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契約2024年05月10日 日本代表の法務 ~日本代表監督をめぐる問題 執筆者:松本泰介

 2024年は、世界水泳(世界水泳選手権)、世界柔道選手権大会、パリオリンピックパラリンピックなど、本年も注目される国際大会が開催されます。一方、2024年2月には、パリオリンピックを控えているにもかかわらず、ハンドボール日本代表監督が突然辞任するなど、日本代表監督をめぐる問題も発生しています。
 そこで、今回は、日本代表監督をめぐる問題に関して、解説してみたいと思います。

1. 日本代表監督の契約

 日本代表監督に選出された場合、その報酬が発生するかしないかに関わらず、中央競技団体と日本代表監督との間で、委任契約が締結されることになります。日本代表の監督はこのような契約に基づく業務になりますので、日本代表監督の変更については、このような監督契約の内容にしたがうことになります。
 典型的なトラブル場面は、日本代表監督を解任する場合の報酬です。中央競技団体の都合で監督契約を解除している場合は、特に監督契約で特別な定めがない限り、中央競技団体は、残期間分の報酬を支払う必要があります。世間には成績不振に伴う「辞任」というリリースがなされている場合、中央競技団体が「辞任」を理由に残期間分の報酬を支払わないこともありますが、実際は中央競技団体が解任している場合は上記の対応を取る必要があります。
 一方で、日本代表監督個人のトラブルや都合で辞任する場合は、残期間分の報酬を支払わないことはもちろん監督の辞任に伴い発生する中央競技団体の損害について監督が負担しなければならなくなります。

2. 日本代表監督の選考問題

 また、意外と隠された問題として、日本代表監督の選考問題があります。日本代表の選考というと選手の選考問題がクローズアップされがちですが、監督の選考も大きな問題です。
 現状は、中央競技団体の強化委員会が指名する監督がそのまま採用されるというのが実態でしょう。確かに、その時代その時代の強化委員会が考える強化戦略に従い監督を選考し、国際大会での結果を踏まえ、強化委員会や監督が交代するしないを決めるというのが一般的かもしれません。
 しかしながら、一部の中央競技団体では、このような一貫性のない強化戦略や監督選考によって、中長期的な国際大会でのレベルアップが実現できていない団体も存在します。
 日本代表というのは、その競技にとって唯一無二の存在です。日本代表に関する強化戦略や監督による選手選考は、その競技の指導方法に大きな影響があり、また育成年代での指導方法にも影響します。このような日本代表に関する強化戦略や監督選考には、一貫性や合理性そして説明責任が求められるとも考えられるでしょう。

3. 日本代表監督と各選手のコーチとの指導をめぐるコンフリクト

 なかなか悩ましい問題として、日本代表監督の指導と、選考された選手個人のコーチとの指導をめぐるコンフリクトをどのように考えるのか、という問題があります。
 チームスポーツであれば、選考された選手は、1人の日本代表監督の下、チームとしてプレーすることになるため、日本代表監督の方針にしたがって活動することになります。チームスポーツにおいては、日本代表監督の方針や戦術によってチーム作りがなされるため、選考された選手もその中で自分の能力を発揮していく必要がありますし、そもそも日本代表監督の方針や戦術に合わない選手は選考もされません。
 一方、個人スポーツであれば、選考された選手は、1人1人別のコーチの下で指導を受けてきています。そのような指導の結果として日本代表に選考されているため、日本代表に選出されたからといって、一概に日本代表監督の方針にしたがった指導を受け入れられるものではありません。このような日本代表監督の指導方針と、選手個人の指導者との指導のコンフリクトは、個人スポーツではよくあることですが、選考された選手のパフォーマンスを最大限に発揮させるためには、日本代表監督の指導方針を完全に優先することはなかなか難しいです。
 ですので、個人スポーツの日本代表監督は、選考された選手の1人1人に個別の指導者がいることを前提として、日本代表活動の指導方針を決めていくことが求められます。

(2024年4月執筆)

執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ

早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士

略歴・経歴

専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。

主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。

主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。

その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。

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