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解説記事2022年10月24日 ニュース特集 経産省・R5改正要望 スタートアップ強化措置(2022年10月24日号・№951)

ニュース特集
暗号資産期末時価評価課税、国外転出時課税見直し検討へ
経産省・R5改正要望 スタートアップ強化措置


 岸田政権は、Web3.0の推進のためには、ブロックチェーン技術を含めたデジタル技術を社会に普及させていくことが不可欠との認識の下、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」「骨太の方針2022」においても、Web3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める方針を掲げている。しかし、現状、暗号資産やNFTに対する現行の規制や税制が足かせとなり、有力スタートアップ企業が相次いで国外に脱出するなど、日本のWeb3.0関連ビジネスが世界から取り残され始めているとの問題が指摘されている。また、国外転出時課税制度についても、日本のスタートアップの海外展開を阻害する要因の一つとなっていると指摘されてきた。
 こうした中、経済産業省は令和5年度税制改正要望で、スタートアップの抜本強化の一環で、「暗号資産の期末時価評価課税」と「国外転出時課税制度」の見直しを要望している。本特集では、業界団体等が指摘する現状の税制の問題点と、改正要望に至った背景などを探る。

暗号資産の期末時価評価課税は「自社発行・保有」限定を要望

期末時価評価課税導入の背景
 周知のとおり、暗号資産については平成30年に企業会計基準委員会(ASBJ)より実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」が公表され、会計上の取扱いが定まったことを機に、法人税法上の取扱いにも平成31年税制改正において明確化された。
 これにより、法人税法上も、法人が事業年度末において有する一定の暗号資産(活発な市場が存在するもの)について期末時価評価が強制されることとなった。具体的には、資金決済に関する法律2条5項に規定する暗号資産を法人税法61条に定める短期売買商品に含めて「短期売買商品等」とし、従来の短期売買商品と同じ取扱いがされることとなった。なお、法人税法2条20号に定める「棚卸資産」からは除外された。
 財務省の「平成31年度税制改正の解説」では、期末時価評価課税が適用されることとなった理由について次のように述べられている。

 活発な市場が存在する仮想通貨については、一般的に、売買、換金について事業上の制約がない、すなわち、市場が存在するため売却・換金することが容易な資産であり、保有し続けなければ事業を継続できないような資産でないことに鑑みれば、時価法を適用してその評価益又は評価損を所得に反映させるのが実態に合った処理であると考えられること、また、時価法を適用しなければ、課税所得が多額となると見込まれる事業年度に含み損のある仮想通貨だけを譲渡するといった租税回避行為が想定されることから、上記のように企業会計において時価法が導入されたことを踏まえ、法人税法においても、活発な市場が存在する仮想通貨について時価法を適用することとされました。

業界団体は「売買目的」のみに限定を要望
 しかし、業界団体等は、期末時価評価課税が、日本でブロックチェーン関連事業を起業する際の大きな障害となり、多くのブロックチェーン関連のスタートアップが日本で起業せず海外に流出する要因の一つになっていると批判してきた。
 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が2022年7月29日付で金融庁に共同で提出した暗号資産に係る「2023年度 税制改正要望書」においても、その点が指摘されている。
 要望書の中で指摘されているのは、企業がトークン(暗号資産を含む電子的な代用通貨や証憑のようなもの)を発行し、一定数は譲渡せずに自社で保有する場合、そのトークンが「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると、自社保有分に関しては現金収入(キャッシュイン)が生じていないにもかかわらず、法人税法上期末時価評価の対象となる結果、含み益に対して法人税が課され、企業にとって重い負担になっているという点だ。企業からは、「税金流出分を考慮して事業運営を行わなければならず、積極的な投資に踏み切ることが困難となる」との声も挙がっている。
 要望書では、暗号資産の保有目的について、「売買目的や支払手段・決済手段目的で保有しているもの、他人から預かっているもののほか、現在では、ガバナンス目的、売買以外の投資目的、ステーキング目的(バリデーター業務目的)、他の種類の暗号資産と交換等のための一時的保有目的、運転資金目的、流動性供給目的など、暗号資産の保有目的は実に多様化している。」とした上で、「ロックアップ期間中や流動性供給中の暗号資産は、事業上、売却・換金が想定されておらず、技術上又は契約上も売買が不可能であることが珍しくない。事実上、売却・換金が容易なものではない、保有し続けなければ事業を継続できないようなものを期末時価評価課税の対象とすることは、法人の事業遂行や日本での起業を妨げる大きな要因となる」と述べられている。
 また要望書は、「プロジェクトに関するトークンの販売により資金調達した法人やトークンを購入することでプロジェクトを支援する法人・ファンドへ重い税負担を課すこととなり、トークンの発行者や開発者、投資家をはじめとするプロジェクト関係者の海外流出を招いている。法人による暗号資産保有目的の多様化にもかかわらず一律期末時価評価課税の対象とすることは、法人の事業遂行や日本での起業を妨げ、日本政府が掲げるWeb3.0推進の妨げとなる。」とも指摘している。
 そこで、上記団体は、次のとおり、期末時価評価の対象を売買目的の暗号資産だけに限定することを要望している。

 期末時価評価課税の対象を市場における短期的な価格の変動又は市場間の価格差を利用して利益を得る目的(短期売買目的)で保有している市場暗号資産に限定し、それ以外のものを対象外とすることを要望する。少なくとも喫緊の課題への対応として、まず自社発行のトークンについて対象から除くことは必須である。

省庁からの要望は業界団体要望より限定的
 一方、経済産業省が金融庁と共同で提出した税制改正要望は、「法人が発行した暗号資産のうち、当該法人以外の者に割り当てられることなく、当該法人が継続して保有しているものについて、期末時価評価の対象外とする」というもの(図1参照)。上記要望書の「少なくとも」以下の部分が取り上げられた形だ。

 しかし、上記団体は、要望書の中で、「Web3.0のエコシステムを形成、発展させる上では、技術開発会社、法人のユーザー又はベンチャーキャピタルなど暗号資産の発行者以外の法人が長期投資目的、発行体へのサービス提供の対価、ガバナンス目的又はステーキング目的で暗号資産を保有することが想定され、未実現利益に課税されると納税資金や事業用資金の確保が困難となる現状がある」として、期末時価評価課税の対象から自社発行の暗号資産を除外する改正が実現したとしても、日本におけるビジネスニーズやWeb3.0企業の発展を目指すためには、期末時価評価課税の対象を短期売買目的の市場暗号資産に限定する改正が望ましいとしている。
「活発な市場」の判断の難しさもリスク
 また、上記要望書では、「活発な市場」の具体的な判断が難しいという点も問題点として挙げられており、「活発な市場の判断がグレーであることから、課税の公平が保てるか疑問である。税務調査があった場合、当局の見解と相違する可能性があり、想定外の税負担が発生するリスクが懸念される。」との企業の声も紹介されている。政令やFAQなどで、現行の法人税法施行令118条の7に定められているものよりも明確な判断基準を設置することが望ましいとしつつも、明確かつ客観的な判断基準の設置が困難であるならば、この点からも、期末時価評価課税の課税対象を現行制度よりも狭いものにすることが望ましいとしている。

国外転出時課税、非上場株式も株券発行不要の納税猶予を要望

 国外転出時課税制度についても、日本のスタートアップの海外展開を阻害する要因の一つとなっていると指摘されてきた。ユニコーンに代表されるようなメガスタートアップを創出するためには、海外の広大なマーケットを取る必要があるものの、現状、日本のスタートアップは海外展開が十分に進んでおらず、その要因の一つとして、国外転出時課税制度が支障となっているとの見方がある。
 国外転出時課税制度とは、平成27年7月1日以後に国外転出をする居住者で、国外転出時に1億円以上の有価証券等を有する者が、その対象資産の含み益に対して所得税が課税される制度(所法60の2①一、⑤)であり、スタートアップが海外進出をする際、立上げ準備等のために、役員・従業員等が海外に赴任する場合、スタートアップ株式を含む有価証券等を1億円以上所有していれば、国外転出時課税制度の対象となる。担保提供による納税猶予制度も設けられてはいるが、株券不発行が原則となっている中、非上場株式の場合は株券による担保提供が必要であり、定款変更により株券発行会社に変更する(将来の上場時には株券不発行会社に戻す)必要があるなど、その手続・管理コストがスタートアップの海外進出の弊害となっていると言われている。このため経済産業省は、非上場株式についても株券によらない担保提供を可能にすることを要望しており、スタートアップが比較的簡単に納税猶予制度を利用できるようにすることで、円滑な海外展開の促進を目指している(図2参照)。

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