解説記事2022年01月24日 特別解説 我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)③(2022年1月24日号・№915)
特別解説
我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)③
本稿では、頻繁に目にするような項目ではないが、我が国の企業の監査報告書に記載されたKAMのうち、特徴的なものを紹介することとしたい。
具体的には、下記の5社の監査報告書に記載されたKAMを紹介することとする。
① 東急「新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響」
② 東京電力ホールディングス「福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失に係る引当金」
③ シャープ「連結子会社における不適切な会計処理」
④ マネックスグループ「コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性の検証」
⑤ ディー・エヌ・エー「プロ野球事業に係るのれんの評価」
① 東急
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響】
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 |
監査上の対応 |
会社及び関係会社は、交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートの各セグメントで多様な事業を展開している。 |
当監査法人は、主として以下の監査手続を実施した。 |
② 東京電力ホールディングス
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失に係る引当金】
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 | 監査上の対応 |
会社は、注記事項「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」、「重要な会計上の見積り」に記載されているとおり、福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失として「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下、「中長期ロードマップ」)及び「廃炉中長期実行プラン」に基づき連結貸借対照表に災害損失引当金を488,443百万円、特定原子力施設炉心等除去引当金を170,369百万円計上している。 |
当監査法人は、この監査上の主要な検討事項に対応するため、主として以下の監査手続を実施した。 |
③ シャープ
会計監査人:PwCあらた監査法人
【連結子会社における不適切な会計処理】
2020年度中に、シャープの連結子会社であるカンタツ(株)及びその子会社において顧客である商社からの注文がなく、出荷の事実も認められない架空売上や、商社が第三者へ転売できない場合は返品が出来る等の特約が付されているため、転売がなされた時点で売上計上すべき状況であるにもかかわらず、売上を商社への出荷時点で計上する等の不適切な会計処理が行われていたことが判明し、第三者を含む調査委員会による調査が行われて報告書が提出された。シャープの会計監査人であるPwCあらた監査法人は、この連結子会社における不適切な会計処理を、KAMとして監査報告書に記載した。
ここでは、紙幅の関係上、監査上の対応のみを紹介する。
当監査法人は、カンタツグループによる不適切な会計処理が網羅的に把握され、適切に訂正等の処理がなされているかどうかを確かめるため、主に以下の監査手続を行った。
−不適切な会計処理が網羅的に把握されているかどうかを確かめるため、不正調査の専門家の協力を得て、調査委員会の作成した調査報告書の信頼性を下記のような観点で検討した。
・調査委員会のメンバーの能力
・調査委員会の経営者からの独立性(業務の客観性)
・調査委員会が行った調査の範囲、実施した手続、調査結果、結論及びその根拠
−関連する内部統制の整備及び運用状況を把握し、会社により内部統制の不備が適切に識別されていることを確認した。
−会社により行われたカンタツグループにおける過年度の不適切な会計処理の訂正、関連する棚卸資産の評価損の計上、固定資産の減損の計上、会社の過年度の連結決算において重要性がないため訂正を行っていなかった他の未修正事項の訂正等の訂正仕訳を入手し、調査委員会による調査結果に基づき必要な訂正処理が網羅的かつ正確に行われていることを確認するとともに、過年度及び当年度の有価証券報告書等の訂正報告書に正確に反映されていることを確認した。
また、過年度の訂正連結財務諸表等及び当年度の連結財務諸表の監査において類似の不適切な会計処理による重要な虚偽表示が存在していないことを確認するため、グループ監査の範囲を見直し、カンタツグループを重要な構成単位とし、特定の監査手続を計画するとともに、以下の手続を行った。
−カンタツグループでは、全社的な内部統制及び全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセス並びに業務プロセスに関する内部統制の重要な不備が期末日時点で存在していることから、財務情報について重要な虚偽表示の発生している可能性のある領域が重要な商社向け取引以外にないことを確認するため、趨勢分析や仕訳、勘定明細の通査等の追加的な手続を実施した。
−会社のグループ会社管理に関する内部統制の重要な不備が期末日時点で存在していることから、グループ監査手続のさらなる追加の必要がないことを確認するため、当該影響を受ける可能性のあるその他のグループ会社の財務情報について、趨勢分析や売掛金、たな卸資産の滞留状況の査閲等の追加的な手続を実施した。
−カンタツグループの重要な商社向け売上取引について、想定される不正の態様に直接対応した主に以下の監査手続を行った。
・商社からの注文のない売上計上がなされていないことを確認するため、取引先に対して取引高を確認した。
・商社との買戻条件付取引について、売上計上要件を充足していることを確認するため、取引先に対して契約条件及び買戻義務残高を確認した。
・期末棚卸実施時に棚卸対象から除外された未出荷品等がないことを確認するため、主要な棚卸資産保管場所を視察した。
④ マネックスグループ
会計監査人:有限責任あずさ監査法人
【コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性の検証】
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 |
監査上の対応 |
マネックスグループ株式会社の子会社であるコインチェック株式会社が保管する暗号資産のうち、30,910百万円(資産合計の2.21%に相当)が連結貸借対照表の棚卸資産に含まれており、385,578百万円が連結財務諸表注記「18.棚卸資産」の利用者から預託された暗号資産の年度末の残高の注記額に含まれている。 |
当監査法人は、コインチェック株式会社が保管する暗号資産の実在性を検証するため、主に以下の監査手続を実施した。 |
⑤ ディー・エヌ・エー
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【プロ野球事業に係るのれんの評価】
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 | 監査上の対応 |
連結財務諸表注記10.に記載されているとおり、会社は、2021年3月31日現在、連結財政状態計算書上、スポーツ事業に含まれるプロ野球事業に係るのれんを5,883百万円計上している。また、連結財務諸表注記10に、のれんの減損テストで用いた仮定を開示している。 |
当監査法人は、会社が実施したのれんの減損テストを検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。 |
終わりに
これまで3回に分けて、我が国の主要な企業の監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)を紹介した。我が国の場合、KAMの導入初年度に新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大が重なったため、KAMにおいてCovid-19による影響に言及する例が多く見られた。今後、3月決算以外の日本企業の監査報告書についてもKAMの記載が順次義務付けられてゆくが、今後も引き続き動向を注視するとともに、適宜開示例を紹介していきたい。
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