カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2022年02月21日 SCOPE 顧客の不正を正さなかった職員に対する税理士の責任は(2022年2月21日号・№919)

税務顧問契約から善管注意義務違反はなし
顧客の不正を正さなかった職員に対する税理士の責任は


 被告である税理士と顧問契約を締結していた原告が、被告が税務上の適切な助言を行わなかったとして約550万円の損害賠償を請求した事件。原告代表者は、知人の用意した領収書等を利用して経費に計上したことについて、税理士事務所の職員は問題がないなどと述べたとし、当該職員を雇用した税理士に善管注意義務違反があったか否かが争われた。
 東京地方裁判所の五十嵐章裕裁判長は、原告代表者は主体的に架空経費の計上を行っていたほか、架空の領収書等による経費計上を違法であると認識していたと判断し、原告の請求を棄却する判決を下した(令和3年8月4日)。また、税務顧問契約(表1参照)を踏まえれば、税理士事務職員が脱税を試みる原告に対し、是正を求め、架空の経費計上を拒絶するなどの対応をとらなかったとしても、善管注意義務違反があったとはいえないとした。

【表1】税務顧問契約

〇委任業務の範囲
 ・原告の法人税、所得税、住民税及び消費税の税務代理並びに税務書類の作成業務
 ・原告の税務相談
〇契約期間
 ・平成19年11月1日から平成20年10月31日までの1年間とする。ただし、契約期間の満了3か月前までに合理的な理由を明示して更新しない旨を相手方に通知しなかった場合、自動更新されるものとし、この場合の期間における契約期間は1年間とする。
〇報酬額
 ・税務会計顧問報酬 月額5万円(消費税相当額を含まない)
 ・税務書類及び決算書類作成報酬 一書類当たり50万円(消費税相当額を含まない)
 ・消費税申告書類作成報酬 一書類当たり50万円(消費税相当額を含まない)
〇資料の提示及び責任
 ・原告の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は原告において負担する。
 ・原告の資料等の提示に誤り又は虚偽があったことにより、第三者又は被告自身が受けた損害については原告がその責任を負う。

裁判所、架空経費の計上は原告代表者が主体的に実施

 本件は、被告である税理士と顧問契約を締結していた原告(会社)が、被告は税務上の適切な助言や指導をすべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったため、原告に過少申告加算税や重加算税が課せられ損害が生じたとし、被告に対し、債務不履行に基づき約550万円の損害賠償を求めた事案である。
 原告の代表者は、知人が用意した領収書等により架空経費を計上する節税方法は税務上許容できないにもかかわらず、税理士事務所職員は領収書に関しては違法性がなく、請求書に関しては相手の会社が売上計上していれば問題ないと述べたとし、職員を雇用した税理士に善管注意義務違反があるなどと主張した(表2参照)。

【表2】当事者の主な主張

原告(会社) 被告(税理士)
・原告代表者は、知人から提案を受けた同人が用意した領収書等を利用した節税方法の提案は税務上許容されないものであることは明白であるにもかかわらず、税理士事務所職員は、節税方法の当否につき質問をした原告代表者に対し、領収書に関しては違法性がなく、請求書に関しては相手の会社が売上計上していれば問題ないなどと述べ、必要経費に計上していた。
・被告は、当該職員を雇用し、業務の一端を担わせ利益を得ているのであるから、当該職員の善管注意義務違反は被告の義務違反となる。
・被告は、原告代表者から質問を受けたことはなく、節税となる旨の回答をしたこともない。税理士事務所職員は、原告代表者に知人の用意した請求書や領収書等により経費を計上することについて、まずいですよなどと指摘したものの、原告代表者がこれを経費として計上するよう強要したため、やむなく経費として計上したものである。
・被告は、やり取りを含め、原告において架空の計上を行おうとしていたことを知らなかったのであるから、被告には何ら義務違反はない。また、被告に何らかの監督責任があるとしても、原告が賦課決定を受けたのは、原告の違法な指示に基づくものであって、被告に義務違反なはい。

 裁判所は、税理士法の各規定からすれば、税務申告を受任した税理士は、その委任契約に伴う善管注意義務として、その専門的知見に基づき委任の趣旨に沿うよう、適切な助言や指導を行いながら税務申告をすべき義務を負うというべきであり、また、税理士は、税理士業務を行うに当たって従業員を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けることのないよう従業員の監督をしなければならないとされているのであるから、税務申告を行うに当たって従業員を使用するときは、善管注意義務として適切に従業員を監督すべき義務を負うというべきであるとした。
 本件について裁判所は、原告代表者は①知人に報酬を支払い架空の請求書を発行させるとともに、税理士事務所職員に同請求書を用いて架空の広告宣伝費を計上させ、②税理士事務所職員らに対し、知人から購入した領収書を用いて原告の経費として計上するよう指示し、③税理士事務所職員に対し、架空の旅費交通費を計上するよう指示し、原告の各事業年度における利益の額を仮装又は隠蔽していたということからすれば、原告代表者は架空経費の計上において主体的に行っていたと認められるとした。また、原告代表者は、架空の請求書や領収書を用いて経費の計上をすることの当否につき、税理士事務所職員に問い合わせたところ、問題ないなどと述べたため違法ではないと考えていたと述べるが、裁判所は、原告代表者は被疑者として取り調べを受けている段階から被疑事実を認めており、違法であると認識していたとした。
原告の誤りによる不利益は原告の負担
 裁判所は、税務顧問契約には原告が被告に提供する資料に不足や誤りがあった場合の不利益については原告が負担するとされていることからすれば、一般的に税理士が負う善管注意義務の内容を踏まえても、税理士事務職員が自らの意思で主体的に脱税を試みる原告に対し、是正を求め、架空の経費計上を拒絶するなどの対応をとらなかったことをもって、善管注意義務違反があったということはできないと判断し、原告の請求を斥けた。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索