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解説記事2022年06月06日 特別解説 我が国の主要な企業(4月決算から12月決算)の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)②(2022年6月6日号・№933)

特別解説
我が国の主要な企業(4月決算から12月決算)の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)②

はじめに

 本稿では、前回に引き続いて、IFRSに基づいて連結財務諸表を作成する日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)、及び2022年3月31日現在で株式時価総額ランキングの上位300社に入った日本企業のうち、IFRSを任意適用していない日本企業(以下「我が国の会計基準を適用する日本企業」という。)の監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとする。

(IFRS任意適用日本企業)
・(株)ハイブリッドテクノロジーズ
・日本工営(株)

収益認識及び引当金

 これは連結子会社における収益認識等がKAMとして取り上げられている事例であり、当該子会社の販売先に関連当事者が含まれていることから、当該取引の決定に恣意性が介入していないかどうかを検証する監査手続等が実施されている。

ハイブリッドテクノロジーズ
会計監査人:東海会計社
【連結子会社Hybrid Technologies Vietnam Co., Ltd.における収益認識及び受注損失引当金】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 「事業の内容」の事業系統図に記載のとおり、会社グループにおいて外部顧客にハイブリッド型サービスの提供を行うのは連結子会社であり、Hybrid Technologies Vietnam Co., Ltd.の2021年9月期の売上収益は1,642,890千円と、連結売上収益の多くを占めている状況である。
 Hybrid Technologies Vietnam Co., Ltd.の販売先には、関連当事者が含まれており、会社グループにおける重要な関連当事者取引については、「33.関連当事者」に注記されている。関連当事者取引については、取引条件の決定に恣意性が介入し、独立第三者間取引と比べて有利ないし不利な条件で取引が実行される可能性がある。
 また、会社グループが提供するサービスのうち、フローサービスは、受託開発型のサービスであり、開発の進捗に応じて顧客の資産が増加するとともに顧客が当該資産の支配を獲得するため、これに応じて当社グループの履行義務が充足されていくものと判断しており、完成までに要する総原価を合理的に測定できる場合には、原価比例法で収益を認識しており、合理的に測定できない場合は、発生した原価のうち回収されることが見込まれる費用の金額で収益を認識している。よって、収益額の測定には見積りが伴う。
 なお、顧客より受注済みの案件のうち、当該受注契約の履行に伴い、当連結会計年度以降に損失の発生が見込まれ、かつ、当該損失額を合理的に見積ることが可能なものについては、将来の損失に備えるため翌連結会計年度以降に発生が見込まれる損失額を計上している。よって、受注損失引当金の測定にも、見積りが伴う。
(以下略)
 当監査法人は、Hybrid Technologies Vietnam Co., Ltd.の売上収益の検討に当たり、主に以下の監査手続を実施した。
(1)内部統制の評価
・収益認識及び原価計算に係るプロセスについて、内部統制の整備及び運用状況の評価を実施した。
(2)関連当事者取引の検証
・主要な関連当事者取引先について、粗利益率分析及び質問を行い、取引額に恣意性が介入していないかを検討した。
・一定の基準により抽出した関連当事者取引について、契約書、完了報告書等と照合した。また、受託案件について、成果物を目視して実在性を確認した。
(3)フローサービスにおける進捗率及び受注損失引当金の評価
・期末時点で仕掛中となっている案件の受注額について、取引先への確認手続を実施した。
・期末時点で仕掛中となっている案件について、案件開始当初からの見積総原価の変動資料を入手し、原価項目別の総原価の見積りの変動に関して、適切な責任者に対する質問を実施することを通じて、不合理な変動の有無を把握するなど、原価項目別の総原価の見積りの変遷にかかる異常性分析を実施した。
・期末時点で仕掛中となっている案件のうち見積総原価が受注額を超過する案件について、赤字金額が適切に引当金計上されているかの計算突合を実施した。
・原価総額の事前の見積額とその確定額を比較することによって、見積総原価が合理的であることの検討を実施した。

その他(不正な財務報告への対応等)
日本工営

 会社では、総原価の見直しが適時に行われなかったことによって工事進行基準による売上高の早期計上等の不適切な会計処理が行われ、それに伴って過年度の連結財務諸表の訂正が生じた。そして、会計監査人は、「連結財務諸表の訂正に係る対応」をKAMとして開示することを決定した。

会計監査人:PwCあらた有限責任監査法人
【連結財務諸表の訂正に係る対応】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 会社は、2020年12月14日付で2020年6月期の有価証券報告書の訂正報告書及び内部統制報告書の訂正報告書を提出している。
 これは、会社のエネルギー事業統括本部パワー&デジタル事業本部において施工中の大型立軸水力発電案件(4案件)において、総原価の見直しが適時に行われなかったことにより進捗度が過大に見積られ、工事進行基準による売上高が390百万円早期に計上されていたこと、及び総原価の過小見積りにより工事損失引当金が396百万円過少に計上されていたこと(以下「訂正事案」という。)が有価証券報告書提出日後に判明したことによるものである。
 訂正事案等に関連し、会社は、大型立軸水力発電案件における受注から売上までの予算・原価管理体制が不十分であったこと、期末日の翌日から有価証券報告書の提出日に至るまでに発生した事象を即座に把握し事実関係の確認や対応方針を検討するプロセスが不足していたこと等の内部統制の不備を識別し、これらは開示すべき重要な不備に該当すると判断している。なお、訂正事案に係る会社の調査報告書において、訂正事案に関連する不正の兆候は識別されていない。
 当監査法人は、2020年12月14日付で訂正後の連結財務諸表に対する監査報告書を発行している。また当期の監査において、訂正事案への対応及び訂正事案に関連する内部統制の不備の影響に十分に留意して監査を実施していることから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。
 訂正事案に関連して識別された開示すべき重要な不備について、会社が当連結会計年度末までに行った不備の是正状況を理解し評価した。
 具体的には、以下の統制が新たに整備され、当連結会計年度末までに適切に運用されていることを確認した。
・業務プロセスに関して、大型立軸水力発電案件について工種(水車、発電機、工事)ごとに管理単位を細分化する統制
・決算財務報告プロセスに関して、大型立軸水力発電案件の見積総原価の見直しの要否を確認する統制、及び後発事象に関する情報を適時にかつ網羅的に収集する統制
 また、当監査法人は、連結財務諸表の訂正事案 への対応として、主として以下の手続を実施した。
・訂正事案に係る会社の調査報告書の閲覧
・経営者等への質問
・不正リスク要因の検討
・受注済の大型立軸水力発電案件全件の修正後実行予算の合理性の検証
・契約書仕様書・原価積算資料等の閲覧
・担当事業部への質問
・総原価の見積根拠資料との突合
・先行案件の工程別発生原価実績及び仕様等を用いた総原価の見積りの合理性分析
・発生原価の根拠資料との突合
・売上収益の再計算
・発生原価の月次推移レビュー

 不正な財務報告や事業の取得などの一時的な事象(反復的・継続的に生じる事象ではない)場合には各社固有の記載が中心となるが、のれんの評価や減損、有形固定資産や無形資産の減損といった反復的なテーマになると、ある程度監査上の対応や手続も決まっていることから、毎年同じような定型的な記載に陥る危険性があるといえる。KAMとして記載される情報が詳細で量が多ければそれでよい、といった単純な話ではないが、いかにしてKAMの内容及び決定理由や監査上の対応のボイラープレート化を防ぐか、2年目以降の対応が重要となろう。

我が国の会計基準を適用する日本企業の監査報告書に記載されたKAMの具体的な事例

 我が国の会計基準を適用する日本企業の監査報告書に記載されたKAMの具体的な事例としては、収益認識に関する次の企業の監査報告書に記載されたKAMを紹介することとしたい。

1.(株)サイバーエージェント
2.(株)大塚商会

収益認識①
 モバイルゲームに関する収益認識には、ゲーム内通貨による代金の決済や課金など、財の販売やサービスの提供、物品の受渡しや期間の経過等による伝統的な収益認識では想定されないような監査上のリスクが存在し、監査上の対応も独自のものが必要になる。サイバーエージェントの連結子会社の収益認識について記載されたKAMの内容と監査上の対応は次のとおりであった。

サイバーエージェント
会計監査人:有限責任監査法人トーマツ
【株式会社Cygamesのゲーム売上高】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 連結子会社である株式会社Cygames(以下「CYG」という。)は、プラットフォーム運営事業者が提供するプラットフォーム内でモバイルゲームをユーザーに提供するゲーム事業を行っている。
 また、株式会社サイバーエージェントの当連結会計年度の財務諸表の【注記事項】(セグメント情報等)に記載のとおり、ゲーム事業の売上高は262,365百万円となっている。このうち、CYGの売上高は222,121百万円であり、連結損益計算書における売上高の33%を占めている。
 ゲーム事業におけるCYGの売上高の大部分はゲーム売上高であり、当該売上高は、ユーザーにモバイルゲーム内で使用するゲーム内通貨を販売し、ユーザーが当該ゲーム内でキャラクター等を取得するためにゲーム内通貨を消費することにより発生する。
 当該売上高は、ゲームシステムが有するユーザーへのゲーム内通貨の販売実績データ及びユーザーのゲーム内通貨の消費実績データを基幹システムを通じて会計システムに連携することによって計上されており、売上高の基礎となるゲーム内通貨の消費実績データは、ゲームシステムが有する膨大なデータにより自動集計されるため、ゲームシステム及び基幹システムの内部統制を適切に整備・運用する必要がある。
 以上より、当監査法人は、ゲーム事業におけるCYGのゲーム売上高の計上プロセスをより慎重に検討する必要があることから、当該売上高の正確性が当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。
 監査上の主要な検討事項に対して、当監査法人は、主として以下の監査手続を実施した。
(内部統制の検討)
① 当監査法人のIT専門家と連携し、以下の手続を実施した。
 ・ゲームシステムに関するIT全般統制及びゲーム内通貨の販売・消費データに関するIT業務処理統制について、内部統制の整備及び運用状況を評価した。
 ・基幹システムに関するIT全般統制及びゲームシステムから基幹システムへのゲーム内通貨の販売・消費データの連携に関するIT業務処理統制について、内部統制の整備及び運用状況を評価した。
② プラットフォーム運営事業者が発行した証憑とユーザーへの販売額が整合しているかどうかを検証する会社の内部統制の整備及び運用状況を評価した。
③ 主要なゲーム・タイトルにつき、ユーザー別の期末のゲーム内通貨残高(前受金)を集計し、異常な前受金残高のユーザーの有無を検証する会社の内部統制の整備及び運用状況を評価した。
(実証手続)
① プラットフォーム運営事業者が発行した証憑とユーザーへの販売額が整合しているかを確かめるとともに、その入金の裏付けを検証した。
② 基幹システムから出力したゲーム内通貨の消費実績データを集計し、会計上の売上計上額との整合性を検証した。
③ 主要なゲーム・タイトルにつき、基幹システムからゲーム内通貨の販売・消費データを抽出し、ユーザー別の期末のゲーム内通貨残高(前受金)を計算し、異常な前受金残高のユーザーの有無を検証した。

収益認識②
 物品現物の受け渡しが他の企業や倉庫等の外部で行われ、会社では伝票上・帳簿上だけで受払処理が行われる直送取引は、架空売上や架空在庫の計上等による不適切な会計処理の温床と言われ、監査上の難易度も高い。大塚商会のSI事業における直送取引について会計監査人が識別したリスクと監査上の対応は次のとおりであった。

大塚商会
会計監査人:EY新日本有限責任監査法人
【システムインテグレーション(SI)事業における複数の企業を経由する直送取引の会計処理】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 セグメント情報の開示のとおり、株式会社大塚商会の連結売上高851,894百万円にはSI事業の売上高523,609百万円が含まれる。SI事業は、主に情報システムの構築・稼働までを事業領域としている。
 会社及び一部連結子会社のSI事業では、通常顧客の商品の仕様や納期、納品場所の決定に関与し、メーカー又はメーカー指定の販売代理店(以下、「メーカー等」という。)の中から仕入先を選定し、顧客に納品している。
 取引によっては最終顧客に商品が提供されるまでに、複数の企業を経由するものの、商品現物は仕入先から自社を経由せず直送されるものがある。このような取引の中には、例外的にメーカー等以外の取引先から仕入れて販売するものがある。その場合、会社及び一部連結子会社は個別に取引実態を把握し、取引自体の実在性を確かめたうえで商流における自社の役割を特定し、それに応じて収益を総額又は純額で計上している。
 商流が複雑で自社の役割の取引ごとの個別性が高くなると、会計処理の決定には経営者による判断が必要であり、取引実態の判断結果により計上される収益金額が大きく異なることとなる。以上から、当監査法人は、SI事業における複数の企業を経由する直送取引の会計処理が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」に該当すると判断した。
 当監査法人は、SI事業における複数の企業を経由する直送取引について取引実態に応じた妥当な会計処理か検討するため、主として以下の監査手続を実施した。
(1)内部統制の評価
  購買部門における以下の内部統制の整備・運用状況について評価した。
 ・購買システムに登録された仕入先にのみ発注するための統制
 ・通常の仕入先以外へ発注することの合理性を確かめるための統制
  経理部門における以下の内部統制の整備・運用状況について評価した。
 ・売上高が一定金額以上の直送取引について、取引実態を把握し、商流における自社の役割を特定して総額又は純額計上を判定するための統制
 ・純額計上と判定された取引について決算整理において正確に会計処理するための統制
(2)実証手続
 ・一定の条件に該当する直送取引について営業部門に質問し取引実態及び商流における自社の役割を把握し、商流の合理性、売上総利益率の異常性、在庫リスクや価格裁量権の有無等を検討した。また、質問により把握した情報が会社及び一部連結子会社と取引先との交渉の証跡等と整合しているか検討した。
 ・計上額の正確性を検討するため、売上高が一定金額以上の取引について、計上根拠となる契約書等の証憑と突合した。
 ・財務数値の異常性の有無を検討するため、総額又は純額判定の検討がなされた取引の全体金額や、その結果として純額計上された取引金額について増減分析を実施した。

 収益認識の方法はまさに各社各様であり、監査報告書に記載された「KAMの内容及び決定事由」や「監査上の対応」もバラエティと個別性に富んでいる。収益認識に関連するKAMの場合、監査上のリスクの所在を記載するにあたり各社が収益を稼得するプロセスを詳細に説明することを要するため、KAMも長文化する傾向が強い。

終わりに

 KAMの監査報告書への記載の強制適用が2年目に入る我が国の3月決算企業のKAMの調査分析や、英国や欧州の主要な企業の監査報告書に記載されたKAM、並びに主要な米国企業の監査報告書に記載されたCAM(Critical Audit Matters 監査上の重要な事項)の調査分析は今後実施する予定である。

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