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解説記事2022年01月17日 ニュース特集 デジタル課税・最低税率制度のモデル・ルールのポイント(2022年1月17日号・№914)

ニュース特集
当初の申告期限は18か月以内に 税会不一致への対応、閾値の判定方法なども判明
デジタル課税・最低税率制度のモデル・ルールのポイント


 OECDは12月20日、デジタル課税・第2の柱「最低税率制度」のモデル・ルールを公表した。10月8日には、OECD・G20の包摂的枠組みがデジタル課税に関するステートメントを公表、G20財務大臣会合及びG20首脳会議で最終合意に至っていたが、政治的な判断を要する重要論点について決着を付けただけにとどまっており、技術的な面については先送りされていた。
 最終合意の段階で示されていた11月までにモデル・ルールを公表するとのスケジュールからは若干遅延した格好だが、一時差異などの税会不一致項目に起因する実効税率(ETR)が変動する問題への対応、収入閾値の判定方法、CFC税額のプッシュ・ダウンへの制限、カーブ・アウト対象範囲・計算方法、申告期限及び経過措置などが明らかにされている。
 一方、ETR計算の対象となる子会社の数を減らすための簡素化措置については具体的な言及がないなど、現時点では不明な点も残されている。今年の2月に実施される可能性のあるコンサルテーションや、モデル・ルールを補完するべく詳細な図解や計算例等が記載された「コメンタリ」の公表も待たれるところだ。
 本特集では日本企業の関心を集めていた事項を中心に、モデル・ルールのポイントをお伝えする。

一時差異への対応

企業が求めていた「税効果方式」で決着、繰越方式は不採用に

 所得合算ルールや軽課税支払ルールを総称して「GloBEルール(=Global anti-Base Erosion Rule)」とも呼ばれる最低税率制度では、個別の事業体の財務会計数値から出発して実効税率(ETR)計算を行う。このため、一時差異などの税会不一致項目に起因して、分母の所得と分子の税額が対応せず、年度によってETRが変動することになる。
 昨年10月に公表された青写真段階では、この問題への対応として繰越方式が提唱され、最低税率以上の税額を支払った場合にはその超過分を翌期以降に繰り越し、最低税率に満たない年度の分子の税額に加算するなどとされていた。これに対し各国の経済界は、「ETR計算において税効果会計を用いれば、一時差異については年度ごとにある程度対応できる」と主張、OECDで税効果方式の再検討が行われていた(891号4頁参照)。
 そして今回のモデル・ルールでは、一時差異への対応として税効果方式を採用することで決着した。ETRの分子である税額(正式には調整対象税額)は、当期税金費用に繰延税金調整総額(Total Deferred Tax Adjustment Amount)等に係る調整を行ったものとされ(モデル・ルール4.1.1)、繰延税金調整総額は、最高でも最低税率に基づき計上する(4.4.1)。

5年間で取り崩されない繰延税金負債は過年度において対象税額を制限

 ただし、繰延税金負債に係るものについては一定の制限を設ける。繰延税金負債を設定することにより、その反対勘定として税金費用が増加することから、ETRの分子はその年度で「嵩上げ」されることとなる。各国政府は、繰延税金負債が長期間取り崩されないにもかかわらず、税金費用としてカウントすることには懸念があるとして、弊害がないとみなされる項目(Recapture Exception Accrual)を除き、5年間で取り崩しされないものについては、過年度において対象税額を減少させることとした(4.4.4)。モデル・ルールでは、この仕組みを「リキャプチャ(Recapture)」と呼ぶ。当初は7年案もあったが、5年で決着した。
 弊害がないとみなされる項目としては、有形資産に係る減価回収制度などが挙げられる(4.4.5)。端的には、租税特別措置に基づく特別償却などが当てはまることになろう。特別償却では、会計上の減価償却費よりも税務上の減価償却費を多額に計上するため、当期の税負担が減少する一方、後年度で税負担が増加する。この「税金の後払い」の性格から、特別償却の適用時に繰延税金負債が計上される。特別償却の類型によっては、5年で繰延税金負債が取り崩されない場合も考えられる。しかし、特別償却は政策的に広く各国で認められているものであり、納税者による恣意的な数値の操作も考えにくいため、リキャプチャの対象から除くということだ。
 反対に、損失が生じた場合には、納税者の選択により、最低税率を用いてGloBEルール上の繰延税金資産の計上を行うことも可能とされている(4.5)。
 税効果会計といっても、現地の法定税率ではなく最低税率を参照して繰延税金資産・負債を計上すること、リキャプチャ等の特有の調整計算があることから、繰延税金調整総額の算定は、相当程度複雑になることが予想される。モデル・ルールは文字通りルール集であり、コンセプトの記載にとどまる。今年公表されるコメンタリで詳細な計算例を確認する必要があろう。

収入閾値の判定

アベレージング・メカニズム採用でCbCRや第1の柱の閾値判定に影響も

 GloBEルールの対象となる多国籍企業グループの閾値はCbCRと同様、年間の連結総収入金額7億5千万€以上であり、ここまでは想定内であるが、その判定に際してはアベレージング・メカニズムが採用されることとなった。具体的には、直前4事業年度のうち少なくとも2事業年度において閾値を超える場合には最低税率制度の対象となる(1.1.1)。これには、年度間の収入金額のボラティリティを平準化させる意味がある。
 この仕組みはCbCRにも影響を及ぼしそうだ。現在、CbCRの作成義務は、直前事業年度の収入金額が閾値を超えているかどうかで判定するが、最低税率制度同様、アベレージング・メカニズムが導入される可能性がある。デジタル課税第1の柱(国家間の利益配分)における200億€、利益率10%の閾値判定においても同様のことが言える。

CFC税額のプッシュ・ダウン

能動的所得をIIRから不当に保護との指摘受け、CFC税額の分子加算に制限

 CFC税制に基づく合算税額は当該CFC所在地国のETR計算の分子に加算することとなる(4.3.2(c))。ただし、これには一部の政府が異を唱えていた。本来であればIIRに捕捉されるべき能動的所得が、受動的所得に係るCFC税額のプッシュ・ダウンによりETRの分子が膨らむことで、IIRから不当に保護されているというのがその主張だ。この主張を受ける形で、モデル・ルールではCFC税額の分子加算に制限が設けられることになった。具体的には、受動的所得に係る対象税額のCFC所在地国への配分額は、以下の金額のうち少ない金額となる。

(a)受動的所得に係る(CFC課税による)対象税額の配分額
(b)CFC課税の対象となる受動的所得にCFC税制の適用がないとした場合のトップアップ税率(15%−ETR)を乗じた額

 簡単な例を想定してみよう。日本のCFC税制において、100%支配の部分対象外国関係会社(子会社)の受動的所得を100、能動的所得を100、子会社所在地国の税率を10%、税額を20とすると、日本における合算税額は「100(合算受動的所得)×30%(日本の法人実効税率)−10(外国税額控除)=20」となる。本来であればこの20(上記(a)に相当)が、子会社所在地国の最低税率制度上のETR計算において分子に加算されるべきであろう。この場合のETRは「(20+20)/200=20%」となり、トップアップ課税は生じない。他方、この制限ルールによると、(a)20と(b)5(=100(受動的所得)×5%(15%−10%))の小さい方である「5」がETRの分子に加算されるため、ETRは「(20+5)/200=12.5%」となり、トップアップ課税が生じる。
 CFC税額のプッシュ・ダウンに制限を設けるということは、「国別・地域別ブレンディング(ETR計算)の趣旨に反する」との経済界の主張は退けられ、当局目線でルールが定められたということを意味する。上記の計算例の詳細はコメンタリで確認する必要があるが、経緯からすれば大きな乖離はないだろう。
 なお、日本の親会社が欠損である場合は、CFC所得が合算された場合であってもCFC「税額」は生じない。日本企業は、このケースであっても、CFC「税額」を見なしで認定し、子会社法域へのプッシュ・ダウンを認めるべきと主張してきたが、モデル・ルールの文言からは、そのような特例が存在するとは今のところ読めない。

カーブ・アウト等

青写真にはなかった「政府からのライセンス」等が追加

 昨年10月合意の段階で、支払給与及び有形資産簿価の5%がトップアップ課税の対象となる所得から控除されることが決まっており(最終的な数値。移行期においては、それぞれ厚めの控除率が設定され、逓減していく)、企業の関心はその具体的な内容に集まっていたが、モデル・ルールではその内容が一定程度明らかになった。以下、支払給与、有形資産の別に説明する。
<支払給与>
 原則として対象従業員(Eligible Employee)の対象給与(Eligible Payroll Cost)が対象となる(5.3.3)。対象従業員は、「多国籍企業グループのメンバーである構成事業体のパートタイム従業員を含む従業員、及び当該多国籍企業グループの指揮・指導に服し当該企業グループの通常の事業活動に参加する独立契約者」とされた(第10章定義規定)。
 また、対象給与については、「従業員への補償的支出(給与、賃金、直接かつ他と分離された個人的便益を従業員に提供する他の支出ー例えば健康保険・年金拠出金)、給与及び雇用税、従業員社会保障拠出金」とされた(同定義規定)。
 基本的に青写真段階と類似の規定と言える。
<有形資産>
 対象有形資産の定義は以下の通り(5.3.4)。
(a)その法域に所在する資産及び機械・装置
(b)その法域に所在する天然資源
(c)その法域に所在する有形資産に係る賃借人の使用権
(d)不動産の使用又は天然資源の利用(有形資産への相当の投資を伴うもの)に係る政府からのライセンス又は類似の取極め
 青写真と比べ目新しいのは(d)の追加だ。中国では土地は国家所有であり、企業が土地使用権を長期に賃借することがあるが、中国のケースが(d)で読めるかは今後公表されるコメンタリ等を確認する必要がある。なお、販売・リース・投資目的での有形資産はカーブ・アウト対象から除かれる(5.3.4)。
 このほか、青写真段階では、有形資産の償却費(土地に係るみなし償却費含む)の[X]%をカーブ・アウトするとしていたが、モデル・ルールでは有形資産の帳簿価額に控除率を乗じることされた。帳簿価額は、減価償却累計額等を考慮したところの期首及び期末の帳簿価額の平均とされている(5.3.5)。

執 行

ETR計算の対象子会社を減らす簡素化措置で近くコンサルテーションも

 最低税率制度に係る申告期限は、「事業年度終了後15か月以内」とされた(8.1.6)。現行のCbCRよりも3か月、追加的な猶予がある。なお、経過年度では、特例的にこれが「18か月」とされる旨の記述もある(9.4.1)。
 また、ETR計算の対象となる子会社の数も事務負担への影響が大きいが、今回のモデル・ルールでは、ETR計算の対象となる子会社の数を減らすための簡素化措置の具体的な提案はない。青写真段階ではCbCRの数値に一定の調整を行った上で簡易にETR計算を行う案、税務行政ガイダンス(ホワイトリストとは異なる)により低リスクの法域を計算から除外する案などが掲げられていたが、これらは引き続き検討され、今後策定される実施フレームワークで明らかにされる。この分野については、今年2月にコンサルテーションが行われる可能性があろう。
 なお、青写真で簡素化措置の一環とされていたデミニマス除外は、今回のモデル・ルールでは第5章(ETR及びトップアップ課税の計算)で扱われている。最低税率制度に基づくトップアップ税額の計算結果にかかわらず、納税者の選択により、一定の条件を満たす場合、トップアップ税額は「零」となる。

その他の注目ポイント

法域全体では赤字でもトップアップ税額が生じる可能性

 このほか企業の間で波紋を呼んでいるのがモデル・ルールの4.1.5だ。(直訳すると)ネットGloBE所得がない法域の事業年度において、当該法域の調整対象税額(注:ETRの分子)がゼロ未満かつ予定対象税額に満たない場合には、その法域の構成事業体は、(モデル・ルール)5.4の下で、その法域に係る現行事業年度について、これら金額の差額に相当する金額の追加的な現行年度トップアップ税額を有するものとする。予定対象税額とは、ある法域におけるGloBE所得又は損失に最低税率(15%)を乗じた金額に相当する金額をいう。
 これだけでは具体的な計算方法は分からないが、確かなことは、GloBE所得がない、すなわち法域全体で赤字の場合にもトップアップ税額が生じる可能性があるということだ。企業からは、このメカニズムが、モデル・ルールの要旨(executive summary)で謳われている「所得についてミニマム税を支払う」「利益に対するトップアップ課税」に反しているのではないかとの不満が聞かれる。
 本誌の取材によると、この4.1.5の規定の背景には、税効果会計の使用に対する一部の政府の懸念があるようだ。例えば発生した欠損のうちに永久差異からなる部分がある場合(例えば優遇税制による所得控除の結果、所得がマイナスに割り込む場合)、欠損事業年度はマイナス所得なのでGloBEが発動されない一方(この時、繰延税金資産が設定されている)、後年度の欠損控除時に繰延税金資産が取り崩され(税金費用XX/繰延税金資産XX)、ETRの分子が嵩上げされることによって、こちらの年度でもIIRを免れるという状況を問題視している。GloBEルールの趣旨は法人税率の引下げ競争への対抗であり、各国による優遇税制の競争への対抗という意味も含む。税効果会計の使用を認めることで、優遇税制に基づく(一時差異ではない)永久差異についても最低税率からの保護を認める結果となれば、GloBEルールの趣旨を貫徹できないことになろう。
 この他にも、モデル・ルールには、部分被保有親会社に係るルール(2.1.4)、少数持分構成事業体ルール(5.6)、ジョイントベンチャールール(6.4)など、数値例なくしては解読が困難な個所が多数ある。コメンタリの公表が待たれるところだ。

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