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解説記事2022年03月21日 ニュース特集 D課税・第1の柱「利益A」の最新動向(2022年3月21日号・№923)

ニュース特集
ネクサス、レベニュー・ソーシング、課税ベース等の詳細判明
D課税・第1の柱「利益A」の最新動向


昨年10月8日にOECD・G20の包摂的枠組みが公表したデジタル課税に関するステートメントでは先送りされる形となっていた技術的な部分の検討が急ピッチで進んでいる。昨年12月20日に公表されたデジタル課税・第2の柱「最低税率制度」についてのモデル・ルールに続き、OECDは今年2月4日と2月18日に、第1の柱「利益A」に係る市中協議文書(公開討議文書)を公表した。2022年多国間協定の署名開放・2023年施行というタイトなスケジュールの中、OECDは部分的かつ断続的に、準備が整ったものから利益Aの各構成要素について納税者の意見を「2週間」というごく短期間だけ募る“ローリング・コンサルテーション”を実施している。
 本特集では、「利益A」に係るネクサス及びレベニューソーシングに絞った内容となっている市中協議文書の第一弾、課税ベースの決定に関する第二弾、さらに、利益Aの課税ベースである「調整税引前利益」を算出する際に対象グループの財務会計利益(又は損失)から控除される純損失を生む “一定の事業再編”について詳説する。

ネクサス及びレベニューソーシング

取引ごとアプローチに逆戻りなら、利益Aの情報収集にシステム投資発生も

 利益Aは、多国籍企業グループの超過利益(売上の10%を超える部分の利益)の25%を売上(収入)に応じて閾値を超える各市場国に配分するもの。その売上がどの法域で発生しているかを決するのがレベニューソーシングルールであり、事務負担との関係で企業にとっては最も関心が高い分野となっている。
 市中協議文書によると、収入は取引ごと(transaction-by-transaction)に判定しなければならない。1つのインボイスに複数の取引が含まれている場合には分解が必要となる。一方、こうした記録を漏れなく保存することは現実的ではないことから、市中協議文書では内部統制アプローチ、すなわち、対象グループが“信頼できる手法”により情報を取得・管理するシステムを具備しているかどうかを証明するアプローチが採られる。
 この内部統制ルールは一見すると納税者に配慮したものにも見えるが、結局、その内部統制が機能しているかどうかを判定する際に、個別取引について抜き打ち的なサンプルテストが行われるとすれば、事務的には原則論である取引ごとアプローチに戻らざるを得ない。こうした中、企業の間では、利益Aの情報収集目的のために新たなシステム投資が必要になるのではないか、施行までに間に合うのかといった懸念の声が上がっている。

販社に最終顧客所在地を報告させる案、販社所在地を源泉地とする案浮上

 収入は「完成品」「部品」「サービス」「無形資産」「不動産」「国庫補助」「顧客以外からの収入」の7つに分類され、分類不能なものは類似する収入に寄せて判定する。分類に際してはその取引の通常又は支配的な性質に着目する。あくまでも取引の“実質”を見る必要があり、法的形式は問わない。
 また、ある取引が主たる取引と従たる取引から構成されている場合、従たる取引を主たる取引に基づき分類するルールが提案されている。市中協議文書の脚注には、例えば自動車販売及びそれに付随する販売金融については、自動車という完成品の販売とファイナンシングという役務に分離せず、主たる取引である完成品の販売に寄せて収入源泉地を判定することが認められる旨の記述がある。
 納税者にとって関心が高いのは、完成品を独立販社を経由して販売したケースだ。既報の通り、最終顧客の所在場所の識別は困難との指摘があることを受け、様々な案が検討されてきたが(本誌890号4頁〜参照)、市中協議文書では、独立販社から最終顧客の所在地を報告してもらうという選択肢に加え、一定の場合、独立販社の所在地を収入源泉地として認める案が提示されている。一定の場合とは、契約その他により、独立販社がその所在する法域のみでしか販売が認められていない場合などだ。この部分は、企業側のかねてからの主張が反映された形となっている。

限界事例にマクロ指標による機械的な配分案、末尾的収入は低所得法域へ

 ただし、こうした指標を利用しても、なお最終顧客の場所が分からない限界事例がある。その場合には、マクロ指標による機械的な配分を行う。
 まず、商業上の理由により、対象グループが一定の地域(地理的に近接している必要がある等の制約はない)で売上を計上していることが明らかな場合には、国連貿易開発会議(UNCTAD)が提供する最終消費支出データをもとに、その地域内の法域に収入をプロラタ配分する案が提唱されている。
 それでも収入源泉地が判別しない残余の収入は末尾的収入と呼ばれ、こちらは基本的には低所得法域に配分する。ここでも配分キーは最終消費支出となる。低所得法域の定義は世界銀行による(モデル・ルールの定義規定に解説あり)。その上で、収入が低所得法域で生じていない場合には、同じく最終消費支出を基礎に最終手段として全世界アロケーションを行う。
 こうした機械的な配分を行うための条件としては、①信頼できる収入源泉地の特定指標を採用しようと合理的なステップを踏んだにもかかわらず見つからなかったこと、②ノックアウトルール(42頁参照)を適用すること、が挙げられている。今後、①について「合理的なステップ」としてどこまで許容されるか、②について「ノックアウトルール」を適用する際にどのような証拠書類が必要か、といった点が議論になるものとみられる。
 なお、末尾的収入の完成品販売収入に占める割合が[5%]以上である場合には、対象グループは翌期以降に生じる末尾的収入を減少させるべく合理的なステップを採用しなければならない。合理的なステップは、その割合が[5%]以上となった最初の期から2期以内に完了する必要がある。市中協議文書の脚注では、末尾的収入が減らせない場合における罰則をほのめかす文言もあり、企業としては注意が必要だ。なお、5%という数字にカッコが付いていることから分かるように、この数字はまだ未確定であり、実務的にワークしない場合には、異なる数字が新たにOECD側から提示される可能性がある。

課税ベース

支配持分に係る利益又は損失は課税ベースから除かず

 利益Aの課税ベースは「調整税引前利益」と呼ばれる。これは、(1)税務・会計調整、(2)再表示調整、(3)純損失控除を行った後の対象グループの財務会計利益(又は損失)、とされている。順番に見ていこう。
(1)税務・会計調整
 税務・会計調整とは、要するに、「適格会計基準」に基づく連結財務諸表に表示された「財務会計利益(又は損失)」を出発点に、「税金費用」及び「政策的に否認すべき費用」を足し戻し、「配当」を減算し、さらに「持分利益又は損失」について“会計と逆方向”の処理を行うことをいう。
 「適格会計基準」とはIFRSやIFRSと同等の他の会計基準のことであり、米国基準の他、日本基準も含まれる。
 「財務会計利益(又は損失)」とは最終親会社の連結財務諸表における全ての収益・費用を考慮した利益又は損失を指し、その他包括利益(OCI)は含まない。
 「税金費用」は所得に対する税金(法人税)を指し、繰延税金費用を含むが、税納付の遅延に係る利子相当額は含まない。
 「政策的に否認すべき費用」には賄賂・キックバックといった違法性の高い費用や罰金、ペナルティが含まれる。すなわち、会計上は費用計上したとしても、利益Aを算定する目的では足し戻し、課税ベースに含めるということだ。
 「配当」はその起因となった株式の持株割合にかかわらず減算する。ポートフォリオ投資も例外ではない。これは、多くの国で配当が何らかの形で非課税(益金不算入)になっていることを受けたものだ。
 「持分利益又は損失」とは所有持分の処分に係る損益、公正価値会計における所有持分の公正価値の変動、持分法投資損益を含む概念であり、利益Aにおいては、これらについて利益が出た場合には減算し、損失が出た場合には加算するという、会計とは逆方向の処理を行うことになる。ただし、市中協議文書では、所有持分といっても支配持分に係る利益又は損失については課税ベースから除かない、すなわち、会計とは逆方向の処理を行わないことも示唆されており、その意図が不明確との声が企業などから上がっている。また、持分法投資損益といっても一定の共同支配されるJVに係る損益は除くとされているため、そのようなJV損益は利益Aの課税ベースを構成することになる。企業側の要望としては、持分法投資損益はJVも含め丸ごと課税ベースから抜くべきということであろうが、税務当局には、複数の当事者が共同で支配するJVを課税ベースに入れないと取りこぼしが生じるとの問題意識があるようだ。

繰越期間は5〜15年の間で検討中、政府間でも温度差

(2)再表示調整
 再表示調整とは過年度の連結財務諸表の修正を当期において認識することであり、プラスの場合もあればマイナスの場合もある。
 単年度のインパクトを軽減する観点から、修正幅は「グループの収入金額の0.5%」を超えないものとする。利益Aの閾値は収入200億€(約2.6兆円)であるため、その0.5%は「1億€=130億円」となる。企業にとってどの程度の重要性があるのかは今後検討が必要となろうが、管理の煩雑さを回避する観点から、修正幅に係る上記キャップ(0.5%)は不要ではないかとの声も聞かれる。
(3)純損失控除
 純損失控除とは欠損金の繰越控除に類似した概念で、財務会計利益(又は損失)に税務・会計調整後の金額がマイナスの場合、古い事業年度に生じたマイナスの金額から順番に、将来事業年度のプラスの金額と相殺できる。
 繰越期間は5〜15年の間で検討中とされ、政府間でも温度差がある。また、利益Aの施行前の損失も繰越控除が可能となる。施行前2〜8年前のマイナスの金額を考慮する案となっており、こちらも非常に幅が広い。
 なお、青写真の段階では検討課題とされていた「profit shortfall(利益は生じているが、その利益が売上の10%に満たない場合のその満たない部分の金額の繰越控除)」は今回の市中協議文書からは消滅している。

一定の事業再編

日本の組織再編税制にはない事業再編で取り込んだ純損失の控除が可能

 市中協議文書によると、利益Aの課税ベースである「調整税引前利益」は、対象グループの財務会計利益(又は損失)に税務・会計調整や再表示調整を行うとともに純損失の控除を行って算出するが、純損失については対象グループの過年度における自らの純損失のみならず、株式取得又は合併といった“一定の事業再編”により取り込んだ他の事業体又はグループの純損失も利用可能とされている。
 この一定の事業再編とは、適格企業結合又は適格分割で、事業継続要件を満たすものをいう。適格企業結合という概念は日本の法人税法上の組織再編税制には存在しないが、これは対象グループの連結財務諸表で企業結合として報告される以下の2つの類型を指す。

(a)移転事業体型
  企業結合の直前に他のグループのグループ事業体ではなかった事業体が移転され、その結果として、当該事業体が対象グループの構成事業体を構成する場合
(b)移転グループ型
  他のグループの全て又は実質的に全ての資産・負債が移転され、その結果として移転された当該他のグループのグループ事業体がそれぞれ対象グループのグループ事業体を構成する場合であり、かつ、当該他のグループのうちに移転されなかった部分がある場合には、その部分が当該企業結合後に消滅する場合

 (a)はグループに属さない個別の事業体を取得等した場合、(b)はグループを丸ごと取得等した場合が想定されている。
 適格分割も、日本の組織再編税制でいう適格分割とは異なる。具体的には、一のグループ(前グループという)の最終親会社がその全て又は実質的に全ての資産・負債を新たなグループの最終親会社となる二以上の事業体に移転し、移転と引き換えにそれら新たなグループの資本に相当する株式等をその株主に比例的に発行するものをいう。適格分割の結果として、前グループは消滅する必要がある。適格分割は日本の組織再編税制における分社型分割とも分割型分割とも異なり、観念することが難しい類型ではあるが、分割元の企業が消滅することが損失の移転の前提となっていることは分かる。現状、日本でいうスピンオフ税制は分割元が存続するため、利益Aでいうところの適格分割には該当しない。

再編後24か月間は「同様又は類似の事業」を行うことが必須

 「一定の事業再編」に該当するために満たす必要がある事業継続要件とは。以下の(a)及び(b)の要件をいう。

(a)対象グループに移転される移転事業体又はグループ、又は前グループの一部が、適格企業結合又は適格分割に先立つ12か月の間、当該適格企業結合又は適格分割の直前に行っていた事業と同様又は類似の事業を行っていること。
(b)当該適格企業結合又は適格分割の直後24か月の間、対象グループが(a)の事業と同様又は類似の事業を行うこと。

 事業継続要件については、日本の組織再編税制に類似した部分もなくはないが、再編後24か月間は「同様又は類似の事業」を行うことが必須となるならば、機動的な事業再編、シナジー創出のための再編後のPMI(Post Merger Integration)の妨げになるのではないかとの指摘もある。再編前の12か月も合わせれば3年間は既存ビジネスを“塩漬け”にしなければならないということであり、あまりにも硬直的との指摘もある。
 企業からは、日本の組織再編税制とは異なるこれら再編類型に戸惑いの声が上がっている。事業再編によって損失が移転し、それを繰越控除に利用できるならば納税者有利ではあるとしても、利益A目的のために会計とも税とも違う枠組みで純損失を過去分も含め把握できるのかとの懸念や、場合によっては損失の取り込みは選択制してはどうかとの意見も聞かれる。コンサルテーションを経てこうした声が反映されるのか、注目される。

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