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解説記事2021年12月13日 特別解説 のれんの計上の状況等の分析(2020年度)〜IFRS任意適用日本企業と日本の会計基準を適用する主要な企業の場合〜(2021年12月13日号・№910)

特別解説
のれんの計上の状況等の分析(2020年度)
〜IFRS任意適用日本企業と日本の会計基準を適用する主要な企業の場合〜

はじめに

 我が国でIFRSの任意適用が開始されてから10年以上が経過し、IFRSを任意に適用して連結財務諸表と有価証券報告書を作成・公表する日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)の数も、株式時価総額が高い優良企業を中心に着実に増加してきている。また、最近の堅調な株式相場を反映して、IFRSを任意で適用して新規に上場する企業の数も増えてきている。
 本稿では、主要な日本企業ののれんの計上額や連結純資産に対するのれん計上額の比率、のれんの減損処理額等を調査し、傾向等の分析を試みた。具体的には、IFRS任意適用日本企業、米国会計基準を適用する日本企業、及び日本の会計基準を適用する主要な日本企業(株式時価総額が高い企業)を対象として、分析を行うこととしたい。

調査分析の対象とした企業

 今回調査分析の対象としたのは、2021年3月期まで(2020年度)にIFRSを適用して有価証券報告書を作成・提出した日本企業(IFRS任意適用日本企業)の226社であり、いずれも最も直近の本決算での数値を用いている。また、IFRS任意適用日本企業の中には、米国会計基準からIFRSに移行した企業や、IFRSを適用して新規に上場した企業も含まれている。また、本稿の後段では、米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成している日本企業11社と、2021年3月末日時点で、東京証券取引所での株式時価総額上位300社にランクインしている日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準を適用する日本企業を除いた計100社(日本の会計基準を適用する主要な日本企業)を対象として、のれんの計上額等に関する調査分析を行っている。

IFRS任意適用日本企業が計上したのれんの調査分析

 のれんの計上額が大きいIFRS任意適用日本企業を列挙すると、表1のとおりであった。なお、参考として、各社ののれんの計上額の連結純資産に対する比率も併記している。

 表1の参考として記載したように、上位10社によるのれんの計上額を合計すると、全226社の計上額合計の60%となり、上位20社まで広げると、70%超にまで達する。なお、1社当たりののれん計上額の単純平均額は、1,389億99百万円であるが、計上額が飛び抜けて大きいソフトバンクと武田薬品工業を除くと1,013億19百万円まで下がる。
 また、表1の各社ののれん計上額の連結純資産に対する比率を見ると、10社のうちの5社が50%を上回っていた。
 次に、IFRS任意適用日本企業ののれんの計上額の分布を示すと、表2のとおりであった。

 全226社のうち、半分を大きく超える129社ののれん計上額が200億円未満であった(のれんを全く計上していない企業23社(後述)を含む。)。そして、のれんの計上額が1,000億円を超える企業は46社と、全体の2割を若干上回る水準に過ぎない。裏を返せば、IFRS任意適用日本企業の8割近くが、のれんの計上額が1,000億円未満という結果となった。前記の通り、全226社ののれん計上額の平均は1,390億円であるため、表1で列挙されているような、多額ののれんを計上している一握りの大企業によって、1社当たりののれんの平均計上額が大きく押し上げられていることが分かる。
 次に、のれん計上額の連結純資産額に対する比率が高い企業を列挙すると、表3のとおりであった。

 のれん計上額の連結純資産に対する比率が100%超、すなわちのれんの計上額が連結純資産額を上回ったIFRS任意適用日本企業は17社であった。
 表1でランクされた企業とは全く顔ぶれが異なっている。表3でランクされた企業の最大の特徴は、10社のうちの7社が、IFRSを適用して新規に上場した企業であるということであろう(IFRSを適用しての新規上場に該当しないのは、コロワイド、リンクアンドモチベーション及び日本板硝子の3社)。IFRSを適用して新規に上場した企業で、多額ののれんを計上している企業の場合、いわゆる受け皿会社と合併することによって資産の評価替えを行い、その結果としてのれんが計上されていることが多い(外部から企業や事業を取得したことに伴って計上されるのれんとは、少し性質が異なる)。こういったのれんの場合には、収益力の源泉が通常はその会社の本業そのものであるため、よほどのことがなければのれんが減損処理されることはないと思われる。
 さらに、連結純資産に対するのれんの計上額の比率の分布を示すと、表4のとおりであった。

 表3では、のれんの計上額が連結純資産を上回るような企業を列挙したが、これはあくまでも「レアケース」に過ぎない。連結純資産に対するのれん計上額の割合が50%を超えるIFRS任意適用日本企業の割合は、全体の2割強(226社中の46社)に過ぎない。のれんの毎期定額償却を求められないために、日本企業の中ではのれんの計上額が一般的に大きいと言われるIFRS任意適用日本企業であっても、連結純資産に対するのれん計上額の比率が10%に満たない企業が、全体の半分弱(226社中の111社)を占めていることが分かる。なお、2021年3月末日現在でのれんを計上していなかったIFRS任意適用日本企業は23社であり、次のとおりであった。

【のれんを計上していなかったIFRS任意適用日本企業(五十音順)】

エフ・シー・シー、小野薬品工業、窪田製薬ホールディングス、クレハ、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス、山洋電気、セプテーニ・ホールディングス、ソレイジア・ファーマ、中外製薬、ツガミ、ティアック、テイ・エステック、トーセイ、豊田合成、日本航空、日本触媒、日本精工、ヒロセ電機、ヘリオス、本田技研工業、八千代工業、ユタカ技研、夢展望

 また、調査対象とした226社のうちで、直近の会計年度でのれんの減損損失を計上した企業は63社であり、計上額は合計で5,810億円であった。のれんの計上額総額に対する減損損失の計上率(費用化率)は1.85%となった。多額ののれんの減損損失を計上したIFRS任意適用日本企業を示すと、表5のとおりであった。

米国会計基準を適用する日本企業が計上したのれんの調査分析

 のれんの計上額が大きい米国会計基準適用日本企業を列挙すると、表6のとおりであった。また、表6では、のれん計上額の連結純資産に対する比率も併せて示している。

 米国会計基準を適用する日本企業の場合、のれんの計上額はそれなりに大きいが、さすがに我が国を代表する業界のリーディング・カンパニーだけあって、連結純資産額がのれんの計上額をはるかに上回っていた。

日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上したのれんの調査分析

 のれんの計上額が大きい、日本の会計基準を適用する主要な日本企業を列挙すると、表7のとおりであった。なお、参考のために各社ののれんの計上額の連結純資産に対する比率も併記している。

 今回調査の対象とした日本の会計基準を適用する主要な日本企業100社ののれん計上額をすべて合計すると3兆1,605億円であり、ソフトバンクグループや武田薬品工業1社ののれん計上額にも遠く及ばない。1社当たりの平均計上額は316億6百万円であり、IFRS任意適用日本企業(1,389億99百万円)のわずか22.7%の水準であった。表7では計上額がトップの東京海上ホールディングスも、IFRS任意適用日本企業や米国会計基準適用日本企業も合わせた日本企業全体でみると、13位相当である。
 次に、日本の会計基準を適用する主要な日本企業各社ののれんの計上額の分布を一覧にすると、表8のとおりであった。

 今回の調査分析の対象とした、日本の会計基準を適用する日本企業は、前述のように、株式時価総額で上位300位以内にランクインするような企業であり、日本を代表するような大企業が多いが、それでも、1,000億円以上ののれんを計上している会社が100社中わずかに10社であったのに対して、のれんの計上額が100億円未満の会社が27社、のれんを全く計上していない会社が100社中45社を占めていた。
 また、連結純資産に対するのれん計上額の比率の分布を示すと、表9のとおりであった。

 のれんの計上額が極めて小さいことからの当然の結果ではあるが、連結純資産に対するのれんの計上額の比率が30%を超える企業は1社もなかった(最も比率の高かった旭化成でも、23.5%に過ぎなかった)。
 また、日本の会計基準を適用する主要な日本企業のうち、のれんの減損損失を計上した企業は100社のうち10社であり、計上された金額は、総額で451億72百万円であった。

終わりに

 コロナウイルス感染症の感染拡大が進んでいる状況においても、IFRS任意適用日本企業の企業や事業の取得意欲は衰えず、IFRS任意適用日本企業全体で計上されているのれんの残高は、2020年度中に4兆円程度増加している。のれんの評価や減損が、今期から強制適用が始まった監査上の主要な検討事項(KAM)として監査報告書に記載されるケースも極めて多い。
 表1にランクインしたIFRS任意適用日本企業の中では、今期、Zホールディングス(旧社名:ヤフー)が、IFRS任意適用日本企業でもあったLINEを取得し、また、アサヒグループホールディングスがCUB Australia Holding PTYを取得して、両社ともにのれんが1兆円を超える水準となった。
 また、今回の調査分析を行ったことにより、あらためて分かったことは、日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上しているのれんの金額の少なさである。減損テストのみのIFRSや米国会計基準とは異なり、わが国の会計基準はのれんの毎期定額償却を求めているため、IFRS任意適用企業や米国会計基準を適用する企業に比べて、日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上しているのれんの残高が小さいであろうことはある程度予想できたが、主要な企業100社のうち、のれんの残高が計上されている企業が半分を僅かに上回る55社に過ぎないという結果には驚かされた。非常に雑駁な言い方にはなるが、「多額ののれんを計上しているような主要な日本企業の大半は、すでに日本の会計基準からIFRSに移行してしまった」ということが言えそうである。
 今回調査の対象とした、日本の会計基準を適用している主要な日本企業の顔ぶれを見ると、大手の金融機関(銀行、損害保険、生命保険)や小売業、鉄道、電力等のインフラ系の業種の企業がかなりの部分を占めていた。
 今回の調査対象とした日本の会計基準を適用している日本企業は、あくまでも株式時価総額が大きいごく一握りの「大企業」及び「収益性や将来性が高い企業」であり、日本の会計基準を適用する全ての上場日本企業を網羅的に調査分析したものではない。今回の調査の対象外で、多額ののれんを計上している日本企業もそれなりに存在するであろうが、日本企業全体としての傾向としては、おおむね前述のようなことが言えるものと考えられる。

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