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解説記事2022年01月24日 SCOPE 過去のデリバティブ取引も資産の運用保有所得に該当せず(2022年1月24日号・№915)

税制改正大綱踏まえ国税庁が公式見解
過去のデリバティブ取引も資産の運用保有所得に該当せず


 令和4年度税制改正大綱の国際課税に関する改正項目として、金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得に含まれないことを「法令上明確化する」とされたことを受け、国税庁は令和4年1月7日付で「クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて」(次頁参照。以下「国税庁資料」)を公表し、この改正が過去に遡って適用されるとの見解を明らかにした。

平成31年裁決を端緒に金融機関の間で生じていた懸念を払しょく

 令和4年度税制改正大綱にこの項目が含まれた背景には、国税不服審判所による平成31年3月25日付の裁決(以下、「平成31年裁決」)があったと考えられる。
 平成31年裁決とは、日本に恒久的施設を有しない非居住者である個人が、日本の金融商品取引業者との間で行ったFX取引(店頭外国為替証拠金取引)により得た所得について、所得税法161条1項2号において国内源泉所得として規定される「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」に該当するとの判断が示された事案である。この裁決において、国税不服審判所は、日本の金融商品取引業者との間で行ったFX取引における未決済取引に係る契約上の地位を「国内にある資産」と判断の上、差金決済に係る所得は「資産の運用、保有により生ずる所得」であるとし、非居住者である個人が日本の金融商品取引業者との間で行ったFX取引により得た所得は「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」であると結論付けている。
 日本国内に恒久的施設を有していない非居住者である個人または外国法人が、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得を得た場合、通常は確定申告書の提出と納税が必要とされるが、平成31年裁決で取り扱われたFX取引は、同裁決によれば金融商品取引法2条22項1号に参照される店頭デリバティブの一種とされている。そのため、他のデリバティブ取引についてもこの裁決で示された判断基準が適用された場合、国内に恒久的施設を有していない外国法人が、日本の金融商品取引業者を通じてデリバティブ取引を行って得た所得についても、日本での申告納税が必要という解釈が成立してしまう可能性があった。
 実務家の間では、租税条約を締結している国又は地域の外国法人であれば、租税条約の事業所得条項によって、日本での課税を回避できる余地もあるのではないかという意見もあるが、租税条約を締結していない国又は地域に所在する外国法人の場合には、国内法の規定にしたがった課税が行われることになってしまう。
 このような背景から、非居住者である個人を想定した平成31年裁決において示された基準が法人の行うデリバティブ取引にも適用された場合、結果として外国金融機関が日本の金融機関を通じてデリバティブ取引を行うことを忌避することにも繋がりかねず、日本の金融市場にとってネガティブな影響を及ぼす可能性があったが、国税庁が令和4年度税制改正大綱を受けて公表した国税庁資料において、改正の内容が過去に遡って適用されるとの見解が明記されたことで、金融機関の懸念は払しょくされたと言える。
 なお、大綱においては外国税額控除における国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に、デリバティブ取引の決済により生ずる所得が含まれないことも法令上明確化するとされているが、国税庁資料では、この点についても過去に遡って適用されると明記されていることから、居住者である個人や内国法人が国外で行ったデリバティブ取引を国外資産の運用・保有所得に含めていた場合は、過去の外国税額控除の適用を見直す必要が生じ得る。


【参考】令和4年1月7日付国税庁資料(抄)

クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて

1 従来の取扱い

 クロスボーダーで行う金融商品取引法の市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得(以下「デリバティブ所得」といいます。)については、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、
・非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当する
・居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当する
と取り扱っていました。
2 今後の取扱い
 令和3年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」においては、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、
・非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当しない
・居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当しない
ことを法令上明確化することとされました。
 今回の閣議決定を受け、従来の取扱いを変更することとします。
(略)
3 非居住者又は外国法人の方へ
 上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、税金が納め過ぎとなる方については、更正の請求を行い、納めすぎた税金の還付を求めること等ができます。
(略)
4 居住者又は内国法人の方へ
 上記2の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。今回の取扱いの変更により、外国税額控除の額が減少する方は、修正申告が必要な場合があります。

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