解説記事2022年08月08日 ニュース特集 買収プレミアム加算措置に係る法基通の取扱い(2022年8月8日号・№942)
ニュース特集
時価純資産等算定困難なら「零」で可、会計数値を基礎とすることも妨げず
買収プレミアム加算措置に係る法基通の取扱い
令和4年度税制改正では、グループ通算制度の投資簿価修正において「買収プレミアム」を離脱通算子法人株式の簿価純資産価額に加算することを認める措置が導入されたが、この措置の実効性を左右しかねない問題となっていたのが、離脱通算子法人が段階的な株式取得により通算グループに加入した場合や、株式の取得の時期が古い等の理由により買収先の子会社の時価純資産価額等の算定が困難な場合の取扱いだ。
こうした中、国税庁が6月24日付で発遣した改訂版法人税基本通達では、このような場合には、時価純資産価額を「零」としてよい(すなわち、測定しなくてよい)とする取扱いが盛り込まれ、企業にとっては大きなサプライズとなった。
また、将来的に離脱通算子法人の時価純資産価額等の情報を入手できたとしても、当該金額が税務上そのまま認められるのかという問題があるが、対象株式取得直前の月次決算や年度決算時の数値など、会計上の数値を基礎とすることも妨げられないこととされた。
本特集では、買収プレミアム加算措置に係る改正法人税基本通達の内容を解説するとともに、買収プレミアム加算措置のさらなる見直しを求める声についてもレポートする。
厳格な運用がされれば、令4改正は“空振り”に終わったに等しいとの声も
企業買収や事業買収は簿価純資産価額以上の金額、すなわちプレミアム付で行われるのが一般的だが、令和2年度税制改正で導入されたグループ通算制度の下では、この「買収プレミアム」に相当する金額が株式の譲渡原価に算入できず、その結果、当該株式の売却時に譲渡益の過大計上及び譲渡損の過少計上が生じる。この問題を解決するため、令和4年度税制改正により、グループ通算制度の投資簿価修正において、買収プレミアムを離脱通算子法人株式の簿価純資産価額に加算することを認める措置が講じられたところだ。この措置の適用を受けるためには、買収プレミアムに相当する資産調整勘定対応金額等について、離脱時の属する事業年度の確定申告書等にその計算に関する明細書を添付し、かつ、その「計算の基礎となる事項」を記載した書類を保存していることが必要となる(法令119の3⑥等 本誌926号参照)。計算の基礎となる事項とは、当該離脱通算子法人が当初、通算グループに加入した際における(段階的な加入の場合には、それぞれの株式の取得の際における)、当該離脱通算子法人の時価純資産価額などをいう。
ただ、離脱通算子法人が段階的な株式取得により通算グループに加入した場合、例えば、子会社にも持分法適用会社にもならない数%の株式の取得など、少額投資から始まって徐々に持株割合を高め、最終的に通算グループに加入した場合など、持分割合が低い段階では、離脱通算子法人の時価純資産価額等の情報を入手できない可能性があるという問題が大綱の段階から指摘されてきた。この問題をクリアするため、今後、通達・QAなどでどの程度柔軟な取扱いが認められるかが焦点となっていた。企業サイドからは、仮に厳格な運用がされることになれば、事実上、令和4年度改正は“空振り”に終わったに等しいとの声すら上がっていた。
「零=測定不要」という予想外の柔軟な取扱いに企業からは驚きの声
こうした中、企業が望むような柔軟な対応が認められる雰囲気は春先までなかったが、この度、国税庁から公表された改訂版法人税基本通達の内容は、企業にとっては嬉しいサプライズとなった。要約すると概ね以下のとおりとなっている。
〇資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い(法基通2−3−21の4)
買収プレミアムの加算措置を適用する場合には、投資簿価修正の対象となる他の通算法人の対象株式の取得ごとに資産調整勘定対応金額等を計算し、当該内国法人又は他の株式等保有法人のうち、いずれかの法人がその計算の基礎となる事項を記載した書類を保存していることが必要となるが、その取得後における当該対象株式の保有割合が低い又は対象株式の取得の時期が古いなどの理由により、当該取得の時における資産調整勘定対応金額等の計算が困難であると認められる場合において、当該取得の時において計算される資産調整勘定対応金額等を零とし、その後に追加取得した対象株式について各追加取得の時における資産調整勘定対応金額等を計算し、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存しているときは、課税上弊害がない限り、買収プレミアムの加算措置の適用を受けることができる。 |
つまり、株式の保有割合が低い場合には、買収先の子会社の時価純資産価額等の算定が困難であるため、その段階では資産調整勘定対応金額等は測定する必要はなく(「零とし」とは、測定する必要がないという意味)、その後に株式を追加取得して時価純資産価額が分かるようになった場合には、その数字を資産調整勘定対応金額等として使うことが認められる、ということだ。
また、「株式の取得の時期が古い」ことも、柔軟な取り扱いが認められる事由として挙げられた。連結納税時代の子会社の古い情報は廃棄していることもあり、結局のところ、新規加入した通算子法人にしか買収プレミアムが加算できないのではないかとの懸念もあったが、この懸念にも柔軟な対応が図られる格好となった。
ただし、「課税上弊害がない限り」との断り書きが示すように、課税当局は上記の取扱いを無制限に認めるというわけではない。どのような場合が「弊害がない」と言えるのかは現段階では明らかではなく、今後、実務運用を重ねていく中で、“相場観”が形成されていくことになろう。
サプライズ相次ぐ買収プレミアム加算措置を巡る改正
振り返ると、投資簿価修正時に買収プレミアムの加算を認める本措置を巡っては、昨年からサプライズが相次いできた。
そもそも令和4年度税制改正要望の段階では、経済産業省は本改正を「中期検討課題」と位置付けており(この点は、要望内容が「グループ通算子法人のグループ離脱時の取り扱い等について、制度の施行状況や組織再編税制との整合性等を踏まえ、中期的に必要な検討を行う。」との記載にとどまっていたことからも明らかと言える)、要望した同省さえも、令和4年度税制改正での実現はないと見ていた。しかし、秋が深まってから一転議論が動き出し、急遽として買収プレミアム加算措置が実現する方向となった。
今回も、時価純資産価額は段階取得であっても厳密に計算するとの運用になるとの見方が主流だったが、蓋を開ければ極めて柔軟な扱いが認められた。経済産業省が企業側の切実な声を丹念に税務当局に伝えた成果だろう。
取得直前の月次決算や年度決算時の数値の使用を容認
ただ、離脱通算子法人の時価純資産価額等の情報を入手できたとしても、当該金額が税務上そのまま認められるのかという問題がある。この問題も企業から注目を集めていたが、新設された改正法人税基本通達2−3−21の7で対応が図られている。その要旨は以下の内容となっている。
〇資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる資産及び負債(法基通2−3−21の7 新設)
資産調整勘定対応金額等は、原則として、投資簿価修正の対象となる他の通算法人の対象株式を取得した時に当該他の通算法人が有する資産及び負債の価額を基礎として計算するが、例えば、当該取得した時の直前の月次決算期間又は会計期間の終了の日に当該他の通算法人が有する資産及び負債の同日における価額を基礎として計算している場合には、同日に有する資産及び負債の内訳と当該対象株式の取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異があるなどの課税上弊害がない限り、その計算が認められる。 |
令和4年度税制改正で導入された買収プレミアムの加算措置を適用する場合には、原則、離脱通算子法人の株式取得時における当該通算子法人の時価純資産価額等を正確に計算する必要がある。これに対し、法基通2−3−21の7は時価純資産価額の算定の「時点」について柔軟な取り扱いを認めるものとなっている。すなわち、取得直前の月次決算や年度決算時の数値と取得時の数値に大きな乖離がない場合には、それら決算時の数値を用いることが認められる。
この通達があるからといって会計上の数値が無制限に認められるということにはならないが、少なくとも会計数値を基礎とすることが妨げられるものではないと考えてよさそうだ。
なお、今後は、孫会社を傘下に有する子法人の株式を取得して通算グループに加入させた場合に、その孫会社に対する買収プレミアム相当分を何らかの形で認識することや、増資の場合も買収プレミアム加算措置の対象にすることなどを求める声が上がる可能性もあろう。
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