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解説記事2022年01月24日 ニュース特集 寄附金を巡る最近の裁決事例(2022年1月24日号・№915)

ニュース特集
移転価格税制と寄附金課税で注目裁決
寄附金を巡る最近の裁決事例


 寄附金を巡る争いは後を絶たない。古くて新しいテーマともいえるが、本特集では最近の寄附金関係の裁決事例を3件取り上げて紹介する。1件目は移転価格税制と寄附金課税に関するもの。移転価格税制を適用すべき取引か、寄附金課税を適用すべき取引であるか不明確であるためトラブルになることも多いが、審判所がその関係性について法令解釈を示している点が注目される。移転価格税制により課税処分を受けた場合には、相互協議を申し立てることも考えられる一方、寄附金課税の場合には相互協議を申し立てることは難しいとされ、納税者の救済手段の選択を狭めることになりその影響は大きい。

寄附金の損金不算入の適用があれば移転価格税制は適用されず

 最初に紹介する裁決事例は、国外関連者との取引について移転価格税制ではなく、寄附金課税が適用されたものである(大裁(法)令2第48号)。
 本件は、請求人が国外関連者に譲渡した外国子会社の株式の譲渡価格について、原処分庁が価格算定に誤りがあり、適正な評価額よりも過少であるから、その差額は有価証券譲渡利益額として益金の額に算入され、かつ、国外関連者に対する寄附金の額に該当して損金の額に算入されないなどとして更正処分を行ったものである。
 請求人は、譲渡差額を外国子会社に対して贈与する意思又は認識がないことから寄附金に該当しないと主張するとともに、国外関連者に対する資産の譲渡については、移転価格税制が優先的に適用され、寄附金課税は贈与の意思が認められ、取引に対価性がない例外的な場合にのみ適用されるなどと主張した(表1参照)。

【表1】当事者の主な主張(本件譲渡には移転価格税制が優先的に適用されるか)

原処分庁 請求人

 国外関連者に対する資産の譲渡について、移転価格税制が優先的に適用されることはなく、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額について寄附金課税が適用される。

 請求人の主張のように、国外関連者との取引に限って例外的な場合に限り適用されると解することは、措置法68条の88第3項及び同条4項の「寄附金」と法人税法37条8項の「寄附金」とを異なる解釈をするもので、「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」(法37条8項)が同条7項の「寄附金の額に含まれるものとする」と規定されていることと矛盾するものである。

イ 国外関連者に対する資産の譲渡については、移転価格税制が優先的に適用され、寄附金課税は、①贈与の意図又は認識が認定され、②取引に対価性がないような例外的な場合に限り、適用されるのであって、本件は①請求人には本件譲渡価格と譲渡に係る対価の額との差額について贈与する意図も認識もなかった、②多額の譲渡対価を伴った売買取引であるから、対価性のある取引であることから、例外的な場合ではなく、移転価格税制が優先的に適用される。
ロ 措置法68条の88第3項が法人税法37条7項のみに言及しており同条8項に相当する規定を設けていないこと、移転価格税制に係る独立企業間価格と実際の取引価格との差額を損金不算入とする旨規定していることなどに照らせば、措置法68条の88は、法人税法37条8項で規定する資産の低額譲渡については、措置法68条の88第1項の移転価格税制によることを原則としているというべきである。

贈与の意思の有無は関係なし
 審判所は、法人が国外関連者に有価証券を譲渡した場合において、その現実に収受した対価の額が、有価証券の譲渡時における適正な価額を下回るときは、その差額は現実に収受した対価の額で譲渡したことについて、通常の経済取引として是認できる合理的な理由があり、当該差額の費用としての性質が明白で明確に区別し得るものでない限り、我が国の課税権からの所得の海外移転と認められて、国外関連者に対する寄附金の額として、措置法68条の88第3項の適用を受けることになると指摘。そして、措置法68条の88第1項は、国外関連取引につき、連結法人が国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないときには国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとみなす旨を規定し、同条4項は、同条1項の適用がある場合には国外関連取引の対価の額と国外関連取引に係る独立企業間価格との差額は損金の額に算入しない旨を規定しつつ、括弧書きにおいて、当該差額から寄附金の額を除く旨を条文上明記していることからすれば、同条3項の適用を受けるものについては同条1項の移転価格税制は適用されないものと解されるとした。
 その上で審判所は、本件の差額については通常の経済取引として是認できる合理的な理由があるとは認められないし、その費用としての性質が明白で明確に区別し得るものとも認められないから、「寄附金」に該当するとの判断を示した。また、「寄附金の額」に該当すると判断した差額については、移転価格税制の適用はないとしたほか、寄附金課税の課税要件について、贈与の意思が認められる等の例外的な場合に限定しなければならないとする法律上の根拠もないとし、請求人の主張を斥けた。

法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用は寄附金に該当せず

 2件目に紹介する裁決事例は、解散した関連法人に対する貸付金等の免除が寄附金に該当するかどうか争われたものである(関裁(法)令2第19号)。
貸付金免除し架空取引発覚の関連法人を解散
 本件は、請求人(産業廃棄物の収集、運搬業等を営む法人)が架空取引発覚後に解散した関連法人に対して貸付金等を全額免除したところ、原処分庁が免除額の一部を寄附金とし、貸倒損失として損金の額に算入することができないなどとして法人税等の更正処分等を行ったもの。請求人は、債務免除は金融機関等の信用を失うという大きな損失を回避するために必要であった上、社会的に存在意義を失った関連法人を解散するのは当然であり、やむを得ず請求人のみが損失を負担したのであるから、債務免除には相当な理由があったといえ、本件金額は寄附金の額に該当しないなどと主張した。
 審判所は、法人がする債権放棄については対価的意義を有する反対給付を受けることなく一方的に債務者に経済的利益を与えるためのものであることからすれば、その放棄に係る債権額は原則として寄附金に該当するとし、例外として寄附金に該当しないと認めることができるのは、法人とその債権放棄の相手方との間に資本関係、取引関係、人的関係、資金関係等において関連性が存する場合において、債権放棄に経済的合理性の観点から特段の必要性があるといった、債権放棄により消滅した債権額が客観的にみて法人がより大きな損失を被ることを避けるなどのために必要な費用であって、その費用としての性質が明白であり明確に区分し得るものであると認められるような場合に限られるとの見解を示した。
関連法人に更なる損失の見込みなし
 本件について審判所は、関連法人は売上先との取引を行うことを主たる目的として設立された法人であり、これ以外の事情を営んでおらず、架空取引が発覚した後は、事業活動を行っていなかった上、債務免除の時点における関連法人の債権者は請求人のみであったため、債務免除の時点で関連法人に更なる損失が生じる見込みはなく、債務免除を行わなければ今後より大きな損失が生ずる状況にはなかったといえ、経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認められないとの判断を示した。また、請求人は、架空取引の発覚後できる限り早期に関連法人を清算結了させる目的で、債務免除という経済的利益を一方的に供与したと認めるのが相当であるとし、審判所は、当該金額は寄附金の額に該当するとして請求人の主張を斥けた。

増仕切価格と実際の販売価格との差額は寄附金

 3件目に紹介する裁決事例は、「増仕切価格」に関するもの。仕切価格とは卸売業者に提示する価格のことだが、卸売業者に対して実際の販売価格よりも高い価格を提示することを「増仕切価格」という。本件は、増仕切価格と実際の販売価格との差額が寄附金に該当するかどうかが争われたものである(名裁(法・諸)令2第11号)。
業界の慣行と主張
 請求人は、増仕切価格と実際の販売価格との差額は、①委託者(各取引先)が販売委託先を請求人に選定するという役務提供の対価として支出される費用であること、②その支出は業界の慣行により事実上強いられており、取引を確保するためにやむを得ず行われていることなどからすれば、寄附金に該当しないなどと主張した。
取引先は対策費の負担を認識せず
 審判所は、各取引先は本件対策費の負担を認識しておらず、増仕切取引は各取引先に伝えず請求人の判断で発生させた過大な負担であり、各取引先に一方的に経済的利益を与えるものであって、資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるものと認めるのが相当であるとした。そして、審判所は、請求人が本件対策費を支出したために、その後も本件各取引先から打ち切られることなく受託できたという明確な因果の関係を裏付ける客観的かつ具体的な事情は認められず、本件対策費は、客観的にみて請求人の収益を生み出すのに必要な費用又は請求人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用に当たるとまでは認められないとし、本件対策費は寄附金に該当するとの判断を示した。

【表2】審判所の法令解釈(1)

措置法68条の88第3項(連結法人の国外関連者との取引に係る課税の特例)の趣旨について
 国外関連者に対する寄附金の損金不算入を規定する措置法68条の88第3項の趣旨は、従前は、海外の関係会社に対する金銭の贈与や債務の免除については、法人税法37条1項の規定の下で、一定の限度内で損金の額に算入することが認められていたものの、他方で、海外の関係会社との取引を通じた所得の海外移転については、移転価格税制によって規制され、移転された所得の全額を損金の額に算入しないこととされており、同じ所得の海外移転でありながら両者の課税上の取扱いにアンバランスが生じていたことから、かかる問題を是正するために、海外の関係会社に対する寄附金の額については、限度額を設けず、その全額を損金の額に算入しないこととしたものと解される。

【表3】審判所の法令解釈(2)

法人税法37条7項の「寄附金」及び措置法68条の88第3項の「寄附金」の意義について
 措置法68条の88第3項は、括弧書において、同項の「寄附金の額」につき、法人税法37条7項に規定する寄附金の額をいうと規定し、その意義について、特段の修正を加えていないから、法人による国外関連者に対する資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与は、同項と同様に、通常の経済取引として是認できる合理的な理由があり、その費用としての性質が明白で明確に区別し得るものでない限り、措置法68条の88第3項の適用を受ける寄附金と認められる。ただし、法人税法37条7項の寄附金は、単純な所得の処分であるのか法人の収益を生み出すのに必要な費用であるのかが不明確でその区別も困難な性質のものであるが、措置法68条の88第3項が、同項の寄附金につき、法人税法37条7項の寄附金の意義に修正を加えないまま、所得の海外移転として損金算入限度額を設けないこととした趣旨からすると、措置法68条の88第3項は、国外関連者に対する資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に関しては、通常の経済取引として是認できる合理的な理由があり、その費用としての性質が明白で明確に区別し得るものでない限り、所得の海外移転が生じたと認められるとして、損金算入限度額を設けず、その全額を損金に算入しないこととするという趣旨を含むものと解さざるを得ない。
法人税法37条8項の「寄附金」の意義と措置法68条の88第3項について
 法人税法37条7項の寄附金が「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」について規定しているものであることからすれば、同条8項は、資産の低額譲渡等の場合の寄附金該当性について、確認的に規定したにすぎないものであると解される。そうすると、「資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産の譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低い時は、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」(法人税法37条8項)についても、通常の経済取引として是認できる合理的な理由があり、費用としての性質が明白で明確に区別し得るものでない限り、法人税法37条7項の寄附金と認められることになるというべきである。そして、これが国外関連者に対するときは、所得の海外移転が生じたと認められて措置法68条の88第3項の寄附金と認められ、その適用を受けることになると解される。

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