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解説記事2022年05月30日 ニュース特集 Q&Aで読むサステナビリティ情報開示の動向(2022年5月30日号・№932)

ニュース特集
日本でも有価証券報告書に開示へ
Q&Aで読むサステナビリティ情報開示の動向


 金融審議会に設置されたディスクロージャーワーキング・グループは5月23日、報告書案を示し、基本的に了承した(本誌931号10頁参照)。今後、金融審議会の総会において正式決定することになる。報告書案では、有価証券報告書にサステナビリティ情報に関する開示を行うことが盛り込まれており、非財務情報に関しては早ければ2023年3月期から適用される方向だ。国際的にはIFRS財団がISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を昨年11月に設置。今年3月31日にTCFD提言をベースとした2つのサステナビリティ開示基準案を公表している。一方、日本では、そのカウンターパートとしてFASF(財務会計基準機構)がSSBJ(サステナビリティ基準委員会)を今年7月に設置。サステナビリティ情報に関する開示基準の開発に入る。上場企業等は開示に向けた早急な対応に迫られることになる。本特集では、サステナビリティ情報開示に関する動向について、その概要をQ&A形式で解説する。

ISSBが統一的なサステナビリティ開示基準を

Q
 多くの企業が活用しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言が有名ですが、統一されたサステナビリティ開示基準というものはあるのでしょうか。
A

 諸外国においては、気候変動等をはじめ、サステナビリティ情報(非財務情報)に関する開示の充実に向けた取組みが進められている。日本でも昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードではプライム市場上場会社に対し「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」を促している(補充原則3−1③)。
 しかし、統一されたサステナビリティ開示基準というものはなく、開発する設定主体が乱立している状況であった。こうした状況を踏まえ、IFRS財団は、気候変動をはじめとするサステナビリティに関する報告基準を統一する方向でISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を昨年11月に設置。今年3月31日にTCFD提言をベースとした2つのサステナビリティ開示基準案を公表している。

日本ではSSBJが7月1日に設立へ

Q
 日本におけるサステナビリティ開示基準の開発はどのようになるのでしょうか。
A

 日本においては、IFRS財団の基準設定の動きに対して、意見発信を行うための組織が必要との関係者の意見を踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)の運営母体である財務会計基準機構(FASF)が昨年12月17日に「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」の設立を決議。国内のサステナビリティ開示基準の開発及びIFRS財団が設立したISSBへの意見発信を行うとしている。
 現在はSSBJ設立準備委員会が設置されており、ISSBが公表したサステナビリティ開示基準案に対するコメントなどについて検討を行っている。なお、SSBJの設立は今年の7月1日とされており、委員長には企業会計基準委員会の川西安喜委員長の就任が発表されている。

全般的な開示と気候関連の2つの基準案が公表

Q
 ISSBからサステナビリティ情報開示に関する2つの公開草案が公表されたとのことですが、どのようなものですか。
A

 ISSBは2022年3月31日、IFRSサステナビリティ開示基準第1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」(以下「S1基準案」)とIFRSサステナビリティ開示基準第2号「気候関連開示」(以下「S2基準案」)の2つの公開草案を公表している(図表2参照)。
 S1基準案は、気候変動に限らず、すべての重要なサステナビリティ関連のリスクと機会を開示するための全般的な開示要件を設定。各サステナビリティ項目は、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素から開示が要求されている。一方、S2基準案は、企業の気候関連リスクと機会に関する開示要件及び産業固有の定量的・定性的な指標の開示要件を設定している。気候関連以外のサステナビリティ項目については、基準が新たに開発されるまではS1基準案に基づき開示することが求められる。
 なお、2つの基準案については、7月29日までコメント期限が設けられており、2022年末までに基準を最終化する予定としている。今のところ適用日は未定となっている。

サステナビリティ開示、「戦略」と「指標と目標」は各企業が重要性で判断

Q
 ディスクロージャーワーキング・グループで検討されているサステナビリティ開示について教えてください。ISSBの公開草案では「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素を開示することとされていますが、同じ取扱いとなりますか。
A

 金融庁の金融審議会は昨年6月、当時の麻生金融担当大臣からの諮問を踏まえ、9月から企業情報の開示のあり方について、同審議会に設置されたディスクロージャーワーキング・グループ(以下「DWG」)で検討を開始した。サステナビリティ情報開示全般についても検討範囲となっていた。5月23日に明らかになったDWG報告書(案)では、有価証券報告書にサステナビリティ情報に関する「記載欄」を設けることとされている(本誌925号14頁、931号10頁参照)。記載欄には、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素に基づく開示を行うこととするが、企業の開示負担が大きいものがあるため、当初の開示項目として、「ガバナンス」と「リスク管理」はすべての企業が開示し、「戦略」と「指標と目標」は各企業が重要性を判断して開示することとしている。この点、ISSBの基準案とは大きく異なる。

GHG排出量の開示は各企業が判断

Q
 温室効果ガス(GHG)排出量については、ISSBの基準案ではScope1、2、3(※)の開示が求められていますが、日本では各企業が判断するという理解でよいですか。
※Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
 Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
 Scope3:Scope1、2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
A

 ISSBの基準案では、Scope1、2に加え、Scope3についても開示対象となっており、企業にとっては非常に大きな負担となっている。しかし、GHG排出量は「指標と目標」の枠で開示することが想定されているため、当面の間、日本では、各企業が重要性を判断して開示することになる。

任意開示書類の参照も可能

Q
 現在、統合報告書においてサステナビリティ情報を開示しています。相互参照することができますか。
A

 DWGの報告書(案)では、有価証券報告書の「記載欄」においては、投資家の投資判断に必要な核となるサステナビリティ情報を記載し、有価証券報告書の他の項目である【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、【事業等のリスク】等と相互参照するとともに、必要に応じて詳細情報を記載した任意開示書類を参照することができるとされている。

任意開示書類の虚偽記載のみで罰則等の対象とはならず

Q
 任意開示書類に虚偽記載があった場合には罰則などが課せられますか。
A

 金融商品取引法では、有価証券報告書の記載内容に虚偽記載があった場合には罰則や課徴金を課すことができるとされているが、DWGの報告書(案)では、任意開示書類に明らかに重要な虚偽記載があることを知りながら参照することで投資家の誤解を生じさせるなど、任意開示書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載になり得る場合を除けば、参照先の任意開示書類に虚偽記載があったとしても、単に任意開示書類の虚偽記載をもって金融商品取引法の罰則や課徴金が課されることにはならないとの見解が示されている。

開示後に状況が変化しても虚偽記載に該当せず

Q
 開示したサステナビリティ情報が大きく変わることになった場合には虚偽記載に該当することになりますか。
A

 サステナビリティ情報は中長期的な事項であり、将来情報も含むことになる。金融庁は、将来情報の記述に関して「有価証券報告書の提出日現在において、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていれば、提出後に事情が変化したことをもって虚偽記載の責任が問われるものではない」との見解を「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案に対するパブリックコメントへの回答で明らかにしている(平成31年1月31日公表)。しかし、DWGの会合では、「一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明」との文言が抽象的であるなど、考え方の整理やガイダンスが必要との意見が出されたことを踏まえ、更なる明確化を図るとしている。

SSBJの開示基準も企業会計基準等と同様の枠組みで法的担保へ

Q
 今後、日本では、SSBJがISSBの基準を踏まえつつ、サステナビリティ開示基準を開発するとのことですが、法的に担保された基準になるのでしょうか。
A

 現時点では法的に担保された枠組みはなく、今後の課題となる。例えば、企業会計基準委員会が開発した企業会計基準等は財務諸表等規則1条3項に従い、金融庁から告示指定を受けることにより、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当することとされている。今後、詳細なサステナビリティ開示基準については、SSBJがISSBの基準を踏まえつつ開発することになるが、企業会計基準等と同様の枠組みで法的に担保された基準になることが想定される。

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