべき」と提言した。実質的にも、ISSBは、「ビルディング・ブロックアプローチ」の考え方を取っており、ISSBの作る基準をベースに各国国内で国内基準の開発を行うことを旨としていることから、わが国の国情も踏まえた柔軟性のあるリーズナブルな基準の開発が求められる。

3.「サステナビリティ基準委員会(仮称)」の設立

 以上、「1.」「2.」を踏まえると、国際的な意見発信、国内のサステナビリティ基準の開発を担う民間組織を速やかに立ち上げることが必要である。
 この点、財務会計基準機構(FASF)は、その下にある企業会計基準委員会(ASBJ)が、会計基準の分野で国際的な意見発信及び国内基準の策定を担ってきた実績があり、IFRS財団のカウンターパートとして強固な信頼関係を築いていることから、その任務を行うのに相応しい。
 こうしたことから、経団連の提言では、「FASFのもとに、『サステナビリティ基準委員会(仮称)』を新たに立ち上げ、わが国の意見の積極的な国際発信、透明性のある国内のサステナビリティ基準開発を行うことが適当である」と主張した。併せて、「サステナビリティ基準委員会(仮称)」の組織運営は、ASBJと同様に公正・透明なものとすべきであるとし、以下の2点を求めた。

・「サステナビリティ基準委員会(仮称)」の委員等の人材は、企業・投資家等関係各界からバランスよく集め、特定の利害関係者からの独立性を確保すること
・運営資金の調達についても、独立性及び安定性を確保する観点から、幅広く関係各界に協力を求めること

 既に、FASFは、「サステナビリティ報告基準の調査研究及び開発」「国際的なサステナビリティ報告基準の開発への貢献」を事業内容に盛り込む定款変更を完了している。今後、FASFにおいて、会計基準と同様にサステナビリティ基準についても精力的な検討が行われ、国際的なプレゼンスを確保しつつ、わが国の実情を踏まえた国内基準の整備が行われることを期待したい。

脚注
1 金融審議会第2回ディスクロージャーワーキング・グループ(令和3年度)参考資料より抜粋。①②の記載順は便宜的に変更している。
2 金融庁や財務会計基準機構、経団連等の主要な市場関係者で構成されるIFRS対応方針協議会は、IFRS財団に書簡を送り(8月31日)、東京のIFRS財団アジア・オセアニアオフィスを存続させて、アジア・オセアニア地域のサステナビリティ報告の拠点として利用するよう求めている。
3 TCFDに賛同する日本企業・機関の数は542で世界一であり(10月27日現在)、今年に入って急速に増加している。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索