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解説記事2022年11月07日 特別解説 我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)①(2022年11月7日号・№953)

特別解説
我が国の主要な企業の監査報告書において開示された監査上の主要な検討事項(KAM)①

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)対応に世界中の政府や企業が忙殺されて2年。第2波、第3波、あるいは変異種と次々と新たな波が押し寄せてなかなか終息の兆しが見えない中、主要な企業の2021年度の決算が世界中で出そろった。
 そして、2021年3月期から監査報告書へのKAMの記載が要求されることになった我が国の上場企業の会計監査人にとっては、2022年3月期からは2度目のKAMの記載となる。
 欧米の先行事例等を参考にはしつつも、すべてが手探り・試行錯誤であったと考えられる2021年3月期に比べて、2022年3月期はどのような変化があったのであろうか。
 本稿では、IFRSに基づいて連結財務諸表を作成する日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)のうち主要な100社と我が国の会計基準を適用する主要な企業100社について、各社の有価証券報告書の監査報告書に記載されたKAMの個数やKAMの内容の分類・集計を行い、見られた傾向や全体的な特徴などについて分析を行った。また、参考のために、2021年度の英国や欧州大陸で上場する主要な企業の年次報告書(アニュアル・レポート)の監査報告書に記載されたKAMや、米国で上場する主要な米国企業の監査報告書において記載された監査上の重要な事項(CAM)の件数等も、参考データとして併せて記載している。
 本稿では、英国や欧州大陸で上場する主要な企業の監査報告書に記載されたKAM及び米国で上場する米国企業の監査報告書に記載されたCAMとの比較等も行いつつ、2回に分けて主要な日本企業(IFRS任意適用日本企業及び日本の会計基準を適用する日本企業)の監査報告書に記載されたKAMの調査分析を行うこととしたい。

今回の調査の対象とした企業

 今回の調査では、IFRS任意適用日本企業及び日本の会計基準を適用する日本企業のうち、2022年3月31日時点での日経平均株価時価総額で上位300社に入っている企業の中から100社ずつを選定した。なお、後述するKAMは、主要なIFRS任意適用日本企業と日本の会計基準を適用する主要な日本企業の連結財務諸表に対する監査報告書に記載されたもののみを対象にしており、個別財務諸表に対する監査報告書に記載されたKAMは分析の対象とはしていない。

KAMの定義と決定のプロセス、報告上の留意事項等

 監査上の主要な検討事項(KAM)は、監査基準及び監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」で、次のように規定されている。

(監査基準 第四 報告基準 七 監査上の主要な検討事項)

1. 監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない。
2. 監査人は、監査上の主要な検討事項として決定した事項について、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、監査上の主要な検討事項の内容、監査人が監査上の主要な検討事項であると決定した理由及び監査における監査人の対応を監査報告書に記載しなければならない。ただし、意見を表明しない場合には記載しないものとする。

 また、KAMの定義は次の通りである(監査基準委員会報告書701 第7項)。
 「監査上の主要な検討事項」とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される。
・監査人は、KAMの決定及び報告に当たって、以下の事項に留意しなければならないとされている(監査基準委員会報告書701第8項、第9項、第10項及び第12項)。
  監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定しなければならない。その際、以下の項目等を考慮しなければならない(第8項)。
(1)監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に基づき決定された特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域
(2)見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断
(3)当年度に発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
・監査人は、第8項に従い決定した事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(第9項)。
・監査人は、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」区分を設け、個々の監査上の主要な検討事項に適切な小見出しを付して記述しなければならない。また、「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければならない(第10項)。
(1)監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。
(2)監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において監査人が対応した事項であり、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。
・また、監査人は、監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において、以下を記載しなければならない(第12項)。
(1)関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照
(2)個々の監査上の主要な検討事項の内容
(3)財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由
(4)当該事項に対する監査上の対応
 ただし、連結財務諸表及び個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、当該内容の記載を省略することができるとされている。

主要な日本企業(IFRS任意適用日本企業及び日本の会計基準を適用する日本企業)の監査報告書に記載されたKAMの分析

 IFRS任意適用日本企業及び日本の会計基準を適用する日本企業のうち、2022年3月31日時点での日経平均株価時価総額で上位300社に入っている企業の中から100社ずつを選定し、これらの企業の2021年度の監査報告書に記載されていた監査上の主要な検討事項(KAM)の個数や内容を調査・集計した。KAMの記載数別に企業を集計すると、表1のとおりとなった。

 今回調査対象とした主要な日本企業(IFRS任意適用日本企業及び日本の会計基準を適用する日本企業)100社の監査報告書で記載されたKAMは合計でそれぞれ169個と163個、1社当たりの平均では、それぞれ1.69個と1.63個とほぼ同数であった。なお、諸外国と同様に、監査報告書にKAMがまったく記載されていなかった企業はなかった。
 次に、KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を示すと、表2のとおりであった(2021年度の監査報告書にKAMとして記載された個数が10件以上の項目をピックアップした)。

 表2に掲げている7つの項目で、IFRS任意適用日本企業、日本の会計基準を適用する日本企業のいずれもについて、各社の監査報告書に記載されたKAMの個数総計の約9割がカバーされている。後述する諸外国の企業の監査報告書に記載されたKAMやCAMと同様に、いわゆる会計上の見積りに関連する項目が大部分を占めていた。
 しかし、個別に内容を見てみると、有形・無形(固定)資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の判断や引当金といった項目については、IFRS任意適用日本企業、日本の会計基準を適用する日本企業のいずれにおいても数多くKAMとして監査報告書に記載されている一方で、のれんの評価・減損については圧倒的にIFRS任意適用日本企業の監査報告書に記載される場合が多く、逆に収益認識や棚卸資産の評価は日本の会計基準を適用する日本企業の監査報告書で多く記載がなされていた。これは、のれんや耐用年数を確定できない無形資産がIFRSでは非償却であり、見積りの不確実性が高い減損テストに大きく依拠せざるを得ない状況にあるのに対して、日本の会計基準の場合にはのれん、無形固定資産のいずれもが原則として償却対象であるため、のれんに係る見積りの不確実性や監査上のリスク・重要度が相対的に低いと会計監査人が判断したためと考えられる。

英国で上場する主要な企業の監査報告書へのKAMの記載状況

 主要な日本企業と比較するため、英国で上場する主要な企業の監査報告書へのKAMの記載状況を以下に掲げる(表3参照)。

 なお、英国で上場する主要な企業である100社において、監査報告書に記載されたKAMの個数は、100社合計でのべ374個、1社平均で3.74個であった。
 次に、KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を示すと、表4のとおりであった(2021年度の監査報告書にKAMとして記載された個数が10件以上の項目をピックアップした)。

英国企業以外の欧州大陸に上場する主要な企業の監査報告書に記載されたKAMの分析

 次に、STOXX株価指数の構成銘柄として採用されている欧州の企業のうち、英国以外の企業を100社選定し、英国企業と同様の方法・内容による分析を行った結果を、比較のために掲載することとする。調査対象とした100社の2021年度の監査報告書に記載されたKAMは合計で275個。1社平均だと2.75個であった。監査報告書へのKAMの記載数別の企業数を集計すると、表5のとおりであった。

 次に、KAMの項目別に、記載された個数が多かった項目を示すと、表6のとおりであった(KAMとして2021年度の各社の監査報告書に記載された個数が10件以上の項目をピックアップした)。

米国で上場する主要な企業の監査報告書におけるCAM(監査上の重要な事項)の記載状況

 さらに、比較のために、主要な米国企業の監査報告書に記載されたCAMの記載状況や内容にも簡単に触れることとしたい。
 以前に調査の対象とした主要な米国企業100社の監査報告書におけるCAMの記載数別に企業を集計すると、表7のとおりとなった。

 100社の監査報告書に記載されたCAMの個数は延べで173個であり、1社あたり平均1.73個であった(2020年度は1社あたり平均1.96個)。
 次に、CAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かったものを示すと、表8のとおりであった。

 なお、Covid-19の影響や継続企業が1つのCAMとして監査報告書に記載されていた事例はなかった。

全般的な分析(我が国の主要な企業の監査報告書に記載されたKAMを中心に)

 米国、英国、及び欧州大陸に上場している主要な企業並びに我が国の主要な企業の監査報告書に記載されたKAM(米国はCAM)の1社あたりの平均個数は、表9のようになった。

 わが国の主要な企業(IFRSを任意適用する企業と、日本基準を適用する企業のいずれも)の監査報告書に記載されたKAMの数は、英国に上場する企業や欧州大陸に上場する企業を大幅に下回り、米国に上場する企業のそれをも若干下回る結果になった。また、我が国の企業の監査報告書にKAMとして記載された項目は、有形・無形資産の減損やのれんの評価、繰延税金資産の回収可能性など、諸外国と同様に会計上の見積りに関連する項目がほとんどを占めたが、KAMの項目は、本稿の表2に列挙した6項目のみで全体の90%近くを占めていた。
 そして、米国、欧州、日本企業のいずれかを問わず、表9のどのカテゴリーにおいても各社の監査報告書に記載されるKAM(CAM)の個数は減少傾向をたどっていることが大きな特徴として挙げられる。各社の監査報告書に記載されるKAMやCAMの数が多いことがすなわち財務諸表の利用者である投資家に便益をもたらすとは限らず、「量より質」が重要であることは言うまでもないが、今後もこの傾向は続くのか、どのあたりで落ち着くのか、今後も引き続き傾向を注視する必要があろう。
 日本企業においてCovid-19の影響が監査報告書にKAMとして記載されていた企業は、米国と同様に1社もなかった。世界中でCovid-19の感染が終息したといえる状況にはまだないが、我が国の主要な企業及び会計監査人はアフターコロナ、ウィズコロナに向けて進み始めたということであろうか。米国や欧州の大半の企業が2021年12月期決算であるのに対して、我が国の企業のほとんどが2022年3月期決算というタイミングの違いもあるかもしれない。
 また、欧米に上場する各社の監査報告書でKAM(CAM)として頻繁に登場する税務関連の項目(不確実な税務ポジション等)や訴訟関連の項目・偶発事象が日本企業の監査報告書でKAMとされていた例は極めて少数であった。
 訴訟が頻発する米国や法律を逸脱しない範囲で租税回避行為が頻繁かつ大規模に行なわれることが多い欧米の企業と比べ、我が国の経営者はアグレッシブさに欠ける(他方でリスク回避的で堅実である)とされるが、その傾向を裏付ける一つの証拠と言えるかもしれない。

終わりに

 今回は、諸外国のデータとの比較を交えつつ、我が国の主要な企業(IFRSを任意適用する企業及び日本の会計基準を適用する企業)の監査報告書に記載されたKAMについての全般的な傾向等を調査分析したが、次回以降では、IFRS任意適用日本企業の全社について、今回と同様の全般的な分析を行った後、主要な日本企業(IFRS任意適用企業、日本の会計基準を適用する企業)の監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとしたい。

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