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解説記事2022年10月10日 新会計基準解説 実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の解説(2022年10月10日号・№949)

新会計基準解説
実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の解説
 企業会計基準委員会 専門研究員 若尾健二

1 はじめに

 企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2022年8月26日に、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表(脚注1)した。本稿では、本実務対応報告の概要を紹介する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。

2 本実務対応報告公表の経緯

 2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正された(以下「改正金融商品取引法」という。)。改正金融商品取引法では、いわゆる投資性ICO(脚注2)を金融商品取引法により規律することとされ、各種規定の整備が行われた。また、いわゆる投資性ICO以外のICOトークンについては、併せて改正された「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)第2条第5項に規定される「暗号資産」に該当する範囲において、引き続き資金決済法の規制対象に含めることとされた。
 このように金融商品取引法及び資金決済法が改正されたことを受けて、2019年11月に、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、金融商品取引法上の電子記録移転権利又は資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討を求める提言がなされ、ASBJにおいて検討が行われた。
 本実務対応報告は、2022年3月に公表した実務対応報告公開草案第63号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表に至ったものである(本実務対応報告第15項から第17項)。

3 本実務対応報告の概要

 本実務対応報告は、株式会社が、「金融商品取引業等に関する内閣府令」(平成19年内閣府令第52号。以下「金商業等府令」という。)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(本実務対応報告第2項)。
 金融商品取引法上の電子記録移転権利については、改正金融商品取引法が2020年5月より施行され、これまで流通する蓋然性が低いものとされ、いわゆる第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法第2条第2項各号に規定される信託受益権、合名会社、合資会社及び合同会社の社員権、並びに集団投資スキーム持分等(脚注3)が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得るものとしていわゆる第一項有価証券(脚注4)に分類されたことなどにより、会計処理に及ぼし得る影響を可能な限り早期に明らかにするニーズがあると考えられた。また、金商業等府令において規定された電子記録移転有価証券表示権利等についても、電子記録移転権利と同様に会計基準を開発する一定のニーズが存在するものと考えられたため、本実務対応報告においては、電子記録移転権利のみを取り扱うのではなく、より範囲の広い金商業等府令第1条第4項第17号に規定される電子記録移転有価証券表示権利等を本実務対応報告の範囲として取り扱うこととした(本実務対応報告第15項、第20項及び第21項)。
 適用対象とする事業体等については、これまでASBJでは、基本的に株式会社における会計処理を明らかにしてきており、本実務対応報告においては株式会社による発行及び保有の会計処理のみを検討の対象とすることとした(本実務対応報告第21項なお書き)。
 なお、電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については、本実務対応報告と同時に公表した「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)の中で関係者からの意見を募集することとし、そこでの要望に基づき別途の対応を図ることの要否を判断することとしていた。ASBJは、論点整理のうち電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関する論点に対して寄せられたコメントについて審議した結果、電子記録移転有価証券表示権利等に関する取引が今後どのように発展していくかを予測することが現時点では依然として困難であると考えられたため、早期に会計基準を開発することを優先する観点から、当該一部の論点については本実務対応報告では取り扱わないこととした(本実務対応報告第23項)。
(1)会計処理の基本的な考え方
 電子記録移転有価証券表示権利等は、金融商品取引法において、同法第2条第2項に規定されるみなし有価証券のうち、当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情等を勘案し、内閣府令で定めるものに限るとされており、金商業等府令では、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものとされている。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等は、その定義上、従来のみなし有価証券(脚注5)と権利の内容は同一であると考えられる。すなわち、電子記録移転有価証券表示権利等と従来のみなし有価証券との発行及び保有における差は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いてなされるか否かのみであると考えられる。
 したがって、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券の発行及び保有の会計処理と同様に取り扱うこととした(本実務対応報告第27項)。
(2)発行の会計処理
 上述のとおり、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下「金融商品会計基準等」という。)上の有価証券を発行する場合は、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様の会計処理を行うこととした(本実務対応報告第28項)。この場合、従来のみなし有価証券においては払込金額が負債に区分される場合と株主資本又は新株予約権に区分される場合があるため、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する金融商品会計基準等上の有価証券を発行する場合においても、それぞれに分けて次のとおり取り扱うこととした。
 ① 払込金額が負債に区分される場合
 電子記録移転有価証券表示権利等の発行に伴う払込金額が負債に区分される場合には、金融負債として、金融商品会計基準第7項の定めに従って発生の認識を行い、その金額は金融商品会計基準第26項、又は第36項、第38項(1)及び企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」という。)の定めに従う(本実務対応報告第5項及び第31項)。
 ② 払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合
 電子記録移転有価証券表示権利等の発行に伴う払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合には、その内訳項目は企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第5項から第7項の定めに従い、その金額は、会社法(平成17年法律第86号)第445条及び第446条の規定、又は金融商品会計基準第36項、第38項(2)及び複合金融商品適用指針の定めに従う(本実務対応報告第6項及び第32項)。
 なお、一部の信託受益権については、金融商品会計基準等上の有価証券として取り扱われていないため、電子記録移転有価証券表示権利等に該当するこれらの一部の信託受益権について、受託者による信託の会計処理が問題となるが、本実務対応報告では株式会社による会計処理のみを定めることとしたため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理は取り扱っていない(本実務対応報告第29項)。
(3)保有の会計処理
 電子記録移転有価証券表示権利等の保有においては、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない信託受益権のうち、電子記録移転有価証券表示権利等に該当するものを株式会社が保有する場合も想定される。そのため、上述の発行の場合とは異なり、電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて、それぞれ定めることとした(本実務対応報告第7項及び第33項)。
 ① 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合
 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品会計基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従うこととした(本実務対応報告第9項及び第34項)。
 一方、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約における発生及び消滅の認識については、次のとおり、本実務対応報告において別途の定めを置くこととした。
(発生及び消滅の認識)
 電子記録移転有価証券表示権利等の売買に係る事例が限定的である現状を踏まえると、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約においても金融商品実務指針第22項における約定日基準の定めに従うこととする場合、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられ、また、実務上、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるかどうかの判断が困難である可能性がある。
 そのため、電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、金融商品会計基準が定める原則に従って行うこととするが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、契約を締結した時点において認識することとした(本実務対応報告第8項並びに第37項及び第43項)。
 ここで、約定日が明確である場合には、当該約定日が売買契約を締結した時点に該当すると考えられる(本実務対応報告第38項なお書き)。また、電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点は、個々の権利ごとの根拠法に基づき判断することが考えられるが、受渡日が明確である場合には、当該受渡日を電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点として取り扱うことが考えられる(本実務対応報告第39項なお書き)。さらに、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間かどうかは、我が国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間かそれより短い期間であるかどうかに基づいて判断することが考えられる(本実務対応報告第42項)。
 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識に関する本実務対応報告の定めと、現行の金融商品会計基準等の定めとの比較は、次頁ののとおりである。

 ② 金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合
 一部の信託受益権については、金融商品取引法上の有価証券に該当するものの、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない場合があり、これらの会計処理については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告第23号」という。)に定めがある。
 ここで、電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、金融商品取引法上の従来のみなし有価証券と同一であると考えられることから、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する上述の信託受益権を保有する場合の会計処理についても、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従うこととした(本実務対応報告第10項並びに第44項及び第45項)。
 しかしながら、発生及び消滅に関しては、従来の有価証券の売買契約とは異なり、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられることなどから、本実務対応報告では、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等について、従来の有価証券の定めとは異なる定めを置いている。そのため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものについての発生の認識(信託設定時を除く。)及び消滅の認識は、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従うこととした(本実務対応報告第10項ただし書き及び第46項)。
(4)開示
 電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、従来のみなし有価証券と同一であると考えられ、電子記録移転有価証券表示権利等の開示に関して、従来のみなし有価証券を発行又は保有する場合に適用される開示の定め(発行の場合は、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」、企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」等における定め、保有の場合は、金融商品会計基準、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」等における定め)に従うことにより、有用な情報が開示されるものと考えられる。そのため、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとした(本実務対応報告第11項及び第12項並びに第47項)。
(5)適用時期
 本実務対応報告は、電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合の発生及び消滅の認識について、金融商品実務指針における有価証券の定めとは異なる定めを置いていることから、本実務対応報告の適用にあたっては、一定の周知期間を設けることが有用と考えられる。そのため、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとした。
 また、改正金融商品取引法は既に2020年5月より施行されており、本実務対応報告を速やかに適用することへのニーズが想定されることから、本実務対応報告を公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することを認めることとした(本実務対応報告第13項及び第48項)。

4 おわりに

 本実務対応報告は、金融商品取引法の改正を受けて公表に至ったものであり、改正金融商品取引法や金商業等府令の内容も併せてご確認いただきたい。本稿が本実務対応報告の定めをご理解いただくための一助となれば幸いである。

脚注
1 本実務対応報告の全文については、ASBJ のウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2022/2022-0826.html)を参照のこと。
2 Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称である。
3 金融商品取引法第2条第2項第5号及び第6号に規定される、民法上の任意組合契約に基づく権利、商法上の匿名組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利、有限責任組合契約に基づく権利等を指す。
4 金融商品取引法第2条第1項各号に掲げる有価証券又は同条第2項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利、特定電子記録債権若しくは電子記録移転権利を指す(金融商品取引法第2条第3項参照)。
5 電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。

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