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解説記事2022年03月28日 未公開判決事例紹介 事務所職員が顧客の不正に加担も税理士に責任なし(2022年3月28日号・№924)

未公開判決事例紹介
事務所職員が顧客の不正に加担も税理士に責任なし
東京地裁、顧問契約から善管注意義務違反認めず

 本誌919号40頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○被告である税理士と顧問契約を締結していた原告が、被告が税務上の適切な助言を行わなかったとして約550万円の損害賠償を請求した事件。原告代表者は、知人の用意した領収書等を利用して経費に計上したことについて、税理士事務所の職員は問題がないなどと述べたとし、当該職員を雇用した税理士に善管注意義務違反があったか否かが争われた。
  東京地方裁判所(五十嵐章裕裁判長)は令和3年8月4日、原告代表者は主体的に架空経費の計上を行っていたほか、架空の領収書等による経費計上を違法であると認識していたと判断し、原告の請求を棄却する判決を下した(平成31年(ワ)第499号)。

主  文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、544万3200円及びこれに対する令和2年7月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1
 本件は、被告と税務顧問契約を締結していた原告が、被告は同契約に基づき原告に対して税務上の適切な助言や指導をすべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったため、原告に過少申告加算税や重加算税が課せられ損害が生じたと主張して、被告に対し、同契約の債務不履行に基づき、損害賠償金894万1011円のうちの一部である544万3200円及びこれに対する令和2年7月3日(訴えの変更申立書送達日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、当裁判所に顕著な事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実)
(1)当事者

ア 原告は、データベース及びウェブシステムの開発等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、公認会計士■■事務所(以下「被告事務所」という。)の屋号で公認会計士業及び税理士業を行う公認会計士兼税理士である。
ウ A(以下「A」という。)は、被告事務所の従業員である。
エ B(以下「B」という。)は、被告事務所の従業員である。
(2)税務顧問契約の締結
 原告と被告は、平成19年11月1日、以下を内容とする税務顧問契約を締結した(以下「本件契約」という。)。(甲1)
ア 委任業務の範囲
 (ア)原告の法人税、所得税、住民税及び消費税の税務代理並びに税務書類の作成業務
 (イ)原告の税務相談
イ 契約期間
 平成19年11月1日から平成20年10月31日までの1年間とする。ただし、契約期間の満了3か月前までに合理的な理由を明示して更新しない旨を相手方に通知しなかった場合、自動更新されるものとし、この場合の期間における契約期間は1年間とする。
ウ 報酬額
 税務会計顧問報酬 月額5万円(消費税相当額を含まない。)
 税務書類及び決算書類作成報酬 一書類当たり50万円(消費税相当額を含まない。)
 消費税申告書類作成報酬 一書類当たり50万円(消費税相当額を含まない。)
エ 資料の提示及び責任
 (ア)原告の資料提供の不足、誤りに基づく不利益は原告において負担する。
 (イ)原告の資料等の提示に誤り又は虚偽があったことにより、第三者又は被告自身が受けた損害については原告がその責任を負う。
(3)原告に対する加算税の賦課決定
 T税務署長は、原告に対し、平成30年5月15日付けで、以下のとおり、消費税、地方消費税、法人税及び復興特別法人税に係る加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をしたとの通知をした。(甲20、21、24)
ア 平成25年3月期について
 復興特別法人税に係る重加算税 13万6500円
イ 平成26年3月期について
 (ア)消費税及び地方消費税に係るもの
  過少申告加算税  2万1000円
  重加算税     70万0000円
 (イ)法人税に係るもの
  過少申告加算税  11万3000円
  重加算税     367万8500円
 (ウ)復興特別法人税に係るもの
   過少申告加算税  1万1000円
   重加算税     36万7500円
ウ 平成27年3月期について
 (ア)消費税及び地方消費税に係るもの
  過少申告加算税 8万8000円
  重加算税    40万9500円
 (イ)法人税に係るもの
  過少申告加算税 78万3500円
  重加算税    133万7000円
3 争点及び当事者の主張
(1)本件契約に係る被告の義務違反の有無(争点1)について
(原告の主張)

ア 被告の負う義務
 税務申告に関する事務処理を依頼された税理士は、税務の専門家として善良な管理者の注意をもって上記事務処理を行うべき義務を負う。かかる義務には、税務に関する法令及び実務に関する専門知識に従い、適切な税務申告がされるよう依頼者に対し助言や指導を行うこと、依頼者からの指示や提案に不適切な点があればこれを指摘すること、並びに、依頼者から提供された資料の内容を精査し、不適切な点があればこれを指摘することまで含まれるというべきである。
イ 被告の従業員の義務違反
 (ア)必要経費の偽造
   原告代表者は、平成24年3月頃、知人のM(以下「M」という。)から、Mが用意する領収書や請求書を利用して節税ができるといった提案を受けた。
   上記節税方法が税務上許容されないものであることは明白であるにもかかわらず、Aは、上記節税方法の当否につき質問をした原告代表者に対し、領収書に関しては違法性がなく、請求書に関しては相手の会社がきちんと売上げとして計上していれば問題ないなどと述べ、Bと共に、Mの用意した領収書や請求書を用いて必要経費として計上していたものであって、明らかに上記義務に違反した。
  なお、A及びBは、原告を指導するどころか、Mと連絡をとり、Mが用意する領収書や請求書を集計し必要経費として計上していたのであるから、明らかに上記義務に違反した。
 (イ)旅費交通費に関する課税仕入れの偽造
   Aは、原告代表者に対し、平成21年1月頃、旅費交通費について、原告の規模なら年間150万円程度を経費として計上できると述べた。これを受け、原告は、A及びBに会計を一任していたところ、A及びBは、原告のあずかり知らぬところで旅費交通費について架空の計上をし、それに基づき確定申告をしていた。
   かかるA及びBの行為は、税務上許されないものであることは明らかであり、明白に上記義務に違反した。
ウ 被告の義務違反
 被告は、A及びBを雇用し、業務の一端を担わせ利益を得ているのであるから、A及びBは、被告の履行補助者であるといえる。したがって、A及びBの上記義務違反は、被告の義務違反となる。
(被告の主張)
ア 必要経費の偽造に関する主張について
 被告は、原告代表者から質問を受けたことはなく、節税となる旨の回答をしたこともない。Aは、原告代表者に対し、Mが用意した請求書や領収書等により経費を計上することについて、まずいですよなどと指摘したものの、原告代表者がこれを経費として計上するよう強要したため、やむなく経費として計上したものである。
イ 旅費交通費に関する課税仕入れの偽造に関する主張について
 Aとのやり取りは不知。
 会社の事業内容や社員数から、一定程度、旅費交通費の支出の予測ができるため、支出に係る証憑がなくても、税務実務上、ある程度の旅費交通費の計上が認められている。しかしながら、原告は、支出に係る証憑が十分でないにもかかわらず、A及びBに対し、旅費交通費の過大計上を指示したものである。
ウ 被告の責任について
 原告代表者は、A及びBに対し、メールにより架空経費を計上するよう指示していた。被告は、当該やり取りを含め、原告において架空の計上を行おうとしていたことを知らなかったのであるから、被告には何ら義務違反はない。
 また、A及びBが被告の履行補助者であって、被告に何らかの監督責任があるとしても、原告が賦課決定を受けたのは、前記アで主張したとおり原告の違法な指示に基づくのであって、被告に義務違反はない。
 さらに、原告代表者は、A及びBに対し、Mから買い取った領収書などの誤った資料を提供して確定申告業務を強要したのであるから、本件契約における資料の提示及び責任と題する条項に基づき、被告が責任を負うことはない。
(2)損害の発生及びその金額(争点2)について
(原告の主張)

 原告は、被告の義務違反により、前記前提事実(3)のとおり賦課決定を受け、合計764万5500円を課税されたほか、延滞税として合計77万4300円を課税された。これらの合計額である841万9800円が原告に生じた損害である。本訴訟においては、被告に対し、その一部である544万3200円を請求する。
(被告の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
1
 前記前提事実に加え、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)架空の請求書による経費の計上
ア Mは、原告代表者に対し、平成22年下半期頃、△△△△と称する会社から原告に対して架空の請求書を発行するから、原告において同請求書を用いて経費を計上し確定申告をしてはどうかと提案した。この際、Mは、あらかじめ自身の報酬相当額を差し引いた金額の現金を原告に対して交付するため、原告から△△△△に対して請求書記載の金額を送金してほしいとも述べた。これを受け、原告代表者は、原告の税負担を減らしたいと考え、Mの提案に応じることとし、請求書及び報酬相当額を差し引いた現金を受領するとともに、△△△△に対して上記請求書記載の金額を送金した。
  原告代表者は、Bに対し、上記請求書を提出し、Bをして、原告の平成22年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度(以下「平成23年3月期」という。)に係る確定申告において、架空の広告宣伝費等を経費として計上させた。(乙5、7)
イ これ以降、原告代表者は、Mの紹介に係る会社から請求書を受領し、自身が代表を務める他の会社において、継続的に架空の広告宣伝費等を計上していたところ、原告においても、平成25年3月期から継続的に架空の広告宣伝費等を計上し始めた。
  当初、原告は、原告の決算期に近接した時期に数か月分の請求書及びMの報酬相当額を差し引いた現金を受領し、その後にMの紹介に係る会社に送金していたが、平成25年頃から、毎月請求書を受領するとともに、Mの紹介に係る会社に送金をした後にMから報酬相当額を差し引いた現金を受領するようになった。
  請求書を受領するに当たって、原告代表者は、Mとの間で、原告の業種とMの紹介に係る会社との業務内容を比較して同種の業務となるよう調整するとともに、請求書記載の金額が不自然な金額とならないよう請求金額を設定していた。(乙7)
ウ 平成25年3月期においては、原告に生じた利益が大きくなかったため、原告代表者は、架空の広告宣伝費等を計上するなどして当期の利益をゼロとした。平成26年3月期においては、原告に生じた利益が多額であったものの、原告代表者は、それに合わせて架空の広告宣伝費等を計上すると脱税が発覚する可能性が大きくなると考え、当期の利益をゼロにすることまではしなかった。平成27年3月期においては、原告代表者は、Aが提示した資料に基づき、原告の当期における利益が約2200万円となると考えたため、Mと相談した上で約660万円の架空の請求書を発行してもらい、これをBに経費として計上させた。そうしたところ、原告の当期における所得金額がマイナスとなったが、原告代表者は、それを認識した上で確定申告をするとともに欠損金の繰戻しによる還付請求をした。(乙8)
(2)架空の領収書による経費の計上
ア Aは、平成23年頃、原告代表者から交付される領収書の量が大幅に増加したため、原告代表者に対し、領収書が増加した理由を尋ねた。これに対し、原告代表者が、Aに対し、原告とは無関係の第三者であるMから領収書を買い取っているなどと述べたため、Aは、その領収書を用いて経費の計上をすると架空計上となると考え、原告代表者に対し、まずいですよなどと述べた。しかしながら、原告代表者が、Aに対し、領収書があるからいいではないかなどと繰り返し述べたため、Aは、Mから買い取った領収書を用いて原告の経費を計上することを承諾した。(甲29)
  一方、原告代表者は、原告の事務所で領収書などの証憑を計上していたBに対し、同年頃、Mから買い取った領収書を交付し、同領収書記載の金額を原告の経費として計上するとともに計上した金額を集計して報告するよう求めた。Bは、同領収書が入っていた封筒に▲▲▲▲などといった原告とは別の会社名が記載されていたことから、同領収書が原告での支出に係るものではないと考え、Aに対応を相談した。これを受け、Aは、原告代表者との間で既にMから買い取った領収書を用いて経費の計上をすることを承諾してしまっていたため、Bに対し、領収書もあるからやるしかないだろうなどと述べた。(甲29、30)
イ Bは、平成24年以降も、原告代表者から、Mから買い取った領収書を2か月に一度程度の頻度で受け取り、これを原告の経費として計上して原告代表者に報告していた。次第に、受け取る領収書の量が増加したことから、Bは、受け取った領収書を被告事務所に持ち帰り、被告事務所において計上をし、原告代表者に報告をしていた。
  Bは、平成25年3月期において、原告代表者から受け取った領収書を原告の経費として計上していたが、Aから原告代表者が代表を務める別会社の経費として計上するよう指示を受け、同別会社の経費として計上し直した。平成26年3月期及び平成27年3月期においては、Bの判断で、受け取った領収書につき原告と別会社とに割り振って計上していたが、特段Aから修正の指示を受けることはなかった。(甲30)
(3)原告及び原告代表者を被告人とする刑事裁判の帰すう
 東京地方裁判所は、平成29年8月28日、以下の各事実を認定し、原告に対しては罰金350万円の、原告代表者に対しては懲役1年(ただし、3年間刑の執行を猶予する。)の、各刑に処するとの判決を宣告した。原告及び原告代表者は、同判決に対して控訴をしなかったため、上記判決が確定した。(甲17、原告代表者本人)
ア 原告の業務に関し、架空広告宣伝費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度(以下「平成25年3月期」という。)における実際所得金額が1638万7063円であったにもかかわらず、同年5月27日、東京都北区□□□□□□□□所轄O税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が4万0189円で、所得税額978円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同事業年度における正規の法人税額333万7700円と前記還付所得税額との合計333万8600円(100円未満の端数切捨て)を免れた。
イ 原告の業務に関し、架空広告宣伝費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度(以下「平成26年3月期」という。)における実際所得金額が8771万1838円であったにもかかわらず、同年5月31日、前記O税務署において、同税務署長に対し、所得金額が4854万9263円で、これに対する法人税額が1130万1700円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同事業年度における正規の法人税額2152万4200円と前記申告税額との差額1022万2500円を免れた。
ウ 原告の業務に関し、架空広告宣伝費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの事業年度(以下「平成27年3月期」という。)における実際所得金額が165万4440円であったにもかかわらず、同年5月25日、前記O税務署において、同税務署長に対し、財務省令で定める電子情報処理組織を使用して行う方法により、欠損金額が733万4795円で、所得税額5427円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告をするとともに、平成26年3月期における法人税のうち170万7768円の還付を請求する旨の虚偽の欠損金の繰戻しによる還付請求をし、そのまま法定納期限を徒過させるとともに、同税務署長に前記還付請求に係る170万7768円を原告に還付することを決定させ、平成27年9月25日、静岡市葵区(以下省略)株式会社三菱東京UFJ銀行○○○○支店に開設された原告名義の預金口座に還付加算金2000円を含めた170万9768円を入金させ、もって不正の行為により、平成27年3月期における正規の法人税額24万2600円と前記還付所得税額との合計24万8000円(100円未満の端数切捨て)を免れるとともに前記還付請求に係る170万7768円の還付を受けた。
(4)原告に対する加算税の賦課決定
 前記前提事実(3)のとおり、T税務署長は、原告に対し、平成30年5月15日付けで、本件各賦課決定をした旨の通知をした。
 同通知に係る各通知書には、概ね、①取引事実がないにもかかわらず、原告代表者がMに請求書を作成させる方法により、課税期間の広告宣伝費及び支払手数料として、②原告代表者が、Mが飲食店等で受け取った領収証等を買い取り、原告の課税仕入れとして計上するため、その領収証等を関与税理士事務所事務員に渡す方法により、交際費や福利厚生費などとして、③取引事実がないにもかかわらず、原告代表者がAに計上金額を指示する方法により、当該課税期間の旅費交通費として、各計上したことが仮装又は隠蔽に当たるとして、所定の重加算税を賦課した旨の記載がされていた。
 なお、原告は、本件各賦課決定に対し、不服申立てをしなかった。(甲20、21、24、原告代表者本人)
2 争点1(本件契約に係る被告の義務違反の有無)について
(1)税理士が負うべき義務について

 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)。そして、税理士は、上記使命に照らし、不正に税の賦課を免れることにつき指示をしてはならないことはもちろんのこと(同36条)、委嘱者が不正に税の賦課を免れ、又は免れようとしているときには、直ちにこれを是正するよう助言しなければならないとされている(同41条の3)。
 上記税理士法の各規定からすれば、税務申告を受任した税理士は、その委任契約に伴う善管注意義務として、その専門的知見に基づき委任の趣旨に沿うよう、適切な助言や指導を行いながら税務申告をすべき義務を負うというべきである。
 また、税理士は、税理士業務を行うに当たって従業員を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けることのないよう当該従業員を監督しなければならないとされている(同41条の2)のであるから、上記税務申告を行うに当たって従業員を使用するときは、上記善管注意義務として適切に従業員を監督すべき義務を負うというべきである。
(2)義務違反の有無について
ア 前記認定事実(1)、(2)及び(4)によれば、原告代表者は、①Mに報酬を支払い架空の請求書を発行させるとともに、Bをして同請求書を用いて架空の広告宣伝費を計上させ、②Bに対し、Mから購入した領収書を交付するとともに、A及びBに対して、同領収書を用いて原告の経費として計上するよう指示し、A及びBをして架空の経費を計上させ、③Aに対し、架空の旅費交通費を計上するよう指示し、Aをして架空の旅費交通費を計上させ、原告の各事業年度における利益の額を仮装又は隠蔽していたというのである。これらのことからすれば、原告代表者は、原告における架空経費の計上について、A及びBに対して指示をするなどして主体的に行っていたと認められる。
  そして、第三者に報酬を支払い架空の請求書を発行させ、これを用いて経費の計上をすること、第三者から領収書を購入して、これを用いて経費の計上をすること、取引事実がないにもかかわらず旅費交通費を経費として計上することのいずれも、虚偽の経費の計上にほかならず、これらが税務上許されないものであることは特段の専門的知見を有せずとも容易に認識できるところである。そうであれば、原告代表者は、違法であることを認識しながら、上記のとおりの架空の経費の計上を行うよう、A及びBに指示をしたものと認められる。
イ 原告代表者は、架空の請求書や領収書を用いて経費の計上をすることの当否につき、Aに問い合わせたところ、Aが問題ないなどと述べたため、架空の請求書や領収書を用いて経費を計上することについて違法ではないと考えていたなどと供述する。しかしながら、前記認定事実(3)及び証拠(甲17、乙5ないし8、原告代表者本人)によれば、原告代表者は、被疑者として取調べを受けている段階から一貫して被疑事実を認めており、刑事裁判の公判廷においても、前記認定事実(3)アないしウ記載の事実を認め、反省の情を示し、加えて、前記認定事実(4)のとおり、原告は、上記刑事裁判の判決宣告後にされた本件各賦課決定に対しても、何らの不服を申し立てなかったというのである。これらのことからすれば、原告代表者は、架空の請求書や領収書を用いて経費を計上することが違法であると認識していたことが優に認められ、原告代表者の上記供述は採用することができない。
  なお、原告代表者は、捜査段階においては勾留による身柄の拘束を避けるため、弁護人の助言を受けて被疑事実を認めたにすぎず、公判廷においても同様に弁護人(捜査段階の弁護人とは異なる。)の助言を受けて公訴事実について争わないこととしたにすぎないなどとも供述する。しかしながら、原告代表者、M、A及びBの架空計上に至った経緯やその手法について、また、違法性の認識に関する捜査・公判段階の各供述内容は概ね符合しており、原告代表者が上記供述に至った動機はともかくとして、原告代表者の捜査・公判段階の供述内容には十分な信用性が認められる。そうすると、原告代表者の本法廷における上記供述も到底採用することができないというべきである。
ウ また、原告代表者は、A及びBが原告における旅費交通費について、原告のあずかり知らぬところで架空の計上をしていたとも供述する。しかしながら、前記認定事実(1)及び(2)からすれば、原告における経費の架空計上等の一連の不正行為は、原告代表者の指示に基づいて行われていたことが認められるところであって、同様の不正行為である旅費交通費の架空計上が原告代表者の指示によることなく行われたとはにわかに認め難い上、前記認定事実(4)のとおり、本件各賦課決定において、原告代表者がAに対し旅費交通費の架空計上を指示したなどと原告代表者の上記供述と異なる認定がされていたにもかかわらず、原告は本件各賦課決定に対して何らの不服申立てをしなかったというのである。仮に、原告代表者の上記供述が真実であれば、原告において、旅費交通費の架空計上に係る加算税を負担するいわれはないにもかかわらず、原告は、税理士(被告とは異なる。)の助言を受けて不服申立てをしなかったというのみで、他に不服申立てをしない合理的な理由があったともうかがわれない。そうであれば、原告代表者がAに対して旅費交通費の架空計上を指示したと認めるのが相当であって、原告代表者の上記供述は採用することができない。
エ 以上によれば、原告代表者は、架空の経費の計上が違法であることを認識しながら、あえて、A及びBに対し、虚偽の領収書等の準備をしてまでも、架空の経費の計上を指示するなどして不正に税の賦課を免れようとしたところ、前記認定事実(2)アのとおり、Aが原告代表者に対して架空の経費の計上はまずいなどと告げ、その是正を促したが、原告代表者が、領収書があるからいいではないかなどと述べて重ねて架空の経費の計上を指示したという事実関係が認められる。このような事実関係に加えて、前記前提事実(2)エのとおり、本件契約には原告が被告に提供する資料に不足や誤りがあった場合の不利益については原告が負担するとされていることからすれば、一般的に税理士が負う善管注意義務の内容(前記(1))を踏まえても、A及びBが、自らの意思で主体的に脱税を試みる原告に対し、是正を求め、架空の経費計上を拒絶するなどの対応をとらなかったことをもって、被告の原告に対する本件契約に基づく善管注意義務の違反があったということはできない。
(3)小括
 よって、被告が本件契約に基づく善管注意義務に違反したとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官 五十嵐章裕
裁判官 崇島誠二
裁判官 中根佑一朗

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