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解説記事2022年05月30日 特別解説 我が国の主要な企業(4月決算から12月決算)の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)①(2022年5月30日号・№932)

特別解説
我が国の主要な企業(4月決算から12月決算)の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)①

はじめに

 新型コロナウイルス感染症対応に世界中の政府や企業が忙殺されて早くも3年。なかなか終息の兆しが見えない中、企業の2021年度の決算が出揃ってきた。
 欧州や米国の企業に続き、我が国の上場企業に対しても2021年3月期から監査報告書へのKAMの記載が要求されることになり、2022年3月期決算の企業からはKAMの記載が二巡目に入ることになる。
 本稿では、IFRSに基づいて連結財務諸表を作成する日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)、及び2022年3月31日現在で株式時価総額ランキングの上位300社に入った日本企業のうち、IFRSを任意適用していない日本企業(以下「我が国の会計基準を適用する日本企業」という。)で、2021年4月末日から2021年12月末日までに決算期末を迎えた企業を対象としてKAMの記載状況の調査を行った。
 調査対象としたほとんどの企業の会計監査人にとっては、はじめて公表されたKAMということになる。本稿では2回に分けて、各社の監査報告書に記載されたKAMの全体的な分析を行った後、個別の事例をいくつか紹介することとしたい。

調査対象とした企業

 今回調査対象とした企業は、2021年4月末日から2021年12月末日までに決算期末を迎えたIFRS任意適用日本企業70社と我が国の会計基準を適用する日本企業18社の合計88社である。なお、我が国の会計基準を適用する日本企業は株式時価総額ランキングの上位300社に入った企業のうちの100社を選定したが、そのうち4月末日から12月末日までに決算期を迎えた企業が18社であった。なお、KAMは連結財務諸表に対する監査報告書に記載されたもののみを取り上げており、個別財務諸表に対する監査報告書に記載されたKAMは今回の調査対象とはしていない。

KAMの定義と決定のプロセス、報告上の留意事項等

 KAMは、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」で次のように定義されている(第7項)。
 「監査上の主要な検討事項」とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される。
 監査人は、KAMの決定及び報告に当たって、以下の事項に留意しなければならないとされている(監査基準委員会報告書701第8項、第9項、第10項及び第12項)。
 監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定しなければならない。その際、以下の項目等を考慮しなければならない(第8項)。
(1)監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に基づき決定された特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域
(2)見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断
(3)当年度に発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
 監査人は、第8項に従い決定した事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(第9項)。
 監査人は、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」区分を設け、個々の監査上の主要な検討事項に適切な小見出しを付して記述しなければならない。また、「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければならない(第10項)。
(1)監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。
(2)監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において監査人が対応した事項であり、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。
 また、監査人は、監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において、以下を記載しなければならない(第12項)。
(1)関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照
(2)個々の監査上の主要な検討事項の内容
(3)財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由
(4)当該事項に対する監査上の対応
 ただし、連結財務諸表及び個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、当該内容の記載を省略することができるとされている。

IFRS任意適用日本企業及び我が国の会計基準を適用する日本企業の監査報告書に記載されたKAMの全体的な分析

 今回の調査の対象としたIFRS任意適用日本企業70社の監査報告書で記載されたKAMは合計で106個、1社当たりの平均では1.51個であった。また、我が国の会計基準を適用する日本企業18社の監査報告書に記載されたKAMは合計で24個、1社当たりの平均では1.33個であった。
 IFRS任意適用日本企業の監査報告書に記載されたKAMの個数別の分布を示すと、表1のとおりであった。

 また、我が国の会計基準を適用する日本企業は、監査報告書にKAMが1個記載された企業が12社、2個が5社、3個が1社であった。
 次に、調査対象としたIFRS任意適用日本企業及び我が国の会計基準を適用する日本企業の監査報告書に記載されたKAMの内容と記載された個数を示すと、表2及び表3のとおりであった。

 IFRS任意適用日本企業の場合、IFRS上非償却であるために減損処理に係る比重が大きいのれんや耐用年数を確定できない無形資産(営業権等)の評価がKAMとして取り上げられるケースが半数近くを占めている。一方、のれんの規則的な償却を求める我が国の会計基準を適用する日本企業の場合には、のれんの評価がKAMとして取り上げられることは相対的に少なく、収益認識が最も多い項目となった。
 以下では、IFRS任意適用日本企業の監査報告書に記載された項目の中で多数を占めたのれんの評価や有形固定資産・無形資産の減損、我が国の会計基準を適用する日本企業の監査報告書に記載された、収益認識に関するKAM等の事例を紹介することとしたい。

IFRS任意適用日本企業の監査報告書に記載されたKAMの具体的な事例

 IFRS任意適用日本企業については、本稿では以下の企業の監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとする。

1. アサヒグループホールディングス(株)
2. (株)すかいらーくホールディングス
3. カゴメ(株)

のれんの評価・減損①
 アサヒビールを中核とするアサヒグループホールディングスは、欧州及びオセアニアをはじめとする海外企業の買収や海外市場への進出を積極的に行っており、2021年12月末日現在で、1兆8,000億円強ののれんを計上している。会計監査人は、オセアニア事業及び欧州事業に関するのれんについてそれぞれ別個にKAMを識別し、監査上の対応を記載しているが、このうちオセアニア事業に関するのれんの評価についての記載は次のとおりであった。

アサヒグループホールディングス
会計監査人:有限責任あずさ監査法人
【オセアニア事業に関するのれんの評価】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 連結財務諸表注記「12.のれん及び無形資産」に記載のとおり、アサヒグループホールディングス株式会社の連結財政状態計算書において、オセアニア事業に配分されたのれん1,165,801百万円が計上されており、総資産の25.6%を占めている。
(中略)
 当連結会計年度におけるオセアニア事業の資金生成単位グループの減損テストでは、回収可能価額として処分コスト控除後の公正価値が用いられている。この処分コスト控除後の公正価値の測定に用いる将来キャッシュ・フローは、経営者により承認された同事業の事業計画及び事業計画が対象とする期間後は成長率を基礎として見積られる。当該見積りには、将来の販売数量の増加及び事業計画の対象期間後の成長率といった主要な仮定が用いられているが、これらは、オセアニアの事業環境や競業状況の変化等による影響を受けるため高い不確実性を伴い、また、経営者の判断が当該見積りに重要な影響を与える。また、公正価値の測定に用いる割引率の見積りにおいては、計算手法及びインプットデータの選択に当たり、評価に関する高度な専門知識を必要とする。
 以上から当監査法人は、オセアニア事業に関するのれんの評価が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。
 当監査法人は、オセアニア事業に関するのれんの評価の合理性を評価するため、同事業を統括する連結子会社の監査人に監査の実施を指示し、以下を含む監査手続の実施結果の報告を受け、十分かつ適切な監査証拠が入手されているか否かを評価した。
(1)見積りの不確実性の評価
 (略)
(2)内部統制の評価
 (略)
(3)処分コスト控除後の公正価値の見積りの妥当性の評価
 処分コスト控除後の公正価値の見積りにあたって採用された主要な仮定が適切かどうかを評価するため、主に以下の手続を実施した。
・販売数量の増加見込みについて、オセアニア事業の責任者に対して質問するとともに関連資料を閲覧し、事業計画との整合性を確認した。
・販売数量の増加見込みについて、外部機関が公表しているオセアニアの酒類及び飲料市場の予測データとの比較を行った。
・事業計画の対象期間後の成長率について、連結子会社の監査人が属するネットワークファームの評価の専門家を利用し、外部機関が公表している市場予測データとの比較を行った。
・割引率について、連結子会社の監査人が属するネットワークファームの評価の専門家を利用し、経営者が採用した割引率の算定方法の適切性を評価するとともに、専門家が独自に算出した割引率との比較による合理性の検討を行った。

のれんの評価・減損②
すかいらーくホールディングス

 すかいらーくホールディングスが計上しているのれんは、過年度の企業結合により生じたのれんであり、他社の取得によって生じたアサヒグループホールディングスののれんとは性質及び内容が異なる。
 すかいらーくの場合、買収目的会社であった株式会社BCJホールディングス5が、ファミリーレストラン事業を営むすかいらーくグループを買収し、完全子会社化した後、吸収合併、商号変更等を経て、現在の(株)すかいらーくホールディングスとなった。そのため、連結財政状態計算書に計上されているのれんは、株式会社BCJホールディングス5により買収された際に計上されたのれんであり、現在の会社の買収時の超過収益力を反映したものである。すかいらーくホールディングスと同様に、このような買収目的会社を使った企業結合の後にIFRSを任意適用して新規上場する企業は少なくない。のれんが他社の買収成果ではなく、いわば「自己創設のれん」の性質を持っている場合の減損テストや監査手続はどのようになるのであろうか。KAMの記載のうち、監査上の対応は次のとおりであった(KAMの内容及び決定理由は省略した)。

会計監査人:有限責任監査法人トーマツ
【のれんの回収可能性の評価】

監査上の対応
 当監査法人は、のれんの回収可能性の評価を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・のれんの回収可能性の評価に適用される会社の会計方針について、会計基準等の準拠性を検討した。
・使用価値の重要な基礎数値である事業計画の策定及び承認プロセス、並びにのれんの減損テストのプロセスに関連する内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。
・事業計画に含まれている経営者による新型コロナウイルス感染症の収束に関する見通しや、客数・客単価、主要コスト(原材料、人件費等)、成長率などの見積りについて、資金生成単位別の過年度実績や利用可能な外部データとの比較検討を実施した。さらに経営者及び計画作成の責任者と討議を実施して、見積りに関する仮定の合理性や実行する能力を検討した。
・見積将来キャッシュ・フローの含まれる投資計画について、資金生成単位別の過年度実績との趨勢比較の検討や、承認された事業計画と投資計画との整合性についての検討を実施した。さらに、計画作成の責任者に質問を実施して、投資計画に基づく資金生成単位ごとの見積将来キャッシュ・アウトフローの合理性を検討した。
・過年度に策定された事業計画と実績数値を比較分析し、経営者による見積りの精度や偏向の可能性を評価した。
・当監査法人の公正価値評価に関する内部専門家を利用して、使用価値の測定に用いる割引率の算定方法の適切性や用いられているインプットデータの正確性及び網羅性を評価した。

有形固定資産及び無形資産の減損
カゴメ

 会社はトマトケチャップの製造販売で名高いが、会計監査人は、国内農事業における固定資産の減損の検討に当たって、トマトの生育に関連する外部環境等にも配慮して監査手続を行っていた。

会計監査人:PwCあらた有限責任監査法人
【国内農事業における有形固定資産及び無形資産の減損検討】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 会社グループは国内において生鮮トマトの生産及び販売を含む農事業を行っている。当連結会計年度の連結財政状態計算書に計上されている連結有形固定資産及び無形資産残高63,544百万円には当該事業に属する有形固定資産及び無形資産残高2,553百万円が含まれており、連結総資産の1.2%の割合を占めている。
(中略)
 国内農事業の固定資産の使用価値は、当連結会計年度末における最新の事業計画の他、過去の実績等に基づく生鮮トマトの品種別生産・販売量や販売価格等の仮定を用いた将来キャッシュ・フローを、本事業における加重平均資本コストを基礎とした割引率10.3%(税前)で割り引いたものを使用している。また、会社は割引率の変動を考慮の上、複数の割引率で評価しており、評価に用いた上限値11.8%(税前)を使用した場合でも減損損失の計上は不要と判断している。
 その中で、特に生鮮トマトの販売量及び販売価格に関する見込みは、国内農事業が天候等の外部環境に影響を受けやすいため、業績に与える感応度が高い。また、割引率は予測や仮定に基づいて決定される。したがって、これらの仮定は見積りの不確実性が高く、経営者の主観的な判断を伴う重要な仮定である。また、固定資産の減損損失が計上される場合には連結財務諸表全体に与える金額的影響が重要となる可能性があることから、当監査法人は国内農事業における有形固定資産及び無形資産の減損検討を、監査上の主要な検討事項とした。
 当監査法人は、国内農事業における有形固定資産及び無形資産の減損を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・固定資産の減損の兆候の有無の判定及び減損テストに関連する内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した。
・会社が作成した最新の事業計画と実績の乖離要因を理解し、経営者に質問するとともに取締役会議事録等を閲覧し、回答との整合性を検討した。 ・経営者による見積りプロセスの有効性や経営者による偏向の有無を検討するため、前連結会計年度に作成した事業計画に用いられた当期の予算と実績を比較し、予算と実績の乖離要因が適切に翌期以降の最新の事業計画に反映されているかについて検討した。
・経営者の見積りである販売量について、各菜園との契約状況を理解し過去の月別生産・販売実績をもとに見積られているかを検討した。また、販売価格について、過去の月別市況単価実績を基に見積られているかを検討した。加えて、期末日以降の実際販売量及び販売価格と経営者の見積りを比較し、見積りの合理性を評価した。
・今後の事業環境及び市況推移等について、経営者及び事業担当者に質問した。過去の実績をもとに、中期経営計画における生鮮トマトの販売量及び販売価格について監査人独自の見積りを行い、経営者の見積りとの重要な差異の有無を検討し評価した。
・使用価値の算定に用いるモデルについて、評価の専門家を利用して会計基準に照らして適切であるかを評価した。また、割引率についても会社の仮定の合理性を評価するとともに、評価の専門家を利用して監査人独自の見積りを行い、経営者の見積りとの重要な差異の有無を検討し評価した。

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