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解説記事2022年04月25日 特別解説 我が国の上場企業による不正(2022年4月25日号・№928) 〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜

特別解説
我が国の上場企業による不正
〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜

はじめに

 本稿では、2014年4月から2022年3月末日までの期間で、不適切な会計処理や不適切な行為について、第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等を含む)を公表した企業を題材として、不正の発生原因や類型、特徴点を分析するとともに、2021年7月から2022年3月までに発生した特徴的な不正事例の実例をいくつか取り上げて紹介することとしたい。

調査の対象とした企業

 今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2022年3月31日までの期間に、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)である(表1を参照。)。

 これまでは、年によって凹凸はあるものの、年間にほぼ30件弱のペースで不適切な会計処理に関する調査報告書が公表されてきた。なお、調査報告書が公表された事例のうち、得意先が要求するスペックを満たしていない製品を偽って納入していた等の会計処理とは直接関係しないような不適切な事例は、今回の調査の対象からは除いている。
 次に、報告書を公表した228社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。なお、2022年4月4日より、東京証券取引所における市場区分の見直しが行われ、これまでの(東証1部、東証2部、ジャスダック及びマザーズ)区分から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの区分に再編成が行われたが、本稿では、2014年4月1日から2022年3月31日までの期間に不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)を調査対象としているため、再編成前の市場区分を利用している。

 3,700社強の上場会社のうち、6割弱が東証1部上場となっている。当然のことながら、絶対数でみると東証1部に上場している企業(又はその子会社等)による不適切な会計処理が最も多いが、各市場の上場会社数の合計で除して比率を算出すると、東証1部が5.2%であるのに対して東証2部は6.7%、ジャスダック7.6%、マザーズが4.6%と、いわゆる新興市場に上場している企業のほうが、相対的に見て不適切な会計処理が起こりやすい傾向にあるという結果となった。

不適切な会計処理の分類と発覚の原因等

 不適切な会計処理を生じさせた当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員・従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為(横領、着服等)を分類している。

 新聞報道等でもよく取り上げられているが、親会社に比べてガバナンスが効きにくく、監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に中国をはじめとする海外の子会社)で不適切な会計処理が発生した事例が多かった。
 次に、不適切な会計処理を形態別に分類すると、表4のとおりとなった。

 会社の業績、特に売上高や利益を実力以上によく見せることを狙ったいわゆる粉飾決算が過半数を占めていたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブル等にのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費への充当等)による資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、国内外の連結子会社において、本社が十分に管理監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれている。
 さらに、不正の具体的な内容を分類すると、表5のとおりであった。

 一つの不適切な会計処理事案の中に、表5の項目が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事案をどれか一つの項目に分類している。
 最後に、不適切な会計処理が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。

 調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、企業が自ら異変に気付いて行った自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けた上での社内調査も相当数含まれているものと思われる。一般的には、不適切な会計処理を外部者が発見することは難しく、したがって不適切な会計処理を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不適切な会計処理が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。
 また、会計監査人が不適切な会計処理の兆候等を発見して会社側に未然に是正を求めたようなケースや、不適切な会計処理が行われはしたものの、第三者委員会を設置しての調査が必要となるほどの規模になるまでの拡大は防いだようなケースも少なからず存在すると思われる。内部統制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人等による外部からのけん制も、不適切な会計処理の抑止に一定の効果があるものと思われる。

2021年度下半期に調査報告書が公表された、特徴的な不適切な会計処理の事例

 本稿では、2021年7月から2022年3月に調査報告書が公表された不適切な事例21件のうち、特徴的な次の3件を取り上げることとしたい。

1.(株)エイチ・アイ・エス(HIS)
2.グレイステクノロジー(株)
3.(株)Edulab

1.(株)エイチ・アイ・エス調査報告書公表日:2021年12月24日
 エイチ・アイ・エス(以下「HIS社」という。)は東京証券取引所第一部に上場する大手旅行代理店である。
 HIS社の連結子会社である株式会社ジャパンホリデートラベル及び株式会社ミキ・ツーリストにおいて、GoToトラベル事業のルールに適合しない取引が存在したという疑いの事実を解明するために調査委員会が組織され、昨年12月に報告書が公表された。
 なお、ミキ・ツーリスト社が欧州その他の海外旅行のオペレーション事業を主たる業務としているのに対して、ジャパンホリデートラベル社は、中国マーケットをメインとして訪日観光やビジネス訪問等のインバウンド事業を主たる業務としている。
 調査結果の概要は以下のとおりであった。
<株式会社ミキ・ツーリストの調査結果概要>
・一部で実態のない契約を締結し、GoToトラベル事業の給付金4,080万円を外部ホテル運営会社と不当に折半しようとした取引が認められ、同社社長、役員と外部ホテル運営会社により組織的に計画されたと推測される事実等が明らかになった。
<株式会社ジャパンホリデートラベルの調査結果概要>
・外部ホテル運営会社が主体となって計画し、株式会社ジャパンホリデートラベルに提案された企画旅行を、同社が外部ホテル運営会社の指定する顧客に販売したところ、その企画旅行内の大部分に宿泊実態が伴っていなかったという事実が認められたが、同社がGoToトラベル事業のルールを悪用する意図や、全体のスキームを当該外部ホテル運営会社と共謀したような事実は発見されなかった。なお、同社がGoTo事務局に返還すべきGoTo給付金及び地域共通クーポンの総額は、最大で約6億4,249万円となる。
〈HIS及びその他のグループ会社に関して〉
 調査報告では、HIS社及びその他のグループ会社(上記2社を除く)が取扱った旅行取引に関して、GoToトラベル事業のルールに適合しない不当な取引は確認されなかった。

2.グレイステクノロジー(株)調査報告書公表日:2022年1月27日
 グレイステクノロジー(以下「GT社」という。)は、東京証券取引所第一部に上場していた企業で、各種マニュアル等の制作を手掛けている企業であるが、延長承認を受けた法定提出期限の経過後、休業日を除き8日目の日(2022年1月27日)までに四半期報告書(2022年3月期第二四半期に係るもの)の内閣総理大臣等への提出を行わなかったため、2022年2月28日付で上場廃止となった。
 特別調査委員会の調査の結果、GT社において、売上の前倒し及び架空売上による会計不正が多数発見された。GT社では、2016年3月期から売上の前倒しが開始されており、①最終納品時に売上計上すべきであるにもかかわらず売上を分割計上したり、②納品前に売上を一括計上したりしていた。当初は売上計上時に顧客への請求が伴っていたが、次第に顧客への請求が伴わない売上の前倒し計上をするようになった。また、売上の前倒しの後で最終納品に至らなかった結果、架空売上となるケースもあった。そしてそのような実情は、GT社の経営陣も認識・認容していた。
 その後、売上の前倒しによる売上目標の達成が困難になり、GT社の経営陣も関与するかたちで大規模な架空売上が開始されるようになった。架空売上の売掛金は、その後に正式な受注にこぎつけることによって事後に顧客から受領する場合も一部にはあったものの、それ以外の場合は、GT社の役職員が自己資金(主として新株予約権の行使で得たGT社株式の売却益を原資とするもの)を顧客名義でGT社に振込入金することで正常な入金を偽装していた。そして、一部の架空売上に際しては、顧客の署名や押印が必要な書類の偽造がなされていた。また、リース会社による立替払契約も利用され、顧客が作成すべき立替払委託契約書等を偽造してリース会社からGT社に対して売掛金を入金させ、GT社の役職員が自己資金を顧客名義でリース会社に振込返済することで正常な返済を偽装したものもあった。さらに、本件の調査においては、架空売上の計上のほか、架空原価の計上による利益操作が行われた事実も確認された。
 GT社の不正事案では、売上高を確保するために、売上の前倒し計上、架空売上の計上(未受注架空型、完全架空型)、架空原価の計上による利益操作、様々なスキームを使っての代金の回収(偽装)等、5年以上にわたってあらゆる形態の不正が行われていたといってよい。
 この根源には、GT社の創業者で、GT社の役職員に対して絶大な影響力を保持していたA氏(2021年4月に他界)による強烈なプレッシャー(役職員に対するパワハラ)があった。調査報告書には、2018年以降の経営会議・取締役会におけるA氏の発言を抽出した部分(録音内容を書き起こしたもの)があるが、該当箇所を読むと、GT社の経営会議・取締役会では、常軌を逸脱した罵倒や叱責が常態化していたことが分かる。
 例えば、経営会議におけるA氏の発言として、以下のような発言が記載されている。

○「ナンボでも提案できんだろうが。お前の客じゃねえのか。興味ねえか。落ちてるものは何となく拾ってりゃそれで済むのか。数字が物語ってんだろうが(怒声)」
○「寝ても覚めても数字を考えろ。ほかのことなんか一切考えるな。ここにいる人間達は休みもへったくれもねえや。冗談抜きで。」
○「簡単だろうよ。とりゃ済むんだぞ。売りゃ全部OKなんだ。ほかのことなんかぐちゃぐちゃ考えるな。売ってナンボ。売れば全てOK。単純だろうよ。くだらないことぐちゃぐちゃ考えるなよ。」
○受注して数字がクリアすれば活路は開けるわな。売りゃ全て解決するんだ。

 これらの発言の抜粋の後、調査報告書には次のように記載されている。

 なお、上記のようなやりとりが行われていた経営会議・取締役会には、経営陣はもとより社外取締役や監査役も同席していたが、誰もこのような罵倒・叱責を諫めることはしなかった。これら叱責の場に居合わせていた社外取締役や監査役は、「A氏が怒り出すと、とても止めることができなかった」旨述べている。

 このような状況では、内部統制もガバナンスもすべて、「絵に描いた餅」にならざるを得ない。企業風土や文化、トップの姿勢、組織としての統制環境の大切さを如実に物語っている事例と言えよう。

3.(株)Edulab調査報告書公表日:2022年2月28日
 Edulab(エデュラボ)は、東京証券取引所マザーズに上場する(かつては東証1部に上場していた)、教育関連サービスを提供する企業である(以下「Edulab」という。)。
 この案件は、不正の調査を進めていく過程で、別の不正の疑義が次々と指摘され、調査の対象がその都度拡大されて調査期間も長引いた。最終的に調査は第一次から第四次まで行われ、その結果、Edulabが設置した特別調査委員会が公表した調査報告書は300ページを超える大部となった。

 4回の調査と不正の概要は上記のとおりである。
 不適切な会計処理の案件の場合、特定の案件に関する単発の不正である場合も少なくない(類似の事例でも同様の不正が見つかることはむしろ少ない)が、Edulabの案件は、まさに企業グループ全体に不正が根を張っていたことが分かる。
 Edulabが東証マザーズに最初に上場したのは2018年12月18日であり、マザーズ上場から2年も経たない2020年10月19日には1部に区分変更されている。一方で、調査報告書の調査対象期間は、下記のとおりである(いずれも、必要に応じてそれより前に遡る)。

 したがってEdulabでは、東証マザーズへの最初の上場前から不正会計が行われていたことが分かる。これを受けて東京証券取引所はEdulabに対し、1部からマザーズへの降格処分を出した(2022年1月11日付)。東証が上場時の虚偽記載を理由に降格処分を出すのは、不動産コンサルティング会社のハイアス・アンド・カンパニーについて2例目となった。市場変更の申請時に提出した書類に虚偽があった場合に再審査し、基準を満たさなければ元の市場に戻すという東証の規則に沿った措置であった。東証は会計不祥事に対して更生を重視しており、上場維持によって投資家の売買機会は確保された。
 また、Edulabの会計監査人であったあずさ監査法人は、2022年9月期の第一四半期のレビュー報告書の提出日以後、別途あずさ監査法人が書面にて指定する日をもって退任することが公表されている(2022年2月14日付、臨時報告書の訂正報告書)。
 最終的に「首の皮一枚で上場会社として残った」Edulabが、新たな経営陣と監査法人の下で、失った信頼をどのようにして回復してゆくかを見守りたい。

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