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解説記事2022年05月16日 特別解説 2021年下半期(2021年7月から2022年3月まで)における会計監査人の交代(2022年5月16日号・№930)

特別解説
2021年下半期(2021年7月から2022年3月まで)における会計監査人の交代

はじめに

 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされており、当該定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、会計監査人は定時株主総会において再任されたものとみなされる(会社法第328条)。
 これまで会計監査人が交代した場合、我が国では、臨時報告書において適時開示が行われてきたが、会計監査人交代の理由が、「任期満了」といった形式的な記載にとどまり、「本音ベースの理由」が外部からは分からなかった。そこで、金融庁は2019年6月に企業内容等開示ガイドライン(以下、ガイドライン)を改正し、臨時報告書に会計監査人が異動した実質的な理由が記載されるよう、具体的な交代理由を例示している(企業内容等開示ガイドラインB基本ガイドライン(監査公認会計士等の異動理由及び経緯)24の5−23−(21))。そして、実質的な異動の理由として、以下のようなものが挙げられている。
① 連結グループでの監査公認会計士等の統一
② 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動
③ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満
④ 監査報酬
⑤ 継続監査期間
⑥ 監査期間中に直面した困難な状況
⑦ 会計・監査上の見解相違
⑧ 会計不祥事の発生
⑨ 企業環境の変化等による監査リスクの高まり
⑩ その他異動理由として重要と考えられるもの
 開示ガイドラインは、2019年6月21日付で公布・施行された。
 本稿では、2022年1月1日以後、同年3月末日までに提出された臨時報告書(会計監査人の交代に関するもの)について調査するとともに、同期間に会計監査人の交代に踏み切った各社が臨時報告書において開示した会計監査人交代に関する理由や経緯等に関する特徴的な事例を紹介することとしたい。

今回の調査の対象とした企業

 今回の調査の対象とした企業は、2022年1月1日から同年3月末日までの間にEDINET上で会計監査人交代に関する臨時報告書を開示した企業48社である。
 なお、会計監査人交代の開示に関する根拠規定は、金融商品取引法第24条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第9号の4である。
 また、2022年4月4日より、東京証券取引所における市場区分の見直しが行われ、これまでの(東証1部、東証2部、ジャスダック及びマザーズ)区分から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの区分に再編成が行われたが、本稿では、2022年1月1日から2022年3月31日までの期間に会計監査人の交代に関する臨時報告書を提出した企業を調査対象としているため、再編成前の市場区分を利用している。

全般的な分析

 今回の48社を対象とした調査で、特徴的な事項を列挙すると次のとおりである。
① 4大監査法人を構成する新日本、トーマツ及びあずさによる上場被監査会社の契約解除が加速している
 今回の調査の対象とした48社の事例において、もっとも目立った特徴と言えるのが、我が国における4大監査法人を形成しているEY新日本有限責任監査法人(以下「新日本」という。)有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という。)及びあずさ有限責任監査法人(以下「あずさ」という。)の3法人が多くの上場被監査会社との監査契約を解除しているという点である。これは、2021年7月から12月までの動向と全く同様である。
 新日本、トーマツ及びあずさが契約を解除した上場被監査会社の件数を2021年7月から12月、及び2022年1月から3月の別に示すと、下記表1のとおりとなった。

 2022年1月から3月までの間に、新日本、トーマツ及びあずさが監査契約を解除した上場被監査会社数の合計は37社と、それだけで今回の調査対象会社数(48社)の8割弱を占めており、2021年7月から12月までの半年間と比べても、今回の調査対象期間(2022年1月から3月末日までの3か月間)のほうが監査契約の解除数が多いことが分かる。各社の監査契約の解除に至るまでには様々な要因や経緯があろうが、全体として、新日本、トーマツ及びあずさの3大監査法人が、監査契約締結先上場企業の選別を引き続き進めている(加速化させている)ことは間違いないものと思われる。これらの37社の企業の監査は、GMOグループの各社(8社がトーマツから新日本に交代)及び船井総研ホールディングス(トーマツからあらたに交代)を除き、準大手及び中小規模の監査法人が引き受けていた。
 監査を引き受けた準大手監査法人では、準大手トップの監査法人である太陽有限責任監査法人が8社の会計監査人に新たに就任したのが目立つ。そのほかの準大手監査法人は、東陽が1社、京都が1社であった。それ以外の18社の会計監査人には、すべて中小監査法人が就任していた。
② 監査報酬の増額や事業規模に見合った監査法人の選定を理由とする会計監査人の交代事例が増加し、監査継続年数が短くなってきている
 ①の事象と表裏一体の関係にある可能性もあるが、特に2021年度の下半期に入ってからは、監査継続年数の長期化を理由とする監査人交代が減り、監査報酬の増額や事業規模に見合った監査法人の選定を理由とする交代事例が増えている。そして、前任監査人の交代までの監査継続年数を見ると、10年未満という会社が過半数を占めるようになってきている(表2参照)。

 2021年10月以降に公表された会計監査人の交代事例では、前任監査人の監査継続年数が10年に満たないものが全体の6割前後を占めていた。会計監査人交代に関する臨時報告書の開示充実が図られた当初(2019年頃)は、40年、50年といった監査継続年数の長期化を理由とした会計監査人の交代(主に大企業が中心)が目立ったが、最近は、ジャスダックやマザーズといった新興市場に上場している企業に限らず、東証1部、2部上場の企業であっても、10年未満で会計監査人が交代する事例が増えてきている。監査法人の側も、監査を受ける企業の側も、「見切り」のタイミングが早まってきているのかもしれない。
③ 会計上の不祥事に端を発する会計監査人の交代は引き続き発生している
 会計上の不祥事(不正等)に端を発する会計監査人の交代も、引き続き発生している。
 本稿では、今回の調査対象期間中に発生した次の3件の会計監査人交代の事例(臨時報告書における「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」の開示内容)を紹介することとしたい。

(1)(株)ジー・スリーホールディングス 東証2部上場 臨時報告書提出日:2022年2月21日 赤坂有限責任監査法人から監査法人アリアに交代
 ジー・スリーホールディングス(以下「ジー・スリー社」という。)は、太陽光発電事業を中心とした環境関連の様々な事業、特に再生可能エネルギー事業を展開する企業である。
 ジー・スリー社は、過去に同社が提出した有価証券報告書において、2017年8月期に同社が販売した未稼働太陽光発電所の権利の売上について、その売上金額280百万円の計上の時期は、本来であれば2019年8月期に計上すべきものではないかとの指摘を外部から受け、売上計上時期の適正性について社内で検討した結果、専門的かつ客観的な調査が必要であるとの判断に至ったため、2021年11月に特別調査委員会を設置することを決定し、2022年2月に調査報告書を受領した。
 そして、特別調査委員会の調査結果を受けて、2022年2月18日に、第11期(2021年8月期)有価証券報告書の提出及び決算短信の訂正と過年度の有価証券報告書及び四半期報告書の訂正報告書の提出並びに決算短信の訂正を行った。
 そして、過年度の有価証券報告書や決算短信等の訂正と時を同じくして、会計監査人の交代が公表された。
 「異動の決定又は異動に至った理由又は経緯」において会社が開示した内容は次のとおりである。

 当社は、2022年2月2日付け「特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ」にて公表のとおり、過年度の決算を訂正する必要が生じました。また、特別調査委員会による調査で確認された事実関係を踏まえ、特別調査委員会から、再発防止策として、経営改善へ向けた提言が行われております。そこで、当社は、特別調査委員会の調査結果を真摯に受け止め、経営改善へ向けた提言に沿って具体的な再発防止策を策定中であります。このような状況下において、当社は、本日、赤坂有限責任監査法人より、監査法人をめぐる環境が厳しい中、監査上必要なリスク評価及びリスク対応を適切に実施するための監査工数並びに監査コストが増大している状況を踏まえ、適切な監査チームの編成が困難との理由から、任期満了をもって終了する旨の意向を受けました。
 監査法人アリアを公認会計士等とした理由は、当社の2017年8月期、2018年8月期及び2019年8月期の過年度訂正監査を通じて当社の上記の状況及び事業内容等を把握しており、品質管理体制、独立性、専門性、監査業務の実施体制並びに監査報酬の水準等を総合的に勘案した結果、適任と判断したためであります。

(2)アジャイルメディア・ネットワーク(株)東証マザーズ上場 臨時報告書提出日:2022年3月4日 かなで監査法人から監査法人アリアに交代
 アジャイルメディア・ネットワーク(株)(以下「アジャイル社」という。)はインターネット広告企業であり、日本初のブログネットワーク企業として設立された。SNSでの口コミを利用した企業の販売促進事業を展開している。
 アジャイル社は2007年に設立され、2018年3月に東証マザーズに上場したが、上場直前の2017年12月から2021年2月までは、有限責任監査法人トーマツが会計監査人であった。2021年2月にトーマツより、同社グループ会社の増加などに伴う監査工数の増加を理由に監査報酬の増額要請を受け、かなで監査法人を会計監査人として選任した。したがって、かなで監査法人は、わずか1年で同社の会計監査人を辞任することとなった。
 会計上の不祥事の大まかな経緯と内容であるが、アジャイル社は、2021年12月期から同社の会計監査人に新たに就任したかなで監査法人による2021年12月期第1四半期レビュー手続の中で、不適切な会計処理があることを指摘されたことを契機として、当該指摘の内容を確認したところ、同社の取締役による資金流用の疑義を認識するに至った。そのため同社は、外部専門家による第三者委員会を立ち上げて調査を進めていくことを決定し、2021年12月期第1四半期決算の発表を延期する旨を公表した。同社は、不適切な会計処理を、「2019年12月期第4四半期から2021年12月期第1四半期に至るまでの期間において、ソフトウェア仮勘定を利用して現金で支払った金額の中に含まれる資金流用の疑義」として特定した上で、資金流用の疑義がある金額は約1.2億円程度であることを公表した。
 アジャイル社が臨時報告書において行った開示は次のとおりである。

 当社は2022年2月18日付「第15期定時株主総会の継続会の開催方針ならびに資本金の額の減少、定款の変更、公認会計士等の異動に関するお知らせ」(以下、「2022年2月18日付開示」)にて開示のとおり、当社は、当社の会計監査人であるかなで監査法人から、2021年に発覚した元役員による不適切会計や訴訟の提訴など当社における状況を総合的に勘案し、契約を更新しない旨の申し出を受けました。これに伴い、2022年3月30日開催予定の定時株主総会において、新たに監査法人アリアを会計監査人として選任することを決議しておりました。一方で、当社は2022年2月1日付「第三者委員会の設置及び2021年12月期決算発表の延期に関するお知らせ」(以下、「2022年2月1日付開示」)で開示のとおり、2018年12月期から2019年12月期に至るまでの期間において、当社台湾子会社を経由して当社に入金され、当社において売上として計上されていたという疑義や、その他、当社における売上・費用の計上の時期について、不適切な会計処理がなされたとの疑義が生じたため、社外の有識者により構成された第三者委員会を設置して、当該疑義に対する調査を進めております。このような状況のなか、当社はかなで監査法人より、2022年2月1日付開示の内容に基づく疑義及び当社の状況を総合的に鑑み、過年度における決算数値の信頼性が担保されておらず、2021年12月期の監査を適切に進めることができないとの理由から、監査契約の解除について2022年2月22日に協議の申し出を受けました。当社監査役会は同法人の立場について一定の理解を示したうえで、これに合意し本日解除にいたったものです。なお、当該第三者委員会の調査において現時点では、2022年2月1日付開示の内容以外の新たな疑義について、第三者委員会からは報告を受けておりません。また、当社監査役会は、上記の合意解除についての協議と並行して監査法人アリアを一時会計監査人として選任することについての検討を進めておりました。検討の結果、当社の事業規模に適した当社のコーポレートガバナンス体制の強化が期待できることに加え、会計監査人に必要とされる専門性、独立性、品質管理体制及び監査報酬の水準を総合的に勘案した結果、監査法人アリアが当社の一時会計監査人として適任であると判断いたしました。

(3)グレイステクノロジー(株)2022年2月28日付で上場廃止 臨時報告書提出日:2022年3月14日 EY新日本有限責任監査法人から南青山監査法人に交代
 グレイステクノロジー(以下「GT社」という。)は、各種マニュアルの制作等を手掛ける企業であり、東証1部に上場していた。GT社は、延長承認を受けた法定提出期限の経過後、休業日を除き8日目の日(2022年1月27日)までに四半期報告書(2022年3月期第二四半期に係るもの)の内閣総理大臣等への提出を行わなかったため、2022年2月28日付で上場廃止となった。
 GT社を上場廃止に追い込んだのは、5年以上にわたって行われてきた売上の前倒し及び架空売上による会計不正であった。
 GT社が臨時報告書において行った開示は次のとおりである。

 当社は、2022年1月27日付「2022年3月期第2四半期報告書の提出未了及び当社株式の上場廃止の見込みに関するお知らせ」及び2022年2月28日付「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」にてお知らせいたしましたとおり、株式会社東京証券取引所の上場廃止基準により、四半期レビュー報告書を添付した2022年3月期第2四半期報告書(自2021年7月1日至2021年9月30日)を、延長承認を受けた法定提出期限である2022年1月17日の経過後、休業日を除き8日目の日である2022年1月27日までに提出することができず、2022年2月28日付で上場廃止となりました。その後、EY新日本有限責任監査法人と今後の監査対応等について協議しました結果、監査及び四半期レビュー契約を合意解除することといたしました。当社はこれに伴い、会計監査人が不在となる事態を回避し、適正な監査業務が継続的に実施される体制を維持するため、新たな会計監査人の選定を進めてまいりました結果、2022年3月1日開催の監査役会において、南青山監査法人を一時会計監査人に選任することを決議いたしました。また、EY新日本有限責任監査法人からは監査業務の引継ぎについての協力を得ることができる旨、確約をいただいております。

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