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解説記事2022年12月05日 特別解説 日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例) その1(2022年12月5日号・№957)

特別解説
日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例) その1

はじめに

 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされており、当該定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、会計監査人は定時株主総会において再任されたものとみなされる(会社法第328条)。これまで会計監査人が交代した場合、我が国では臨時報告書において適時開示が行われてきたが、会計監査人交代の理由が、「任期満了」といった形式的な記載にとどまり、「本音ベースの理由」が外部からは分からなかった。そこで、金融庁は2019年6月に企業内容等開示ガイドライン(以下、「ガイドライン」)を改正し、臨時報告書に会計監査人が異動した実質的な理由が記載されるよう、具体的な交代理由を例示している(企業内容等開示ガイドラインB基本ガイドライン(監査公認会計士等の異動理由及び経緯)24の5-23-21))。そして、実質的な異動の理由として、以下のようなものが挙げられている。

① 連結グループでの監査公認会計士等の統一
② 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動
③ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満
④ 監査報酬
⑤ 継続監査期間
⑥ 監査期間中に直面した困難な状況
⑦ 会計・監査上の見解相違
⑧ 会計不祥事の発生
⑨ 企業環境の変化等による監査リスクの高まり
⑩ その他異動理由として重要と考えられるもの

 開示ガイドラインは、2019年6月21日付で公布・施行された。ガイドラインの施行から3年以上が経過したが、本稿では、2回に分けて、2019年6月21日以後、2022年9月末日までに提出された臨時報告書(会計監査人の交代に関するもの)についての全体的な傾向等を調査分析するとともに、2022年4月1日以後同年9月末日までの間に会計監査人の交代に踏み切った各社が、臨時報告書において開示した会計監査人交代に関する理由や経緯等に関する特徴的な事例を紹介することとしたい。

調査対象とした企業

 本稿では、2019年6月21日以降、2022年9月30日までに提出された臨時報告書(会計監査人の交代に関するもの)のべ647社を調査対象とした(3年間強で会計監査人が複数回交代した企業も存在する。)。

全般的な分析

 今回の調査の対象としたのべ647社の臨時報告書を提出した企業の市場区分等を示すと、表1のとおりであった。一目瞭然であるが、旧ジャスダック市場や旧マザーズ市場、現在ではグロース市場やスタンダード市場に上場する新興企業や中堅の上場企業が、より頻繁に会計監査人の交代を行っている(あるいは、会計監査人が交代せざるを得ないような状況に置かれている)ことが分かる。

 次に、調査対象とした企業が会計監査人の交代を行った時期(臨時報告書を提出した時期)を示すと、表2のとおりであった。

 我が国の大半の上場企業は3月決算であり、(会計監査人が選任される)株主総会は6月に開催されるため、必然的に会計監査人の交代に関する開示は毎年4月から6月に多く見られることになる。2020年の4月から6月までの3か月間には86社の交代に関する開示があったが、2021年の同時期には136社と大幅に増加し、2022年の同時期でもほぼ同水準の135社において会計監査人の交代が行われた。また、各年の4月から6月以外の時期においても、3か月にほぼ30件(毎月平均10件)ほどのペースで会計監査人の交代が行われていることが分かる。
 さらに、前任監査人と後任監査人の属性を示すと、表3のとおりとなった。

 2020年3月期から有価証券報告書の「会計監査の状況」において会計監査人の継続監査期間に関する開示が始まったこともあり、制度が改正された当初の2019年6月から2020年6月頃までは、キヤノン、味の素、大和ハウス工業などの我が国を代表する大企業が、継続監査期間の長期化等を理由に、会計監査人を(4大監査法人から他の4大監査法人に)交代させる事例が目についたが、それ以後は、主に中堅規模以下の上場企業に対して4大監査法人が監査工数の増加等を理由として高額の監査報酬を提示し、それに耐えられなくなった企業が、規模に見合った水準の準大手、あるいは中小監査法人を会計監査人に新たに選任するケースが目立つ。また、中小監査法人から他の中小監査法人に監査契約が移る事例も少なくないが、中小監査法人から準大手監査法人や4大監査法人に会計監査人が交代するような事例は極めて少ない。
 今回調査の対象とした647社について、前任監査人(監査契約を解除した監査法人)と後任監査人(監査契約を新たに締結した監査法人)の上位5法人を列挙すると、それぞれ表4及び表5のとおりであった。

 4大監査法人を構成するEY新日本、トーマツ及びあずさが多数の上場企業との監査契約を解除したことが一目瞭然である。
 一方、主に4大監査法人との監査契約を解除した上場企業が、新たに監査契約を締結した監査法人は、表5のとおりであった。
 準大手監査法人トップで、他の準大手監査法人から頭一つ抜け出しつつある太陽有限責任監査法人(以下、「太陽」。)の積極的な受注姿勢が目立つ。なお、同期間に太陽が監査契約を解除した上場企業は9社であった。
 太陽と同じく準大手監査法人の一角を形成する仰星監査法人は22社の上場企業の監査契約を受嘱し、中堅監査法人のアーク、アリア及びRSM清和監査法人も上場企業との監査契約数を大きく伸ばしている。EY新日本、あずさ及びトーマツは、一定数の上場企業の監査契約を新たに受嘱しているものの、その内容は大まかにいうと超大企業、IFRS任意適用企業、金融機関及びグループ内監査人の統一による受嘱等にほぼ限られている。
 上場企業が会計監査人の交代に踏み切った主な理由を、企業内容等開示ガイドラインで列挙された項目(一部項目を追加)に即して分類すると、表6のとおりであった。

 会計監査人交代の理由として複数の項目を列挙している企業については、それぞれの項目で1社としてカウントしている。予想されたことではあるが、会計監査人から監査工数の増加等を理由として高額な監査報酬を提示されたことと、継続監査期間の長さ(あるいはその両方)を理由として会計監査人の交代に踏み切った企業が大部分を占めた。また、監査報酬の高騰を交代の主な理由とした企業は、「事業規模に見合った監査法人を新たに選定した。」旨、継続監査期間の長期化を交代の主な理由とした企業は、「新鮮な観点からの監査の必要性」を合わせて理由として開示している場合が多かった。

会計監査人が交代した企業の継続監査期間の平均値や分布の推移

 会計監査人が交代した企業の継続監査期間の平均値を時系列で示すと、表7のとおりであった。

 どの年度も、10月から3月までの期間に会計監査人が交代した企業よりも、4月から9月までの期間に会計監査人が交代した企業の方が、継続監査期間が平均で5、6年長いという結果が出た。
 前述したように、4月から9月までの期間に会計監査人が交代した企業は、3月決算の企業で、かつ6月の定時株主総会で会計監査人が交代した事例が多いのに対し、10月から3月までの期間に会計監査人が交代した企業の場合には、7月決算から12月決算までの企業の会計監査人が各社の定時株主総会で任期満了により交代した事例が一定数ある一方で、会計上の不祥事や見解の相違等の理由により、期中で会計監査人が交代した事例も少なからず存在していた。そのような企業の場合には、一般的に上場してからの期間(会計監査を受けている期間)が浅い新興企業が多く、かつ、継続監査期間が短くなる(会計監査人が頻繁に交代する)傾向があるため、このような数値が出たものと考えられる。
 次に、2019年6月から2020年9月まで、2020年10月から2021年9月まで、及び2021年10月から2022年9月までの区分で、会計監査人の継続監査期間の分布を示すと、表8のとおりであった。

 どの期間においても継続監査期間が「10年以上20年未満」というのがボリュームゾーンではあるが、継続監査期間が30年以上の企業数よりも5年未満の企業数のほうが、いずれの期間でも上回っていた。2021年10月から2022年9月までの1年間で見ると、継続監査期間が10年未満の企業が全体の45%以上(251社のうち113社)を占めており、会計監査人を交代させる上場企業の継続監査期間の短期化が進んでいることが見て取れる。

会計監査人の交代と企業による不正

 臨時報告書においては、「当該異動の決定または当該異動に至った理由及び経緯」が開示されるが(表6を参照)、これはあくまでも公式の場での「表向きの理由」に過ぎない場合もある。例えば、2022年5月中に臨時報告書を提出した企業の中にも、会計監査人の交代と会計上の不祥事の発覚とがほぼ同タイミングの企業が複数あった(表9を参照)。

 それらの企業のうち、北弘電社と旅工房が臨時報告書において開示した「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」の内容は次のとおりであった。

① 北弘電社 EY新日本有限責任監査法人から監査法人銀河に交代

 当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、令和4年6月29日開催の第72回定時株主総会の終結をもって任期満了となります。現在の会計監査人については、会計監査が適切かつ妥当に行われていることを確保する体制を十分に備えているものの、上場来監査継続年数が長期にわたることや、監査工数の増加に伴う監査報酬の増額要請を契機に、当社の事業規模に適した監査対応や監査報酬の妥当性について検討した結果、新たに監査法人銀河を会計監査人として選任するものであります。

② 旅工房 EY新日本有限責任監査法人からやまと監査法人に交代

 当社の公認会計士等であるEY新日本有限責任監査法人は、2022年6月29日開催予定の第28回定時株主総会の終結の時をもって任期満了となります。現在の公認会計士等においても会計監査を適切かつ妥当に行われることを確保する体制を十分に備えていると考えておりますが、経営環境の変化等により近年の監査報酬の負担が増加傾向にあることから、当社グループの事業規模に適した監査対応と監査費用の相当性について、他の監査法人と比較検討してまいりました結果、その後任として新たにやまと監査法人を公認会計士等として選任するものです。

 両社ともに会計監査人が交代する理由として、監査報酬の負担増加や会社の事業規模に適した監査対応を挙げており、これらが交代の直接的な理由であることは言うまでもないが、第三者委員会の調査報告書の公表が必要となるような不祥事が、監査法人側の態度を硬化させ、その後の会計監査人の交代に直接間接に影響を与えたことは想像に難くない。
 アクアライン社とメタリアル社が提出した臨時報告書における開示は、次回に紹介することとしたい。

終わりに

 今回は、臨時報告書における制度の改訂(会計監査人交代の理由の開示)がなされた後、現在に至るまでの3年強の間に提出された臨時報告書を題材として、全般的な傾向の調査分析を行った。次回は、2022年4月から9月末日までの間に提出された臨時報告書で開示された内容のうち、特徴的な事例を紹介することとしたい。

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