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解説記事2022年02月21日 未公開裁決事例紹介 アレンジメント・フィーは繰延資産に該当せず(2022年2月21日号・№919)

未公開裁決事例紹介
アレンジメント・フィーは繰延資産に該当せず
審判所、収益の発生は認められず一時の損金に


〇LBOを目的とする資金の借入れを行うために金融機関に支出したアレンジメント・フィーの効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものか争われた裁決。国税不服審判所は、アレンジメント・フィーの支出は金銭消費貸借契約等の調印・交付という成果はもたらしたものの、「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」には該当しないと判断した(福裁(法)令2第8号、令和3年4月27日、棄却)。

主  文

 審査請求をいずれも棄却する。

基礎事実等

(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、適格合併により、被合併法人の長期前払費用及び前払費用を合併承継資産として引き継ぎ、その後の事業年度において損金の額に算入し、法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、引き継がれた当該長期前払費用及び前払費用は、被合併法人の適格合併直前の事業年度の欠損金額に加算すべきものであり、請求人の合併承継資産とはならず、請求人の損金の顔に算入することはできないとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、当該長期前払費用及び前払費用の基となるアレンジメント・フィーは、その支出の効果が支出の日以後1年以上に及ぶものであり、法人税法上の繰延資産に該当することから、請求人の合併承継資産となり、その後の事業年度の損金の額に算入されるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実

 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、非鉄金属製造業を営む青色申告法人である。また、××××××××××××××××××××は、請求人株式を取得するための資金の融資を受け、当該資金により請求人株式の全てを取得することを目的として、××××××××××××××が中心となって××××××××に設立された法人で、青色申告の承認を得ていなかった。
ロ 請求人の株主である×××××、×××××、××××××及び×××××(以下「本件株主4社」という。)は、平成27年8月31日に、××××××××××と「株式譲渡契約書」による契約を締結し、当該契約に基づき、本件株主4社から請求人株式の全部を××××××××××へ譲渡することに合意した。
ハ ××××××××××は、平成27年9月25日に、貸付人としての××××××及びエージェントとしての××××××と、「金銭消費貸借契約書」による契約(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)を締結した。
  なお、「金銭消費貸借契約書」には、要旨次のことが記載されている。
(イ)借入人は、××××××××××であり、貸付人××××××は、借入人に対しタームローンA貸付金額(1,700,000,000円)及びタームローンB貸付金額(2,170,000,000円)の貸付け並びにコミットメントライン貸付極度額(1,000,000,000円)の貸付け(以下、これらの貸付けを併せて「本件貸付」という。)を行う義務を負う。
(ロ)××××××××××は、本件金銭消費貸借契約に基づき、タームローンA貸付及びタームローンB貸付に係る金員を、①請求人株式購入資金及びこれに付随する諸経費の支払、②既存借入金の返済資金及びこれに付随する諸経費の支払、並びに③その他請求人株式購入資金及びその後の請求人と××××××××××との合併に付随又は関連して発生する公租公課及び諸経費の支払にのみ使用し、その他の目的で使用してはならない。
  また、コミットメントライン貸付に係る金員を、請求人及びそのグループ会社の運転資金にのみ使用し、その他の目的で使用してはならない。
ニ ××××××××××は、平成27年9月25日に、本件貸付に関するアレンジメント業務(以下に定義される)を行うアレンジャーとしての××××××と、「アレンジメント・フィーに関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を締結した。
  なお、本件覚書には、要旨次のことが記載されている。
(イ)××××××××××は、本件貸付に関する以下に記載する業務(以下「本件アレンジメント業務」という。)の対価として、134,100,000円の手数料(以下「本件アレンジメント・フィー」という。)並びにこれに係る消費税及び地方消費税(以下、本件アレンジメント・フィーと併せて「本件アレンジメント・フィー等」という。)をアレンジャー××××××に支払う。
 A ファイナンス・ストラクチャーの構築に係る業務、本件金銭消費貸借契約並びに本件貸付に係る担保契約及び保証契約(以下、これらの契約を「本件貸付関連契約」という。)締結に至るまでの各種アレンジメント
 B 参加金融機関候補者の招聘
 C 本件貸付関連契約の作成・助言及びこれに関する関係者(参加金融機関候補者を含む。)との調整・連絡
 D 各種契約調印・交付事務
 E その他上記AないしDに付随する業務
(ロ)アレンジャー××××××は、一旦受領した本件アレンジメント・フィー等については、法令等に反しない限り、いかなる場合においても返還する義務を負わない。
(ハ)××××××××××は、本件アレンジメント・フィーがアレンジャー××××××による本件アレンジメント業務の対価として支払われるものであって、本件貸付又は金銭消費貸借に関して支払われるものではないことを確認する。
  ××××××××××は、本件金銭消費貸借契約に基づき、平成27年9月30日、貸付人××××××からタームローンA貸付1,700,000,000円及びタームローンB貸付2,170,000,000円を借り入れた。
ヘ ××××××××××は、本件覚書に基づき、同日に、アレンジャー××××××に対し、本件アレンジメント・フィー等を支出し、支出した金額に60分の48を乗じた115,862,400円を長期前払費用(貸借科目)、当該支出した金額との差額である28,965,600円を前払費用(貸借科目)として資産計上した。
  そして、××××××××××は、××××××から××××××までの事業年度(以下「本件合併最終事業年度」という。)において、長期前払費用(貸借科目)のうち、7,241,400円を長期前払費用償却として損金の額に算入した。
ト 請求人は、××××××付で××××××××××を吸収合併した。なお、当該合併は、法人税法2条第12号の8のイに規定する適格合併に該当し、××××××××××の長期前払費用(貸借科目)108,621,000円及び前払費用(貸借科目)28,965,600円(以下、長期前払費用(貸借科目)と併せて「本件前払費用等」という。)は、合併承継資産として請求人に引き継がれた。
チ 請求人は、××××××××××の本件合併最終事業年度の法人税について、青色申告書以外の確定申告書により、法定申告期限までに申告した。
  なお、この申告における××××××××××の欠損金額は、××××××であった。
リ 請求人は、平成28年9月30日に、コミットメントライン貸付に係る極度額を0円に減額するとともに、タームローンA貸付及びタームローンB貸付の残高の全額を契約に定められた期限前に返済したことで、本件金銭消費貸借契約は終了した。
ヌ 請求人は、本件前払費用等の全額を、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、長期前払費用(損益科目)14,482,800円及びシンジケート・ローン解約損失123,103,800円として損金の額に算入した。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件事業年度の法人税について、青色の確定申告書により、法定申告期限までに申告した。また、請求人は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の申告書により、法定申告期限までに申告した。
ロ ××××××は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件アレンジメント・フィー等は、その全額が支出時の損金の額に算入され、××××××××××の本件合併最終事業年度の欠損金額に加算されるべきものであるため、本件前払費用等は、適格合併による××××××××××からの合併承継資産とは認められず、本件前払費用等を請求人の本件事業年度の損金の額に算入することはできないとして、令和2年3月26日付で、別表1及び別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件法人税賦課決定処分」という。)並びに本件課税事業年度の地方法人税の更正処分(以下「本件地方法人税更正処分」といい、本件法人税更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件法人税賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、令和2年5月18日に審査請求をした。

争点および主張

 本件アレンジメント・フィーの支出の効果は、その支出の日以後1年以上に及ぶものか否か。(参照)

【表】争点についての主張

原処分庁 請求人

 本件アレンジメント・フィーの支出の効果は、以下のとおり、その支出の日以後1年以上に及ばない。
(1)本件アレンジメント・フィーは、××××××××××が本件金銭消費貸借契約に基づく融資を受けるために、アレンジャー××××××から、ファイナンス・ストラクチャーの構築をはじめとする本件貸付関連契約の締結に至るまでの各アレンジメント業務によってシンジケート・ローンを組成してもらうという、個別・具体的な役務の提供を受けた直接的な対価である。
  そうすると、その役務の提供は、シンジケート・ローンが組成され、借入れが実行された時点で終了しており、その支出の効果は、当該借入れが実行された日以後には及ばず、株式の取得や事業に活用されるというのは、副次的、派生的な効異にすぎない。
  したがって、本件アレンジメント・フィーは、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものには該当しない。

 

 


(2)本件アレンジメント・フィーは、法人税法施行令第14条第1項第5号に掲げる社債等発行費に該当せず、また、社債等発行費に類似する費用を繰延資産とする旨の規定はない。

 本件アレンジメント・フィーの支出の効果は、以下のとおり、その支出の日以後1年以上に及ぶ。
(1)本件アレンジメント・フィーは、経常的な事業資金の調達目的ではなく、企業の合併・買収の形態の一つであるレバレッジド・バイアウト(以下「LBO」という。)という特別な目的のために組成したシンジケート・ローンに係る資金調達費用である。
  そして、本件アレンジメント・フィーを支出して資金を調達し、調達した資金によりLBOが実行されるとともに、現株主による経営管理体制の下で成長投資が実行されることで、請求人の収益が増加することが計画されていたことから、本件アレンジメント・フィーは、支出の日以後1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有していると認められる。
  加えて、本件アレンジメント・フィーは、企業会計原則注解【注15】に定める「既に代価の支払が完了し、これに対する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用」といえる。そして、企業会計上の繰延資産と法人税法上の繰延資産には実質的な差異はない。
  したがって、本件アレンジメント・フィーは、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものに該当する。
(2)法人税法施行令第14条第1項第5号に掲げる社債等発行費は、支出と対価関係にある役務提供は社債等の発行(資金調達)時点において既に完了しているが、その支出の効果が社債償還までの期間に及ぶとして繰延資産として計上し、資金調達期間にわたり償却することが認められている。
  本件アレンジメント・フィーは、社債等発行費と同様に、役務の提供を受けること自体は直ちに収益を生み出すものではないが、その役務の提供を受けて調達された資金を調達期間において利用することにより収益を生み出す性質を有することから、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものに該当する。

審判所の判断

(1)法令解釈
 企業会計においては、費用収益対応の原則がとられており、法人税法においても同原則が妥当するものと解されるところ(法人税法第22条参照)、法人税法上の繰延資産は、費用を支出しても、それにより当該費用と収益の対応関係が即時的に完結せず、その後においても収益を生み出す性質を有する場合のその継続的な収益に着目し、複数年にわたり償却(損金算入)を行うという制度である(法人税法第32条、法人税法施行令第64条)から、「支出の効果」(法人税法第2条第24号、法人税法施行令第14条第1項)についても同原則に照らして考慮すべく、「支出の効果」とは、費用収益対応の原則における「収益」の発生を意味するものであって、「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」というのは、費用収益対応の原則の下、当該費用の支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有するものをいうと解するのが相当である。
(2)認定事実(略)
(3)検討

イ 本件アレンジメント・フィーの支出は、本件覚書に基づいて行われ、その根拠を示すものは、本件覚書以外には存在しない。そして、本件覚書は、××××××××××とアレンジャーとの間で締結されたものであり、本件覚書が真正に成立していることにつき当事者間に争いはないから、本件覚書の内容の解釈に当たっては、原則として、処分証書である本件覚書に即して、客観的に判断すべきものと解される。
ロ 本件覚書によると、本件アレンジメント・フィーは、上記のとおり、アレンジャー××××××が××××××××××に対して行った本件アレンジメント業務の対価として支払われるものである。
  そして、上記のとおり、本件アレンジメント業務は、資金調達スキームの構築に係る業務、本件金銭消費貸借契約の締結に至るまでの各種アレンジメント、契約の作成・助言、関係者との調整・連絡、各種契約調印・交付事務及びこれらに付随する事務であるから、本件アレンジメント業務は、本件金銭消費貸借契約が締結された平成27年9月25日をもって、完了したと認められる。
ハ そうすると、本件アレンジメント・フィーの支出は、××××××××××に、本件金銭消費貸借契約を含む各種契約の調印・交付という成果はもたらしたものの、当該支出が、例えば請求人の非鉄金属製造業において収益の発生をもたらしたとまでは認めることができない上、当該支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有することも認めることができない。
  したがって、本件アレンジメント・フィーの支出の効果は、その支出の日以後1年以上に及ぶものではない。
(4)請求人の主張について
イ 請求人は、上記のとおり、本件アレンジメント・フィーを支出して資金を調達し、調達した資金によりLBOが実行されるとともに、成長投資が実行されることで、請求人の収益が増加することが計画されていたことから、本件アレンジメント・フィーは、支出の日以後1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有していると認められる旨主張する。
  確かに、調達した資金によりLBOを実行し、成長投資が実行されることで、請求人の総売上高(収益)を継続的に増加させることを見込んでいた事実は認められる。
  しかしながら、上記のとおり、本件アレンジメント・フィーの支出の根拠となるものは、本件覚書以外には存在せず、本件覚書の内容の解釈に当たっては、処分証書である本件覚書に即して客観的に判断すべきであり、本件アレンジメント・フィーの支出が、1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有することを認めることができないことは、上記のとおりである。
  なお、上記のとおり、ある費用の支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有するものというためには、費用収益対応の原則が前提となるところ、本件アレンジメント・フィーの支出と調達した資金には、次のことから費用収益の対応関係を認めることができない。
(イ)上記のとおり、本件アレンジメント・フィー等は、法令等に反しない限り、いかなる場合においても××××××××××に返還されず、例えば、本件貸付に係る融資期間、融資金額等がその後の事情により変更された場合や、本件金銭消費貸借契約が解除等された場合であっても、返還されないのであるから、本件アレンジメント・フィーは、本件貸付とは別個独立したものと認められること。
(ロ)上記のとおり、本件アレンジメント・フィーは、本件アレンジメント業務の対価として支払われるものであって、本件貸付又は金銭消費貸借に関して支払われるものではないこと。
(ハ)上記のとおり、資金の調達は、本件金銭消費貸借契約に基づき、××××××××××と貸付人××××××との間で行われたものであって、アレンジャー××××××との間で行われたものではないこと。また、本件アレンジメント・フィーは、本件覚書に基づき、××××××××××からアレンジャー××××××に対して支払われた費用であって、貸付人××××××に対して支払われた費用ではないこと。
(ニ)上記のハのとおり、本件計画書等に本件アレンジメント・フィーに関する記述はなく、他に本件アレンジメント・フィーの支出と調達した資金との費用収益の対応関係を客観的に示す事実も認められないこと。
  したがって、本件アレンジメント・フィーの支出がその支出の日以後1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有するものと認めることはできず、請求人の主張を採用することはできない。
ロ さらに、請求人は、本件アレンジメント・フィーは企業会計原則注解【注15】に定める「既に代価の支払が完了し、これに対する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用」といえ、企業会計上の繰延資産と法人税法上の繰延資産には実質的な差異はないことから、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものに該当する旨主張する。
  しかしながら、企業会計上の繰延資産に該当することが法人税法上の繰延資産に該当する旨の法令の規定はなく、また、本件アレンジメント・フィーの支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものに該当しないことは、上記のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
ハ (略)
(5)原処分の適法性について(略)
(6)結論

 よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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