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解説記事2022年10月24日 SCOPE 会計士の任務懈怠なければ株主からの損害賠償責任はなし(2022年10月24日号・№951)

東京地裁、監査法人の請求を認容
会計士の任務懈怠なければ株主からの損害賠償責任はなし


 プロデュースの粉飾決算により、同社の株主から約6億円の損害賠償請求を受けた東陽監査法人(原告)が、同社の監査人であった東都監査法人の代表社員であった公認会計士(被告)に対し、約4億8,500万円超の損害賠償請求を行った事件で、東京地方裁判所(渡部みどり裁判官)は令和4年9月12日、原告の請求を認める判決を下した(平成30年(ワ)第39549号)。東京地裁は、本件監査法人を吸収合併してその権利義務を承継した原告はプロデュースの株主らに対して約8億円超の損害賠償金を支払っているが、被告による任務懈怠がなければ損害賠償責任を負うことはなかったというべきであるとし、損害賠償金は被告の任務懈怠と相当因果関係のある損害といえると判断した。

粉飾に加担した監査法人を吸収合併した監査法人が株主から損害賠償請求

 本件は、ジャスダック市場に上場していたプロデュースの粉飾決算により、同社の株主から約6億円の損害賠償請求を受けた東陽監査法人(原告)が、同社の会計監査人であった東都監査法人の代表社員の公認会計士(被告)に対し、約4億8,500万円超(※同監査法人の元社員から支払を受けたおよそ3億3,000万円を控除した残額)の損害賠償請求を行ったもの。東陽監査法人は東都監査法人を吸収合併して権利義務を承継していたため、プロデュースの株主から損害賠償請求を受けていた(本誌741号4頁参照)。
 原告である東陽監査法人は、被告は当時の会計監査人である監査法人の代表社員兼業務執行社員であり、公認会計士法34条の22第1項並びに会社法593条1項及び同条2項に基づき、監査法人の業務執行に当たり、善管注意義務、忠実義務を負い、本件監査法人と監査契約を締結したプロデュースの監査証明を行うに当たり、重要事項が虚偽の財務諸表について無限定適正意見を表明してはならない義務を負っていたなどと主張した。

虚偽記載のある届出書に監査表明がなければ株主は株式を取得せず

 裁判所は、本件監査法人はプロデュースとの間で、プロデュースの平成17年6月期及び平成18年6月期の財務書類の監査証明を行う旨の監査契約を締結し、本件監査法人の代表社員兼業務執行社員であった被告が本件監査法人におけるプロデュースの監査の責任者を務めていたのであるから、被告は、プロデュースの監査証明を行うに当たり、本件監査法人に対する善管注意義務、忠実義務の具体的な内容として、当然に、重要事項が虚偽の財務諸表に対して無限定適正意見を表明してはならない義務を負っていたとし、任務懈怠があったとした。
 その上で裁判所は、有価証券届出書に添付された平成17年6月期の損益計算書に重要事項について内容虚偽の記載があることが明らかになれば、プロデュースがジャスダック市場の上場審査を通らず上場することができず、本件届出書に基づき上場の際に行われたプロデュースの発行する株式の募集や売出しを行うことができなかったことなどが認められ、被告が、重要事項について虚偽の記載がされた本件届出書及び本件報告書に添付された財務諸表について監査表明を行わなければ、本件届出書提出以降本件公表までの間にプロデュース株を取得した株主らは、これらの株を取得することがなかったものと認められると指摘。したがって、被告が代表社員及び業務執行社員を務めていた本件監査法人を吸収合併した原告は、被告が監査表明を行った財務諸表について、重要な事項に虚偽の記載等があったため、本件届出書提出後本件公表までの間にプロデュースの株式を取得した上記虚偽記載につき善意の株主らに対し、金商法21条、22条及び24条の4に基づき、プロデュースの株式の取得による損害を賠償する義務を負うところ、原告は、東京高裁から株主らに対して約6億円超の損害賠償金を支払うことを命じる判決を受け、これに基づき原告は、プロデュースの株主らに対して、合計8億1,726万9,438円(遅延損害金を含む)を支払ったことが認められるとした。そして、被告による任務懈怠がなければ、本件監査法人を吸収合併してその権利義務を承継した原告は、プロデュースの株主らに対する損害賠償責任を負い、これに基づき損害を賠償する必要はなかったというべきであるから、損害賠償金は、被告の任務懈怠と相当因果関係のある損害といえるとし、原告の請求を認める判決を下した。

プロデュースによる粉飾決算事件及び監査法人に対する損害賠償請求事件
 プロデュースは、同社がジャスダック市場に平成17年12月14日に上場する前から、架空の循環取引などにより売上高や経常利益を嵩上げし、赤字を黒字に転換(赤黒転換)するという粉飾決算を行っていた。この粉飾には、同社の社長らのほか、同社の監査を受嘱していた監査法人の代表社員であった公認会計士(※本件の被告)も粉飾の手口を逐一指南するなどして粉飾決算に積極的に加担していた。なお、有価証券報告書の虚偽記載(金商法違反)による刑事事件では、同社の社長に対して懲役3年及び罰金1,000万円の実刑判決が下されたほか、公認会計士に対して懲役3年6月の実刑判決が下されている。
 粉飾発覚前にプロデュース社の株式を取得した株主らは、同社が有報等に虚偽記載をしたために損害を被ったとして、有価証券報告書等に係る財務計算書類の監査証明をした粉飾時の東都監査法人を吸収合併した東陽監査法人に対して損害賠償を求める訴訟を提起した。
 原審の東京地裁は、株主らの訴えを全部棄却する判決を下したものの、東京高裁では、粉飾時の監査法人の代表社員であった公認会計士がプロデュースの社長らと共謀して巨額の赤黒転換に伴う粉飾決算を実行して有価証券報告書等の重要事項に虚偽記載をした点について、粉飾時の監査法人を吸収合併した東陽監査法人の賠償責任の免責を認める余地はないと結論付け、同監査法人に対して約6億円の損害賠償を命じている。

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