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解説記事2022年02月14日 特別解説 監査法人のガバナンス・コードと透明性報告書、並びに監査品質の指標(AQI)(2022年2月14日号・№918)

特別解説
監査法人のガバナンス・コードと透明性報告書、並びに監査品質の指標(AQI)

はじめに

 2021年3月期の決算から、上場会社各社の監査報告書において、担当の会計監査人(監査法人)による監査上の主要な検討事項(KAM)の記載が義務化された。これにより、これまでブラックボックスとされてきた監査の過程の重要な部分が明らかになり、監査報告書上に記載されたKAMを通じて、被監査会社や会計監査人と投資家・株主等とのコミュニケーションが一層充実することが期待されている。
 一方、KAMの監査報告書への記載とは別の動きとして、各監査法人による透明性報告書や監査品質の指標(AQI)の自主的な外部への開示という流れも見ることができる。
 本稿ではまず、このような会計監査に関する情報の株主等への提供の充実が近年特に図られるようになってきた背景や経緯を記述し、監査法人のガバナンス・コードの原則や透明性報告書について触れた後、日本公認会計士協会が公表した研究報告(後述)をベースに監査品質の指標(AQI)の開示について取り上げることとしたい。また、最後には、大手監査法人が透明性報告書において実際に開示したAQIについて紹介することとする。

「会計監査の在り方に関する懇談会」の設置と提言

 これまで会計監査については、その充実に向けて、監査基準の一部改訂等、制度等のハード面及びソフト面の両方から度重なる取組みが行われてきたが、平成26(2014)年から27(2015)年にかけて、IPO(株式新規公開)を巡る会計上の問題や会計不正事案などが続発し、これらを契機として、あらためて会計監査の信頼性が問われるような状況となった。 
 このような状況を踏まえて、平成27(2015)年9月に金融庁に「会計監査のあり方に関する懇談会」が設置され、議論が開始された。半年間にわたる議論の後、平成28(2016)年3月に提言「会計監査の信頼性確保のために」がまとめられたが、そこでは、会計監査の信頼性が問われる状況に至っている背景には、以下のような要因があると考えられると整理された。

・会計監査を実施するための規制や基準が、監査の現場に十分に定着していない。
・こうした規制・基準を定着させるための態勢が、監査法人や企業等において十分に整備されていない。
・そのような態勢整備がなされているかを、外部から適切にチェックできる枠組みが十分に確立されていない。

 そして、不正会計問題への対応に関する方向性としては、いたずらに会計監査を巡る規制や基準を強化するのではなく、その費用と便益を検証しつつ、問題の本質に焦点を当てた対応を取るべきであるとされた。
 このような観点から、懇談会における提言では、会計監査の信頼性確保に向けて講ずるべき取組みとして、以下の5つの項目を柱として整理された。

(1)監査法人のマネジメントの強化
(2)会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
(3)企業不正を見抜く力の向上
(4)「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
(5)高品質な会計監査を実施するための環境の整備

 これらの取組みのうち、(1)の監査法人のマネジメントの強化のための方策の一つとして、監査法人のガバナンス・コードの導入が提唱され、(2)の会計監査に関する情報の株主等への提供の充実のための方策の一つとして、会計監査の内容等に関する情報提供の充実がうたわれた。そして、具体的な会計監査の内容等に関する情報提供の手段として、監査報告書の透明化(監査上の主要な検討事項:KAM)や監査法人の交代時における開示のあり方等と並んで、「監査法人等のガバナンス情報の開示」が重点項目として挙げられた。

監査法人のガバナンス・コードの導入

 「会計監査のあり方に関する懇談会」の提言が出されてから4か月後の平成28(2016)年7月に、監査法人のガバナンス・コードの策定に向けた検討を進めることを目的として、「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」が設置され、検討が開始された。
 そして、9か月間の議論を経て、平成29(2017)年3月に「監査法人の組織的な運営に関する原則(監査法人のガバナンス・コード)」が取りまとめられた。
 監査法人のガバナンス・コードでは、以下の5つの原則が打ち立てられ、それぞれの原則について、考え方と指針が定められた。
【監査法人が果たすべき役割】
原則1:監査法人は、会計監査を通じて企業の財務情報の信頼性を確保し、資本市場の参加者等の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与する公益的な役割を有している。これを果たすため、監査法人は、法人の構成員による自由闊達な議論と相互啓発を促し、その能力を十分に発揮させ、会計監査の品質を組織として持続的に向上させるべきである。
【組織体制】
原則2:監査法人は、会計監査の品質の持続的な向上に向けた法人全体の組織的な運営を実現するため、実効的に経営(マネジメント)機能を発揮すべきである。
原則3:監査法人は、監査法人の経営から独立した立場で経営機能の実効性を監督・評価し、それを通じて、経営の実効性の発揮を支援する機能を確保すべきである。
【業務運営】
原則4:監査法人は、組織的な運営を実効的に行うための業務体制を整備すべきである。また、人材の育成・確保を強化し、法人内及び被監査会社等との間において会計監査の品質の向上に向けた意見交換や議論を積極的に行うべきである。
【透明性の確保】
原則5:監査法人は、本原則の適用状況などについて、資本市場の参加者等が適切に評価できるよう、十分な透明性を確保すべきである。また、組織的な運営の改善に向け、法人の取組みに対する内外の評価を活用すべきである。
 監査法人のガバナンス・コードにおいては、監査法人は、法人内及び被監査会社等との間において会計監査の品質の向上に向けた意見交換や議論を積極的に行うことが求められている(原則4)。また、監査法人は、監査品質の向上に向けた取組みの実効性を定期的に評価するとともに、被監査会社のほか、株主、その他の資本市場の参加者に対してもその取り組みの状況について、一般に閲覧可能な文書でわかりやすく説明し、積極的な意見交換に努めることが求められている(原則5及びその指針)。このような監査事務所による情報開示は、外部の利害関係者が監査事務所における監査品質の向上に向けた考え方や取り組みなどを適切に評価した上で監査人を選択することを可能とし、それが監査人に対する監査品質の向上へのインセンティブとなり、監査品質の持続的な向上をもたらす好循環を生むことが期待されている(原則5の考え方)。監査事務所による適切なAQIの開示と利害関係者によるAQIの適切な利用は、監査事務所と利害関係者との間の建設的な相互作用を促進し、監査事務所の監査品質に関するPDCAサイクルを強化する有用な手段の一つになると考えられるとされている。
 監査法人のガバナンス・コードへの対応状況については、4大監査法人や準大手監査法人に加えて、中小の監査法人でもウェブサイト上で公表されている事例が多数見受けられる。

透明性報告書の作成と開示

 監査法人のガバナンス・コードの原則5は、前述のように「透明性の確保」についてであり、指針5−1及び5−2では、次のように定められている。

(指針5−1)
 監査法人は、被監査会社、株主、その他の資本市場の参加者等が評価できるよう、本原則の適用の状況や、会計監査の品質の向上に向けた取組みについて、一般に閲覧可能な文書、例えば「透明性報告書」といった形で、わかりやすく説明すべきである。
(指針5−2)
 監査法人は、併せて以下の項目について説明すべきである。
・会計監査の品質の持続的な向上に向けた、自ら及び法人の構成員がそれぞれの役割を主体的に果たすためのトップの姿勢
・法人の構成員が共通に保持すべき価値観及びそれを実践するための考え方や行動の指針
・法人の業務における非監査業務(グループ内を含む。)の位置づけについての考え方
・経営機関の構成や役割
・監督・評価機関の構成や役割。監督・評価機関の構成員に選任された独立性を有する第三者の選任理由、役割及び貢献
・監督・評価機関を含め、監査法人が行った、監査品質の向上に向けた取組みの実効性の評価

 これを踏まえて、4大監査法人や準大手監査法人のみならず、中小監査法人の中にも透明性報告書(あるいは「監査の品質管理に対する当法人の取組報告書」等)を作成し、ウェブサイトで公表する法人が出てきている。
 各監査法人が公表する透明性報告書は、各社各様ではあるものの、概ね次のような章立てとなっているものが多いと思われる。

1.理事長等の経営トップによるメッセージ
2.法人の文化やビジョン、経営理念等
3.監査法人のガバナンス体制、組織図等
4.品質管理責任者によるメッセージ、法人の品質管理体制
5.外部レビュー等への対応
6.人財戦略、構成員の状況
7.法人概要、被監査会社、国内外のネットワーク・ファームの状況等
8.監査法人ガバナンス・コードへの対応状況

 そして、各監査法人の透明性報告書では、「法人の品質管理体制」のパートを中心に、多くの監査品質の指標(AQI)が開示されている。

研究報告で紹介されている監査品質の指標(AQI)

 監査品質の指標(AQI)については、2018年11月21日付で日本公認会計士協会(JICPA)の監査事務所情報開示検討プロジェクトチームから「監査品質の指標(AQI)に関する研究報告(以下「研究報告」という。」が公表されている。
 まず、研究報告の冒頭において、監査の品質とAQIとの関係について、以下のように説明されていることに留意しなければならない。

 監査品質は直接的に測定することは困難であるが、間接的ではあるものの監査品質に関連する定量情報をAQIとして示すことにより、監査品質の向上に向けた取組状況に関する説明に具体性が付与されることが想定される。本研究報告は、AQIを通じて、監査品質の向上に向けた取組状況についての外部の利害関係者の理解を促進し、監査チーム又は監査事務所と利害関係者とのより建設的な対話に資することを意図して作成している。

 さらに研究報告では、諸外国におけるAQIの開示の動向や事例等も踏まえて、監査事務所レベルの指標と個別の監査業務レベルの指標とに分けて、次のAQIの項目を、開示候補として列挙している。
 研究報告では、下記のAQIの項目それぞれについて、監査品質との関連が説明されるとともに、記載例が示されている。

大手監査法人が開示したAQIの例

 4大監査法人をはじめ、それぞれの監査法人が前記の研究報告で候補として挙げられた指標を中心に、様々な指標を開示しているが、透明性報告書(監査品質に関する報告書)とは別に、別冊の「監査品質指標」としてAQIをまとめているPwCあらた有限責任監査法人(以下「あらた監査法人」という。)の例を紹介したい。
 あらた監査法人が2020年度の監査品質指標として開示した項目は次のとおりであった。
① 人財関連
・従業員の満足度
・退職率
・平均有給休暇取得日数
・男性の育児休暇取得率
・PwCネットワーク内での異動者数
・PwCネットワーク外への出向者数
・パートナーに占める海外赴任経験者割合
・全体に占める女性比率
・マネージャー以上に占める女性比率
・PwCあらた在籍スタッフの出身国数(日本含む)
・中途採用の職員数
・日本の公認会計士以外の資格保持者数
・職階ごとの人員構成
・監査従事者のうちパートナー・マネージャーとスタッフの割合
・監査従事者の年間平均執務時間
・監査従事者の平均研修受講時間
・研修に対するフィードバックアンケートの結果
② 品質管理関連
・独立性に関する確認への回答率、認識された違反件数
・品質管理業務の人員数(職階別)
・正式な専門的見解の問合せ数
・見解の相違に基づく審査会の開催数
・監査報告書の再発行を伴う財務諸表の修正再表示
・定期的検証の結果(対象件数、パートナーカバー率、重要な指摘事項の有無、レビューアーの稼働時間)
・外部検査による処分(金融庁、日本公認会計士協会)
・SDGsに関する指標(CO2の総排出量、コミュニティ活動への貢献)
③ 監査業務変革関連
・テクノロジー投資金額
・デジタル化推進者数(全職員に占める比率)
・デジタル研修の完了率
・テクニカル・コンピテンシー・センター(TCC)利用率
・電子監査調書システム導入率
・Connect上場被監査会社への導入率
・Halo上場被監査会社への導入率
・Digital Labの利用状況(年平均ユーザー数、投稿数、ダウンロード数)
・RPA自動処理業務の累計件数
・Extractの導入状況
・Data platformパイロット件数
・データ可視化ツール利用者数
・データ分析ツール利用者数
・AIリスク評価システムパイロット件数
・全監査時間に占めるTCCの作業時間の割合

 あらた監査法人は、人事関連や品質管理関連のAQIに加えて、監査業務変革(デジタル化・デジタル・トランスフォーメーション(DX))関連の指標を数多く開示しており、デジタル化を中心に、監査業務の変革に法人として積極的に取り組んでいることが伺える。
 また、人財に関するAQIのパートでは、ダイバーシティ&インクルージョンの項目を設けて、女性や外国人を積極的に活用・登用していることが強調されていた。

終わりに

 本稿では様々な監査品質の指標(AQI)を取り上げるとともに、大手監査法人による指標の開示例も一部紹介した。前述のとおり、監査の品質を直接的に測定することは困難であり、多数の監査品質に関連する定量的な情報をAQIとして開示したとしても、それらはあくまでも監査の品質の一つの側面を間接的に示しているに過ぎない。しかしながら、監査品質の向上に向けた監査法人の取り組みの状況に関する文章による定性的な説明に加えてAQIが開示されると、より具体性が付与されて、外部から分かりやすくなることは間違いないであろう。
 AQIについても、監査上の主要な検討事項(KAM)と同様に、必要不可欠な基本的な指標等は毎期継続的に開示しつつ、各監査法人の特長を表しているような指標を取捨選択して適切に開示することにより、ボイラープレート化を防ぐような工夫が今後必要となろう。

参考文献
監査品質の指標(AQI)に関する研究報告 2018年11月21日 日本公認会計士協会
監査品質に関する報告書別冊 「監査品質指標」 PwCあらた有限責任監査法人

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