解説記事2022年07月18日 SCOPE 宗教法人の管理人室は、非課税の「境内建物」に該当(2022年7月18日号・№939)

固定資産税賦課決定処分巡り、東京都再び敗訴
宗教法人の管理人室は、非課税の「境内建物」に該当


 宗教法人の本部事務所の管理人室が、固定資産税が非課税とされる「境内建物」に当たるかどうかが争われていた事案で、令和4年6月29日、一審に続き、控訴審でも東京都が敗訴した。
 東京高裁は、「本件管理人室は宗教法人の目的を達成するために必要なものであり、専らその本来の用に供されている」とした地裁の判断を支持し、原告の固定資産税賦課決定処分取消請求を認容した。

高裁、「本件管理人室は宗教法人の目的達成に必要」とした地裁判決を支持

 「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内建物及び境内地」については、固定資産税が非課税とされている(地方税法348②三)。
 本件は、それまで固定資産税等を課されたことがなかったN宗教法人が、の本件課税部分が非課税規定の適用対象である境内建物等に当たらず、課税対象になるとして固定資産税等の賦課決定処分を受けたことから、当該処分の取消しを求めた事案である。

 一審の東京地裁は、宗教法人が所有する建物が非課税となる「境内建物」に該当するか否かを判断するに当たっては、「①まず、宗教法人法3条に規定する境内建物に該当するかにつき、同条1号に例示的に列挙された建物(本堂等)に当たるか否かのほか、当該宗教法人の教義・信条や宗風・伝統等に照らし、当該宗教法人にとって、当該建物を用いることが、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成するという宗教法人の目的を達成するために必要なもので、当該建物につき宗教法人法に定める規律にかからせることが適当なものといえるか否かという観点から検討した上、②当該建物が宗教法人法3条の境内建物に該当するとした場合には、これが専らその本来の用に供されているか否かを検討すべきである。」とした。
 その上で、上記①本件の管理人の業務が宗教法人の目的を達成するために必要なものといえるかどうか検討し、管理人の業務は、「本件建物で行われるN教の宗教行事や組織活動のために、本件建物を常に開放するとともに清潔で利用できる状態に保つこと、具体的には、電話やメールの対応、利用者のためのコーディネートや調整、イベント等の参加者のために調理をし、飲食を提供すること、本件建物を清掃し、防犯のための見回り・点検をすること」であると認定。本件建物を諸活動が円滑に行われるように活用するためには、管理人を配置して上記の業務を行わせることが必要であるとの判断を下した。
 また、「管理人に業務を行わせるため、本件建物に起居させる必要があるか」については、管理人の業務は無報酬であり、管理人が生計を立てるための職業を持ちながら、毎日本件建物の見回り・点検、清掃等を行い、夜間に行われるイベント等の業務を行うためには、本件建物内に本件管理人室を設け、これに管理人を起居させることが必要と判断した。
地裁、通常の賃貸アパート等と異なる
 東京都は、管理人が会社への出勤などで不在にしている間は本件管理人室は使用されていないこと、本件管理契約における居住の条件ないし制限は一般の賃貸住宅と異なるものでないことからすれば、本件管理人室は管理人の私生活に供されているものにすぎないなどと主張した。
 これに対し東京地裁は、「本件管理人室が宗教法人の目的を達成するために必要なものと認められるのは、N教の宗教行事の実施等のために重要な役割を果たす本件建物を円滑に活用するために管理人の業務が必要であり、管理人の業務を滞りなく行うためには管理人を本件建物内の本件管理人室に起居させることが必要かつ合理的であるためであって、本件管理人室が管理人の不在時に施錠され、他者が出入りできないようになっているのは、不特定の信徒が出入りする本件建物内に起居する管理人の最低限のプライバシーを守るために必要かつ相当な措置であるというべきである。また、建物外部への固有の出入口を持たず、礼拝室等の施設に隣接するという構造を有し、家族以外の者を泊める場合に許可が必要とされるなどの制限も存在する本件管理人室は、通常の賃貸アパート等と異なる」として、東京都の主張を斥けていた。
東京都、控訴審で「専ら」の要件を欠くと主張
 控訴審で東京都は、「専ら」とは、特にその用に供する頻度や割合が高いものである必要があることを意味するなどと主張したが、これに対し東京高裁は、「宗教法人による境内建物を含む宗教に供する財産の利用は、当該宗教法人の自律に委ねるべきものであり、営利目的による利用、信徒以外の不特定多数の者に対する布教目的を伴わない開放など、当該宗教法人の目的に含まれない利用をした場合に『専ら』の要件を満たすか否かが問題となるのであって、そうでない限りは同要件を満たすものと解するのが相当である。境内建物の利用の頻度や割合を考慮し、これを利用しない時間があることを理由に『専ら』の要件を欠くと判断することは、利用の実態がほとんどないような顕著な場合でない限り、宗教法人の行う宗教活動を不当に選別するものであって相当性を欠くものといわざるを得ない。」として東京都の主張を斥け、控訴審においても宗教法人の固定資産税賦課決定処分取消請求を認容する判決を下している。

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