カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2022年03月14日 特別解説 IFRSを適用して新規上場した企業(2022年3月14日号・№922)

特別解説
IFRSを適用して新規上場した企業

はじめに

 2021年の年末になって、国際財務報告基準(IFRS)を適用済・適用決定企業数の合計が250社に到達した(注)。IFRSを適用済の企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)は、我が国の会計基準や米国会計基準からIFRSに移行した企業が大半を占めるものの、250社のうち34社を、IFRSを任意適用して新規に上場した企業が占めている。
 本稿では、上記の34社の横顔を紹介しつつ、IFRSを適用して新規上場した日本企業の特徴を探ってみたい。なお、本稿で取り上げる34社のほかに、LINE(株)もかつてIFRSを適用して東京証券取引所に新規上場したが、その後、Zホールディングス(旧社名:ヤフー)グループの傘下入りしたことに伴い、現在は上場廃止となっている。
(注)日本取引所(東証)のホームページによる。2021年12月現在。内訳は、IFRS適用済企業数238社、IFRS適用決定企業数12社。なお、このほかに札幌証券取引所のアンビシャス市場に上場しているRIZAPグループ株式企業もIFRSを任意適用している。

今回調査対象とした企業

 本稿で調査対象とした企業は、IFRSを適用して新規上場した日本企業34社(表1)である。

 なお、サワイグループホールディングス株式会社の完全子会社である沢井製薬株式会社は、2018年3月期よりIFRSを任意適用している。サワイグループホールディングスは、いわゆる「テクニカル上場(注)」に該当する。
(注)テクニカル上場とは、東証の本則市場(市場第一部及び市場第二部)、マザーズ又はJASDAQに上場している企業(「上場企業」)が、東証に上場していない企業(「非上場企業」)と合併することによって解散する場合や、株式移転・株式交換により非上場企業の完全子会社となる場合等に、当該非上場企業が発行する株券について、流通株式数等の流動性基準への適合状況を中心に確認し、速やかな上場を認める制度のことをいう。
 また、IFRSを適用して新規上場した企業数を、上場した年ごとに整理すると、表2のとおりとなった。

 IFRSを適用した新規上場が始まった2014年からしばらくの間は、年間2社程度となかなか件数が伸びなかったが、2017年と2018年には6社ずつと件数が増えた。コロナウイルス感染症(Covid-19)の影響等もあって、2019年はわずか1社と落ち込んだが、コロナの感染や株価の水準が落ち着きを見せ始めてきた2020年の下半期から上場企業数は再び上昇に転じ、2021年は一気に11社が上場した。このままコロナウイルスの爆発的な感染拡大や経済活動の大幅な停滞がなく、かつ、株価が高水準で推移するようであれば、2022年度もある程度の数の企業がIFRSを適用して新規上場するのではないかと予想される。
 また、今回調査対象とした34社の業種別の分布を示すと、表3のとおりとなった。

 サービス業と情報・通信業で全体の3分の2を占めている。なお、表3では「その他」に含まれているが、雪国まいたけは、農林・水産業で初めてIFRSを任意適用する日本企業となった。

今回調査対象とした各社の事業内容と事業規模等の紹介

 今回調査対象とした、IFRSを適用して新規上場した企業34社の事業内容や事業規模等を一覧にすると、表4のとおりとなった。

 これら34社のうち、24社が東証1部、1社が東証2部に上場しているが、新興企業向けの市場であるマザーズに上場している企業が9社あることが目を引く。特に最近はマザーズに上場する企業が多く、上場した時期を2021年1月から12月に限ると、東証1部上場が5社、マザーズ上場が6社であった。
 売上高の規模でみると、5億円に満たないソレイジア・ファーマから、5兆円を超えるソフトバンクまで、さまざまな規模の企業が混在していることが分かる。2014年から2020年までは、売上高が200億円から2,000億円程度までの比較的中規模なレンジに属する企業が上場することが多かったが、2021年は、売上高が100億円に満たない小規模な企業が上場する事例が多く見られた。

IFRSを適用して新規上場した企業とのれん

 今回の調査対象とした34社について、計上しているのれんの額と連結純資産の額とを比較すると、表5のとおりであった。

 今回調査の対象とした34社のうち、ちょうど半分の17社が、のれんの計上額が連結純資産を上回っており、のれん計上額の連結純資産に占める比率が50%を超えた企業が全体の8割超を占めた。
 IFRSを適用して新規に上場した企業で、多額ののれんを計上している企業の場合、いわゆる受け皿企業と合併することによって資産の評価替えを行い、その結果としてのれんが計上されていることが多い(外部から企業や事業を取得したことに伴って計上されるのれんとは、少し性質が異なる)。こういったのれんの場合には、収益力の源泉が通常はその企業の本業そのものであるため、よほどのことがなければのれんが大幅に減損処理されることはないと思われる。したがって、のれん計上額の連結純資産に占める割合を下げるためには、地道に利益を積み上げて連結純資産を厚くするほかはないということになる。全体的に見て、IFRSを適用して新規上場する企業は、上場時には自己資本が薄い反面、収益力は高い場合が多かったが、最近のコロナウイルス感染症(Covid-19)の蔓延に伴う経済活動や人の動きの停滞のため、小売業やサービス業に属する企業を中心に各社は大きな打撃を受けており、売上高が大きく減少して赤字を計上するような事例も一部に見られている。各社の本業の強さを示しているともいえるのれんについて、減損の兆候が生じていないかどうか、今後とも慎重に見極めることが必要となろう。

のれんの減損テストに関する開示

 最後に、のれんの残高が連結純資産を上回っている企業が、のれんの減損テストをどのように行っているかを簡単に見ておきたい。下記の3社の開示事例を紹介することとする。

1.ネットプロテクションズホールディングス
2.AB&Company
3.シンプレクス・ホールディングス

(ネットプロテクションズホールディングス)
 連結財政状態計算書に計上されているのれんは、株式会社AP53(旧株式会社NPホールディングス、現株式会社ネットプロテクションズ)が株式会社ネットプロテクションズ(旧株式会社ネットプロテクションズ)株式を100%取得したことにより認識されたものであり、旧株式会社NPホールディングスと株式会社ネットプロテクションズ(旧株式会社ネットプロテクションズ)の合併により、合併後会社である現株式会社ネットプロテクションズに引き継がれています。
 当社グループは、のれんについて、毎期又は減損の兆候がある場合にはその都度、減損テストを行っています。企業結合により生じるシナジー効果及びブランドの効果は当該セグメントとしての資金生成単位グループ全体から生じるため、当該のれんは、減損テストの実施にあたり、当該資金生成単位グループ全体に配分されています。当該資金生成単位グループの回収可能価額は、使用価値と処分コスト控除後の公正価値のうちいずれか大きい方の金額としています。
 使用価値は、経営者により承認された5年間の事業計画を基礎とし、その後の永続価値を長期成長率0.5%と仮定して計算した将来キャッシュ・フローの見積額を現在価値に割り引いて算定しています。長期成長率は日本のGDP成長率0.5%を指標に用いたものです。この事業計画は、過去の実績値及び外部環境とも整合性を取ったうえで策定しています。割引計算に際しては、加重平均資本コストに基づき一定の調整をした税引前の割引率(前連結会計年度14.5%、当連結会計年度15.7%)を使用しています。将来キャッシュ・フローの見積りにおける主要な仮定は、5年間の事業計画における売上高の成長率であり、5年間における毎年の平均成長率は20.3%と見積っています。(中略)当連結会計年度末において見積回収可能価額は、のれんが含まれる資金生成単位グループの資産の帳簿価額を29,942百万円上回っていますが、税引前割引率が15.9%上昇した場合又は各期の将来の見積キャッシュ・フローが67.2%減少した場合、回収可能価額と帳簿価額が等しくなる可能性があります。

(AB&Company)
 資金生成単位(資金生成単位グループ)に配分されたのれん及び耐用年数が確定できない無形資産の帳簿価額は以下のとおりであります。

 主なのれん及び無形資産に対する減損テストは、以下のとおり行っております。
 のれん及び無形資産が配分されている資金生成単位グループについては毎期、さらに減損の兆候がある場合には都度、減損テストを行っております。資金生成単位グループに配分されたのれん及び無形資産の回収可能価額は、使用価値によって算定しております。使用価値は、以下の主要な仮定に基づいて算定しております。
 各資金生成単位グループにおける将来キャッシュ・フローは、経営者によって承認された5年を限度とする事業計画を基礎とし、以降の期間の将来キャッシュ・フローは、事業計画期間経過後の成長率は、日本の長期予想インフレ率のみを考慮し、事業の成長性をゼロとして継続価値を算定しております。成長性は、市場の長期の平均成長率を超過しない範囲で決定しております。将来キャッシュ・フローの予測期間は、各資金生成単位の事業に応じた適切な期間を設定しております。
 各資金生成単位に適用される割引率は、税引前加重平均資本コスト等を基礎に、外部情報及び内部情報を用いて事業に係るリスク等が適切に反映されるよう算定しております(12.24%)。
 なお、当連結会計年度における、のれん及び無形資産の減損テストの結果、のれん及び無形資産が減損している資金生成単位グループはありません。また、当該資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を十分に上回っていることから、減損判定に用いた主要な仮定が合理的に予測可能な範囲で変動した場合においても、重要な減損が発生する可能性は低いと判断しております。

(シンプレクス・ホールディングス)
 2016年12月1日に筆頭株主であったカーライル・グループの投資ファンドが保有していた旧シンプレクス株式を取得することを目的とした、株式会社日本政策投資銀行を主たる出資者とする特別目的会社による吸収合併により、のれん36,476百万円を当初認識いたしました。当該のれんは単一セグメントを単一の資金生成単位としてすべて配分されており、当連結会計年度に実施した減損テストにおいて回収可能価額が、帳簿価額を上回っていることを確認しております。
 当社グループは、のれんについて、毎期又は減損の兆候がある場合には随時、減損テストを実施しております。減損テストの回収可能価額は、使用価値に基づき算定しております。
 使用価値は、過去の実績及び外的環境を反映し、経営者が承認した5年以内の事業計画と経過後の成長率(前連結会計年度1.1%、当連結会計年度1.0%)を基礎としたキャッシュ・フロー見積額を、資金生成単位の税引前加重平均資本コストを基礎とした割引率(前連結会計年度11.9%、当連結会計年度11.6%)により現在価値に割り引いて算定しております。
 減損テストに使用した主要な仮定が変更された場合には減損が発生するリスクがありますが、使用価値は資金生成単位の帳簿価額を十分に上回っており、減損テストに使用した主要な仮定が合理的に予想可能な範囲で変化したとしても、使用価値が帳簿価額を下回る可能性は低いと判断しております。

参考文献
「テクニカル上場の手引き」 日本取引所自主規制法人 上場管理部 2020年11月改訂

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索