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会社法ニュース2022年02月04日 モルフォ元従業員のインサイダー認めず(2022年2月7日号・№917) 東京地裁、1,288万円の課徴金納付命令を取り消し

  • 東京地方裁判所は令和3年10月29日、インサイダー取引によりモルフォの従業員だった原告に対して金融庁が行った課徴金1,288万円の納付命令を取り消し。
  • 原告のモルフォ株式買付けは、モルフォ代表取締役が資本提携の申出を了承した日より前からされており、重要事実を職務に関し「知った」と認める余地はないと判断。

 本件は、東証マザーズに上場するモルフォの従業員であった原告が、デンソー(東証1部)との業務提携等を行うことを決定した旨の重要事実を知りながらその公表前に行ったモルフォ株式の買付けがインサイダー取引に該当するとして金融庁から1,288万円の課徴金納付命令を受けたため、処分の取消しを求めた事案である。
 モルフォは平成16年5月に設立された画像処理技術の研究開発等を目的とする会社。平成27年12月11日、取締役会においてデンソーとの間でディープラーニング(人間の脳の仕組みを模した機械学習の新たな手法)による画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究等を内容とする業務提携並びに第三者割当増資により、デンソーに対しモルフォの普通株式26万1,800株を割り当てる内容の資本提携を決議し、公表した。原告は平成27年9月17日から10月30日までの間、合計3,206株のモルフォ株式を1,118万6,850円で買い付けていた。
 原告(元従業員)は、デンソーからモルフォに対し資本提携の申出が初めて出された平成27年9月11日以前のモルフォの社内資料においてデンソーの案件に「協業」の文言が用いられていたとしても、単にソフトウェアの開発・提供等といった業務の遂行のために顧客からの何らかの協力を受けることを含む広い意味の言葉にすぎず、「業務上の提携」を意味するものではないと主張。一方、被告(国)は、平成27年8月4日の打ち合わせにおいて、デンソーがモルフォに対し、画像処理及び画像認識の分野で技術的に共同開発が実現できるか否かを平成27年末までに判断したい旨の要望を行っているが、この要望に係る作業を実施することはそれぞれが技術を提供し合い、相互に協力して研究や開発を行わなければなし得ないものであり、「業務上の提携」の一つである技術提携等にほかならないとした。
 東京地裁(市原義孝裁判長)は、代表取締役Hはモルフォの創業者であり、会社設立以来代表取締役を務めていたこと及び同社の発行済み株式総数の約1割を保有する筆頭株主であったことからすると、同社の意思決定に大きな影響力を有しているとし、「業務執行を決定する機関」(金商法166条2項1号)に該当するとの判断を示した上で、平成27年8月4日の部下からの秘密保持契約の締結手続が完了したことなどの打ち合わせの内容に対する代表取締役Hの回答が「業務上の提携」を「行うことについての決定」(金商法166条2項1号等)に該当するかどうか検討を行っている。
 東京地裁は、金商法166条2項1号柱書の「業務上の提携」を「行うことについての決定」とは、それが一般投資家の投資判断に影響を及ぼすものであるという観点から、ある程度具体的な内容を持つものでなければならないと解するのが相当であるとした。
 本件では、最終的に実現し、平成27年12月11日に公表された資本提携は、モルフォがデンソーとの間で①ディープラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究、②研究開発に基づく製品・サービスのマーケティングにおける連携などの業務提携、③第三者割当増資による資本提携を行うことなどであり、東京地裁は「業務上の提携」に該当することは明らかであるとし、モルフォの代表取締役Hが資本提携の申出を了承する旨を決定したのは、平成27年9月18日の打ち合わせの時であると判断した(参照)。したがって、原告によるモルフォ株式買付は平成27年9月17日からされたものであり、被告が主張するように遅くとも平成27年9月17日までに重要事実を職務に関し「知った」と認める余地はないとし、課徴金納付命令は処分要件を欠き違法であるとした。
 被告は、資本提携の申出に先立ち、代表取締役Hが平成27年8月4日の打ち合わせ後にモルフォがデンソーとの「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたと主張するが、東京地裁は、デンソーの打ち合わせ資料に記載された要望内容はデンソー自体が新規車載カメラ等の開発に際し抱えている課題や問題意識を列記したものにとどまり、直ちにモルフォとデンソーとの協業の内容自体が、一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容を持つものではないとした。

【表】主な経緯(平成27年)

6月15日:モルフォとデンソーが初めて打合せ(モルフォ側は代表取締役Hなどが出席)。その結果、7月29日に秘密保持契約を締結。
8月4日:打合わせでは、デンソーから2、3か月で終了する小規模のプロジェクトを複数行い、その結果で技術的に共同開発が実現できるか否かを平成27年末までに判断したい旨の要望が出された。その後、モルフォの部下Yは代表取締役Hに打ち合わせの内容を報告。Hは報告に「分かりました」と回答。
9月11日:打合わせ後の会食ではデンソーがモルフォに対し、業務提携だけではなく、資本提携などの意向を有している旨の申し出がなされた。
9月18日:代表取締役Hは同社の常務取締役Sからデンソーからの資本提携の申出等について報告を受け、これを了承。
10月15日:両社が資本業務提携を行うことに合意。
12月11日:モルフォがデンソーとの業務提携及び資本提携を取締役会決議し、公表。
※原告(元従業員)9月17日から10月30日までの間、合計3,206株のモルフォ株式を1,118万6,850円で買い付け。

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