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解説記事2022年10月03日 税務マエストロ 簡易課税制度選択(不適用)届出書の実務(2022年10月3日号・№948)

税務マエストロ
簡易課税制度選択(不適用)届出書の実務
#278
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 簡易課税制度の適用を受ける場合には、実額による課税仕入れの集計はせずに、みなし仕入率により仕入控除税額を見積計算する。したがって、どんなに多額の設備投資があったとしても、簡易課税制度の適用を受けている限りは絶対に消費税額の還付(実額による仕入税額控除)を受けることはできない。
 簡易課税の適用対象事業者が設備投資などについて消費税の還付を受けようとする場合には、事前に「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、仕入控除税額の計算方法を本則課税に変更しておかなければならない。
 また、簡易課税を選択した場合には、原則として2年〜3年間の継続適用が義務付けられていることにも注意が必要だ。
 今回は、「簡易課税制度選択(不適用)届出書」について、実務上の留意点を確認する。
 なお、簡易課税制度選択(不適用)届出書に関する災害特例承認申請については、紙面の都合上、次回の「課税期間特例選択・変更(不適用)届出書の実務」とともに掲載する。

1 簡易課税制度選択届出書

(1)届出書の効力発生時期
 「簡易課税制度選択届出書」は、適用を受けようとする課税期間が始まる前までに提出しなければならない(消法37①)。
 ただし、事前に提出することが不可能な場合もあるので、次のケースについては、それぞれの課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税によることができる(消令56①)。
① 新規に開業(設立)をした日の属する課税期間
② 相続があった場合の納税義務の免除の特例規定により、年の中途から新たに課税事業者となった個人事業者が、簡易課税を選択していた被相続人の事業を承継した場合の相続があった日の属する課税期間
③ 合併があった場合の納税義務の免除の特例規定により、事業年度の中途から新たに課税事業者となった合併法人が、簡易課税を選択していた被合併法人の事業を承継した場合の合併があった日の属する課税期間
④ 吸収分割があった場合の納税義務の免除の特例規定により、事業年度の中途から新たに課税事業者となった分割承継法人が、簡易課税を選択していた分割法人の事業を承継した場合の吸収分割があった日の属する課税期間
 上記②〜④のケースは、免税事業者が年あるいは事業年度の中途から課税事業者となる場合に限り、簡易課税制度によることができるという点に注意する必要がある(消基通13−1−3の2〜3の4)。
 つまり、もともと課税事業者であった個人事業者や法人が、相続、合併、吸収分割により事業承継をしたとしても、その事業承継をした年あるいは事業年度から簡易課税の適用を受けることはできないということである。

(2)納税義務判定と簡易課税制度の適用判定との関係
 吸収合併又は吸収分割があった場合における合併法人又は分割承継法人の簡易課税制度の適用の有無については、合併法人又は分割承継法人の基準期間における課税売上高のみにより判定することとされている(消基通13−1−2)。つまり、納税義務の判定とは異なり、被合併法人や分割法人の実績は考慮しないということである。したがって、通達に明記されてはいないものの、相続があった年と、その翌年及び翌々年における相続人の簡易課税制度の適用の有無についても、被相続人の実績は考慮せずに、相続人の基準期間における課税売上高のみにより判定することになるものと思われる。
 なお、新設分割等があった場合についてだけは、新設分割親(子)法人のそれぞれの課税売上高を合算したところで納税義務の判定と簡易課税の適用判定をすることになるので注意が必要だ(消法37①、消令55)。

(3)年末に相続があった場合(消法37⑧、消令57の2、消基通13−1−5の2)
 年末に相続があった場合において、簡易課税を選択していた被相続人の事業を承継した場合には、相続人は、その翌年2月末日までに承認申請をすることにより、相続のあった年から簡易課税により申告をすることができる。

2 簡易課税制度選択不適用届出書

 簡易課税を選択している事業者が、設備投資などの予定があるため、これについて消費税の還付を受けようとする場合には、計算方法を本則課税に変更する(簡易課税の適用をやめる)必要がある。
 本則課税に変更する場合には、「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければならない(消法37⑤)。「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出した場合には、その提出日の属する課税期間の翌課税期間からその効力は失効する(消法37⑦)。よって、「簡易課税制度選択不適用届出書」についても事前の提出が必要になるということである。

3 納税義務の免除と簡易課税制度選択届出書の関係

 簡易課税を適用している事業者が、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となったため、消費税の納税義務が免除されたとしよう。
 その後、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたため、再び課税事業者となった場合の仕入控除税額の計算は、「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出していない限り簡易課税によることになる。
 つまり、免税事業者となった時点での「簡易課税制度選択不適用届出書」の提出及び再び課税事業者となった時点での「簡易課税制度選択届出書」の提出は必要ないということである(消基通13−1−3)。

4 本則課税と簡易課税制度選択不適用届出書の関係

 「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合であっても、基準期間における課税売上高が5,000万円を超える場合には簡易課税により計算することはできない。「簡易課税制度選択不適用届出書」は、簡易課税を適用している事業者が、自らの意思でこれを取り止める場合に提出するものであり、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えたことにより、いわば強制的に本則課税になる場合についてまで提出するものではない。
 つまり、たとえ本則課税により計算する場合であっても、なんら届出書は提出する必要はなく、以後、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間についてだけ簡易課税を適用すればよいのである(消基通13−1−3)。

5 新規開業(設立)などの場合の適用時期

(1)課税事業者となる新設法人
 資本金が1,000万円以上の新設法人は、基準期間のない設立1期目と2期目であっても納税義務者となるが、設立事業年度から簡易課税を選択しようとする場合には、設立事業年度の決算日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、設立事業年度から簡易課税によることができる。
(2)2期目から簡易課税を選択する場合
 新規に開業した個人事業者や新設の法人などについては、「課税事業者選択届出書」を提出することにより、その提出した課税期間から課税事業者になることができる。また、資本金が1,000万円以上の新設法人は、無条件に設立1期目から課税事業者となる。
 これらの場合、2期目についても課税事業者として申告義務があるわけだが、1期目の申告は本則計算により消費税の還付を受け、2期目から簡易課税を選択することも可能である(消基通13−1−5)。
 ただし、本則課税で申告をする1期目の課税期間中に調整対象固定資産又は高額特定資産を取得した場合には、第三年度の課税期間まで本則課税が強制適用となるので2期目から簡易課税を選択することはできない。
 「簡易課税制度選択届出書」は、適用を受けようとする課税期間が始まる前(最初の課税期間の末日)までに提出しなければならない。
 課税事業者を選択する場合と同様に、「簡易課税制度選択届出書」の適用開始課税期間の欄に、適用開始課税期間の初日の年月日を忘れずに記載する必要がある。

6 簡易課税を選択した場合の拘束期間

 「簡易課税制度選択不適用届出書」は、新たに簡易課税を採用した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以降でなければ提出することができない(消法37⑥)。つまり、いったん簡易課税を採用したならば、翌期も簡易課税で申告しなければいけないということである。
 なお、廃業の場合には届出時期についての制限はないのでいつでも提出することができる。

 ただし、継続して簡易課税を適用してきた事業者が、多額の設備投資をした課税期間についてだけ本則課税により還付を受け、翌期からまた簡易課税を適用することは可能である。
 この場合には、還付を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、さらに、その設備投資をした課税期間中に改めて「簡易課税制度選択届出書」を提出することになる。

(注)本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、たとえ平成22年度改正法の適用を受けない場合であっても、いわゆる「3年縛り」が強制されることとなるので注意が必要だ。高額特定資産を取得した場合の取扱い(平成28年度改正)は下記9、平成22年度改正については下記8を参照のこと。

7 新設法人は3期目まで拘束される!

 新設法人の場合、設立事業年度は1年未満の期間になるケースが多いものと思われる。資本金が1,000万円以上の新設法人は、設立事業年度から課税事業者として納税義務があるわけだが、この新設法人が設立事業年度から簡易課税を選択した場合には、3期目以降でなければ「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することができない。
 つまり、4期目以降でなければ本則課税に変更することができないということである。

 つまり、「新たに簡易課税を採用した課税期間の初日から2年を経過する日」は3期目の6月30日であり、この6月30日の属する課税期間の初日以降でなければ「簡易課税制度選択不適用届出書」は提出できないわけであるから、結果的に3期目まで簡易課税で計算しなければいけないということである。

8 平成22年度改正

(1)課税選択期間中に固定資産を取得した場合の取扱い
 課税事業者を選択した事業者が、課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法9⑦)。具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37③)。
 結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
 ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。

(2)新設法人が固定資産を取得した場合の取扱い
 資本金が1,000万円以上の新設法人及び特定新規設立法人は、基準期間のない設立事業年度とその翌事業年度について、課税事業者として申告義務が発生する。これらの新設法人が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法12の2②、12の3③)。
 具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37③)。
 結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
 ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。

9 高額特定資産を取得した場合の取扱い(平成28年度改正)

 本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、たとえ平成22年度改正法の適用を受けない場合であっても、いわゆる「3年縛り」が強制されることとなった(消法12の4・37③、消令25の5)。

【具体例1】1年決算法人が高額特定資産を取得するケース
 12月決算法人がx1年1月1日〜x1年12月31日課税期間中に高額特定資産を取得した場合には、その翌課税期間(x2年1月1日〜x2年12月31日)から高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間(x1年1月1日〜x1年12月31日)の初日以後3年を経過する日(x3年12月31日)の属する課税期間(x3年1月1日〜x3年12月31日)まで、本則課税が強制適用されることになる。
【具体例2】簡易課税制度の適用制限がないケース
 本則課税の適用期間中に高額特定資産を取得した場合には、高額特定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの間は「簡易課税制度選択届出書」を提出することができない(消法37③)。つまり、「簡易課税制度選択届出書」の提出時期に制限を設けることによって、本則課税による「3年縛り」をしているということである。
 また、「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合であっても、基準期間における課税売上高が5,000万円を超える場合には、簡易課税により計算することはできない。
 したがって、事前に「簡易課税制度選択届出書」を提出している事業者の基準期間における課税売上高が5,000万円を超えたことにより本則課税が適用され、たまたまこの課税期間中に高額特定資産を取得したようなケースでは、簡易課税制度の適用制限はされないこととなる。

10 届出書が無効とされるケース

 「簡易課税制度選択届出書」を提出した後で調整対象固定資産(高額特定資産)を取得したことにより、上記8又は9により本則課税が強制適用となる場合には、「簡易課税制度選択届出書」の提出をなかったものとみなし、簡易課税による申告を認めないこととしている(消法37④)。

 なお、新設法人などについては、届出書の提出日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが認められている。
 このような場合には、「簡易課税制度選択届出書」を提出した後で調整対象固定資産を取得した場合であっても、その届出書の効力は当然に有効となる(消法37③ただし書、消令56②)。

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