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解説記事2024年04月29日 SCOPE 長期間空き家の固定資産評価、損耗状態は経年劣化か否か(2024年4月29日号・№1025)

札幌地裁、維持管理状態は非常に劣ると判断
長期間空き家の固定資産評価、損耗状態は経年劣化か否か


 研究所として使用されたのち約17年間放置された家屋について、地方自治体が損耗による評価減点事情を考慮せず、固定資産評価額をおよそ3億円と決定したことが違法であるか否かが争われた裁判で、札幌地方裁判所(右田晃一裁判長)は令和5年10月4日、家屋は通常の維持管理で生じる損耗を超えた損耗が明らかに生じていると判断し、減点事情を考慮しなかったことは違法であるとして、地方自治体が決定した固定資産評価額を取り消した(令和4年(行ウ)16号)。
 通常、固定資産評価における家屋の損耗による減点補正は、経過年数に応じた補正率で求めることとされているが、それが適当でないと認められる場合は損耗の程度に応じた補正率で求めることとされている。本件については、本件家屋は約17年間使用されていないだけでなく、窓ガラスの多くが破損し、内装材の剥がれ等の損傷が著しいなど、固定資産評価基準における「当該非木造家屋の状況からみて経過年数に応ずる減点補正率によることが適当でないと認められる場合」に該当すると判断されたものである。

天災等の事由がある場合は損耗減点補正率で算出

 家屋の損耗の状況による減点補正率は、原則として「経過年数に応ずる減点補正率」(経年減点補正率)によって求めることとされているが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて経過年数に応ずる減点補正率によることが適当でないと認められる場合は、「損耗の程度に応ずる減点補正率」(損耗減点補正率)によって求めることができる。本件は、原告が取得した家屋について、地方自治体(被告)が損耗状態を考慮せず固定資産評価額を決定したことが違法であるかが争われたものだ。
 不動産会社である原告は、研究所として建築された家屋を含む不動産を公売により取得したところ、地方自治体が、家屋の固定資産評価額を3億1,556万7,800円としたため、①家屋は約17年間放置されていたなどの損耗による評価減点事情があり、②地域的状況が劣るなどの需給事情があるにもかかわらず、固定資産評価基準に従ってこれらの事情が考慮されることなく登録価格が決定されたとして違法であると主張。経過年数による補正率ではなく、損耗の程度に応ずる減点補正を行うべきであるとして、評価額決定の取消しを求めた。一方で地方自治体は、家屋の損耗による減点補正は、経年減点補正率を適用することが原則であって、例外的に損耗減点補正率を適用するのは、天災、火災その他の事由によって経年減点補正率が適当でないと認められる場合であるなどと主張した。

通常の維持管理を超える損耗があれば“損耗減点補正率”で

 裁判所は、損耗減点補正率によることとされる「その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて経過年数に応ずる減点補正率によることが適当でないと認められる場合」とは、通常の維持管理を行う場合に生じる損耗を超える損耗が明らかに生じている場合をいうと解するのが相当であるとした。
建物の破損など、維持管理状態は非常に劣る
 その上で裁判所は、本件家屋は約17年間使用されていないのみならず、低層階の窓ガラスの多くが破損しており、特に1階は雨水等の侵入が原因と思われるカビが大量に発生し、内装材の剥がれ等の損傷が著しいほか、外壁材にも亀裂等の破損がみられ、全体として維持管理状態は非常に劣るなどと指摘。また、研究所という性質上、建物設備類の稼働状況等は価格の算定に影響することが容易に想定できるところ、設備によっては基盤の故障や、腐食の進行、修理部品の調達が困難な部分もあると認められることからすれば、現況のままで研究所として使用することはおよそ不可能であるとの見解を示した。
 したがって、裁判所は、本件家屋は通常の維持管理を行う場合に生じる損耗を超えた損耗が明らかに生じているというべきであり、固定資産評価基準における「経過年数に応ずる減点補正率によることが適当でないと認められる場合」に該当すると判断。地方自治体は、損耗減点補正率による評価を行わず、経年減点補正率による評価を行ったものであることから、本件家屋の登録価格を決定するに当たり違法があるとし、審査をやり直させるため、登録価格の全てを取り消した。
需給事情による減点補正は認めず
 ただし、原告が家屋の所在地域等を理由に、需給事情による減点補正がされるべきと主張した点については違法性が認められていない。裁判所は、現下の市場性の観点からはいわゆる場違い建築的な状況となっていることや、家屋を再利用するには多額の補修費用が必要とされていることなどの事情が認められるものの、建築様式が著しく旧式となっているとは評価できず、都市計画法上の地区計画において「研究施設地区」に指定されており公法的な制約からは環境と適合していると評価され、所在地域の状況により本件家屋の価額が減少するとも評価できないとして、需給事情による減点補正を行わなければならなかった違法があるとはいえないとした。
 なお、本件は札幌高裁に控訴されている。

【参考】非木造家屋の評点数の算定方法(固定資産評価基準第2章第3節一1)

 非木造家屋の評点数は、非木造家屋の再建築費評点数を基礎として、これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設するものとし、(中略)需給事情による減点を行う必要があると認めるときは、当該非木造家屋の評点数は、次の算式によつて求めた評点数に需給事情による減点補正率を乗じて求めるものとする。
[算式]評点数=再建築費評点数×経過年数に応ずる減点補正率
(経過年数に応ずる減点補正率によることが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合にあつては、評点数=(部分別再建築費評点数×損耗の程度に応ずる減点補正率)の合計)

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