カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2022年09月12日 SCOPE 外国通貨で別の外国通貨を取得する取引、為替差損益は雑所得(2022年9月12日号・№946)

取引時に権利確定、収益認識すべき
外国通貨で別の外国通貨を取得する取引、為替差損益は雑所得


 外国通貨で他の種類の外国通貨等を取得する取引より雑所得(為替差損益)が生じるかが争われた事案で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は令和4年8月31日、本件各取引からは新たな経済的価値の流入が生じており、権利確定主義の観点から、取引の時点で収入とすべきとの判断を下した。

東京地裁、FX取引先例は為替差損益を生ずる取引全般への一般論を導かず

 本件は、居住者である個人が、投資一任契約に基づきスイスの銀行に自己の資産の運用を一任していたところ、外国通貨によって他の種類の外国通貨又は有価証券を取得する取引により雑所得(為替差損益)が生じているとして、課税当局から更正処分等を受け、訴訟に発展した事案である。
 原告は、多通貨で資産を保有するという分散投資の目的で行われた本件各取引は外貨建取引には該当せず、所得が生ずることはないなどと主張した。これに対し東京地裁は、「本件各取引は、いずれも『外国通貨で支払が行われる取引』という外貨建取引の定義(所法57条の3①)に該当するところ、同法施行令167条の6第2項は、外貨建取引から除外される取引として、引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入を挙げるのみ」「本件各取引は、支払に要した外国通貨(A)の為替変動リスクの影響を受けない他の種類の外国通貨(B)や有価証券を取得することによって新たな経済的価値の流入が生ずる」などとして、原告の主張を斥けた。
投資一任契約に係る所得≠事業所得
 次に「本件各取引がされた年において、本件各取引に係る為替差損益を『収入すべき金額』として認識することができるか」について東京地裁は、権利確定主義を掲げ、「本件各取引によって、取引前までに保有していた外国通貨(A)の為替変動リスクに影響されることのない他の種類の外国通貨(B)又は有価証券を取得することができる権利が確定」したとして、本件各取引に係る為替差損益の収入の原因となる権利が確定するのは、本件各取引の時点であると判断した。
 原告はこの点について、FX取引に係る先例などを挙げのとおり主張したが、いずれの主張も斥けられた。

【表】各取引がされた年に、為替差損益を「収入すべき金額」として認識すべきか

原告の主張 (名古屋高裁平成29年判決、平成28年8月裁決等を引用し、)本件各取引は、有価証券のポートフォリオを形成するという本件投資一任契約の目的を達成するための準備行為にすぎず、本件各取引の前後で原告の資産に実質的な変化は生じないから、本件各年において、本件各取引に係る為替差損益を「収入すべき金額」として認識することはできない。
東京地裁の判断  名古屋高裁平成29年判決は、交換に供された金地金が同質・同重量であり、取引の前後で保有資産の内容に何らの変更もなかったことから、同交換取引は、混蔵寄託をするための単なる準備行為にすぎないとして、「資産の譲渡」(所得税法33条1項)に該当しない旨を判示したものである。また、平成28年8月裁決は、外貨建ての借入金の元本の全部又は一部の借換えの取引について、新旧の借入金の貸付限度額、金利の計算方法、担保等の条件が同じであり、かつ、同一支店、同一の通貨、同一の金額で行われた借入れであって、取引の前後における借入金の内容に実質的な変更が生じていないことから、借入金の借換え時に計算される為替差損益は、単に評価上のものであって「収入すべき金額」として認識すべきではない旨を判断したものである。これに対し、本件各取引は、外国通貨(A)の為替変動リスクの影響を受けない他の種類の外国通貨(B)や有価証券を取得することができるため、取引の前後で保有資産の内容に実質的な変更がある。
原告の主張 (FX取引先例(東京地裁平成22年判決及び平成21年裁決)並びに平成28年6月裁決を引用し、)本件外国銀行は、本件投資一任契約に基づく個々の取引ごとに評価替えを行わないし、本件各取引に係る為替差損益が生じていたとしても、原告としてはこれを認識することはなく、これについての何らの請求権も本件外国銀行に対して取得しないから、本件各年において、本件各取引に係る為替差損益を「収入すべき金額」として認識することはできない。
東京地裁の判断  ここでいう収入の原因となる権利とは、契約の終了等を待たずに即座に現金化することができる請求権に限定されるものではなく、当該収入により新たに流入した経済的価値を保有することができる権利が確定しさえすれば、ここでいう収入の原因となる権利は確定したものというべきである。そして、本件各取引に係る為替差損益について、収入の原因となる権利は、本件各取引の都度、確定していたといえる。
 東京地裁平成22年判決は、問題となったFX取引が、ロールオーバー方式の下で、スワップ金利相当額について、未決済の取引通貨の売買注文が反対売買により決済されるまでの間、暦日単位で計算して蓄積しておき、同決済がされた時点又は決済がされなかったときは毎月末の時点において、同蓄積分(以下「スワップ金利差額調整」)を取引口座の残高に加減算することにより、スワップ金利差額調整の支払を行うものであったことを踏まえ、決済時点又は決済されなかった場合には毎月末の時点において、スワップ金利差額調整に係る収入となる権利が確定する旨を判示したものである。
 また、平成21年判決は、問題となったFX取引が、未決済ポジション(売買注文がされてから反対売買による決済がされるまでの運用資産の状態をいう。)を営業日ごとの終値に基づいて評価替えした上で、当該評価替えによって生ずる未決済ポジションの売買評価損益を営業日ごとに清算するとともに、決済期限を自動的に延長する(清算型ロールオーバー)ものであったことを踏まえ、清算型ロールオーバーが行われる各営業日時点において、未決済ポジションの売買評価損益に係る収入となる権利が確定する旨を判断したものである。
 これらのFX取引先例は、それぞれの検討対象(スワップ金利差額調整や未決済ポジションの売買評価損益)について、それらが決済される時点で「収入すべき金額」を認識することができるとしたものにすぎず、このことから、FX取引以外の為替差損益を生ずる取引全般について、決済がされるより前の時点で「収入すべき金額」を認識することができないとの一般論を導くことはできない。

 また原告は、所得区分も事業所得に該当すると主張したが、東京地裁は、「本件各取引の内容について、原告自らが企画遂行していたという実態は存在せず、本件各取引の遂行に当たっての原告が担っていた役割や負担は、基本的に余剰資金の提供にとどまっていたということができるから、本件各取引は、原告によって、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるということはできない」として、事業所得には該当しないとの判断を下した。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索