解説記事2022年04月04日 未公開裁決事例紹介 相続財産の帰属を巡り全部取消し裁決(2022年4月4日号・№925)

未公開裁決事例紹介
相続財産の帰属を巡り全部取消し裁決
審判所、預貯金等の帰属は単に名義により判断せず


〇相続財産の帰属などが争われた裁決。国税不服審判所は、歯科医師として診療をしていた請求人Aは、平成22年以降、請求人らの母に代わって本件医院の開設者となり、それに合わせて診療報酬の受入口座として預金口座を開設したと認められ、預金口座に入金された金員は、本件医院の業務から生じた収入を原資とするものであり、預金口座の通帳及び届出印の管理を請求人Aが行っていたことなどからすれば、被相続人の相続財産とは認められないとの判断を示し、原処分の全部を取り消した(熊裁(諸)令2第8号、全部取消し)。

主  文

1 各更正処分は、いずれもその全部を取り消す。
2 更正をすべき理由がない旨の各通知処分に対する審査請求をいずれも棄却する。

基礎事実等

(1)事案の概要
 本件は、審査請求人××××(以下「請求人長女」という。)及び同××××(以下「請求人二女」といい、請求人長女と併せて「請求人ら」という。)が、同人らがした父の相続(二次相続)に係る相続税の申告について、父の相続財産のうちに請求人二女の固有の財産が含まれていたとして更正の請求を行ったことに対して、原処分庁がその請求を全て認める減額更正処分をし、これを契機として、請求人らが、同人らがした母の相続(一次相続)に係る相続税の申告についても、母の相続財産のうちに請求人二女の固有の財産が含まれていたとして更正の請求を行ったところ、原処分庁が、上記減額更正処分を同処分前の金額と同額とする内容の再更正処分を行った上、請求人らの母の相続に係る相続税の更正の請求に対し更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人らがこれらの処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令の要旨(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯(略)

争点および主張

(1)本件金員は、本件二次相続に係る相統財産であるか否か(争点1)。(表参照)

【表】当事者の主張(本件金員は、本件二次相続に係る相続財産であるか否か)

原処分庁 請求人

 本件金員は、以下のとおり、本件二次相続に係る相続財産であり、請求人ら父の固有の財産である。
イ 平成22年3月11日に提出された請求人ら母の個人事業の廃業等届出書及び請求人二女の開業等届出書(以下、これらを併せて「本件開廃業届出書」という。)は、ともに平成22年3月12日に取り下げられた。
  平成23年3月11日に提出された平成22年分の所得税の確定申告書は請求人ら母名義で作成され、請求人二女が請求人ら母の扶養控除の対象であり、また、請求人二女は、本件医院から生じる事業所得に係る所得税の確定申告書を提出していない。
  よって、本件医院の事業主は請求人ら母である。
ロ 相続人らは、平成25年12月5日に、請求人ら母の相続開始日現在における本件預金口座の預金残高などを請求人ら母の相続財産に加算した上で、本件各修正申告書を提出した。
  平成25年12月11日、本件預金口座から請求人ら父預金口座に本件金員が入金された。
  よって、本件金員は請求人ら父が請求人ら母から相続した財産である。
  そうすると、本件金員は請求人ら父に帰属するものであり、本件金員に相当する財産は請求人ら父の相続財産であると認められる。

 本件金員は、以下のとおり、本件二次相続に係る相続財産ではなく、請求人二女の固有の財産である。
イ 請求人二女は、本件医院に勤務していたが、平成20年頃から、請求人ら母が高齢のために診療行為ができない状態となり、請求人二女が本件医院を運営することとなった。
  ××××××××、保険医療機関としての本件医院の開設者の名義を請求人ら母から請求人二女に変更し、同医院の開設者は実質的にも形式的(法的)にも請求人二女になった。
ロ 請求人二女は、××××××××、銀行に診療報酬受入用の本件預金口座を「××××××××」名義で開設し、以後、請求人二女が本件医院で行った社会保険診療報酬は全て本件預金口座に入金されていた。
  そして、平成25年12月11日、本件預金口座から請求人ら父預金口座に入金した××××円が本件金員である。よって、本件金員は、請求人二女の固有の財産であり、請求人ら父が請求人ら母から相続した財産ではない。

(2)本件各更正請求には、通則法第23条第2項第2号に規定する事由があるか否か(争点2)。

審判所の判断

(1)争点1(本件金員は、本件二次相続に係る相続財産であるか否か。)について
イ 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件医院について
 A 請求人二女は、平成元年頃から本件医院において××医師として診療を行っていた。
 B 九州厚生局長は、請求人ら母に対し、××××××××をもって本件医院の保険医療機関の指定を抹消した旨の「保険医療機関の廃止について」と題する通知書を××××××××付で発行した。
 C 九州厚生局長は、請求人二女に対し、××××××××をもって本件医院を保険医療機関に指定する旨の「保険医療機関の指定について」と題する通知書を××××××××付で発行した。
(ロ)本件医院から生じる収益の申告等について
 A 請求人ら母及び請求人二女は、平成22年3月11日、本件開廃業届出書を原処分庁に提出したが、その翌日、同人らは、本件開廃業届出書に係る各取下げ書を原処分庁に提出した。
 B 請求人ら母は、平成23年3月11日、本件医院に係る事業から生じた収益について、平成22年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出した。なお、請求人ら母は、同申告書において、請求人ら母本人に特別障害者控除、請求人ら父に障害者控除及び配偶者控除並びに請求人二女に扶養控除を適用して申告した。
 C 相続人らは、平成24年4月4日、本件医院に係る事業から生じた収益について、請求人ら母の平成23年分の所得税の準確定申告書を原処分庁に提出した。なお、相続人らは、同申告書において、請求人ら母本人に特別障害者控除、請求人ら父に障害者控除及び配偶者控除並びに請求人二女に扶養控除を適用して申告した。
 D 請求人二女は、平成23年分までの本件医院に係る事業から生じた収益について、所得税の確定申告書を提出していない。
(ハ)請求人ら母の病状について(略)
(ニ)本件預金口座について
A ××××××××に××××に提出された「共通印鑑票」と題する書面によれば、本件預金口座の開設者は請求人二女である。
B 本件預金口座への入金については、××××××××に開設した際に入金した100円及び同年2月22日に入金した100,000円の現金入金以外は、全て本件医院に係る業務から生じた診療報酬が振込入金されており、本件医院に係る業務から生じたもの以外の入金はない。
C 本件預金口座からは、××××諸会費、××××等が引き落とされ、本件預金口座から各種諸会費を領収した旨の××××が発行した領収証の宛名は「××××××××」となっている。
D 本件預金口座の通帳及び銀行届出印は、いずれも請求人二女が管理していた。
(ホ)本件一次相続における本件金員に係る遺産分割協議について
  本件各修正申告書には、本件金員などの本件一次相続の相続財産に加算した財産に係る遺産分割協議書が添付されていなかったところ、相続人らは、原処分庁所属の調査担当職員の指導に従って、請求人ら父が本件金員を相続したとして本件各修正申告書を提出したものであり、本件金員に係る遺産分割協議は行っていないと認められる。
ロ 請求人二女の答述について
 請求人二女は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)私は、本件医院の副医院長として従事し、××医師の仕事を全部行っていたが、××医師としての所得税の申告はしていない。
(ロ)本件開廃業届出書は、請求人ら母が、廃業をするつもりで姉と税務署へ出向いて提出した。私は、請求人ら母から本件医院にある償却資産の生前贈与を受けると贈与税がかかると思い、翌日、私は、本件開廃業届出書を取り下げに行った。
ハ 検討
(イ)預貯金等の帰属の認定について
  相続財産である預貯金等の帰属については、一般的にはその名義人に帰属するのが通常であるが、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、親が子供の名前を使用して預金することも稀ではないことから、単に名義人が誰であるかという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理・運用の状況、贈与の事実の有無等を総合的に勘案して預貯金等の帰属を判断するのが相当である。
  そして、その帰属の判定に当たり特に重要となる、原資となった金員の出捐者の判断は、その預貯金等の設定当時における、名義人及び名義人における出捐者たり得る収入並びに資産の取得・保有状況等を総合的に勘案するのが合理的であると解される。
(ロ)本件金員の出捐者について
  請求人二女は、平成元年頃から本件医院において××医師として診療を行っていたが、××××××××以降は、請求人ら母に代わり請求人二女が保険医療機関である本件医院の開設者となったと認められ、それに合わせて診療報酬の受入口座及び医師会費等の支払口座として「××××××××」名義で本件預金口座を開設したと認められる。
  そして、本件預金口座に入金された金員は、特定の金額以外は全て本件医院に係る業務から生じた収入を原資とするものであり、本件預金口座の通帳及び銀行届出印の管理は、いずれも請求人二女が行っていたことに加え、請求人ら母の年齢や病状を併せ考えれば、本件預金口座に入金され、蓄積された預金残高のうち、上記のBの計100,100円以外は請求人二女が××医師として行った本件医院の業務から生じた収入を基に形成されたと認めるのが相当である。
  そうすると、本件預金口座は請求人二女に帰属すると認めるのが相当であり、平成25年12月11日に本件預金口座から引き出されて請求人ら父預金口座に入金された本件金員の出捐者も請求人二女と認められる。
(ハ)小括
  上記(ロ)のとおり、請求人二女に帰属する本件預金口座から引き出されて請求人ら父預金口座に入金された本件金員は、請求人二女が出捐した請求人二女に帰属する財産と認めることが相当であるから、本件金員は、請求人二女の固有の財産であると認められ、本件二次相続に係る相続財産とは認められない。
ニ 原処分庁の主張について(略)
(2)争点2(本件各更正請求には、通則法第23条第2項第2号に規定する事由があるか否か。)について
イ 法令解釈

 通則法第23条第2項第2号に規定する「更正」とは、申告の際にその者に帰属するものとされていた課税物件がその後に他の者に帰属するものとして、他の者の課税について更正がなされた場合には、これをそのまま放置すると、その者と他の者との両方に課税することとなるから、これを防止するため、その者の課税について、他の者の課税の更正内容と整合させるためにその者からの更正の請求を認めたものであると解される。
ロ 当てはめ
 請求人らは、本件各更正請求が、通則法第23条第2項第2号に規定する更正の請求に該当する理由として、本件金員が、本件二次相続に係る本件各減額更正処分において、請求人二女の固有財産であると認定され、当該認定により、本件一次相続の被相続人である請求人ら母の相続財産にも該当しないことになるのであるから、本件各減額更正処分が、通則法第23条第2項第2号にいう「更正」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、通則法第23条第2項第2号に規定する「更正」は、申告の際にその者に帰属するものとされていた課税物件が、その後に他の者に帰属するものとして、他の者の課税についての更正がなされた場合の「他の者の課税についての更正」をいうところ、本件においては、本件一次相続に係る「当該他の者の課税についての更正」はなされていない。
 したがって、本件各更正請求には、通則法第23条第2項第2号に規定する事由がないことから、請求人らの同号の規定の適用を理由とする本件各更正請求は認められない。
ハ 請求人らの主張について(略)
(3)原処分の適法性について(略)
(4)結論

 以上によれば、本件各再更正処分は、いずれもその全部を取り消し、本件各通知処分は、いずれも棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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