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解説記事2023年01月09日 解説 令和5年度税制改正大綱におけるインボイス制度の新たな負担軽減措置(2023年1月9日号・№961)

解説
令和5年度税制改正大綱におけるインボイス制度の新たな負担軽減措置
 財務省主税局税制第二課 村田淳浩

1 はじめに

 令和4年12月23日、「令和5年度 税制改正の大綱」(以下「大綱」という。)が閣議決定された。大綱では、令和5年度における税制改正の方針が示されており、令和5年10月から開始する消費税の適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」という。)に関しても、免税事業者から適格請求書発行事業者(以下「インボイス発行事業者」という。)となる事業者への新たな負担軽減措置を含め、様々な措置が講じられる予定となっている。今後、この大綱に従って、税制改正法案が作成され、国会に提出されることとなるが、インボイス制度については、すでに200万を超える事業者から登録申請が行われるなど、制度の準備に取り掛かっている事業者も数多く存在する。その準備に当たっては、今回の負担軽減措置の内容も踏まえて対応いただくことが想定されるため、この大綱の内容について以下のとおり解説を行う。なお、今回の解説はあくまで大綱の内容に関するものであり、今後、政府から提出される法案の内容や国会における審議状況等もご確認いただきたい。
(注)文中、意見にわたる部分は筆者個人の見解であり、組織としての見解を含むものではない。

2 見直しの趣旨・背景

 消費税のインボイス制度は、複数税率制度の下で適正・公平な課税を確保するために必要なものであり、軽減税率制度の導入から4年間の準備期間を経て、令和5年10月から実施される予定である。このインボイス制度への移行により、適格請求書(以下「インボイス」という。)の交付ができない免税事業者からの仕入れについては、原則、仕入税額控除ができないこととなる。そのため、特に免税事業者や免税事業者と多くの取引を行う事業者への影響を一定期間にわたって緩和する必要があることから、免税事業者からの仕入れについては、制度開始から3年間は80%、その後の3年間は50%の仕入税額控除を可能とする経過措置(28改正法附則52、53)が既に講じられている。
 他方、インボイス制度への移行に当たり、免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の税負担の転嫁の難しさや中小事業者の実務を踏まえた事務負担への配慮を求める声なども寄せられていた。今回の大綱では、こうした論点について、税の公平性を踏まえながら、円滑なインボイス制度への移行とその定着を図るために、次のとおり様々な負担軽減措置を講じることとしている。
(1)小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(以下「2割特例」という。)
(2)一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(以下「少額特例」という。)
(3)少額な返還インボイスの交付義務免除
(4)登録制度の見直しと手続の柔軟化
 以下、これらの内容について、具体的に見ていく。

3 負担軽減措置の具体的な内容

(1)小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)
 先述のとおり、免税事業者がインボイス発行事業者となる場合に生じる税負担や事務負担への激変緩和を図る観点から、こうした小規模事業者に対する負担軽減措置が設けられることになっており、大綱では下掲のように示されている。

【【令和5年度税制改正の大綱(抜粋)】

(1)適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置
① 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間①において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合②には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とする③ことにより、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとする。
(注1)上記の措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間④及び令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間⑤については、適用しない。
(注2)課税事業者選択届出書を提出したことにより令和5年10月1日の属する課税期間から事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる適格請求書発行事業者が、当該課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間からその課税事業者選択届出書は効力を失う⑤こととする。
② 適格請求書発行事業者が上記①の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記する⑥ものとする。
③ 上記①の適用を受けた適格請求書発行事業者が、当該適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を認める⑦こととする。
④ その他所要の措置を講ずる。

 具体的には、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者として課税事業者になる場合の税負担・事務負担の軽減を図るために、インボイス制度への移行から3年間、当該事業者の納税額を売上税額の2割とすることができる激変緩和措置が講じられることとなる。当該措置の適用対象期間や対象となる事業者の範囲、税額計算の方法等については、次のとおりである(解説と大綱本文の下線部に付した番号がリンクしているため、是非大綱と照らし合わせながらご覧いただきたい。以下同じ。)。
 ① 適用対象期間
 令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が適用対象期間となる。そのため、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日に登録した場合には、令和5年分(10〜12月分のみ)の申告から令和8年分の申告までの計4回の申告が適用対象期間となる。また、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日に登録した場合には、令和6年3月決算分(10月〜翌3月分のみ)から令和9年3月決算分までの申告が適用対象期間となる。
 ② 適用対象者
 適用対象者は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった者であり、具体的には、
・免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受け、登録日から課税事業者となる者
・課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発行事業者となる者(この場合には、後述の⑤「課税事業者選択届出書を提出して登録を受ける場合の留意点」にもご留意いただきたい。)
 が対象となる。
 したがって、インボイス発行事業者の登録を受けていない場合には、本特例の対象とはならない。また、基準期間における課税売上高が1千万円を超える場合(注)や、資本金1千万円以上の新設法人である場合、調整対象固定資産や高額特定資産を取得した場合等、そもそもインボイス制度と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合にも対象から除かれることとなる。
(注)免税事業者であった個人事業者が令和5年10月に登録を受けた場合(基準期間の課税売上高のみ考慮)の適用関係を示すとのとおりとなる。

 ③ 納税額の計算方法
 本特例は、先述のとおり、売上税額の2割を納税額とすることで税負担の軽減を図るものであるが、具体的には、簡易課税制度における計算と同様、
売上税額 − 売上税額 × 80%= 納税額(=売上税額の2割)
と計算することとなる。そのため、申告書の作成手順はこれまでと大きく変わることはなく、新しい計算方式が用いられるものではない。なお、簡易課税制度と異なり、一律に80%の税額控除を行うこととなるから、簡易課税制度で求められる各業種に応じた売上・収入の区分が不要となり、適用税率毎の売上税額を把握するだけで申告書の作成が可能となるため、更なる事務負担の軽減が図られることとなる。
 ④ 課税期間の特例の適用を受ける場合
 消費税法における課税期間は、個人事業者については年、法人については事業年度であり、原則として1年単位となるが、一定の届出を行うことにより、課税期間を3か月又は1か月に短縮することができることとされている(課税期間の特例)。今回の特例は、事務負担の軽減の観点も踏まえて措置されるものであり、こうした課税期間の特例を適用する一定の事務処理能力を有する者については、本特例の対象から除かれることとなる。
 ⑤ 課税事業者選択届出書を提出して登録を受ける場合の留意点
 大綱に記載のとおり、「課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合」、本特例の適用が認められるのであるが、大綱の(注1)に記載のとおり、令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書を提出していることにより、引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については、本特例の適用を受けられないこととなる。
(例)免税事業者である個人事業者が、令和4年12月に課税事業者選択届出書と登録申請書を提出し、令和5年1〜12月の課税期間について納税義務が生じる場合における当該課税期間については、本特例が適用できない。
 こうした措置が取られるのは、インボイス制度の開始前の期間も含めて特例を適用できる、あるいは一つの課税期間が10月1日を境に分割され、同日以後のみ特例を適用できるということになると、本特例の趣旨・目的に沿わない、あるいは制度が複雑化することとなるからである。その上で、本特例の内容を予見できず、事前に課税事業者選択届出書を提出して令和5年10月1日の属する課税期間から課税事業者となり登録を受けようとする者の救済を図るため、こうした者が当該課税期間中(先ほどの例では、法案の施行予定日である同年4月1日から12月31日まで)に、課税事業者選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間からその課税事業者選択届出書の効力を失効できる措置が講じられる。
 これにより、上記例の場合には、令和5年1月〜9月分の納税義務が改めて免除され、インボイス発行事業者として登録した日から12月31日までの期間について納税義務が生じ、その部分について、本特例を適用することが可能となる。
 ⑥ 申告書への付記(事前の届出は不要、2年縛りもなし)
 本特例の適用を受けようとする場合には、確定申告書に設けられる記載欄に適用を受ける旨を付記することが求められることとなる。すなわち、簡易課税制度の適用を受ける場合に求められる「事前の届出」は不要であり、また「2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)」もない、ということになる。
 本特例の対象者は、これまで消費税制度に馴染みのない者であり、そうした事情に配慮し、確定申告時に適切に対応できるよう、こうした措置が講じられることとなる。
 ⑦ 簡易課税制度の届出の特例
 先述のとおり、本特例は、インボイス制度への移行に伴いインボイス発行事業者となる者の消費税に係る納税事務の定着を図るため、3年間の経過措置として講じられるものであるが、その期間経過後もスムーズに制度に対応できるよう、簡易課税制度の届出についても特例を設けることとされている。
 具体的には、本特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用届出書を提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度を適用できることとなる。
(例)個人事業者が、令和8年分申告について本特例を適用した場合、その翌課税期間中(令和9年12月31日まで)に簡易課税制度の適用届出書を提出すれば、令和9年分の申告から簡易課税制度を適用できることとなる。
(2)一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)
 軽減税率制度の実施により、少額な取引であっても、その適用税率や消費税額を適切に把握し、消費税の申告を行う必要があることから、インボイス制度への移行により、少額な取引についても、仕入税額控除を行うためにはインボイスの保存が求められることとなる。この点に関し、インボイス制度の定着までの実務に配慮し、中小事業者を含めた一定規模以下の事業者の事務負担の軽減を図るための負担軽減措置を設けることとされ、大綱では次のように示されている。

【令和5年度税制改正の大綱(抜粋)】

(2)基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者①が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間②に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満③である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を講ずる。

 上記のとおり、インボイス制度への移行後、6年間については、一定規模以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくとも、一定の帳簿を保存することによって仕入税額控除が認められる措置が講じられることとなる。本特例の具体的な適用対象者等は次のとおりである。
 ① 適用対象者
 基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者が、適用対象者となる。なお、建物の売却など、急激な課税売上高の変動等にも対応できるよう、特定期間(注)における課税売上高が5千万以下である場合にも本特例の適用が認められることとなる。
(注)「特定期間」とは、個人事業者については前年1〜6月までの期間をいい、法人については前事業年度の開始の日以後6月の期間をいう(消法9の2④)。
  なお、特定期間における5千万円の判定に当たり、課税売上高による判定に代えて給与支払額の合計額の判定によることはできない。
 ② 適用対象期間
 本特例は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が適用対象期間となり、その間に行う課税仕入れが適用対象となる。そのため、たとえ課税期間の途中であっても、令和11年9月30日後に行う課税仕入れについては、本特例の適用はないこととなる。
 ③ 課税仕入れの金額の判定
 本特例は、1万円未満の課税仕入れが適用対象になるのであるが、大綱でいう「課税仕入れに係る支払対価の額」とは、消費税法に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額」を指しており、これは税込価額である。すなわち、本特例の対象となる1万円かどうかの判定は、「税込価額」で行うこととなる。
 また、その金額の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、一回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定することとなる。
(3)少額な返還インボイスの交付義務免除
 インボイス制度への移行後は、取引後に値引きや返品等があった場合に、インボイスを交付した売手に返還インボイスを交付する義務が課せられることとなる。特に買手からの売上代金の振込時に差し引かれる振込手数料等の扱いについて、これを売手が値引きとして処理する場合に、返還インボイスの交付義務が課される点について、税理士をはじめとする実務家から事務負担などの懸念が示されていた。そのため、返還インボイスの交付義務について見直すこととされており、大綱では次のように示されている。

【令和5年度税制改正の大綱(抜粋)】

(3)売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除する。
(注)上記の改正は、令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について適用する。

 具体的には、上記に記載のとおり、値引きや返品等の税込価額が1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除されることとなる。
 先述の(1)「2割特例」や(2)「少額特例」の負担軽減措置と異なり、全ての事業者が対象であり、適用期限のない恒久的な措置として位置付けられる。
 この見直しにより、売手負担の振込手数料に係る事務負担が解消されるほか、小売店の店頭等における少額商品の返品等についても返還インボイスの対応が不要となる。
(4)登録制度の見直しと手続の柔軟化
 (1)(3)までに述べた負担軽減措置のほか、令和5年度改正では、インボイスの登録制度の見直しも予定されており、大綱では上掲のように示されている。

【令和5年度税制改正の大綱(抜粋)】

(4)適格請求書発行事業者登録制度について、次の見直しを行う。
① 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする場合には、当該課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日)までに登録申請書を提出しなければならないこととする。この場合において、当該課税期間の初日後に登録がされたときは、同日に登録を受けたものとみなす。
② 適格請求書発行事業者が登録の取消しを求める届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合には、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければならないこととする。
③ 適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置の適用により、令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望日として記載するものとする。この場合において、当該登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなす。
(注)上記の改正の趣旨等を踏まえ、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、その申請期限後に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

 上記大綱本文における①〜③については、インボイス制度が開始する令和5年10月1日以後に適用となるものであり、この改正案の内容については、今後出されるであろう解説等に譲りたい。
 ここで重要となるのは、大綱注書きの下線部である。現行制度では、制度開始日である令和5年10月1日に登録を受けるための申請期限は、同年3月31日に設定されており、同年4月以降に申請する場合には、その期限までに申請することが「困難な事情」の記載を行うことにより、同年10月1日に登録したものとみなす措置が講じられている。
 他方、これまで述べた様々な負担軽減措置を含めた税制改正法案が今後国会で審議されるなど、まだ登録をしていない事業者にとっては、期限までに登録の要否を判断することが困難な状況となる。そのため、期限後の申請であっても、運用上、「困難な事情」の記載がなくても柔軟に対応することが大綱において示されている。なお、令和5年10月1日までに登録通知書の受領を希望する場合には、国税庁HP「インボイス制度特設サイト」に掲載されている登録手続の平均的な処理期間を踏まえながら、余裕をもって申請いただきたい。

4 おわりに

 これらの税制上の措置のほか、令和4年12月2日に成立した令和4年度第2次補正予算において、税理士への相談費用も補助対象となる持続化補助金や会計ソフトの導入費用等が補助対象となるIT導入補助金について拡充されることとなった。
 財務省HPでは、税制上の措置やこれらの補助金の内容を分かりやすく記したリーフレットを公表しているため、ご自身のみならず、発注先や関与先などへのご説明の際にも是非ご活用いただけると幸いである。

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